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エイミー

題名を変更しました。

レベッカ → エイミー へと変更です。

レベッカの名前を出しすぎたため勘違いしてしまいました。

 双子の妹レベッカとそっくりだと言われると腹立たしくて気分が悪くなる。

 二人並んで鏡の前に立つと皆が言うようにレベッカと私が似ているとは思えない。

 鏡に映るレベッカの顔はゆがんでんでいて、とても卑屈(ひくつ)な顔をしているように私には見える。その顔はとても美しいと思えない。


 レベッカはいつも私の顔色を窺っているような子で、オドオドとしていた。

 私に対しての態度がそうなのだから誰にでもそうなのかと思っていた。

 だから愚かな妹のことを馬鹿にしていたし、(うと)ましいとも思っていた。


 それが学園に行く少し前に家庭教師がつくと私とレベッカの差は歴然としていった。

 同じ場所で同じ教師、同じ内容で授業を受けているのに、レベッカは授業の間ずっと大人しく座っていられたし、授業の内容も理解しているかのようだった。


 全く同じ内容にも関わらず私は授業の間、ただ座っていることすら耐えられなかった。

 授業の内容より子供部屋にあるおもちゃの方に気を取られたし、窓の外が気になって仕方なかった。

 このとき、つまらない授業を真面目に聞いて質問をするレベッカを馬鹿にしていた。

 心からレベッカのことを馬鹿にしていた。


 なのに授業の後にお母様に呼び出されて叱られるのはいつも私で、不満を心のうちに抱え込むようになっていった。


 その不満はレベッカを見下したりちょっとした意地悪をして気を晴らしていた。

 レベッカが泣きそうになったり、唇を噛みしめているのを見ていると晴れ晴れとした気分になれるので、レベッカに嫌がらせすることは私には必要なことになった。



 週末になると家庭教師が一週間の勉強の出来具合を私達の前で母に報告するのが嫌でならなかった。

 教師たちはどんくさいレベッカを褒めそやして、私のことは「せめて授業の間、座っていられるようになることが大事だとおもいます」と(はん)で押したように言うのだ。


 教師が帰っていった後はレベッカが褒められその後はレベッカは部屋から出される。

 レベッカがいなくなると母は私を長い長い時間かけて叱るのだ。

「どうしてレベッカのように授業の間座っていられないの?」

 毎回同じ言葉から始まって、私に教科書を読ませるのだ。


 それが嫌で嫌で仕方なかったけれど母と私の一対一では逃げようもなく、遊びの時間を削られて私は拷問(ただの勉強)の時間を過ごさなければならなかった。

 つっかえつっかえ読む教科書の内容など頭に入ることはなく、ただただ早く時間がすぎればいいのにとしか考えていなかった。


 

 レベッカは馬鹿なのか、授業以外でも図書室へ行って本を読んでいることが多かった。

 私と一緒に遊ぶことは好まないのか「遊んであげるわよ」と私がレベッカに言っても「いま本を読んでいるから」と断ってくる。

 本当にレベッカは馬鹿だと思う。勉強以外で本を読むなんて。




 学園に入学する年になると両親のレベッカと私の扱いが変わってきたように感じた。

 今まで母は私に勉強やマナーを必死で教えようとしていたけれど、それらをしなくなった。

 その代わり、私には家庭教師をつけたままだった。

 私が教わっている間もレベッカは来ることがなくて、レベッカは母から見限られたのだと思った。


 やっぱり私は両親から大事にされているのだと感じた。

 優越感に浸れていたのはほんの二〜三日だけだった。


 授業が面倒で仕方ないのだ。

 今まではレベッカにしか注意されることがなかったのに、家庭教師と私の二人だけになると息をするのにまで私に文句を言うのだ。


 30分も付き合えばもう十分だろうと思ってしまう。

 私のために特別なカリキュラムが組まれて理解するまで同じことを何度も何度も繰り返されるのことに辟易(へきえき)としてしまっていた。


 ある日、私が家庭教師と特別授業をしている間、レベッカはレベッカの友人たちと遊んでいると知った。

 母に抗議をすると「レベッカが出来ることをエイミーも出来るようになればいつでも遊びに行けるのよ。エイミーがレベッカと同等のことが出来ないから、幼少期のための家庭教師に未だに来ていただいているのよ」


