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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
変わり目

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第56話 顔合わせ


「よし、揃ったな」


 気が乗らない学校をなんとかやり過ごした週末。俺は、廃工場もとい拠点にテンマと銀次…そしてカラーズを呼び出していた。


「快ちゃん…この人達誰?」


 全くもって見覚えのない色鮮やかな集団を前にしてテンマは首を傾げる。そして、ジロジロと見定めるような目つきで5人を凝視する。


『………』


 餓鬼道会の情報を俺に共有する過程で、既にテンマの事を一方的に認知している影響か…喧嘩最強と名高いテンマの睨みにも近い眼差しに5人は緊張感を漂わせる。


 ——ペシッ


「いてっ!」


 無意識に威嚇するテンマの頭を軽く叩いて、俺は状況がややこしくなる前にカラーズの紹介を始める。


「コイツらはカラーズだ。だから警戒する必要はない」


「あっ、この人達がそうなんだ!あれ、でも快ちゃんから聞いていた話ではもっと大人数だったような?」


「今は人数が増えているが、元はコイツらが主体だ」


「へー、そうだったんだ!!へ〜!!」


 俺の言葉に得心したように頷くテンマ。そして、ついさっきとは打って変わって今度は柔和な目で5人を見た。


「話は色々と快ちゃんから聞いてるよ!!確か、情報収集が得意なんだよね!!」


『…』


 急に友好的な態度をとるテンマに、明らかに戸惑いを見せるカラーズ。


 しかし、このまま無視するのも感じ悪いと思ったのか、レッドは困惑しながらも何とかテンマに返事をした。


「…そうですね。喧嘩よりは得意だと思います」


「うんうん!適材適所でいいね!」


 テンマは、その返答にも嬉しそうに頷く。


 そして、今度は何を思ったのか、テンマは徐にカラーズに向かって頭を下げ始めた。


『な、なにを?!』


 その突然のテンマの奇行にカラーズは揃って驚きの声を上げる。テンマに頭を下げる事はあっても、下げられる覚えはない。


 しかし、テンマは依然、頭を上げることなくそのままの姿勢で言葉を続けた。


「僕ね。君達に会ったら絶対に言おうと思っていたことがあるんだ」


「テンマ?」


 テンマの発言に、カラーズのみならず銀次までもが首を傾げる。


 そして、テンマは極めて真剣な声色で言った。


「僕を快ちゃんに出会わせてくれてありがとう」


『…?』


 お礼を言われて更に意味が分からないといった様子で困惑するカラーズ。


 しかし、銀次にはテンマの言わんとしている事が伝わったのか、銀次もテンマに続けて頭を下げた。


「俺も礼を言う…ありがとう。君達が、餓鬼道会の存在を、この場所を、突き止めてくれたお陰で、俺達は今充実した日々を送れている」


『……………』


 餓鬼道会トップ2人から感謝されるという珍事に、カラーズは暫しの間魂が抜けたように呆然とした。


 そして、いち早く正気に戻ったレッドが慌てて口を開く。


「あ、あの感謝されるようなことでは無いので頭を上げて下さい!俺達は、ただボスの指示に従って情報を集めただけなので…」


『…』


 レッドの発言に同意するように頷くカラーズ。引き合わせたと言えば、聞こえはいいがやっていた事は喧嘩の斡旋。到底感謝されるようなことではない。だから気まずさが残った。


