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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
変わり目

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第65話 賭け


「やはり、1対1のこの状況にすることがあなたの目的だったんですね」


「まぁ、あんなカス共と協力なんかしてらんないからね。アタシ1人でやった方が確実に強い」


 カス共…相変わらず酷い言い様だ。


 森尾は、目の前で悪びれもせずに同僚を貶す火焚により視線を鋭くする。


「わー、そんなに睨まないでよ森尾ちゃん。アンタはあんな足手纏い共らなんかとは違うからさ」


 フォローしているつもりなのだろうが、森尾は怒りを通りこしてもはや呆れていた。


 森尾も程々に性格の悪い自覚はある。だが、悪し様に同僚を比較に出して、持ち上げられて喜ぶほど自分の性根は腐ってはない。


「その特別扱いは何も嬉しくありませんね。そもそも、私はあの方達を足手纏い等と思った事はありません」


「いや、嘘でしょ。正直になりなよ、あんなの足手纏いでしかないじゃん。アタシなら10秒もあれば殺せるよ?てか、森尾ちゃんも1分とかなんとか言ってたけど、本当は10秒もあれば十分でしょ」


 この発言は、森尾も安易に否定出来ない。自分はともかく、態度こそ悪いがこの火焚もそれをやってのけるだけの実力は確かに持ち合わせている。


 だが、森尾もここで大人しく頷く訳にはいかない。


「実力云々の話ではありません。皆それぞれ自分のスキルや恐怖心と向き合いながら、成長しようと努力しています。その頑張りを…実力があるからとカスや足手纏い等と言って否定していい理由にはならないでしょう」


「いやいや、甘いって森尾ちゃん。アタシは、負けても頑張った過程が大事…みたいな負け惜しみ染みた風潮が大嫌いなんだよ。負けは負け。結果が伴わなければ過程なんてのはなんの意味もない。だから、カスにはしっかり実力不足を叩きつけてやらないといけないんだよ」


「私もこの期に及んで、結果より過程が大事だなんて甘い事を言うつもりはありません。ただ、端から無駄だと決めつけ、結果を出そうと頑張る者の努力に態々水を差さなくても良いのではと言っているのです」


 実際、今回の戦闘訓練ではまだまだ詰めが甘い所はあれど、成長は見えた。


 皆あの殺人ピエロの一件で、実力不足を自覚した事でより自身のスキルと向き合い、可能性を探り始めている。そして、それが徐々に実を結びつつある。付与のスキルを持つ与沢の加入もあり、その進歩は今後も続いていくことだろう。


 しかし、森尾と火焚の考え方は悉く逆を向いていた。


「いやー、分かってはいたけど森尾ちゃんもつくづく甘いね。あんな雑魚スキル共がいくら頑張った所で、所詮たかが知れてるっての」


 火焚は、攻撃に適していないスキルに対し、実戦では使い物にならないだろうと初めから見切りをつけてしまっている。


 だが、森尾からしてみればそれは可能性を踏み躙るという行為に他ならない。


 スキルは所詮使い手次第…こと、この意見に関しては森尾も鬼灯のメンバーと同意見だった。結局、スキルはバランスが良いか、何か一つの能力が突出しているかの違いしかない。使い所、使い方一つでいくらでも強力なものへと変化する。


 火焚のスキルは攻撃に特化している…だからこそ協力をして欲しい。それが嘘偽りのない森尾の本心だ。それぞれの特性を活かし合えば、きっと鬼灯や強力な能力者相手にも通用する。


 しかし、根本的な考え方が違う火焚とはどこまでも相容れない。


 火焚は、挑発的な態度を崩さずに続ける。


「あんなカス共に期待しているから、殺人ピエロなんて変身能力しか持たない雑魚を取り逃すんでしょ?あ、違うか…鬼灯なんていうポッと出の奴等に奪われたんだっけ」


 火焚は、殺人ピエロの一件の時には既に郷田達と共に管理官として、能管に所属していた。しかし、当時はスキルの存在を秘匿しなければならなかった為、露見しやすい能力の火焚の実戦投入は見送られていたのだ。