 私は愕然とした。


 レベッカの出来が良いから家庭教師が必要ないなんて考えもしなかった。

「お母様は私の出来が悪いから家庭教師をつけているの?」

「それ以外に何があるというの? いま来ていただいている家庭教師の先生は五〜十歳を教えるための先生たちなのよ。十三歳にもなるというのに未だに食事のマナーすら出来ないなんて恥ずかしいと思いなさい」


「レベッカはちゃんと出来ているというの?」

「食事の時に見ていて解らないの? レベッカは大人に交ざっても恥ずかしくないだけのマナーは既にできていますよ」

「嘘よ!! レベッカが? 信じられない!!」


 その日レベッカ、兄、両親の食事の仕方を見た。

 四人共同じような食べ方でお皿の中も綺麗だった。

 なのに私のお皿の中はぐちゃぐちゃで、テーブルクロスの上まで汚れていた。


 レベッカより私のほうが(おと)っていたというの?

 そういえばレベッカのクラスはAクラスで私はEクラス……。

 

 一学期末のテストが発表されて、一番最後尾に私の名前があって、レベッカの名前は七番目に名前があった。


「レベッカ様は女子の中で一番の成績なのにその双子の姉のエイミー様は最下位の成績だなんて恥ずかしくないのかしら?」

「エイミー様は常識も身につけていらっしゃらないわよ」

「顔はそっくりなのにね〜」


「あら、確かに似ていらっしゃるけれど、レベッカ様はどこも(ゆが)んだところがないけれど、エイミー様はどこか歪んだ印象を受けますわ」

「それは私もそう思いますね。よく似た双子なのに、お二人を見間違うことはありませんもの」


 そんな人の話が耳に入った。

 人の評価も私のほうが低いのだと初めて知ってしまった。

 クラスの中で誰もが私を持ち上げ、私のいうことを聞いていたのは平民や男爵といった身分の低い中に伯爵家の娘だから、私を敬っていただけだということも知ってしまった。


 そのことで悔しい思いをしている頃、男の子たちに声を掛けられることが増え始めた。

「遊びに行こう」と誘われたり「どこかで二人っきりにならないか?」と声を掛けられるようになった。


 やっぱりレベッカより私のほうが可愛いから声が掛かるのだと自身を取り戻すことが出来た。

 少し卑屈になりかけていた私の自信を取り戻すことが出来るようにしてくれた男の子たちには感謝の気持を込めてキスという名のご褒美をあげると、私の周りにはいつも男の子たちがいるようになった。


 キスの合間に時折胸に触れてくる子がいた。

 胸を口に含まれるとそれが気持ちいいと教えてくれたのは確か準男爵の誰だったか?

 気持ちいいことは大好きだったので男の子たちが望むとスカートの中を見せることまでは躊躇(ちゅうちょ)することはなかった。


 時折スカートの中も触れられることもあって、身体が燃えるように熱くなるのが好きで「もっとして」と私からお願いすることが増えた。

 体の奥がウズウズしてそこではない場所に触れてほしいと思うことが多かった。

 それがなにかわからないまま欲求不満になってしまった。


 


 ある日のこと。レベッカに婚約の申し込みがあったと使用人の噂話で知った。

 その話を聞いて私はとにかく腹がたった。

 婚約の申込みがレベッカよりも美しい私ではない理由が知りたくて父に詰め寄った。


「レベッカが婚約の申し込まれたのは学業の成績がいいからだ」

「ぇっ……?」

「もちろん見た目も重要だろうが、公爵家となると見た目以外も重要視される」

「私では公爵家の妻にはなれないと言うの?!」


「ああ。エイミーでは無理だ。エイミーの成績ではよくて……、男爵……でも無理かもしれん。……エイミー。言いにくいことだが、正妻は諦めたほうがいいと思う。お前に幸せになってほしいと思うが、その覚悟は今からしておいたほうがいいだろう」


