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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
変わり目

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第57話 情報共有


「今日、お前らに集まってもらったのは他でもない情報共有をする為だ」


 俺は今日の本命の目的を声高らかに口にした。


 しかし、カラーズは俺の言葉に露骨に頭にはてなを浮かべた。


「…今の俺達には、特に共有しなければならない情報は持っていませんが…もしかして、ボスから俺らにですか?」


「あぁ、今日はいつもとは逆で俺からお前らに情報を伝える。いや、これは共有ってか開示って方が適切な表現だな」


 俺がレッドの言葉を肯定すると、今度はテンマと銀次が驚いたように俺を見た。


「快ちゃん、開示ってもしかして…」


「あの事を言うつもりなのか?」


「あぁ、多分お前らの想像通りだ」


 テンマと銀次は俺が頷いたのを確認すると、更に驚いたように目を見開く。


 その2人の様子を見て、只事ではない事を察したのかカラーズは揃って固唾を飲んだ。


 これから何を知らされるのか…。


 異様な緊張感が場を支配する。


 しかし、俺はそんな雰囲気に反して、軽い調子で言う。


「まぁ、そんな緊張するような事ではないから安心しろ。俺が今伝えなかったとしてもどうせ近いうちにお前らも知る事になる情報だ」


「は、はぁ、なるほど…分かりました」


 レッドが額にかいた汗を拭いながら応えた。


「ねぇでも快ちゃん。話の腰を折って悪いけど、近いうちに知るってどういうこと?殺人ピエロの一件は、政府にうまいこと処理されちゃったじゃん」


「あぁ、確かにあの一件は、マスコミの力もあってうまい具合に処理された。俺たちや能管の奴等が密かに動いていた事もあるが、当初の予想に反してスキルの事は、大して世間に知れ渡らなかったな。せいぜい都市伝説レベルだ」


「ならなんで…」


「…!」


 俺の言葉に未だ分からないといった反応をするテンマに反し、銀次はなにかを察したような反応を見せた。


「…なにか勘づいたようだな銀次。丁度いい。俺以外の考えも聞いてみたいと思っていたところだ。推測でいいから話してみろ」


「い、いやでもな」


「えー、銀ちゃん分かったの!?教えて教えて!!」


「はぁ…わかった」


 テンマに後押しされる形で渋々話し始める銀次。


「俺も殺人ピエロの一件はニュースは勿論だが快やテンマからも聞いていてそれなりに知っている。それを踏まえた上で、快が近いうちに知ることになると言った訳を推測するなら…これは言わば、コロンブスの卵だ」


「コ、コロンブスの卵?な、なにそれ。コロンブスって新大陸発見した人じゃないの??え、あれ、そもそもコロンブスって人間じゃなかったの?!」


 銀次の例え話に、バカのお手本のような反応をするテンマ。それに反し、俺は銀次の例えに感心していた。


「ははっ。なんて言うのかと思えばコロンブスの卵と来たか。確かにそう言われてみると言い得て妙だな」


「え、え、どういうこと?!コロンブスの卵って何?!」


「今教えてやるから騒ぐな」


「は、はい…!」


 口をパチンと手で塞いで、黙るテンマ。


 コイツも少しは勉強をしているようだが、まだまだだな。


「コロンブスの卵ってのは、お前の言った通り新大陸を発見したコロンブスが元となった有名な逸話だ。まぁ、内容自体は作り話らしいし面倒臭いから省くが、要は簡単とされることでも、一番最初に行うのは難しいってことだ」


「へー、なるほどなるほど!勉強になったよ!!ん?でも、それがどうさっきの話と繋がるの?」


 銀次はまだ分からないテンマに向けて補足説明をする。


「テンマ。スポーツかなんかで前人未到の記録が出ると、何故だかそれに続いて他の選手が近しい記録を出したりする事があるだろ?」


「うん。陸上の100メートル走で9秒台出したりするとかでしょ?」


「そうだ。殺人ピエロの件も見方を変えればこれと似たようなことが起こり得るんだ」


「似たようなこと?」


「あぁ。つまり、前例を作ってしまったこと。こんな事が可能なんだと気づかせてしまったことが問題なんだ」


 俺はここまでの銀次の話を聞いて、自分の意見と殆ど相違ないことを確信した。


 銀次は一息ついて話を続ける。


「殺人ピエロは、たった2回の犯行で61人もの殺人を犯し、一時的に逃亡まで成功させている。これは、ニュースでも散々取り上げられていただろ?」


「う、うん。それが?」


「テンマ、これを全国各地にいるであろう能力者達が見たらどんな風に考えると思う?」


 銀次の質問にテンマはウンウンと唸りながら考える。


 そして…


「んー、僕だったら殺人ピエロは一回逃げ切れたのになんで捕まっちゃったんだろう?って思うかな」


 テンマの至極真っ当な答えに銀次はゆっくりと頷いた。


「そうだな。確かにそういう風に考えるやつも中には居るだろう。ただ、その次はどう考える?」


「え、次…?」


 銀次は、再び考え込もうとするテンマの答えを待たずに続けた。


「もし俺が能力者だったなら、最終的にはこんな風に考えていると思う。俺ならもっと上手くやれるってな」


 銀次の答えにテンマは目を見開く。


「もちろん、実行するかどうかは別の話だ。ただ、殺人ピエロの影響で今までに考えもしなかった新しい選択肢が頭の中に増えてしまうのは確かだ。その過程で自分のスキルの可能性を試してみたくなってもなんら不思議ではない。その結果、スキルを使う頻度は必然的に増えるだろう。ならば、当然露見しやすくもなる。これが、俺が考える快の言った近いうちに知ることになるという言葉の正体だ」


