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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
広がる波紋

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第41話 別行動


『………』


 鬼の面をした変質者の突然の登場に、驚きのあまり暫しの間、沈黙する一同。


 目の前には大量殺人を犯した大罪人である殺人ピエロと、そして新たに現れた目的も正体も不明の鬼の面をした謎の人物。


 事情を知らない者からしたら、この状況は混乱必至だろう。急な展開で状況が飲み込めず、動きが止まってしまうのも仕方ないというもの。


 しかし、隙あらばと逃げるチャンスを窺っていた者からしたら、この状況はまたとない好機だった。


「!…ひ…ひひ!!」


 キモい声を上げて、陸上選手さながらのスタートダッシュを決める殺人ピエロ。


 よく見てみると、その姿がいつの間にか今まで見せていた姿から変化していた。


 細身の男から程よく筋肉のついた男へ。身長はあまり変わらないが、顔や髪型などの分かりやすい身体的特徴が様変わりしている。


 これは、紛れもなくスキルの力だろう。

 そして、その能力はおそらく変身。


 なるほど、変化した人間の身体能力もそのまま使えるのか…いや、そう結論付けるのはまだ早計か。身体的な強みを活かせるだけで、その能力自体は素の能力によるのかもしれない。


 とはいえ、強力な能力だ。スポーツ選手が長い時間をかけて積み上げてきた肉体を一瞬にしてコピーする事ができる。


 走るには陸上選手の肉体。

 シンプルが故に強力だ。


「ま、待て!!」


 混乱から立ち直り、遅れて状況を理解したバンテージ男が殺人ピエロを追おうとするが…


「…?!…何をするんだ!邪魔をしないでくれ!」


 謎の面の男ことテンマが一瞬でバンテージ男の前に立ち塞がる。


「ひ、ひひっひ!誰だか知らないけど良くやった!!僕のファンか?!逃げ延びたらサインをあげるよ!!」


 去り際にキモい声でキモい言葉を吐き捨てていく殺人ピエロ。


 側から見たらテンマの動きは殺人ピエロの逃亡を手助けする行動。手助けされた側からしたら勘違いするのも無理はないが、何故だか無性に腹が立つ物言いだ。


「あ、あなた何者ですか…い、いえ、それより今どうやって移動を…」


 テンマの異常な動きや殺人ピエロの逃亡によって、分かりやすく混乱を露にするスーツ女。


「次長さん。今はその事より殺人ピエロの事に対処しよう。このままでは、苦労して発見したのにまた逃亡されてしまう。そうなればすべての苦労が水の泡だ…」


「…そうですね。すみません、ありがとうございます。郷田さん」


 郷田と呼ばれた最年長のデカブツ男がテンマの出現であからさまに動揺するスーツ女に向かって、落ち着くように進言する。


 そして、落ち着きを取り戻したスーツ女はその場にいる皆に行き渡る声で迅速に指示を飛ばし始めた。


「皆さん、今からスキルの使用を許可します。なるべく使わずに対処したかったですが、こうなっては仕方ありません。そして、緊急事態につきチームを二分して動きます。速さに優れた私が殺人ピエロを。そして、残りのお三方はこの面の人の相手をお願いします」