「そんなの嫌よ!!」

「なら学業を頑張ってせめてCクラスに入りなさい」

「それは……私も公爵家がいいわ!!」

「……だから無理だと言っている」


「お父様は私のことなんかどうでもいいのね?!」

「だから、どうにもならないこともあるんだ……」

 父が大きなため息をついて執務室から私を追い出した。



 その後すぐオルツナー公爵がレベッカとの婚約の話をするためにやってきた。

 父がオルツナー公爵にレベッカとの婚約を断っているのを聞いてやっぱり父は私のほうが可愛いと思っているのだととても満足した。


 レベッカは困ったような顔をして父とオルツナー公爵の話を聞いている。

 オルツナー公爵は強引でいつの間にか私とレベッカが公爵家へ花嫁修業をしに行くことになっていた。

 父の手腕に満足したのも数秒、花嫁修業って授業を受けなければならないことだと聞いて私は不満でいっぱいになってしまった。




 公爵家は大きくて豪華で私が暮らすのにぴったりだと思った。

 伯爵家が小さいと思ったことはなかったけれど、公爵家を知ってしまうと伯爵家がとても小さなことに気付かされた。


 初めて会った日にオルツナー公爵には嫌われていると思ったけれど、夫となるエイベット様に気に入られれば妻にしてもらえるのだと気がついた。

 それは考えれば考えるほどとても良い案だと思った。


 授業は伯爵家で習っていたものよりも厳しくて、私はすぐに嫌になった。

 だって椅子に座るだけで背筋がどうとか、頭がぐらついているだとか文句を言うばかりで、ソファーに座ることも出来ない。


 すぐに授業には出ずエイベット様の部屋はどこかと屋敷の中を探し回った。

 エイベット様は私のことをとても気に入ってくれて、レベッカが授業を受けているときは私の相手をしてくれるようになり、すぐに友達も紹介してくれるようになった。


 やっぱりエイベット様もレベッカの相手なんかしたくないんだと確認できた。

 やっぱりね。そうだと思っていたわ。



 エイベット様のお友達も公爵家や侯爵家の人たちで私をとても可愛がってくれた。

 レベッカに対する態度と私に対する態度ではぜんぜん違う。

 私には気さくに話し掛けてくれて、私が理解できないようなことは話したりしない。

 けれどレベッカにはきっと意地悪なんだと思う。しょっちゅうレベッカは「それは知りませんでした」とか「教えてくださりありがとうございます」などと言わせてばかりだ。


 レベッカがいない時は私には美味しいお菓子とお茶を振る舞ってくれて、時折いたずらで背や腰に触れてくる。

 キスをしたり素肌に触れてきたりはしないので、公爵や侯爵の男の子となると学園で遊んでいる男の子たちとは違うんだなと少し不満に思いながら、されるがままに任せていた。




 もっとちゃんと触れてほしくてエイベット様に「キスして」と言ったのは私からだった。

 それでもキスしてくれなくてエイベット様の手を私の胸に誘導したのに拒絶された。


「エイミー嬢。私は君の妹に婚約を申し込んでいるんだよ」

「でも、つまらないレベッカより可愛い私に触れたいでしょう?」

「レベッカ嬢は可愛らしくて頭もいいし妻にしたいと思える女性だよ?」

「私の前でレベッカを褒めるなんて!! 酷いわ! 気分が悪くなってしまったわ。私は帰るわ!!」


 エイベット様は私を引き止めることもなく笑って私に手を振っていた。

 悔しくて悔しくて、腹がったって腹が立って仕方なかったのに、レベッカの授業が終わっていないからとレベッカの授業が終わるまで公爵家の玄関ホールで一人ぽつんと立っているしかなかった。


