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狂人が治癒スキルを獲得しました。  作者: 葉月水
広がる波紋

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第40話 乱入



「あれか?」


 ——ペコッ


 色々な建物が立ち並ぶ街の中。

 程々に背の高いビルの屋上から標的を確認する。200メートルは離れているが問題なく顔まで視認できた。


 カラスにも確認が取れた事だしきっとアイツで間違いないだろう。


 急いで来た甲斐があったというものだ。

 カラス達が共鳴するように鳴いてくれたお陰で、想定よりずっと早く発見することが出来た。


 それらしき影も見られないことから、恐らく政府連中よりも発見したのは先だ。


「ねぇ、快ちゃん、見えた??」


「あぁ。今の所カフェで呑気にティーブレイクと洒落込んでる」


「うっわマジ?!人殺した後によくやるね。それでどんな奴?」


「そうだな、モブ顔の男だ」


「え、もっとなんか例えないの?全然分かんないよ」


 テンマが呆れたように見てくるが、そうはいってもこれといった特徴がないのだから仕方ない。


 髪の毛に色でもついててくれたなら、もう少し形容の仕方もあっただろうが、それも普通に黒で無個性だ。


 てか、見えないテンマが悪いな。やっぱり帰ったら視力強化しよう。その方が便利だ。


「それで、これからどうするの?」


「そうだな…」


 テンマの質問に暫し考えを巡らせる。


 正直、殺人ピエロはもっと人気のない場所に潜伏すると思っていたから、このシチュエーションは想定外だ。


 殺人ピエロのスキルを考えてみれば、確かに逃亡には人混みに隠れるのが有効な手段だが…スキルの仕様上、俺のように器の拡張をしていない限り、長時間は使えないと思ったんだがな。


 テンマや銀次曰く、他のスキル所持者の殆どは器の拡張はしないだろうとの事だったが、実際のところはどうなんだろうか。


 もしかして、今はスキルを使ってないのか?

 それともめちゃくちゃコスパがいいのか?


 まぁ、どっちにしろいつまでもカフェに居座る訳にも行かないだろうし、もう暫くは様子見だな。丁度足止め要因もいる事だし、俺も政府連中の姿くらいは確認したい。


 今急いで接触するのは些か早計だろう。


「暫くは気取られない距離を保ちながら尾行して、政府連中が殺人ピエロに接触したら俺達も動くぞ」


「おっけー!!早く来ないかな〜」


 恋人との待ち合わせかのように、顔を綻ばせるテンマ。


 戦闘を心待ちにしているのだろうが、政府がこのまま殺人ピエロを見つけ出せない可能性もまだ大いにある。それほど殺人ピエロを特定するのは至難の業だ。


 さて、それをどう伝えたものか。このまま政府が姿を見せなかった時のテンマの反応を考えると頭が痛くなる。


 面倒くさいから前もって伝えておきたいのだが…まぁ、いっか。


 来なかったら来なかったでそういう運命だったって事で諦めてもらおう。振られることもあるのが恋愛というものだしな。そもそも、俺は絶対とは言っていない。


 それに、政府との接触の仕方なんて殺人ピエロが手元にいる限りいくらでも思いつく。


 だから、暫く待って接触がないようなら潔く殺人ピエロの件に集中してもらおう。


 ——カァーカァー!