「次長さん!殺人ピエロ相手に1人じゃ危険だ!」


「いえ、私の感覚ではこの面の人の方が危険です。本当なら私が残りたいですが、このまま殺人ピエロが野放しになれば、新たに犠牲者が出ます。お願いします…」


「こんなふざけた奴が…そんなに…」


 バンテージ男に、ふざけた奴…なんて言われているが確かにテンマの方が殺人ピエロより実力としては上だ。それは実際にスキルを確認して確信した。


 スーツ女以外の3人がどんなスキルを持っているにしろ、テンマを相手に完勝するのは容易ではないだろう。


 さっきの動揺からして経験が浅いのかと思えば、こういう状況判断は的確だな。さすがリーダーと言ったところか。


 にしても、スーツ女の発言から察するに今まではスキルの使用を制限してたのか。そして、言いようからしてこの場にいる全員がスキル所持者。


 楽しくなってきたな。


「話はまとまった?なら、殺人ピエロなんて放っておいて僕とやろう!!」


 政府一行が殺人ピエロを追えないように進行方向に立ち塞がりながら、陽気な声色で口を開く謎の面の男ことテンマ。


 その不気味な雰囲気に再び場の緊張感が高まる。


 しかし、事態はそう悠長としていられるほどの余裕はない。こうして困惑している間にも刻一刻と殺人ピエロの背中は遠退いていく。


 それを冷静になったリーダーのスーツ女はよく分かっているのか、未だ事態をうまく処理できず動けないでいる他の人員に喝を入れるようにして声を張り、すぐに行動に移した。


「では、作戦開始です!混乱する気持ちはわかりますが、今はどうか自分の役割に集中してください!私たちの働きによって被害者は激減します!」


 そう言い残し、スーツ女は一気に加速して走り出す。


「おーー!やっぱりスキルを持ってるんだ!速いね!」


「…!?」


 しかし、テンマは明らかに人外のスピードで横を通り抜けようとするスーツ女の前に難なく立ちはだかる。


「君も結構速いけど、僕も速さには自信があるんだ!」


「やはりあなたもスキルを…厄介な…!」


 テンマに進路を塞がれたスーツ女は額に汗を滲ませて呟いた。


「スキルを持っているのはアンタだけじゃないのよ」


 テンマの進路妨害により再び膠着状態に陥ったと思った矢先。


 紫女の声が響くのと同時に、テンマの周囲にはいつの間にか何人もの人影が立っていた。タイミングからしておそらく紫女のスキルなのだろう。


 分身か何かなのか、その人影はその場にいる政府一行の姿を模している。身体的特徴はもちろんのこと服装までも完璧に。油断するとどれが本物なのか分からなくなるほどに精密だ。


「あれれ、何これ!すごいね!アッハハ」


 見慣れないスキルの出現にあからさまに機嫌をよくするテンマ。元の人数に加えて、包囲されるように突如追加された10人以上の人員を見渡しながら笑みを強くする。


 それを好機と捉えたスーツ女は、殺人ピエロと同様にその隙を逃さずに迷わず土を蹴った。


「…ッ!」


「ありゃ!」


 テンマの横を難なく通り抜けるスーツ女に対し、とぼけた声を出すテンマ。


 面をしててもバカ丸出しだ。


「まだまだ!」


 だが、その一瞬の遅れを取り戻すようにテンマはお馴染みの高速移動で回り込もうと、身体の向きをスーツ女に向ける。しかし…


「行かせはしない」


「へへっ。視えてるぜ?」


 テンマの動きが事前に読めていたかのように目の前に立ち塞がるデカブツ男とバンテージ男。


「次長さん!今のうちだ、早く行け!!コイツは次長さんの言う通り俺らが抑える!だから、殺人ピエロは頼んだ!!」


「はい!ありがとうございます。皆さんも気をつけて!」


 さっきよりも加速して殺人ピエロを追いかけていくスーツ女。そして、その姿はあっという間に見えなくなる。


「……」


 あからさまにやばいといった表情をして、俺がいるであろう方向を見詰めるテンマ。テンマには見えていないだろうが、俺とはばっちり目が合っている。どうやら、いくらバカでも自分の失態くらいには気が付いているらしい。


「ごめーーーーん!か……ボスーーーーーー!!1人逃したーーーーーーーーーー!!3人は死守するので勘弁してくださーーーーーい!!!!」


 声高らかに山彦の如く響くテンマの謝罪もとい命乞い。


 完全なる油断で一人を取り逃がすだけでなくて、大声でアレだけ念を押した俺の名前まで叫びそうになるとは…中々に命知らずな奴だ。バカも行き過ぎると逆に感心するな。


 まぁ、予想よりスキル所持者が多かった事に免じて、お仕置きは半殺しで勘弁してやろう。俺の名前の半分も口にしたし丁度いいだろう。いや、甘すぎるか。俺も大分絆されたものだな。


 と、まぁテンマの失態に対する話はここまでにして、さてここから俺はどう動いたものか。


 依然、逃亡している殺人ピエロに関してはクロウズが着いているから動きを捕捉するのは問題ないとして、問題はテンマが逃したスーツ女だな。


 俺としては、この場にいる3人のスキルや戦い方をもう少し見てから、殺人ピエロを追いかけたかったのだが、スーツ女が既に殺人ピエロを追っている以上、そうも言ってられなくなった。


 あのスーツ女は、はじめに「身柄を拘束する」と殺人ピエロに対して言い放っていたが、それもケースバイケースだろう。4人で身柄を拘束するならまだしも、1人であるなら殺人ピエロの抵抗も十分予想される。


 そうなれば、最悪殺す選択肢だって当然出てくるだろう。1人を生かせば何人も死ぬんだ。そんな害虫殺すに限る。当たり前だ。


 だがそうなると、今回の作戦のきっかけでもある俺の際限のない人体実験という目的が失われる。


「追うか」


 状況判断が済むと、快はテンマと相対している3人から目を離し、視線を殺人ピエロの逃げた方向へと向ける。


 まぁ、テンマが取り逃した時点でこうするしかないわな。


 あの3人のスキルの詳細は気になるが、本来の目的が失われてしまったら本末転倒だ。大人しくここはテンマに任せて俺は殺人ピエロに集中しよう。


 それに考えようによっては、スキル所持者をまとめるリーダーと戦えるんだ。もしかしたら、今まで不透明だった政府に関しても何か情報がつかめるかもしれない。


 ん、あれ、そう考えるとあんまり悪くないか?


 いや、悪くないどころか、いいな。


 リーダーっぽいし、一番強い可能性すらある。


「鬼ごっこの開戦と行こうか」


 快は面の下で鬼より不気味な笑みを浮かべた。




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