 オルツナー公爵家の使用人たちはレベッカには(うやうや)しく振る舞うのに、私には見向きもしない。それがまた腹立たしくてその日はレベッカにキツく当たり散らしたのは言うまでもなかった。


 翌日もオルツナー公爵家へ行かなければならなくて「今日は休む」と言うと「なら二度と行ってはなりません」と母に言われてしまった。

 仕方なく馬車に乗り込んでオルツナー公爵家に行くと、初めてエイベット様が出迎えてくれた。


 喜んだのもつかの間。エイベット様はレベッカをエスコートして授業が行われる部屋へと行ってしまった。

 玄関ホールで立ち尽くしているのは嫌だったので仕方なくその後ろをついて歩いた。

 レベッカが教師と挨拶しているのを横目に見ていると、エイベット様は私に手を差し出してきた。


 ふんっ! とそっぽっを向いて手を差し出すとエイベット様はくすくす笑って初めてエイベット様の部屋に招いてくれた。

 

 やはりキスはしてくれなかったけれど私の体を見て「綺麗だね」と言ってくれた。

 その日の帰りの馬車でレベッカにエイベット様とキスしたとか、胸を揉まれたとか、スカートの中に手を入れられたとか、嘘と本当を織り交ぜて話した。




 うふふっ……。エイベット様はもう私のものだわ。

 その翌日からはエイベット様の部屋に招かれ、お茶を飲む暇もなく私の体に触れた。

 そしてレベッカにエイベット様がいかに私に優しいか話して聞かせた。

 始めはしてくれなかったキスも、今ではもうしてくれる。


 どうしてキスをしてくれなかったのか触れ合った後に聞くと「キス位はレベッカ嬢としようと思っていた」と答えてくれたので、それを聞いた私はものすごく満足した。




 その日は公爵家でレベッカの授業がない日だった。

 エイベット様に「屋敷に来ないか?」と誘われて私は喜んでついて行った。


 なんだかいつもより屋敷は静かで「誰にも見られないようにね」とエイベット様に言われて、なんだか子供の頃のかくれんぼを思い出して楽しい気持ちでエイベット様の部屋にいそいそと入った。



 息をつく日まもなくベッドに上半身を倒されて、お尻を突き出すような格好でスカートがたくし上げられた。

 下着を剥ぎ取られて何かぬるりとしたものを塗りつけられ「なに?」と聞くと、とてつもない圧迫感を感じた。


 悲鳴に近い声が漏れそうになるとエイベット様に口を塞がれた。

「静かにしてね」


 なぜかなにかの布で目隠しをされ、衣服を脱がされた。

 その時、エイベット様以外の誰かの手を感じた気がしたけれど、男の子たちと遊んでいるときに他の誰かの手を感じることはよくあったので、すぐに忘れてしまった。


 体の中が空洞になって、また満たされ、また空洞になって満たされた。

 それが何度か続いてから目隠しが外された。


「今日のことは秘密だよ。誰にも言っちゃ駄目だよ。誰かに話してしまうともう遊べなくなってしまうからね」

 私はコクコクと頷いた。


 強く噛まれた乳首が疼いて体の奥に何かが挟まったままのような気がした。

 指一本ですら動かすのが嫌なほど体力は削られていたけれど、事が終わると早々にドレスを着せられて屋敷から追い出された。


 帰りの馬車は紋章もなく乗り心地の悪い馬車だった。


 それでもあんなに激しく何度も求められ、エイベット様と一つになった充足感を感じていた。



 屋敷に帰るとすぐに夕食の時間で、お風呂に入りたかったけれど我慢して食堂へ行くと母に執務室へと連れて行かれて、今まで何をしていたのか聞かれた。

「エイベット様に愛されてしました」

 そう答えると母の顔は見たこともないような怒りの表情をしていて、何をそんなに怒っているのか私には解らなかった。


「レベッカより私が選ばれたのよ? お母様は嬉しくないの?」

「貴方はなんて愚かなんでしょう……」

 母は泣き出し、レイに父を呼んでくるようにと母が伝え、母から話を聞いた父はその場に座り込んでしまった。

 

 長い時間母は泣き、父は無言で頭を抱えていた。

 遅い時間になって「避妊はしたのか?」と父に聞かれたが避妊がなにか解らなくて首を傾げた。

 父はため息を吐き、母は「なんて馬鹿な子なんでしょう」と泣き、部屋での謹慎を言い渡されて部屋に戻ることを許された。


 お風呂に入ってさっぱりしてその日はエイベット様に愛されたことを思い出しながら眠りについた。




 それからはどう言えばいいのだろう?

