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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
変わり目

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第54話 マナの総量


「あ〜あ、今回ばっかりは勝てると思ったのにな〜!」


 クロウズが俺の大量の旧肢体を貪り廃工場内の掃除に勤しむ傍ら、テンマは悔しそうにしながらも晴れやかな表情で笑った。


 この様子を見るに余程能管との戦闘が期待外れだったのだろう。負けたというのにその雰囲気は随分と楽しげだ。


 確かにテンマから伝え聞いた獣女以外の能力者はパッとしなかったからな。俺と同様に苦戦を好むテンマからすればガッカリする相手だったのだろう。


 それを考えると、期せずしてだがあの能管随一の実力を持つ獣女を相手にできたのは、俺は運が良かったのかもしれない。それなりに楽しかったし。


 戦闘の余韻を楽しむ時間が終わったのか、テンマは興味の矛先を俺の技へと向けた。


「そういえば快ちゃん!治癒系統術ってなにあれ?!めっちゃかっこいいんだけど!それ、僕も真似していい??風系統術って感じで!ってかめっちゃあれ痛かったよ?!快ちゃんのスキル本当に治癒?あり得ない攻撃力だったよ!怪我も治せて、攻撃も出来るってもう最強じゃない?反則じゃない?」


 奮発して初技を披露した影響で死んだのかと思えば、テンマ曰く単に全身の骨が砕けて動けなかっただけらしい。


 治癒を使って治してやったらこの通り、ついさっきの静かな状態が名残惜しくなる程に直ぐに騒がしくなった。


「そんなに興味あるならもう一度食らってみるか?」


「え…あ、いや、それは良いや」


 強制的に大人しくさせようという俺の考えを何となく感じとったのか、テンマは露骨に頬を引き攣らせた。


 しかし、食うのは嫌だが俺の技への興味は尽きないらしく、テンマは声量に配慮しながら疑問を口にした。


「でもでも、あれって実際本当にどうやってるの?治癒系統術って言うくらいだから、別に僕に隠れて2個目のスキルオーブ見つけてたって訳じゃないんでしょ?……いや、まさか…本当は既にもう何個も発見してたり?!」


 そんなに信用がないのかと勝手に想像を膨らませて目元をウルウルとさせるテンマ。


「お前の言うとおり他のスキルオーブを何個も発見できていたら良かったんだがな。残念ながら俺が今までに発見し、手に出来たスキルオーブは治癒だけだ」


「えーーじゃあ、どーやってるのさ!!」


「まぁ、教えても別に減るもんじゃないしいいか。この技は、治癒系統術と口にはしたが、その実やっているのは単純なマナ操作だ。スキルの力は直接的には使っていない」


「え、じゃあ…さっきのやつ僕でも出来るってこと?!」


 テンマが期待に満ちた目で俺を見つめてくるが、俺はそれに容赦なく首を横にふった。


「さぁな。俺は風のスキルを使ったことがないから、確実なことは俺にも言えん。だが、これは俺の勝手な推測に過ぎないが多分難しいと思うぞ」


「えーー、何で?スキルを直接的に使ってないなら、マナがある僕にも可能性はあるかもしれないじゃん!」


「まぁ、可能性はゼロではないな。ただ、スキルと同時に与えられるマナにはそれぞれ特性がある。俺の治癒のマナは体内での操作性に優れ、お前の風のマナは体外での操作性に優れている。それを考慮すると、自分以外への対象へとマナを流し込めるか怪しいお前は、この技を習得するのは難しいと言わざるを得ない」


