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第116話 認知(1)スキル


 銀次が念願のスキルの獲得を果たして数日。


 俺は、未だ世間の熱りが冷めやらぬ中、能管からスキルオーブと共に奪取してきたUSBから得た情報を共有しようと拠点へと足を運んでいた。


 予め招集を掛けていた影響か、はたまた普段から入り浸っている影響か、俺が到着した時には既にテンマを始めとしたいつもの面々は揃っていた。


 先の作戦にも参加したカラーズもといイエローにも招集を掛けるべきかは迷ったが、そこは非戦闘員という事もあり、あまり深く知り過ぎるのも如何なものかと今回は色々と考慮した結果呼んでいない。


 ここまで巻き込んでおいて今更と思わなくもないが、まぁ、アイツの場合は例え知るか否かを選択させたとしても、まず間違いなく知りたくないと首を振るだろうからどちらにしろ同じだろう。


 中途半端な知識は時に無知よりも事態を悪化させる。それなら、知らなくても問題のない情報は、仲間といえど極力知らせないままで居た方が無難だ。ましてや、窮地で適切に働く自衛手段や判断能力が備わっていないのなら尚更。


 まぁ、その判断能力が銀次はともかくテンマに備わっているか…と、問われればそれは甚だ疑問なのだが、そこは今回は一先ず無視してでも2人には共有しておいた方が良い情報だろう。


 今回、獲得した情報はそれだけテンマと銀次ひいては能力者に関連する重要事項だ。


「…まぁ、いいか」 


 情報が情報なだけに、一瞬、共有後の影響を考え、どう伝えるべきかと逡巡するが、バカを相手に悩むのも馬鹿らしいと即座に要点を掻い摘んだ情報の説明へと移行する。


 バカはバカ故に制御が効かない。なら、どう伝えようと結果は変わらないし、考えるだけ無駄というものだろう。きっと、騒ぐ時はこちらがどれだけ抑えようとしても騒ぐ。


 そうして、ものの数分で情報の共有を終えると…


「えぇぇーーーーーーーーー!!!!!」


 期待通りというか、予想通りというか…テンマは驚愕のあまり拠点中を震わせる程の大きな叫び声を上げた。


 そして、叫び声を上げたのも束の間に、話を聞いて尚信じられないのか、その真偽を確かめるように俺へと物凄い勢いで詰め寄る。


「じゃあ、快ちゃんはもうこれ以上スキルを獲得出来ないってこと?!今後、一生治癒オンリーってこと?!」


「ま、そういうことになるな」


「ま、そういうことになるな…じゃないよ!!軽く言ってるけど一大事でしょっ!」


 余程、公開された情報を信じたくないのか、何故だか当事者である俺以上に興奮して見せるテンマ。銀次も銀次で驚いてはいるようだが、完全にテンマの過剰反応によって上塗りされている。


 そして、テンマは現実逃避でもするように更に勢いを増して否定の言葉を重ねていく。


「その情報が間違ってるって可能性は?!僕らを騙す為のフェイクって可能性もあるんじゃない?!ほら、能管にも優秀な人間いるって話だったし!!うんうん、あり得ない話じゃないよ!!」


「俺がそんなのに騙されると思うか?」


「…」


「一応、言っておくが、俺もその辺の精査は散々したぞ。その上で虚偽の可能性は無いと断定できる。そもそも、スキルの複数取得が可能か否か…なんて手元にスキルオーブがあれば直ぐにでも試せる事にそこまでの手間暇を掛けるメリットは殆ど無い。ミスリードを誘うとしてももっと別の手段を選択した方がずっと楽だし有効だ」