 テンマと銀次はレッドに言われた通り素直に頭を上げる。


 しかし、理由はなんであれ感謝するのは変わらないのか、2人は友好的な笑みを向けて続けた。


「それでもだよ!偶然でもなんでも、君達の働きが無かったらこんなに早くには出会えなかったと思うから!」


「あぁ、そうだな。あのタイミングで出会えた事が何より大事なんだ。だから、ありがとう」


 2人の予想以上に真面目な態度に、カラーズは尚更反応に困った。しかし…


「ど、どういたしまして…?」


 レッドかブルーかグリーンか…カラーズの誰かがこのまま拒むのも失礼になると思ったのか感謝の言葉を受け取った。


「うん!!」


 テンマはそれに朗らかな笑みを浮かべる。


 その笑みを見たカラーズは、圧倒的な強者を前にして、どこか緊張して入っていた体の力がようやく抜けるのを感じた。


「ってかさ敬語やめようよ!僕達って歳同い年くらいでしょ?」


「そうだな。快がこの場に呼んだということは、これからの付き合いも増えるのだろう。そんなに畏まることはない」


「い、いや、でも…なぁ?」


「あぁ…」


 テンマと銀次の提案にカラーズの面々は、気まずそうな表情を浮かべる。思っていた人物像と違ったとはいえ、未だ近づき難いのは確かだ。


「まぁまぁ!そう固くならずに!僕たちもう友達でしょ?気軽に行こうよ!」


 遠慮気味なカラーズに気を遣い、親しみ易さを出す為か、レッドとブルーの間に入って肩まで組み出すテンマ。


 そして、距離を縮めようと呑気に世間話をし始めた。


 ——数分後


「へ〜、君と君はレッドとブルーって呼ばれてるんだ〜!」


「あぁ。ボスが頭の色で判断して呼んでるから変えたくても変えられなくてな…」


「あっはは!なにそれ面白いね!まぁ〜、でも確かに快ちゃんってそういうとこあるよね〜」


「俺的に、ボスが許してくれるなら青の次は暗い色に戻してパーマとかかけてみたいんだけど…そういえばテンマ君の髪って、やっぱりパーマかけたりしてるの?」


「んーん!僕のは天パだよ!流石に色は染めてるけどね〜」


「そうなのかー!でも、その天パいいな。凄いおしゃれな感じだ。俺もやっぱりかけてみようかな〜。いや、でもボスがな〜」


「んー、それなら、なんか青い物とか身に付けたら良いんじゃない?そしたら、流石の快ちゃんでも見分けつくでしょ!」


「あー確かに!それはいいかもな!ありがとう、テンマ君!」


「ふふっ、うん!で、やっぱりレッド君も髪の色変えたりしたいの?」


「いや、そうなんだよ。実は俺もさ〜…」


 思ったよりも恐怖心を抱かせないテンマの気さくな態度に、レッドとブルーはものの数分で完全に打ち解けていた。


 して、銀次も銀次の方で、なにやら他3人と筋肉談義に花を咲かせていた…。


「どうやったら銀次くんみたいな筋肉がつくんだ?俺もやってるんだが、中々そこまで育たなくてな」


「いや、グリーンも中々いい筋肉をしていると思うぞ。ただ、強いて言うなら基本を大事にすることだな。やはり筋肉をつけるには、栄養をしっかり摂取して、しっかり筋トレを継続する…これに尽きる」


「そうか、やっぱり地道にやるしかないんだな。めげずに続けてみるよ!」


「あぁ」


「僕、食べるの苦手で…でも、銀次君みたいに筋肉はつけたくて…」


「ふむ、確かにイエローは細いな。なら、はじめは食べる物にこだわらず、好きな物をいっぱい食べてみるといい。そしたら、徐々に胃が大きくなって食べれるようになるかもしれないぞ」


