双子の姉のしていることを母に告げ口をして後悔した。
ちょっと手を入れました。4月13日 18時38分
両親、兄のケイシュ、私の双子の姉エイミー、そして私、レベッカの五人家族でユナゴールド伯爵家。
エイミーと私はそっくりだけど、エイミーは金髪でいつも潤んでいるグリーンの瞳。
私は焦げ茶の髪にアイスブルーの瞳。人には「その瞳のせいで冷たく見えるね」と言われることがある。
十歳になり貴族が通うことを義務付けられた学園に通い始めた。
私は勉強が得意で学年の誰にも負けることはなかった。
エイミーは負け惜しみなのか勉強ができないことを「女の子は少しお馬鹿な方が可愛いのよ」と嘯いていた。
両親と兄は分け隔てなく育ててくれたけど、エイミーの元々の性格なのかいつも私を馬鹿にして貶して喜んでいるのは本当に腹立たしい。
両親と兄に叱られても懲りずにエイミーは私を貶す。
何が楽しいのか意味もなく私を見てクスクス笑って走り去る。
凄く嫌な気分になるのでやめて欲しいと何度か口にしたこともあるし、両親からも注意されているのにエイミーは止めてくれない。
私の学園での成績を知ったオルツナー公爵が私に婚約の申込みをしてきた。
二学年上のエイベット・オルツナーの婚約者にならないかと。
御本人からも直接告げられた。
両親が「公爵家に嫁げるような教育をしていないので断らせてください」と言ったにも関わらず、オルツナー公爵は強引だった。
「ならば公爵家に嫁げるかどうか花嫁修業しに来ればいい。一年間試してみて公爵家に嫁ぐだけの教養を身に付けられなかったらこの話はなかったことにしよう。ユナゴールド家に損はないであろう?無料で公爵家の教養を身につけるチャンスだぞ」
私は一も二もなくその話に頷いた。
どうせだからとエイミーにも同じ教育を施してくれると言うので、少しはエイミーもマシになるかもしれないと両親も喜んだ。
そんな中エイミーが一人だけ不服そうな顔をしていたが、エイミーのために見なかったことにした。
準備が整ったと一週間後から私とエイミーはオルツナー公爵家に通う事になった。
私自身はエイベット様と婚約したいとは思わないが、無料で身に付けられるなら教養を身につけておきたい。知らないよりも知っている方が何に関しても優位になることを私は知っていた。
私は何一つ取りこぼさないという気迫で毎日の授業を受けた。
家庭教師たちはエイミーが間違えようが失敗しようが注意や叱責はしなかった。
けれど私が間違ったり失敗すると事細かく注意された。
多分、エイミーはオルツナー公爵家に迎えるつもりがないからだろう。
私のカーテシーの姿勢が完璧になり、お茶のマナーが出来るようになるとエイベット様がお茶会に参加することが決められた。
私は教えられた通りに細心の注意を払って受け答えした。
その横でエイミーは自由奔放だ。男爵家の令嬢でもここまで酷くはないだろうと思うほどマナーとかがなっていない。
そんな姿を晒してそれを恥だと思っていない。
けれどそれが物珍しいのかエイベット様がエイミーをからかって楽しんでいた。
エイミーはからかわれていることに気が付かないのか嬉しそうに頬を染め、そして私を見下す。
それがまたエイベット様を楽しませた。
数日おきにエイベット様とのお茶会が開催された。
日が経つにつれエイベット様はお友達を呼ぶようになり、お茶会の規模も大きくなっていく。エイミーはその全員からからかわれているのに気が付かない。
参加者が増えていくお茶会が少し怖いと思った。
その頃には授業の内容がマナーから家政に移っていった。
そうなるとエイミーには付いてくることが出来なくて、オルツナー公爵家には来るが、授業は受けずエイベット様を探し回って恥ずかしげもなく男性に自分から触れにいっていた。