「…」


 俺からの否定しようのない説得力のある言葉に、テンマは碌な反論も出来ずに堪らず黙る。


 俺が、公開した情報はこれまで不明だったスキルの仕様に関すること。スキルの複数取得についてだ。


 スキルの複数所持。


 これは能力者であれば、いやスキルという存在を認知した者であれば、誰しも一度は必ず考えることでは無いだろうか。


 例に漏れず、俺自身も治癒のスキルを獲得した当初から一つの可能性としてずっと考えていた。


 しかし、それは儚くも今後も実現不可能であるという事が今回明らかとなった。


 ただ一方で、それは何もスキルの複数取得自体が不可能という意味では無い。これはあくまで俺のみに限った話。いや、特級の能力者に限った話だ。


 このことからも分かるようにスキルの複数取得自体は可能だ。ただ、そこには決して無視できない明確な条件がある。


 まぁ、それがテンマとしては納得し難い部分なのかもしれないが。


 そして、テンマはそんな俺の考えをまんま形にしたような不服そうな顔をして再度口を開く。


「…分かったよ。その情報の真偽に関してはもう認めるよ。快ちゃんがそこまで断言するならきっと間違いないからね。でも、納得はしない!なんで僕や銀ちゃんは追加でスキルを獲得出来るのに、快ちゃんだけ出来ないの!そんなの不公平だよ!可哀想だよ!」


「納得しなくて結構。同情も結構。これはお前がどれだけ騒ごうが覆せない事実だ」


 スキルには等級の差に応じて出力制限があるように仕様とされる絶対に覆せないものがある。この複数取得についてもその原理は同じだろう。


 言うなれば、パワーバランスの調整。


 スキルに等級があるのはおかしくない。ただ、そこに何の救済策も設けられていないのは、仕様として些か不自然に感じる部分があるのも確かだ。


 際限なくスキルを獲得できた場合、それは単にスキルオーブを如何に早く発見できるかという早い者勝ちの勝負となってしまう。そして、そうなれば必然的に強いスキルを獲得した人間の一強となってしまう。


 これでは公平性も何もない。


 スキルオーブという存在は未だ神秘に溢れている。誰の手によるものなのかも、そもそも意図されて飛来しているものなのかも、その真理に触れる何もかもが不明なままだ。


 だが、俺がこれまでに感じた印象で言うならそれはどこまでも公平だった。


 能力の応用性といい、スキルオーブがランダムな場所に飛来している事といい、そこには偶然にしろ、作為的にしろ、一貫しているものがある。


 故に、以前からスキルの複数取得についてもゲームバランスを崩さないような何かしらの制限があると考えていた。


 そして、その考えは正しかった。


 それが、今回証明された。


 スキルの複数取得には等級制限がある。その為、スキルを複数取得する場合には、その時点で全4段階ある等級の合計等級が特級以下であるという条件を満たさなければならない。


 取得上限である特級を4として、下級を1とした時の合計値。


 つまり…


 銀次であれば、上級(3)スキルを既に獲得している為、残すは下級(1)を1つ。


 テンマであれば、中級(2)スキルを既に獲得している為、残すは下級(1)を2つか、中級(2)を1つ。


 ユンであれば、下級(1)スキルを既に獲得している為、残すは上級(3)を1つか、中級(2)下級(1)を1つづつか、下級(1)を3つ。


 同系統の能力を獲得した場合は、どういった反応を見せるのかはまだ不明だが、現時点でも十分な可能性が残されているのが、このことからも十分に伺えるだろう。


 まぁ、その一方で、既に特級4のスキルを獲得している俺は今後も他の能力を獲得することは許されず、この治癒という戦闘能力とは程遠いスキルひとつで、時間経過と共により激化していくであろう他の能力者ひいては政府共と渡り合わなければならない事が確定した訳だが…。


 俺は、不思議と自分でも驚くほど落胆していなかった。


 スキルの複数取得。


 そこに夢があるのは間違いない。この事実が明らかとなった時に落胆がゼロだったかと言われれば、それも否と答えざるを得ない。


 しかし、その時…俺はその落胆以上に遥かに大きな喜びを感じていたのだ。


 俺には及ばないまでも、中級という決して高いとは言えない等級でありながら、現時点でも恐ろしく高い戦闘力を誇るテンマと、未だスキルを獲得したばかりと言えど、既にその才能の片鱗を見せつつある銀次。