 銀次の推測を聞いたテンマは、答えを求めるように俺の方を向く。


「ま、概ね俺も同意見だ。銀次の言う通りあの一件がきっかけで、能力者たちが今まで以上に自分の能力と向き合うようになったのは間違いないだろう」


「概ねってことは、銀ちゃんの言ったこと以外にも理由はあるの?」


「まぁな。ただこれはそう難しい話じゃない。単に頃合いなんだよ」


「頃合い?」


「あぁ。使えるものを制限するというのは言う程簡単じゃないからな。大概の人間は殺人ピエロのようにスキルを手にしたら万能感に酔いしれる。そして、使い所を欲するだろう。きっと、最初に大きく事を起こしたのが殺人ピエロだったと言うだけで、既に水面下では能力者が好き放題やっている。殺人ピエロに表に出ていない余罪が沢山あったようにな」


 何にしても、政府の熱心な情報操作という防波堤が決壊するのは放っておいても時間の問題だ。俺の予想ではこの状況が続くのは、保って年内限りだ。


 テンマと銀次は俺の言葉になるほどと相槌を打つ。


 ——トントン


 突然、肩を叩かれる感触に振り向くと、そこには困惑顔をしたレッドがいた。その後ろには他4人も同じような顔をして佇んでいる。


「ボ、ボス…すみません。さっきから、スキルとか能力者ってなんのことです?」


「あ……すまん。今から説明するわ」


「は、はい…お願いします」


 元はと言えば、コイツらにスキル関連の話をしようと思っていたのに、テンマが話の腰を折ったせいで、すっかり脱線してしまっていたな。


 俺は結構な間、置いてけぼりを食らってしまっていたカラーズにスキル関連の情報を開示していった。


 地球には、時折りスキルオーブという不思議な能力を与える物体が飛来していること。


 その力を手にした者を能力者と呼ぶこと。


 その能力者を取り締まる政府の機関があること。


 殺人ピエロも能力者であったこと。


 俺とテンマもまた能力者であること。


 俺は、カラーズが理解しやすいように時間をかけて情報を打ち明けた。


 すると…


「なるほど。分かりました」


 驚くほどあっさり受け入れるレッド。他4人も同じように予想以上に冷静な様子で俺を見ている。


「なぁ、もう少し疑うとかないのか?自分で言っといてなんだが、結構信じがたいファンタジーな話をしてると思うんだが…」


「いえ、驚きはありますが、疑いはないですね。ボスはこんな無駄な嘘はつきませんし。というより、正直なところ納得って感覚の方が大きいです。スキルという存在のおかげで、逆にボスが色々とおかしい理由に説明がつきましたから」


 ——コク


 レッドの言葉に同意を示すように頷く他4人。


 何だか思っていた展開と大分違うが良いのか?いや、スムーズだからいいのか。


 んーと、この後は…


「あ、でも!ボスが本当に殺人ピエロを捕まえているとは思いませんでした!」


 思いの外カラーズが動揺しなかった為、次の予定していたプログラムに移ろうとした矢先。レッドが誇らしげに言った。


 どうやら、カラーズはスキルの件より、俺が殺人ピエロを捕まえていたことに驚いたらしい。何故だかキラキラとした目で見つめてくる。


 仕方ない。この辺で少し好感度を上げておくか。


「あー、アイツは雑魚だったからな。大した事なかったぞ」


「流石です!!めちゃめちゃお手柄じゃないですか!!それで、いつ政府に引き渡したんですか?」


「あー、夏休み中にな。政府の奴らが入院している病室にぶん投げてやったんだ。引き渡すって言ってもアイツらとは既に対立しているし、正体を明かす訳にもいかなかったからな」


『え?』


 キラキラとした表情から、一瞬で鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするカラーズ。


 おや、思っていた展開と違ってガッカリしたのか?


「あー、ちゃんと可哀想な被害者達の為に散々痛めつけて、首だけにしてからぶん投げたぞ?安心しろ、その辺は抜かりない」


『………』


「余罪も巧みな話術で誘導して炙り出してな?それをテープにして、口の中に入れるという映画でしかみない粋な演出もやったんだ」


『………』


話の途中なのに、微動だにしなくなってしまったカラーズ。


「おい、テンマ。今のは俺の好感度がぶち上がる所じゃないのか?コイツらスキルの存在を明かした時より驚いた顔してるぞ」


「いや、そりゃそうでしょ…ってか、これ立ったまま気絶してるよ」


 テンマと銀次がカラーズの顔の前で手を翳すが、なんの反応もない。どうやら本当に気絶してしまったらしい。


 おかしいな。あれだけ下衆な殺人ピエロをぶっ殺したとなれば好感度がぶち上がる予定だったんだが…計算違いだったか。


 にしても、そんなに驚く内容だったか?


 あっ、そういえば政府と対立していることは言ってなかったな。


 まぁ、いっか。起きたら改めてしっかりその辺も説明しておこう。






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冷静に考えて2回の犯行で61人は、やばすぎる
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