そして家に帰るとどれほどエイベット様が優しいか、キスが上手かを私に話して聞かせる。
エイミーの身持ちの悪さに怖気を覚えて、これ以上先に進んでしまう前に母に話すべきではないかと思った。
ほんの少し告げ口のようで気が咎めたが、エイミーに馬鹿にされていた鬱憤が、エイミーの行いを母に伝えてしまった。
「お母様・・・告げ口のようで言いたくはないのですが・・・」
「なに?私が知っていた方がいいことならちゃんと教えてちょうだい」
「エイミーのことなんですけど、エイミーが嘘をついているだけなのかもしれませんが、その……エイベット様とキスをしたとか、胸を触らせたとか……それから……スカートをたくし上げられたなどと、私に言ってくるんです……」
母は私の話を聞いて青い顔をして目を吊り上げていた。
「それはエイミーが言ったことなの?」
「は、はい!」
「レベッカ。ありがとう。間違いが起こる前にエイミーを叱らなくてはっ!!」
「お手柔らかに……お願いします……」
「レベッカはそんな愚かなことはしていないでしょうね?!」
「当然です!! 私はエイベット様とはお茶会以外の場所ではお会いしていません」
「そう。ならいいわ。エイベット様には気をつけるのよ!!」
「エイミーを父の執務室へ来るように伝えてちょうだい!!」
母は今はもう真っ赤な顔をして執事のレイに告げていた。
それほど広い屋敷ではないのに、その日の夕食の時間までエイミーを見かけることはなかった。
夕食の席にやって来たエイミーは今までのエイミーと何処か違うように思えた。
それは母も感じたようで、吊り上がっていた目がいっそう吊り上がり、母はエイミーを夕食の席から連れ出してしまった。
レイが母たちの後を追いかけ、暫くするとレイが父を呼びに来た。
父は呑気なもので「食事の後では駄目なのか?」とレイに言っている。
レイはそんな父を呆れ果てたような目で見て「今でないと後悔することになりますよ」と告げた。
そこまで言われるとさっきの母の様子も気になったのか、立ち上がりレイについて行った。
兄が「何があったんだ?」と聞いてきたけれどどう答えればいいのか解らなくて返事のしようがなかった。
夕食が済んでもエイミーがどうなったのか気になってそのまま食堂に兄と残っていたが、レイが現れて「部屋に戻られたほうがよろしいですよ」と言うので兄と顔を見合わせ、渋々自室へと引き上げることにした。
翌朝エイミーのことが気になっていつもより早く食堂に行くと兄も同じ気持ちだったのか、既に食堂の自分の席で立ち尽くしていた。
「お兄様。おはようございます」
「ああ、レベッカ……おはよう」
「そんなところで立ち尽くしてどうされたのですか?」
「エイミーの食事が用意されていないんだ」
「えっ?」
テーブルを見ると本当にエイミーの席には何も用意されていなかった。
「どうしたのでしょう?」
「解らない……」
テーブルを見下ろしていると父が来て朝の挨拶をしてから「エイミーはどうしたのですか?」と兄が聞いた。
「エイミーは暫く自室から出ることを禁じた」
「何があったのですか?」
「お前たちは気にしなくていい。学園も暫く休ませる」
「……解りました」
「学園に遅れるぞ。早く朝食を済ませなさい」
「はい」
兄と私が食べ終わっても母も現れなかった。
部屋に戻って学園に行く準備を整え階下に降りるといつものように兄が待っていた。
一緒に馬車に乗り学園へと向かう。
「レベッカ……お前は何があったのか知っているんだろう?」
「いえ。本当のことは解りません。ですが……エイミーは貴族の令嬢としてしてはいけないことをしてしまったのかもしれません」
「そのしてはいけないこととは何なんだ?」
「私の口からは・・・」