 そこに更なる成長の余地がある。


 強い遊び相手を求める俺にとって、これ程喜ばしいことはない。


 銀次に関しては、今のスキルが極まるだけでも確実にテンマと並ぶ程の実力が備わる。


【スキル:錬成(上)】

 基本能力は、マナを対価にした物質の生成と干渉。その汎用性は恐ろしく高いが、自然の摂理に反した変化は起こせず、生成や干渉の対象は無機物に限られる。


 惜しむらくは、生物への直接的な干渉が出来ないという点だが、それも能力の汎用性の高さを考えれば、望み過ぎというものだろう。


 というか、そもそもマナによって質量保存の法則を無視できる時点で色々とぶっ飛んでいる。


 そして、何よりこのスキルを凶悪たらしめているのがその使い手である銀次だ。


 その証拠に、今現在、俺の目の前に広がる光景は以前の拠点とは似ても似つかない程の変化を遂げている。


 廃材や汚れひとつないシンプルを極めた広大な空間とそれを構成する見慣れない材質に変化した内装。その無機質さはまるで能管の訓練室を彷彿とさせる。


 銀次からスキルの練度向上を兼ねて、拠点の改築を行いたいと言われ、それを面白そうだからと二つ返事で承諾した結果がこれだ。


 たった数日。たった数日で本来であれば大規模な工事を必要とするであろう拠点の改築を終えてしまった。


 本人曰く、まだまだ地下に新しい空間を作ったりと完成には程遠いとの事だったが、ここまでの変化だけでも相当なマナと練度が必要だったことは容易に想像出来る。


 好きこそ物の上手なれ。


 どうやら、俺の予想以上に銀次とこの錬成のスキルは相性が良かったらしい。出遅れた手前、多少の焦りもあるのだろうが、それでも成長スピードが並じゃない。


「ふっ…ははは」


 先を思うと自然と笑いが込み上げる。


 俺の未来は希望に満ち溢れている。


 ひとつの可能性が閉ざされたからと言って悲観する必要はない。ましてや絶望なんかするはずも無い。スキルの種類なんてどうでも良い。複数所持なんてどうでも良い。まだ見ぬ強者が居る。ただ、それだけで俺は笑って生きられる。


 ゲームも人生も難易度は高ければ高い程面白い。なら、この状況も楽しむ他ない。


 治癒スキルでは不利?


 上等だ。


 そんなのは今に始まった事ではない。多少の理不尽くらい創意工夫で何とでもしてやる。


「快ちゃん…大丈夫?」


 ショックで俺がおかしくなったと思ったのか、テンマは心配そうな表情をして俺を見る。


「あぁ、別に問題ない。少し考え事をしていただけだ」


「そう?…なら良いけど。でも無理してるなら言ってね。快ちゃんも気丈に振る舞っているけど、やっぱりそれなりにショックだっただろうし、言ってくれれば相談には乗るから。ほら…これでも、僕一応年上だしさ」


「いや、結構。別に微塵も無理とかしてないし、もし仮に悩んでいたとしてもお前に相談するくらいなら鈴に相談した方がマシだ」


「ねぇ、鈴ちゃんまだ殆ど話せなかったよね。僕って殆ど話せない乳児以下なの?」


「以下じゃない未満だ」


「もーーー!!!せっかく僕が心配してあげたのに!!!何なのその態度は!!!」


「願ってもない心配は余計なお世話って言うんだ。よく覚えておけよ、乳児未満」


「カッチーーンッ!もうあったまきた!」


 売り言葉に買い言葉で面白いほど顔を赤くして騒ぎ出すテンマ。遂には、スキルまで発動させようとするがそれを銀次が寸前で抑える。


「まぁまぁ、快の言い方も悪かったがお前も少し落ち着け。口喧嘩にスキルを使うの流石にやり過ぎだ」


「わ、分かったよ。でも、僕本当に心配してたんだよ!それを快ちゃんが…」


 心配ね。


 俺はテンマのその言葉に僅かだが違和感を覚える。


 コイツの反応も今になって考えてみると色々とおかしい。


 俺だけ追加のスキルを獲得出来なくて可哀想?自分達だけがスキルを追加で獲得出来るのが不公平?その挙げ句言うに事欠いて心配?


