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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
広がる波紋

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第43話 テンマvs管理官達(2)


 これからが異能バトル本番という時。


 テンマは目の前の政府3人組を見据えて、ため息混じりに呟いた。


「ねぇ、何で息切れしてるの?」


 テンマの眼前には、激しい戦闘後という訳でもないのに、異様に汗をかき、疲労を露にしている3人。


 反応がない為、何故だろうとテンマは軽く考えを巡らせる。


 しかし、分からない。

 まだ、様子見として軽く攻撃しただけ。


 快の言いつけ通り、ちゃんと致命傷になる程の攻撃はしていないし、まだ戦闘も始まって間もない為、相手方もマナ的にも余裕はあるはず。


『ハァハァハァ…』


 それなのに、政府連中は依然、警戒の色を滲ませこちらの様子を窺ってくるだけで動かない。


 そこで、ある一つの可能性が思い浮かぶ。


「もしかして、戦うの怖くなっちゃった?」


 ——ビクッ


 テンマの見定めるような目つきと共に発された言葉に、政府連中は同意を示すかのように肩を跳ね上がらせる。


「なるほどね」


 その反応を見て、テンマは得心がいったように頷いた。そこに、スキル所持者との戦闘を心待ちにしていたが故の落胆は意外にも見られなかった。


 自分でもあまり落ち込んでいない事を不思議に思ったが、考えてみればその理由は直ぐに分かった。


 自分はもう快という極上の味を知っている。


 だから、落胆がなかった。

 今あるのは、自分にとっての特別は快だけなのだという再認識だけ。


 初戦の快は、両腕を切り落とされながらも自分に勝利した。そして、それ以降自分は未だ一度も勝てていない。


 治癒と風。こと、戦闘においては有利なスキルのはずなのに勝てていない。だから特別。


 その為、元から快以外のスキル所持者は、自分にとっておまけに過ぎない。どこまでいってもメインの前の前菜でしかない。


 その事に今気がついた。いや、思い出した。


 そして、政府連中のこの様子も今思えば見覚えのある光景だった。


 極度の恐怖による緊張。

 そして、その心拍数の上昇からくる息切れ。


 これは、テンマが快と出会う以前には腐るほどみてきた反応だった。喧嘩を売っては、買いを繰り返す日々の中での変わらない決まった結末。


 自分の外見をみて威勢よく喧嘩を売ってきた者も、最後には自分に恐怖し怯える。


 だが、最近は快に負け続ける生活を送っていた為か気が付くのに遅れた。


 きっと間違いではない。


 その証拠にこの3人も、リーダーの元へ加勢に向かう!と息巻いていた最初ほどの威勢は既になく、攻撃を仕掛けてくる様子もない。


 動かないのではなく、動けないのだ。


 とはいえ、このままという訳にも行かない。


「君たちが怖気つくのは勝手だけど、僕には関係ないから遠慮なくいかせてもらうよ」


 そう言い、テンマは駆ける。


 快ちゃんが殺人ピエロを捕らえるにしろ、殺すにしろ、まだまだ時間はかかるだろうからね。


 僕が逃しちゃったリーダーっぽい人との戦闘もあるだろうし、少しの間だけでも足止めってか暇つぶしに付き合ってもらおう。


 軽く戦った感じだとあまり戦い慣れてはいないように感じたけど、まぁ、ちょっとだけ危ない目に遭わせれば死ぬ気で戦ってくれるよね?


 そしたら、少しは楽しめるはず!


