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第4話 備え

 夏休み初日。

 起床と同時に今持っている情報を、ベッドに横になったまま軽く整理する。


 ・隕石は人が持ち運びができるサイズであり、生物ではなく物体であると推測される。

 ・少なくとも武装を必要とする危険物では無い。

 ・その物体は、人類に有益である可能性が高く、政府はそれを人知れず回収している。

 ・その物体は、厄介な力を保有していて政府にとっては都合が悪い。


 改めて自分で整理してみるとやっぱり…


「ファンタジーの匂いがプンプンなんだよなー」


 起床直後のせいか思考が緩くなっている可能性は否めないが、あながち間違っていない気がする。しかし、その考えを理性が否定し、無理やり思考を現実に修正しようとしているのが自覚できる。


 自分でも不思議な感覚だ。

 生まれてからほとんどの記憶を保有する俺が、初めて感じる感情。


 俺は恐怖している。

 未来に期待する事に。


 逆に言ってしまえば、今までがおかしいのだろう。だが、それも仕方がない。俺は諦めることに慣れてしまっていたのだ。


 同年齢の奴らと比べて、容姿も勉強も運動も劣っていることなどこれまで一つもなかった。バカにする事はあっても、バカにされたことは一度もない。


 この年代の奴らが何に恐怖するのか、少なくとも俺には分からない。


 幽霊?

 あいにく霊感もなければ信じたことも見たこともない。


 ガキ大将?

 俺の前で威張れるほど優秀な奴など、幽霊同様見たことない。


 両親?

 親バカだから怒られたことはないし、元々両親の頭はだいぶ緩い。それに、親バカでなくたって俺のどこを怒るんだ?たとえ意地悪しようが証拠は残さない。


 これまでは向かう所敵なしだった。

 しかし、今は違う。未来に期待し裏切られる事に心底恐怖している。


 人智を超えた何かだと思っていた隕石騒動は、実は単なる俺の勘違いで、勝手に盛り上がっていただけだった。なんて未来が来るのが心底こわい。


「ご飯よ〜〜」


 考えに一区切りついた所で、タイミングよく下の階から母親のおっとりした口調で声がかかる。朝食ができたのだろう。


「ま、今は心配するだけ無駄だな」


 裏を返せば恐怖を感じるということは、それだけ期待しているということだ。そして、それはつまり、誰よりも現実的な俺がファンタジーを加味する程の段階にまできてるということだ。