 中々に認め難い事実だが、俺とテンマの根本的な考え方は酷似している。同類と言っても良いだろう。


 だから分かる。


 普段のコイツはそんな事を気にするような奴じゃない。


「建前はその辺にしとけよ、テンマ。いい加減本音を言ったらどうだ」


「…建前だと?」


 銀次は俺の言葉に訳がわからないと首を傾げる。


 しかし、俺はそれに構わず未だ不服そうにしているテンマへと言葉を続ける。


「お前の言う心配ってのは本当に俺の精神状態についてなのか?いや、違うだろ。そうじゃないだろ」


「!」


 俺の言葉にテンマがピクリと肩を震わせる。


 どうやら図星みたいだな。そうとなれば、俺がここでどういった対応をするべきなのかも自ずと決まってくる。


 そしてその瞬間、俺は膨大なマナを周囲に威圧するように放出し、強制的にテンマの視線をこちらへと向けさせる。


「自惚れるなよ、テンマ。今後、お前がどんな能力を新しく獲得しようと、どれだけ強くなろうと、俺がお前に負けることは絶対にない」


 俺には勝ちたいけど、負けて欲しくもない。


 きっと、テンマの本音としてはこんな所だろう。そして、心配の真の正体でもある。


 もしかしたら、新しくスキルを獲得したら俺に勝ってしまうんじゃないか。


 テンマがスキルを獲得した当初を思い返せば、そういった思考になるのも頷ける。


 張り合う相手がいない…というのは、俺やテンマのような人種にとっては辛いものがある。


 テンマが俺に求めるのは絶対的な強さ。それは、今も昔も変わらない。事実、俺が実力でテンマを圧倒しているからこそ、今の関係は構築されたと言っても過言ではない。


 しかし、そのパワーバランスが唐突に覆ってしまう可能性が出てきたのなら、不安にも思うだろう。ましてや、俺にはない明確な成長の余地が自分に残されているとなれば尚更。


 だが、俺から言わせればそんなのは杞憂も杞憂。一考する価値もない妄想と変わらない。


「本当?本当に快ちゃんは僕に負けないの?」


 テンマは俺の言葉の信憑性を確かめるように真剣な面持ちで俺を見る。その目が何処か期待を孕んでいるように見えるのは、きっと俺の気のせいではないのだろう。


 それに、俺は一切の躊躇なく頷いて見せる。


「本当も本当。俺としては、スキルをひとつ追加で獲得したくらいで、今まで一度も勝てていない相手に勝てると思っているお前の頭の方が心配なくらいだ。大丈夫か?大分複雑に壊れてるみたいだから完治するかは分からないが、一応治癒掛けてやろうか?」


「…カッチーーーンッ!!こっちが下手に出てれば調子に乗って!!もうあったまきた!!!覚えてろよ、快ちゃん!!僕が追加で新スキルを獲得した日には、調子に乗ってごめんなさいって土下座させてやるんだからね!!」


「ほー、それは楽しみだな。是非、そうなる事を期待してるよ……それで、頭の方の治癒は良いのか?」


「まだ言うかぁぁー!!!!」


 俺の煽りに再び怒声を上げるテンマ。


 しかし、その声とは裏腹に表情はいつにも増して明るいものだった。




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― 新着の感想 ―
鬼灯の仲が良くてほっこりします笑    文章中にも似たようなこと書いていたけどマナ使っている時点で自然の摂理から外れているのでは?
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