兄は大きな息を吐き出して「なんだか不穏だな」と小さな声で言った。
その日の授業が終わり、オルツナー公爵家の馬車に乗ろうとしたら兄に呼び止められ屋敷に帰るように言われた。
「オルツナー公爵家の御者に断りを入れてきます」
「解った。ここで待っているから早くしなさい」
急いでオルツナー公爵家の御者に今日は自宅に帰ることを告げ、兄の元へと戻った。
二人してユナゴールド伯爵家の馬車に乗る。
動き出すと兄が口を開いた。
「オルツナー公爵とエイベット様が我が家に来ているそうだ。エイミーがエイベット様と男女の関係を持ってしまったらしい」
「そ、うですか……」
「父たちは激怒していてオルツナー公爵もお怒りだそうだ」
「オルツナー公爵も? こういう場合は男性側が謝罪するものじゃないんですか?」
「相手は公爵家だからな……」
「理解に苦しみますね」
「そうだな」
馬車が家につくとレイに応接室に行くように言われた。
「私たちが行っていいのか?」
「旦那様がお呼びになっております」
「解った。レベッカ。行こう」
「……はい」
関わりたくないというのが正直な気持ちだった。
兄が手を繋いできたので逃げることもできない。きっと兄も不安なのだろう。
兄に引っ張られたおかげで足を一歩前に出すことが出来た。
レイが応接室の扉をノックして許可を得て応接室に入室した。
「ただいま戻りました」
「ああ。おかえり。横に座りなさい」
兄が父の隣に座り、私は兄の横に座った。
目の前にはオルツナー公爵とエイベット様が座っている。
全員の目が険しい。
「レベッカ嬢、公爵家の教養は身についているかな?」
「努力しております」
「教師たちはエイミー嬢は初日で付いてこれなくなったが、レベッカ嬢はどれだけ厳しくしても付いてくると褒めておったぞ」
「光栄なことです」
「どうだ? エイベットと婚約しないか?」
「えっ? ……でもエイミーは?」
男女の仲になったのではないのか?
「残念だがエイミー嬢は公爵家の妻にはなれん。それはここにいる全員が解っていることだろう?」
そんなことを聞かれても私も兄も「はい」とも「いいえ」とも答えられない。
返事に戸惑っていると兄が「エイベット様とエイミーは深い仲になったのでしょう? そんな相手にレベッカを嫁がせることなど出来ません」と告げてくれた。
父が兄によく言ったというような顔をして頷いている。
「だがエイミー嬢は駄目だ。よくて愛妾だな。レベッカ嬢が婚約者になるのならエイミー嬢を愛妾として我が家においてやってもいい」
「妹に手を出しておきながら随分上から目線なのですね?」
我が家の代弁者は兄になったようだ。
父は何も言わず兄の言った言葉に頷いているだけだ。
母は見てはいけないほどの凶悪な顔になっている。
私は母からそっと目を逸らした。
「レベッカはオルツナー公爵家には嫁がせません。エイミーに対してそれ相応の償いをしてください」
「そんなことを当主でもない君に言われたくないな」
「いえ。ユナゴールド家の総意です」
父がやっと口を開いた。なんだか父が情けない……。
父から威厳だとか、今まで感じていた大きさが消え失せてしまった。
突然扉が大きな音を立てて開いた。
皆驚いて、私は小さく飛び上がった。
笑い声が聞こえたので反射的にその声のする方を見た。
エイベット様が笑っていた。
この人は無駄に顔がいいんだなと今頃になって気が付いた。
「私のことを話し合っているのにどうして私を話し合いに参加させないのですか!!」
「エイミー!! お前は自室で謹慎していなさいと言っただろう!!」
「ですが私の将来に関するお話でしょう?! だったら私にも聞く権利があります!!」
聞かないほうが身のためだと思ったのは私だけだろうか?