「お、動いたか」


 肩に止まるカラスが鳴き出す事で事態が動いた事を把握する。相変わらず有能だ。


「どうやらティーブレイクは終わったらしいぞ。店を出た」


「え、ほんと!どこ行くんだろ。家かな?」


「さぁな。後を追うぞ」


「うん!!」


 俺としては手を出しても目立たない人気のない場所だとありがたいんだが。


 さて、どうなる事やら。



 ——殺人ピエロを追跡する事、数時間。


 ある違和感に気が付く。


「やっぱりあの車、殺人ピエロの乗ったタクシーを追いかけてるよね?」


「あぁ、殺人ピエロもさっきからくねくねと右折や左折を繰り返している事から考えて、尾行に気がついたのかもな」


 以前のように公用車ではなく、普通車だから気が付くのが遅れたが間違いない。


 あれは政府連中だ。


 付かず離れずの距離で殺人ピエロのタクシーを追いかけている。これで偶然って事はないだろう。


 どういう手段で特定したかは知らんが大したものだ。これで、後のテンマの駄々を考えなくて済む。


「どうする?どうする?僕もう行ってきていい?いいよね?いいよね?」


 テンマに関しては、もはや我慢の限界なのかクラウチングスタートの格好で、俺のゴーサインを待ち構えている。


 フライングしたら半殺しにしてやるつもりだったが、コイツにしては耐えた方か。


 でも確かに、そろそろ手を出してもいい頃合いだ。


 殺人ピエロが尾行に勘付いた以上、政府連中と接触するのは時間の問題だろうし、これ以上時間を掛けるメリットも俺たちには無い。それに、俺もそろそろ追跡するのに飽きてきた。


 幸い辺りも薄暗くなってきたし、進行方向の先には広大な農地が広がっているのが見える。人気も少ない為、事を起こすには絶好のタイミングと言えるだろう。


「よし、5分以内に突撃させてやるから、もう少し我慢しろ」


「5分ね!分かった!!」


 テンマにもう少しだけ待ての指示を出すと、俺は徐に手頃の石を探し始める。


 手を出すタイミングは決まったとは言え、殺人ピエロがしぶとく逃亡を続けようとしたら意味がない。


 先んじて、アイツの乗るタクシーを目標地点で強制的に止める必要がある。 


 手段は色々と考えられるが、まぁ簡単なのは車をパンクさせる事だろう。


 ——ドカッ!


 手頃な石が見つからないため、手頃な建物の一部を殴り壊して、手頃な石を造り出す。無いなら作れば良い、簡単な事だ。


「よし、こんくらいの大きさで良いだろ」


 崩れた瓦礫の中から、手頃な石を吟味しビー玉程の大きさの破片を手に取る。


 あまり大き過ぎると車体ごと壊してしまいそうだからな。うっかり殺人ピエロに死んでもらっては困る。


「え、快ちゃん、何する気?」


「タクシーのタイヤをパンクさせて、政府と殺人ピエロを鉢合わせるんだよ。そしたらお前の出番だ」


「おー!なるほどなるほど!そこで政府を足止めして殺人ピエロを逃せば良いんだね?」


「そうだ」


 作戦内容はしっかり覚えてるようだな。


 ただ、何故だか不安が拭えない。流石に理解しているとは思うが念の為、注意事項について釘を刺しておこう。


「おい、テンマ。お前間違っても奴らの前で俺の名前呼んだりするなよ?面で隠しているとは言え、名前をだしたら意味がないからな」


 全国のかいという名前の小学生の中で、俺は一際優秀だからな。万が一にも特定される恐れがある。


「おーー!そっか!じゃあ作戦中に呼ぶ事があったらボスって呼ぶ事にするよ!!」


「あー、是非そうしてくれ」


 俺の言葉にハッとした表情をして、親指を立てるテンマ。この様子だと、本当に分かっていなかったっぽいな。


 本当に良かった。コイツをバカだと認識していて本当に良かった。


 ——ブゥーーーン!


 建物が立ち並ぶ区画を抜け、道の両脇が農地の区画に差し掛かろうとしたその時。政府の車が速度を上げ、タクシーとの距離を詰め始めた。


 どうやら、連中も俺と同じタイミングで事を起こすつもりらしい。


 ——ドサッ!!ブゥーーン!!


 しかし、殺人ピエロも負けじと速度を上げる。


 しかもタクシーの運転手だと思われる男を道に投げ出して、いつの間にか自分が運転席に移動している。このままでは逃げきれないと焦ったのだろう。


 すっとぼければまだ逃れるチャンスはあっただろうに。バカな奴だ。


 殺人ピエロの近くで控えているカラスがタクシーから離れていない事からして、恐らく投げ出された男に変身しているという訳でもないのだろう。成り代わりの心配は要らなそうだ。