「えーーーー。それでもやってみないと分かんないじゃん!!」


 そう言い不服げに頬を膨らませ、俺の手を取りマナを送り込もうと必死に気張り始めるテンマ。


 しかし、いくら待てども力強く握られるだけで一向に体内にマナが流れ込んでくる感覚は訪れない。


「そろそろ分かったろ。諦めろ」


「…」


 声をかけてみるもテンマは、依然俺の手を強く握ったまま動かない。


 こりゃ待つしかないか。納得するまでやめない頑固さは折り紙つきだ。


 結局、その後も10分ほど粘ったが、結果は変わらなかった。やはり、テンマのマナは、体外で操作しようとすると即座に風に変換されてしまうらしい。


「ぐぬぬ…何故だ…何故言うことを聞いてくれないんだ…僕のマナ…」


 地に両手をつき露骨に落ち込むテンマ。事情を知らない者からしたら、この光景は厨二病を拗らせた奴にしか見えないだろう。


 大袈裟に絶望ポーズをとるテンマに、俺は気休めだが理論として出来ない理由を説明してやる事にした。理由が分からないより分かった方が諦めもつくというものだ。コイツはしつこいからな。


「お前が自分以外への対象へとマナを流し込めない理由として考えられるのは…やはりスキルの種類…というより、仕様上の問題だろう」


「仕様?」


「あぁ、俺のスキルは正規の使い方としては人を癒す為の力だからな。怪我を治す際に患部にマナを流す必要がある以上、他者へマナを流すことが出来るのは仕様としては当然だろう。一方、お前のスキルの場合、圧倒的に体外で使う方が利点は大きいからな。わざわざ他者の体内に流し込む必要がない」


 テンマからすれば、触れたものを内側から壊すなんてカッコいい!という馬鹿丸出しの安直な思考回路なのだろうが…俺の治癒系統術はあくまで本来の仕様上なら攻撃手段のない俺が編み出した謂わば苦肉の策とも言える攻撃手段だ。


 仮にテンマが習得出来たとしても、通常でも遠距離攻撃ができるテンマが使うメリットは本当にカッコいいという理由しかない。


「うぅ、確かに…でも使いたかった…くっ…治癒スキルがチート過ぎる件…」


 これがないものねだりか。

 俺からしたら風のスキルの方も大概チートだと思うけどな。


 ただ、まぁ、そうだな。そんなに使いたいなら使わせてやろう。


「まぁ、そう落ち込むな。冷静になって考えてみれば、お前もあの技を使えるかもしれないぞ?今少し閃いたんだ」


「…えっ?ほんと?」


 俺の言葉に、テンマは俯いていた顔を一瞬で俺の方へと向ける。


 どうやら余程、俺の治癒系統術『砕』が気に入ったらしい。一縷の希望を見つけたかのように目を輝かせている。


 技の製作者としては嬉しい限りだな。


「で、どうやれば僕でも治癒系統術『砕』使えるの??」


「方法は簡単だ。相手に使えないなら自分に使えばいい。いくらマナを相手に流し込めないからと言っても、自分の体内で流れているマナを操れない訳ではないだろ?」


「は?えっと…ちょっと…聞き間違いかな?自分に使えばいいとか聞こえたんだけど…」


「いや、間違いなくそう言ったんだが?あー、多少は痛むだろうが、俺が治癒してやるから遠慮なくやっていいぞ。存分に技を堪能するといい」


「ちょいちょいちょい。快ちゃん…僕は戦闘中にその技使えたらカッコいいなーって意味で言ったの!!そもそも、それ自分に使ってどんなメリットがあるのよ。何処のバカが自分で自分の骨砕くのって…そのバカが目の前に居たわ…って、あ…なるほどね。つまり…そういうこと?」


 テンマは俺の言っている意味を理解し、キラキラと輝かせていた瞳を急速に揺れ動かし途端に顔を青ざめさせる。


「おー、察しがいいな。そういうことだ。この技を自身に使えば、お前が自分で骨を砕く事が可能になるから、いつも俺が担っている肉体破壊の手間が無くなる。それに、お前は使いたかった技が使える…まさにウィンウィンだろ?あー、この際、バカと言った事は不問にしてやる。だから、さっさと体内のマナを動かして骨を砕け」