決してエイミーが望むような話にはなっていない。
「エイミー嬢。言っておくがそなたは公爵家の妻にはなれんよ」
「ですが私はもうエイベット様と関係を持ちましたわ! その責任は取ってくださるのでしょう?」
「結婚前に身体の関係を持つような女は公爵家の妻にはなれんのだよ」
「なんですってっ?!」
「考えてみなさい。簡単に体を開くような女は娼婦と同じだ」
両親と兄が激怒した。当然私も姉を娼婦と言われて怒った。
「何処の誰だか解らない子を宿すような女は公爵家に迎え入れることは出来ないんだよ。それくらい考えれば解るだろう?」
「エイベット様……あなたはどう思っているんですか?」
「父が言うようにレベッカ嬢を妻に、エイミー嬢は愛妾としてなら受け入れてもいいと思っている」
にへらと笑ってる顔が気持ち悪い。
「どうして? 昨日はあんなに優しかったのに……。どうしてそんな話になるんですか?」
エイミーは傷ついた顔をしてエイベット様を見る。
「仕方ないだろう? ノックもなしに客人のいる部屋に入ってくるような相手を妻にはできないよ。恥ずかしくて表には出せない」
エイミーはボロボロと涙をこぼしだした。
「エイミーに対する償いはしていただきます!! それとレベッカとの婚約はお断りいたします!!」
「エイベットの口が軽くなるかもしれんぞ?」
「お好きになさってください。ですが泣き寝入りは絶対に致しません。エイミーに対して償わないと仰るのならエイミーが傷つくことになっても大事にします!」
またもや父ではなく兄がオルツナー公爵に言い切った。
「今週中に誠意を見せてください! いいですね?! ではお帰りください!!」
父も頷いて小さな声で「ぉ帰りくださぃ……」と言っていた。
そんな父を見て母の目が吊り上がる。
このまま行くと父は離縁されるかもしれないと頭をよぎってしまった。
オルツナー公爵とエイベット様は不機嫌そうな顔をして立ち上がり、レイに先導されて帰っていった。
家族の誰も見送りに立とうとはしなかった。
「お父様……どういうことなの? 私エイベット様のお嫁さんになれるんじゃないの?」
「エイベット様とそんな約束をしたのか?」
「いいえ……していません。でも、そういう関係になったんだから……!」
「男は相手が服を脱いだなら誰にでも触れるものだ! だから女性側がしっかりしなければならない! そのために小さな頃から口を酸っぱくしても女性は貞淑であるべきだと教えられるんだ!!」
「お兄様! そんなっ! エイベット様はそんな不誠実な人ではありません」
「誠実な男が妹を妻に、姉を愛妾になんて言ったりしない!!」
ボロボロと流していた涙だけではなく、エイミーは声を上げて泣き出した。
家族の誰もがエイミーを見てやりきれない思いをした。
エイミーが自室に戻ったのを皮切りに皆が応接室から退出した。
その週末、オルツナー公爵家からお金が支払われた。
こちらから金額指定はしていないが、かなりの金額だった。
エイミーは謹慎が解けても部屋から出てこなかった。
母は「学園に行きなさい」と叱ったがエイミーは「学園に行くのが怖い」と言って部屋から出てこなかった。
兄が学園を卒業して、エイベット様が学園を卒業しても、エイミーは部屋から出てこなかった。
兄は婚約者を子爵家から選び、来年結婚することが決まっている。
私は学園の成績とオルツナー公爵家で身につけた所作で侯爵家の嫡男と婚約することが出来た。
兄の相手も、私の相手も、誠実でいい人だと思う。
お付き合いも順調に関係を深めることができている。
私も学園を卒業した。
エイミーはあの一件から一度も学園に行けないままだった。
部屋からは出るようになったけど、屋敷からは一歩も出ていない。
父はエイミーの婚約者に豪商の長男を選んだ。相手はすべて承知の上だとエイミーに伝えていた。
エイミーは何も言わず三日間部屋に閉じこもって、四日目になって何事もなかったように部屋から出てきて朝食を食べていた。
エイミーは婚約者に会いに行くために、格を落としたワンピースを着て父と連れ立って行った。
私が婚約者に会いに行くときは部屋から一歩も出てこない。 もう長い間エイミーと口を利いていない。
私の婚約が決まるまではポツポツと話はしていたのに、私の婚約が決まってからは話し掛けても返事もしてくれなくなくなった。
何度か声を掛けたが、返事がなかったので更に声を掛けることは出来なかった。
私の結婚式の日。エイミーは参列してくれなかった。
先に結婚した兄の結婚式にも参列しなかったので覚悟はしていたけれど、双子の姉に祝ってもらえないのはやはり寂しかった。
私のことを鼻で笑っていたエイミーに戻って欲しいと思った。
もしあの時、私が母に告げ口していなかったら、私の結婚式に来てくれたのだろうか?
エイミーがエイベット様と結婚することはなかっただろうけど、どこかの貴族と結婚できていたのだろうか?
私が告げ口をしたから?