 まずは、あそこの女の人かな。


 テンマは狙いを定める。


 ——トントンッ


 敵が動いたのにも関わらず、未だに動けないでいる女の背後まで一瞬で移動すると挑発するように指先で肩を叩く。


「…!?」


 突然目前から消えた標的が背後に現れたことで、驚きに満ちた顔をして振り向く女。


 そこを、容赦無く殴り付ける。


「ブフッ!!」


「ゆ、夢路!?」


 派手にぶっ飛ぶ女を心配して、声を上げる郷田。


 続けて、小林も怒ったような口調で口を開く。


「お前、女を…それも女の顔をよくも殴ったな!」


「いや〜、女だからって殴っちゃいけない訳ないでしょ!僕は、その辺差別しないから!」


 実際は、テンマはしっかり手加減はしていた。それはもちろん女だからという理由ではなく、本気で殴ったら死ぬからだ。


 大袈裟にぶっ飛んだのは、演出の為に風で威力を誤魔化したからに過ぎない。


 その証拠に、夢路は飛んだ先でついた畑の土を払い落としながらゆっくりと起き上がっている。


「夢路!大丈夫か!」


「あたしは平気だから、敵に集中して」


 小林の呼び掛けに短く応えると、夢路は殴られたことによって口の中に溜まった血を吐き出し、テンマを睨む。


 戦意の回復。


 演出の効果はしっかりあったようで、恐怖による緊張は怒りによって掻き消されたらしい。夢路に続いて小林と郷田もテンマを睨み敵意を剥き出しにしている。


 それに、対しテンマは笑みを浮かべて反応する。


「ふふっ。やっとやる気になってくれたみたいだね!もう、これからって時に皆びびっちゃうんだもん!やる気にさせるのが大変だったよ!」


「お前…それで見せしめに夢路を殴ったのか!!」


 激昂する小林にテンマは首を振って否定する。


「いや違うよ?僕さっきその夢路って人に拳銃で殺されそうになったからさ!その仕返しに一発ぶん殴ってやろうと思っただけ!まぁ、でも見せしめにもなったし結果オーライだね!」


「この…ふさげた奴め」


「あぁ、許さん!」


 怒りを露にする郷田と小林に、テンマは挑発を続ける。


「八つ当たりはやめてよ!小林って人のスキルは先読みが出来るんだから、君が僕にビビらずにスキルを発動していれば郷田って人と協力して、今のは本来なら防げてた筈の攻撃だよ。それを、自分の見栄の為に敵対している僕に責任転嫁するなんて、はっきりいってダサすぎだよ!」


「クッ…!」


 思いの外、尤もな指摘だったのか悔しそうに俯く小林。


「まぁ、反省して次に活かせばいいよ!じゃ、次は防いでみてね?」


 そう言って、早速次の機会を与えるべく高速移動を始めるテンマ。


「な…夢路!スキルを使って標的を絞らせないようにするんだ!!」


「分かってる!!」


 小林は驚くのを抑えて、即座に夢路に指示を飛ばす。


 そして、それから直ぐに再び現れる数多の人影。その姿は、やはり郷田、小林、夢路の形を模している。


「よっ…あっれ!これ幻影か!あっはは!本当に見分けがつかないや!オリジナルと同じように動かす事も出来るんだね!」


 テンマを惑わせるように複雑に動く幻影。高速移動の合間に隙を見て攻撃を放つが、その尽くが本物ではなく、直ぐに霧散していってしまう。


「ふんっ!」


「おーっと!危ない危ない」


 幻影に紛れて、本物の郷田がタックルをかましてくるがそれを風を緩衝材にして威力を殺して直撃を避ける。


「郷田すぐ逃げろ!」


「あぁ、分かってる!」


 不意打ちが通じないとなれば、すぐに後退しまた幻影に紛れる。そして、またテンマが幻影を攻撃した所を狙って不意打ち。


 その後も何度かこの攻防を繰り返す。


「ふーん、なるほどね!先読みで僕が狙う場所を読んでるって訳か…」


 未だ直撃は喰らっていないとは言え、流石に高速移動によって移動しているのにも関わらず、出現場所をピンポイントで特定され過ぎている。


 これは間違いなく小林がサインないし指示を出している。


 そう結論付けたテンマは、荒業に出ることにした。


「本物が見分けられないなら、幻影を全部消すまでだよ」


 胸辺りの高さで手刀を平行に繰り出し、威力を最小限に抑えた風の刃を放つ。


 幻影の弱点は攻撃されるとすぐに霧散して消えてしまうこと。そして、それが実体を持たないこと。


 ——ズシンッ


 風刃が数多の幻影を切り裂き、狙い通り実体に当たる音がした。


「ふんっ…」


 テンマがその方向に目を向けると、そこには郷田が腕を十字にして組んで攻撃を受け止める姿があった。その後ろには、小林と夢路もいる。


 どうやら、郷田の硬化のスキルによって壁役となったらしい。


「今度は防いだね。でも、本物の炙り出しには成功したから僕の勝ち」


「クッ、夢路!もう一…」


「いや、いいよ。それやってももう一回、同じ事繰り返すだけだから」


 小林が悔しげに夢路に指示を飛ばそうとするが、それに被せるように無駄だと断言して、動きを止めさせる。


 相手方もそれを何となく感じているのか3人とも、俯いて顔を顰めている。


『………』


 テンマは政府連中の態度をみて、これ以上続けても面白くはならないと思い、まとめにかかる事にした。


 そして、快の指示を頭の中で思い出し、自分に課されたタスクを確認する。


『それと、念のため言っておくが、どんなに雑魚でも生かしとけよ?今は雑魚でも今後強くなっていくかもしれないからな。なんなら、なるべく痛めつけて復讐心を煽っておけ』


 強化した脳のお陰で、指示された通りのイメージがそのまま思い出せた。


 しかし、ここで問題が発生する。


 僕、快ちゃんみたいに煽りスキル高くないんだよな〜。どうしようかな。快ちゃんの言いそうなこと適当に言えばいいかな?