「いや、それ全然ウィンウィンじゃないし、結果的に全然不問にしてないし!!」


「やれ」


「うわ…もうこれ拒否権ないやつじゃん。まぁ、いつも拒否権なんてないけど…もういいよ!やるよ!やればいいんでしょ!なんか、やりたかった事と全然違うけどやりますよ!!」


 そう半ばヤケクソになりながらテンマはマナを操作した。


 ——数分後


「いや、普通に無理じゃん。てか、よく考えたらマナ操作だけで骨砕くって快ちゃん一体どんなマナの濃度してるの?…僕、戦闘でマナを消費したとはいえ、前よりは結構増えた筈のに指先しか砕けなかったよ?」


 結果、テンマは中途半端にしか俺の技を模倣できなかった。何でもマナで肉体を締め付けるように操作するには、相当なマナの総量が必要らしい。


 結局肉体の破壊は俺の仕事か…。


 まぁ、でも確かにそう言われてみれば、俺のマナは最初に比べたら水っぽい質感から粘性のあるスライムのような質感へと変化した気がする。やはり濃度の違いか?


「快ちゃん…ぶっちゃけマナの枯渇…1日にどれくらい繰り返してるの?正直どれだけ器の拡張をすれば、僕の全身を砕けるほどのマナの総量が身につくのか想像もつかないんだけど…」


 そう、恐る恐るといった感じで聞いてくるテンマに、俺は最近の自分の生活を軽く振り返ってみた。


 はて、何回だろうか。


 最初は絶対に慣れないと思っていたあのマナの枯渇による痛みも、毎日やる内に今では、死ぬほど歯を噛み締めたら、鼻や耳や目から血を出す程度で済むようになったからな。


 最近は頻度としては多かった気がする。


「日によってばらつきはあるが…最低10回、多くて30回くらいじゃないか?」


「…あ…はは…なんか、もう…ちょっと戦い方を工夫しただけで、快ちゃんに勝てる…なんて思ってた数時間前の僕を殴ってやりたい気分だよ。治癒系統術ね…これも、自分で試してみてよく分かったけど、こんなの圧倒的なマナ量がなければ絶対に成り立たない代物だよ。じゃなきゃ、戦闘中に直ぐにマナが枯渇して死ぬ…ある意味、快ちゃんにはピッタリってか…もう専用技だね…あはは…」


 いつもの比ではない引き攣った笑みを浮かべるテンマ。


 まぁ、確かに最初と比べれば枯渇回数は多いよな。俺も、1年前の自分なら信じられなかった気がする。


 ただ、まぁ、慣れてしまったんだから仕方ない。筋トレで筋肉がついてきたのに、いつまでも軽い重量でトレーニングを続けるわけにも行かないだろう。


 更なる成長には、更なる負荷だ。


「あー、そういえばこの情報は共有してなかったな。マナの器の拡張において一つ重大な発見をしたんだ。俺は今まで何故だかマナが枯渇したら全回復してからじゃないと、枯渇をさせても意味がないと思っていたんだが、これは違った。マナ枯渇後…全回復した後でなくても、少しマナが回復した後に直ぐにマナを枯渇させれば総量は増えるんだ。これだと、短い時間で今まで以上に効率よく強化できる」


「いや、やり方教えられても困るって!僕1日に1回枯渇させるのでも頑張ってると思ってたのに…最低10回?…しかも連続で?…無理無理無理!…てか快ちゃん、スキルチートだけじゃなくて、努力チートまで持ってるの?!そんなの反則だよ!」


「うるさいな。意味わからんこと言ってないで、さっさとマナの枯渇試してみろ。最低3回枯渇させるまで帰さないぞ。あ、お前がマナを枯渇させている間は、俺がいつも通りお前の体壊して強化させといてやるからそっちは気にしなくていいぞ。今回は結構楽しかったからな。次回も期待している。もっと強くなれ!」


「……あ…はい。もう好きにして…どうせ逃げられないから」


 テンマは快の子供らしい笑顔と共に発せられるその言葉に、遂に全てを諦めたような笑みを浮かべた。





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