「そっか!やってみるよ!」


「あぁ」


「俺は、いっぱい食べてるんだが…脂肪がな…」


「ふむ、ピンクは逆に食べ物を選ばなきゃだな」


「やっぱりそうかー…」


 予想外の盛り上がりを見せるフロア。


 その場にただ1人。


 存在感を消して佇む少年がいた。


「…」


 テンマがカラーズに頭を下げて以降、快は読みたくもない空気を読んで静かにしていた。しかし、気が付いたらいつの間にか本当に空気と化してしまっていた。


「でさ〜」


「そうなんだ〜」


 …


 自分そっちのけで盛り上がり続ける面々。


 かれこれ、何分待っただろうか。召集をかけたのは自分だというのに今では完全に蚊帳の外だった。


 今更になって、空気なんて読むもんじゃないなと後悔の念に駆られる。それに加えて、ふつふつと苛立ちも込み上げてくる。


 そして、遂に…


 ——グシャーンッ


『!?』


 突如、廃工場全体に鳴り響く轟音に面々は一斉に肩を跳ね上がらせた。


「おっと…大きな地震とは怖いな。この建物も古いから崩れないといいんだが…」


 轟音の直後にあまりに白々しく耳朶に触れる子供の声。その声を聞いて、面々は瞬時に状況を理解した。


 ——ピキッ


 自分が僅かな体重移動をしただけで足元から聞こえてくる音。ゆっくりと意識を下に向けてみる。


 すると、そこには自分の足元にまで及ぶ地割れがあった。


 誰かが言わずとも、皆一様にそのヒビの根を恐る恐る目で辿っていく。原因なんてのはとっくに予想がついている…悪い予感通りの方向へと続くヒビの根元。


 そして、遂に行き着く震源地…快。


「どうしたんだ?急にそんなに黙って」


 ——マズイ、忘れてた


 皆声を出さずとも考える事は一致していた。親睦を深めた影響か、一斉に姿勢を正す面々。


「い、いや〜快ちゃん…じ、地震が怖くてつい黙っちゃったよ〜」


「おー、そうだったのか。確かに怖かったな。俺も怖すぎてつい足元を踏み抜いてしまったよ」


「いや、原因それ…」


「ん、何か言ったか?」


 快は、頑丈そうなコンクリにめり込んだ足を引き抜きながらテンマに聞き返す。


「い、いや…何でもないです」


 テンマは俯きながらボソボソと応えた。


 そして、快は次に銀次に目を向けた。


「で、唐突に始まった親睦会は終わったのか?随分と盛り上がっていたみたいだが、お邪魔なら帰ろうか?一応今日のセッティングをしたのは俺なんだが、気にすることはないぞ?遠慮なく言ってくれ」


「か、快…これはだな…なんというか…すまなかった」


「いやいや、何を謝っているんだ。この日を設けた幹事としては、こちらが言わずしてカラーズと親睦を深めてくれて嬉しいくらいだよ。まぁ、まさか自己紹介でこんなに待ちぼうけを食うとは思わなかったけどな」


「そ、そうか…それもすまなかったな…」


「いや、別に良いんだ。思い返してみれば、なかなか興味深い筋肉講義も聞けたような気もするしな。なんだか得した気分だ。俺も参考にして励んでみるよ。あー、成果が出たその時には是非、俺と腕相撲で勝負をしよう。精一杯、全力で、待ったなしの真剣勝負をやろう」


「い、いや………………分かった」


 テンマに続き、銀次も何かを諦めたように俯く。


 して、次は…


『ボ、ボス…』


 カラーズは揃って身を震えさせる。自分達の口にしていた快への不満のようなものが走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


「テンマと銀次とは、大分仲良くなったようだな?」


『…』


 恐怖で声が出ないのか、カラーズはかろうじて頷いた。


「そうか、それは良かった。今日お前らを呼んだのは2人との顔合わせも兼ねていたんだ。一つの目的が達成されたようで何よりだ」


『…はい』


 快からその事について言及されない事にホットするカラーズ。今度はなんとか声を出せた。


 そして、快はそのままカラーズから目を離した。


 ——助かった


 そう思った時だった。


 快は、外れていた視線を再度カラーズに戻して「あー、忘れてた」と追加で話し始めた。


「お前ら…俺もテンマや銀次とは違う理由だが、お前らに頭を下げるよ。すまなかった」


『な、なにを!?』


 急に頭を下げ始める快に、テンマの時とは違った焦りが出るカラーズ。


 快もテンマ同様に頭を下げたまま続ける。


「レッドとブルーが髪を染めたかったなんて気が付かなかったよ。今度からクレームは直接言ってくれ。俺も悪いところは直すように善処するからさ。他3人も遠慮なく言えよ?」


 ——めっちゃ根に持ってた


 カラーズは、快の踏み抜いたばかりの地面を横目で見て、自動で震える体を利用してなんとか喉を震わせた。


『はい…』


 そして、快はそれぞれがこの数分を後悔しているのにも構わず、仕切り直すように手を叩く。


 ——パンッ


「よし、ようやく本題に入れる。今度は無駄話をしないようにな?」


 快の言葉にその場にいた全員は深く頷いた。



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き、恐怖政治… テンマって天パだったんだ
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