 それなら、何となく言えるような気がするし。うん、それでいいかな。


 よし、じゃあ一先ず痛めつけるのは後でいいとして、まずは弱点を指摘して煽っていくって作戦で行こうかな。そうしなきゃ、この人達強くなれそうもないしね。


 方針を決めたテンマは、強者感を演出しようと双眸を鋭くして雰囲気を作る。


「君たちってさ。はっきり言って弱過ぎるんだよね」


 この後に待ち受ける未来を想像して、顔を険しくさせる3人に向かって、テンマは落胆の色を濃くして切り出した。


「なんだと…!」


 この期に及んで懲りずに反抗的な態度を見せる小林に対し、目を伏せ気まずそうにする郷田と夢路。


 どうやら小林以外はこの状況をよく理解しているらしい。


「なんだとって言うけど、君が1番雑魚だって分かってる?」


「俺が…1番雑魚だと?!」


「雑魚も雑魚だよ、ざっこざこだよ。君、少し先読みが出来るだけで、まともな攻撃手段がないじゃん。その巻いてるバンテージだって、今日いつ使ったの?そもそも、君のパンチじゃ僕、仮に当たっても痛くも痒くもないからね。君こそ拳銃使うべきでしょ。なんで弱い上に自分で制約課してるの?なんか宗教上の理由なの?ポリシーなの?厨二病なの?そういうの恥ずかしいからやめな?」


「な。いや、俺は元はボクサーで…拳は俺の武器で…」


 怒涛の口撃にゴニョゴニョとし始める小林。


 あれ、これもしかして効いてる?効いちゃってる?快ちゃんの言いそうなこと言ってみただけだけど、もしかして僕、結構煽る才能ある?


 なんか、楽しくなってきたかも。


「ふ、ふふ」


「…ッ」


 赤面しながら狼狽える小林が面白かったのか、笑いを堪える夢路と郷田。夢路に関しては声が漏れ出てしまっている。


「何笑ってるの?勘違いしないでほしいけど、君たちも雑魚は雑魚だからね?ぶっちゃけ、どんぐりの背比べだから。君は、幻影は出せても、あいつと同じで攻撃手段が拳銃しかないし、肉体が脆いから本体を狙われたらすぐに壊れる。君は、身体が頑丈で力もあるけど、スピードがのろ過ぎて回避するのが余裕すぎる。どんなに強力な武器持ってても当たらなきゃ意味ないからね」


「そ、そんなの仕方ないじゃない!!あんたみたいに強力なスキルじゃないんだから!!」


 ダメ出しが余程気に入らなかったのか、堪らず反論する夢路。概ねその意見に賛同しているのか、同じような顔をして見つめてくる郷田と小林。


 それに、テンマは演技ではない底冷えするような冷たい眼差しで返す。


「それは違う。弱いのは君たちの怠慢だよ。スキルなんてのは所詮使い手次第。僕はそれをよく知っている。ま、僕のスキルが使い勝手が良いのは認めるけどね。でも…それは、戦闘中に敵に怯えてしまうような覚悟すら決まっていない君たちが言える事ではないでしょ」


『………』


 正論に堪らず俯く3人。


「今の君たちは、正直殺す価値もない」


 このまま死ぬと思っていた所に、発されたテンマの言葉に希望を見出す3人。


 しかし、でもとテンマは続ける。


「このまま見逃す程、僕は優しくない。それに、忘れてたけど元はと言えば、僕は君たちの足止めが仕事だからね。ボスにこれ以上怒られないように、最低限足を止めざるを得ないくらいには痛めつけさせてもらうよ」


『………』


 これからの流れを予想し、一瞬にして顔を青褪めさせる3人。


 しかし、この時テンマはこれとは全く関係ない事を考えていた。


 あー、あの逃しちゃった人が1番強いんだろうなー。やっぱり、勿体無いことしたなー。


 快ちゃん今戦ってるかなー?


 んー、観に行こうかな。


 この人たち痛めつけた後に行ったらまだ間に合うかな?


 ま、取り敢えずは痛めつけてから考えますか。





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