 幸せを掴んだと思っていたのに、私の掴んだものは幸せでも公爵家の妻の座でもなかった。

 学園を卒業したらエイベット様と結婚するんだと思っていたのに、あの日エイベット様の三人のお友達も私の空洞を埋めていたということを聞かされた。


 一番最初はエイベット様だったけれどその後は三人のお友達が入れ代わり立ち代わりしていたのだと。

「私は最初に一度だけだよ。他の誰かを受け入れた(きたな)い体に触れようと私は思わないからね。(よご)れた体で私の妻になろうなんて考えてはいけないよ」

 そんなふうにエイベット様に言われた。


「汚れた体って何?」

「女性は夫以外に体を触らせたりしないものだよ。レベッカ嬢と違って君は本当に愚かな女だね。また学園に来たら皆を楽しませてあげてね。今度は口の使い方を教えてあげるよ。他にも楽しみたいって言っている友人がたくさんいるんだ。皆の相手をしてあげてよ。一日も早く謹慎が解けるのを楽しみに待っているね」


 そして母に「汚れた体って何?」と尋ねた。

 誰に言われたのか聞かれてエイベット様にと答え、エイベット様が話していた内容を母に話した。

 母は「このことは誰にも話してなりません!! いいわね?」と言われ、女性は夫以外と関係を持つことは許されないことだと説明を受けた。


 母は「何度も何度も教えたじゃない。どうしてこんな愚かなことを……」とまた泣いていた。


 オルツナー公爵が私のことを愛妾ならと言うはずだ。

 エイベット様の愛妾になったらお友達に貸し出されるような立場になると母に言われた。




 最初は父からの謹慎が解けなかった。

 月のものが来て初めて学園に戻ってもいいと言われて、よく意味が理解できていなかった。

 母に妊娠の心配があったと言われて本当に私は何も考えていなかったのだと気付かされた。


 学園に行くとエイベット様たちにまた目隠しをされて誰かわからない人に体を好きにされるかもしれない。その挙げ句に誰の子か解らない子供を妊娠するかもしれないと思うと怖くて学園にいけなくなった。

 部屋に閉じこもると人と会うことが怖くなり部屋から出られなくなった。


 けれど母がそれを許さなかった。

 部屋から引きずり出され食堂以外では食事が出なくなった。

 空腹に負けて部屋から出るとレベッカも兄も以前と何も変わらなかった。


 兄やレベッカと他愛もないことを話せるようになって、レベッカが婚約した。

 相手は侯爵家だと母が言っていた。

 私はまた部屋に閉じこもるようになった。

 今度は母も出てきなさいとは言わなかった。


 それから間もなく兄が結婚して、レベッカも結婚した。

 「私も侯爵に嫁げる?」と思わず父に聞いてしまった。


 嫁げるはずもないのに。

 



 オルツナー公爵家から支払われた慰謝料を持参金として持っていくことを条件に商家の家に嫁ぐことが決まった。

 齢は私より五つ上で初婚。

 これ以上いい相手はいないと父に言われ、顔合わせだけして嫁ぐことになった。


 それからの暮らしはまるで違うものだった。

 侍女も使用人もなく自分のことは自分でするように言われたけれど、何をどうしていいのか解らなかった。

 夫となった人は私のことは気にかけてくれない。


「持参金で使用人を雇って欲しい」

 そう夫に頼むと鼻で笑われただけだった。


 夫は夜になると私の中に吐き出し、朝になると叩き起こされて食事もそこそこに家と店の掃除をさせる。

 掃除がそこそこ出来るようになると「貴族なんだから計算が出来るだろう?」と店番を任せられたが、私は計算が不得意だった。

 収支が合わず義父と夫に酷く叱られた。



 結婚して何年が経っただろうか?