 政府に加勢するなら今のタイミングがベストだろう。


「テンマ、俺を空中にぶっ飛ばせ」


「…!…なるほど!おっけーボス!!」


 視線と共に発せられた俺の言葉の意図を理解したのか、テンマは瞬時に掌に風を集め、それを進行方向の空へと向けて放つ。


「…ッ」


 そして、テンマの掌底によって出来た風の軌道に乗るようにして、俺は建物の屋上から思い切り踏み切る。


 宙に投げ出される身体。


 強烈な追い風と自分の超人的な身体能力から繰り出される脚力によって、今まで経験したことのない程の浮遊感を感じる。


 爽快だ。


 建物のある区画から一気に農地の区画へと移動している。やはり空を飛ぶと移動が速い。


 その証拠に視界を下に向ければ、現在進行形でレースバトルを繰り広げている車両二つを確認できる。


 距離は100メートルくらいか。ちょうどこの辺りからなら死角にもなって、両者から認識し辛いだろう。


「…よっ」


 最終確認を終えると、空中で体を捻り、先程入手したばかりの瓦礫の破片をタクシーのタイヤ目掛けて振りかぶる。


 ——ビューーーーーーン!


 風切り音と共に猛スピードで放たれる石片。


 タクシーもそれなりのスピードで移動しているが、抜群のコントロールとスピードのおかげか前輪のタイヤ目掛けて石片は意思を持っているかの如く進んでいく。


 ——プスッーーー


 狙い通り石片はタイヤを掠めた。

 タクシーは空気が抜けていくことによって徐々に減速していく。


「ここまでです殺人ピエロ。身柄を拘束します!」


 そして直ぐに距離を詰めていた政府の奴等がタクシーを取り囲む。


 俺は着地した畑に身を隠して、目を凝らし状況を観察する。


 車両から降りてきたのは4人。


 一人は先ほど声を発し、今現在殺人ピエロに向けて銃を構えている黒髪ショートカットの若い女。年齢は見た感じ20代半ばで、パンツスーツ姿をしていていかにもお役人といった感じの雰囲気。


 一人はガタイのしっかりした40代くらいの大男。髪は短く切り揃えられており、坊主のようなスポーツ刈りのような、とにかく漢という感じの男だ。きっと脳筋。


 一人は細身の20代後半か30代前半の男。手に何かボクサーの使うバンテージのような物を巻いており、目元には傷がある。


 最後の一人はテンマと同年代くらいの若い女。気の強そうな顔立ちで、巻いた黒髪に紫のインナーカラーを入れている。



「出てきなさい!」


 依然タクシーから出てこない殺人ピエロに対し、再度スーツ女が呼びかける。他の奴らは黙ってその様子を見守っている。


 この感じをみる限り、どうやらこの女がこのチームのリーダー的なポジションらしい。まぁ、スーツを着ていることからしてそんな感じはしてたが。


 俺が車をパンクさせた事にも気が付かれてはいないみたいだ。


「で、出ます!!!」


 銃を突きつけられて観念したのか、両手を上げて怯えたようにタクシーから降りる殺人ピエロ。


 その姿は俺がはじめにカフェで確認した頃と変わっていない。


 これがコイツの素の姿なのか、偽物なのかはまだ分からない。タクシーに乗っている間にスキルを解除し、マナの回復に努めていた可能性もある。


「お前が殺人ピエロか!!たくさんの人を殺しやがって許さんぞ!!」


「同感だ」


「ふーん、でも結構イケメンじゃない。まぁ、流石に人殺しはナシだけど」


 バンテージ男が熱血さを滲ませた感じで激昂し、それにもう1人のデカブツ男が頷く。紫女に至っては殺人ピエロの容姿を呑気に吟味している。


 大量殺人鬼を前にして見せるこの余裕…やはりスキル所持者か。


「皆さん!油断しないで下さい。相手はあの殺人ピエロです。どんな手札を持っているかはまだ分かりません」


「無論だ!!」


「うむ」


「はいはい」


 スーツ女の言葉で、各人それぞれに構えをとって殺人ピエロを見据える。


「…ック」


 堪らず殺人ピエロは後退るが、逃げ場が無いのが分かっているのか歯噛みをした。


 今、明確に出来た1対4の殺人ピエロ対政府の構図。


 頃合いだな。


 ——ガッシャーーーン!!


 突如、タイミングを見計らっていたかのようにタクシーの上に出現する1人の鬼の面をした変質者。


 強烈な登場をかました影響で、殺人ピエロを含めた全員がそちらに目を向ける。もちろん俺も。


 そして、その変質者は声高らかに口を開いた。


「はははっ!僕、参上!!」


 



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救世主(鬼)参⭐︎上⭐︎
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