 今の火焚の物言いは、暗に「アタシを連れて行っていれば、そんな情けない結果にはなって居なかった」と言っているのだ。


 だが、森尾はこの挑発に、気まずそうな顔をするどころか表情一つ変えることなく淡々と事実を告げる。


「あの失敗は確かに私達の落ち度…いえ、実力不足です。ですが、これだけは断言できます。あなたがいても決して結果は変わりませんでした」


 森尾は、良くも悪くも鬼灯の実力を疑っていない。


 あの状況下では、例え火焚が居たとしても大まかな構図は変わっていなかった。


 きっと、速さに優れた自分が逃走した殺人ピエロを追い、残った管理官で鬼灯の…あのおちゃらけた鬼の面の男の相手をする。


 しかし、聞くところによるとその面の男は、自分が戦った鬼灯のボスと同様に終始余裕があったという。それならば、3人が4人になった所で大した差は無いだろう。


 郷田ら3人が瞬殺され、火焚とその面の男の1対1になったとしても勝ち越せたかどうかは実際に立ち合った感覚としてはどうも怪しい。


 それに、そもそも肝心な殺人ピエロを追っていた自分があのボスに勝てないという事実は変わらない。例え、火焚があの面の男に勝利したとしても、自分の下へ加勢に来るまでの間にきっと勝負はついていた。


 ならば、迎える結果はいずれにせよ変わらなかっただろう。


 しかし、その鬼灯の隔絶した強さを知らない火焚は、森尾から負ける事がさも当たり前かのように語られることに苛立ったのか、射殺さんとばかりに鋭い目つきで森尾を睨んだ。


「へー、そんな断言するって事は、なにか確証があって言っているんだよね…」


「はい」


 森尾は、表面上は平静を装いながらも、しっかりと青筋を立てている火焚にも動じずに即答する。


「なら、聞かせてもらおうか。どんな確証があるのか…まぁ、納得出来るかは知らないけどね。アタシは、どうせ森尾ちゃんがあの足手纏い共の尻拭いをして、失敗したって睨んでたんだけどね。それが違うってなら言ってみなよ。聞いてあげるから」


 自分の見立てに余程自信があるのか、火焚は苛立った顔からニヒルな笑みを浮かべて森尾を見る。


 しかし、それにも森尾は動じることは無かった。淡々かつシンプルにその理由を述べる。


「あなたが私に勝てていない。それが何よりもの証拠です」


 森尾と火焚は度々戦っている。というより、火焚に何度も挑まれている。だが、未だに一度も火焚は勝てていない。


 火焚は、森尾の出した確かな証拠に気に食わないとでも言うように舌打ちをする。


 だが、森尾はそんな火焚の態度も無視して、畳み掛けるように実力不足を叩きつける。


「あなたは、郷田さん達が私の足を引っ張ったと考えているようですが、それは断じて違います。私含めた皆が鬼灯という組織に完膚無きまでに負けたのです。そして、それはあなたにも言えることでしょう。私ごときに勝てない程度ならまず間違いなく、あなたも鬼灯の相手にはなりません。いえ、鬼灯からしたらあなたもカスその5でしかないのでしょう」


「……なんだい、森尾ちゃん。いつになく随分と煽るじゃないか。一体どういうつもりだよ」


 森尾の言葉に、火焚は静かにだが、確かな怒りを体の内で燃え滾らせていた。


「火焚さん。これから勝負をするにあたり、一つ賭けをしませんか?」


 森尾の言葉に、火焚は訝しむように目を細める。


「賭けだって?一体何を賭けようってのさ」


「そうですね、何をと言われると難しいですが……勝者は敗者に対して、一つだけ絶対遵守の命令権を得られます」


 火焚は、森尾のリスクの大き過ぎる提案に細めたばかりの目を瞬時に見開いた。


「……森尾ちゃんも随分思い切った事を言うね。冗談って言うなら今のうちだよ?」


「いえ、冗談ではありません。本気も本気です」


「へー、なら良いけど。でも本当に何でもいいの?アタシは結構無茶な命令をするかもよ。例えば……一生奴隷になれとか」


「はい、構いません。あなたが勝てば一生養ってあげます。お望みなら、命令一つで死んでも差し上げましょう」


 火焚の恐喝染みた言葉にも、森尾は一切の淀みなく応える。


 その負ける事を少しも考慮していない森尾の態度に、火焚は苛立ち眉を顰める。


「アンタがアタシに何を命令するつもりか知らないけど…後でやっぱなしってのは、通用しないからね」


「その言葉、そっくりそのままお返しします」


 そうして、両者は互いに睨み合い、構えを取った。





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けっこう次長さんズケズケ言うね
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