 夫は私の中に吐き出しているのに子どもが出来なかった。

 最近では「お前が相手では立つものも立たない」と言われるようになった。

 鏡に映る私は以前の私とはまるで違う生き物になったかのようだった。


 艷やかだった髪は手入れが行き届かずベットリとしていて、肌にはハリがなく、白かった肌は日に焼けてシミがあちこちに浮いている。

 水仕事をするからか手は皸ていて見るからに痛そうだ。



 夫が私の中に吐き出さなくなると、うるさい義母がいない日は義父が私の中に吐き出すようになった。

 それからは夫は私に触れなくなった。

 義父のタプタプと揺れる贅肉と脂ぎった顔を近づけられるだけで怖気が走る。

 義母はそれに気がついているのか、私への当たりがキツくなった。


 

 

 その日も義母が外出したからと義父に机の上で尻を突き出して何かを塗り込められた。

 その動作と感じるぬめりがエイベット様を思い出させた。

 義父は吐き出すだけ吐き出すと「さっさと仕事をしろ」と部屋から追い出された。


 内腿(うちもも)に気持ち悪いものが流れ出てくる。

 トイレで拭き取って、店に出ると夫に「商品を並べろ」と言われ並べていると、綺麗な衣装を着た貴族の女性が護衛や侍女に囲まれて店内に入ってきた。 

 この店に貴族は珍しい。失礼にならないようそっと貴族女性の顔を見た。


 レベッカだった。


 レベッカの向こうのガラスに今の私が映る。

 店に出ているとはいえ、レベッカから見たらみすぼらしい格好。

 双子の姉がここにいるというのにレベッカは私のことに気が付かない。

 目と目が合ったのに……それでも気が付かない。


 ガラスに映る自分を見てこれは誰だ? と自分でも思った。

 また内腿に義父が吐き出したものが溢れてきた。



 何を間違ったのだろう?

 いつ間違ったのだろう?

 双子なのにどうしてこんなにも違うのか?

 私もレベッカのようだった。

 いつから私はこうなってしまったのか?


 レベッカの美しい姿を思い出す。

 私もああなるはずだったのに……。


 その日の夜、義母が一人の老人を連れて来た。

「あの人の相手をしてあげな。得意なんだろう?」

 老人は枯れて骨と皮の手を私に伸ばしてきた。


 目についた果物ナイフで老人の手を切りつけた。

 老人がみっともなく喚いていて義母と義父がやってきて私を責め立てた。

 あまりにも五月蝿かったので義母か義父か解らないけど突き飛ばして家から飛び出した。


 そして気がつく。

 家を飛び出しても戻るのはあの家しかないのだと。


 夫にはもう相手にされず、義母の留守には義父に犯され、義母は誰かに私を犯させようとする。

 レベッカ……本当に綺麗だったな……。



 橋の上で足が止まり、昨夜の雨でいつもより流れが早く水の量も多かった。

 飛び込めば死ねるだろうか?


 こういう時は靴を脱ぎ揃えておくものだとふと思って足を見ると靴を履いていなかった。


 欄干(らんかん)(また)いでドボンと大きな音を立てて私は川に飛び込んだ。



 飛び込んだからといってすぐに死ねるわけもなく川の流れに呑み込まれては浮き上がり、長い長い時間苦しんでやっと意識が途切れた。


 これで楽になれる。




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― 新着の感想 ―
胸が苦しくなるお話ですね、とてももやもやします…… エイミーの心は何時まで経っても子どものままだった 本人の生来の資質故の結末とはいえ、それを利用した、弄んだ周囲の人間達の悪辣さには…… 「レベッカ…
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