 なら、無駄なことは考えなくていい。俺は最後まで自分を信じて最善を尽くすだけだ。




——今日から夜は天体観測するから出かける


 朝食の席で俺は両親。

 父の月下元つきしたはじめと母の月下愛つきしたあいに突然そう宣言した。


「おー、天体観測かー!!いいな、父さんも一緒に行こうかな!」


「ダメよ、あなた!夏休みはお客さんが増えるもの。天体観測に行ったら朝起きれなくなっちゃうわ!!」


「あー、そうか。仕込みの数を増やさなきゃだもんな。残念だ」


 ノリノリな父を諌める母。


 普通、小学4年生が夜に外出すると言ったら、他にもとやかく言うことがありそうな気がするがこの2人は何も言ってこない。


 これは2人が俺を愛していないのではなく、ただ単に頭が緩いだけだ。むしろ、他の家と比較すると親バカと言っても良いくらい俺を溺愛している。


 この2人は俺が年齢の割にしっかりしていることを知っている。心配が要らないと分かっているからこういう反応になっているのだろう。


 流石に、「謎の隕石をゲットしに行くんだ」と言ったら心配されていたと思う。いや、もしかしたら逆に小学生っぽくて何も言われないかもしれないな。


「にしても、急だなー。夏休みはまだ始まったばかりなんだから、もっとゆっくりしても良いんじゃないか?」


「早めに自由研究終わらせたくて」


「なるほどな、自由研究か!快は偉いな、初日から宿題をやるなんて!!父さんは夏休みの最後まで終わらないタイプだったぞ!」


 わっははと豪快に笑う父をよそに、俺は咄嗟に出た自由研究という口実は実にうまいなと自分に感心していた。


 これなら何日かかっても変じゃないし、合間に適当に星のスケッチでもすればめんどくさい宿題も消えて一石二鳥だ。


「快ちゃん、夕飯はどうするの??」


「んー、夕方には家を出たいんだよね」


「そうなのね、ならお弁当にして持っていく?夜に外で食べるのも気持ちいいと思うわよ!」


「じゃあ、そうしようかな。ありがと」


 母の提案に素直にお礼を言う。


 至れり尽くせりだな。


「おー!やっぱり俺も快と行きてーなー!お弁当持って天体観測なんて絶対楽しいじゃん!」


「あなた、ダメよ!急にお店を休んだら常連さんが困っちゃうわ!」


「………だな」


 息子より小学生らしい反応をする父に苦笑するが、落ち込みようが半端なくて見てられない。母なんて背中を摩って慰めてる始末だ。


「別に期間が決まってる訳じゃないし、定休日の前日に皆で行く日を作れば良いよ。俺は何回行ったって困る訳ではないしね」


 まぁ、好きにやらせてもらってるんだ。これくらいの提案はいいだろう。


「快…お前やっぱり天才だな!はははっ、そうしよう!そうしよう!俺が作ったスペシャルなパンも持っていこう!母さんもいいよな?」


「うふふ、そうね!楽しそうだもの!私もお弁当頑張るわ!」


 よし、一件落着。

 これで何の心配もなく隕石の事に集中できる。


 そして…


 ——山に来た

 自宅から自転車で1時間程かかる山。

 もっと近場にも天体観測できそうな山はあるが、敢えてここに来た。


 理由は2つ。

 1つは、標高が高い割に険しくなく登り降りが簡単。これは、意外と重要なことだ。いくら早く発見できたとしても、落下地点に速やかに移動できなければ意味がない。でなければ、俺が政府の奴等を騙した時の再現になってしまう。

 2つ目は、住宅街や繁華街などがなく、周囲に人が密集していない。これは、情報を整理している時に気付いたのだが、ニュースになった3件の記事はどれも死傷者が出ていなかった。俺がSNSで集めた情報でも、目撃情報はあっても、被害にあった類の投稿は見当たらなかった。これは、情報が隠蔽されている可能性も捨て切れないが、個人的には単に被害が出ていないという可能性の方が高いと思っている。これだけ完璧に隠蔽出来るなら、隕石の方を隠蔽するだろう。人なんて今この瞬間にもいくらでも死んでいるんだ、それなら優先度は断然そっちの方が上だ。


 以上2点の理由から俺はここを選んだ。

 しかし、ぶっちゃけこの付近に隕石が落下してくれる可能性は低い。それも、限りなくゼロに近い。


 でも、俺は何故か自分でも不思議な程に前向きだった。これはある種、開き直ってしまっているからだろう。


 所詮、運だ。

 手に入れる奴はいい加減に生きていても手に入れるし、手に入れられない奴はどんなに準備していてもその手から零れ落ちていく。


 俺が認知できていないところで、異世界に招待される奴もいれば、俺みたいにどんなに希っても招待されないやつもいる。所詮、そんなもんだ。


 しかし、今回は偶然が偶然を呼び、ファンタジーの匂いがする何かが俺の目に止まってくれた。


 日課のニュース閲覧をしていたら偶然興味を引く記事が目に留まり、偶然違和感に気付いた。偶然が2回も続いてくれたんだ、いつ3回目が来たって可笑しくない。


 俺がやっているのは、ただその偶然に遭遇する確率を少しでも引き上げようとしている必要最低限の作業に過ぎない。


 ただ、まぁこの隕石騒動が偶然か超常の存在が引き起こしている現象か分からないがこれだけは言っておこう。


「こちらは準備万端だ。幾らでも待ってやるからいつでも落ちてこい」










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