母は「レベッカが教えてくれていなかったらもっと酷いことになっていた」と言ってくれるが、そのもっと酷いことが想像できなくて、やはり私が悪かったように思う。
エイミーはひっそりと結婚した。
私だけがエイミーの結婚後になって初めてエイミーの結婚のことを教えられた。
祝いの言葉も伝えることが出来なかった。
「エイミーに結婚の祝いの言葉を伝えるととても辛そうな顔をしていたから、レベッカからの祝いの言葉は傷つけるだけだ。レベッカはもうエイミーには会わないほうがいい」
兄の方が泣きそうな顔をして言っていた。
子供が生まれたことをエイミーに伝えたかったが兄が「折を見て私たちが伝えるよ」と言うだけで「エイミーと会わせて欲しい」とも言ったけれど「それだけは駄目だ」と言われてしまった。
「エイミーは幸せに暮らしているの?」
「生活レベルを合わせるのに苦労しているみたいだ」
「そう・・・」
「旦那様は優しい方?」
「エイミーは何も言っていない、かな……」
「エイミーに会いたいわ」
「エイミーは会いたがらないだろう。エイミーのことを思うならそっとしてやることが一番だと思うよ」
「でも! わたくしたち双子なのにっ!!」
「生きる道を違えてしまったのだからどうしようもない」
「やっぱりわたくしが告げ口したのが悪かったのよ。だからエイミーは怒っているんだわ」
「エイミーが怒っているかどうかは解らないけど、レベッカが告げ口していなかったらエイベット様と何度も逢瀬を重ねていただろう。そして飽きられたらエイベット様の友人たちに下げ渡されていたかもしれない」
「まさかそんな酷いこと……」
「でもお茶会に友だちを呼んでいたんだろう? あり得た未来だよ。レベッカは告げ口だと言うけれど、告げたほうがいい話だってあるんだ」
「……そうだったらいいのにと思うわ」
「レベッカの婚約が決まるまでは口を利いていたじゃないか。エイミーは自分の愚かな行いで自分の未来を壊したことをレベッカの婚約で知ったんだよ」
「悲しいわ……」
「自分の子供にエイミーやエイベット様のようにならないように育てなければね」
「そうね。ちゃんと子育てするわ」
「私も可愛い妻と子育て頑張るよ」
家族が何を言っても欺瞞だと思った。
皆エイミーの結婚相手のことを私に隠しているけれど、わたくしは知ってしまった。夫が調べてくれたから。
明日、偶然を装ってエイミーが嫁いだ商家に行ってみようと思い立った。
久しぶりにエイミーに会えるかと思うと嬉しくてその夜は眠れなかった。
貴族街から出て、平民でもいい暮らしをしている商家が集まる場所を護衛や侍女に傅かれて歩く。
見るもの全てが珍しくて、私は色々なものに興味を惹かれてしまう。
周りを歩いている人たちは姉が婚約者に会いに行く時に着ていたワンピースより、くたびれた衣装を身に纏っているのが目に付く。
それが見窄らしく見えるので、気を緩めると眉を顰めてしまう。
まさかエイミーもこんな格好をしているのかしら?
ありえないわよね? 商家に嫁いだとはいえエイミーは伯爵令嬢だったのだから大切に扱われているわよね?
女性を見る度エイミーではないかと目を凝らすが見つけられない。
護衛の一人に「あの店ですよ」と教えられ、近くを通ったから店内に入ったという様に装った。
ぐるりと見回すがエイミーはやっぱり見つけられない。
せっかく会いに来たのにエイミーに会えないとは考えもしていなかった。
凄くガッカリしてしまう。
一人の従業員だろうか?
町中を歩いていた人たちと同様、みすぼらしい格好をしたわたくしよりも10ほども年上だろうか? その人がわたくしを見て、手にしていた商品を落としても拾うこともせずにわたくしを見ていた。
店内にある商品に気になるものがいくつかあったので、皆へのお土産に纏めて買い上げていく。
商品を取り落とした女性店員はまだわたくしを見て立ちつくしていたので、落とした商品を拾って手渡してあげた。
「あちらの商品もいただけるかしら?」
「……は、い。かしこまりました……」
侍女が支払いを済ませ声を掛けてきた。
「奥様。もうよろしいですか?」
「そうね。探し人はいないみたいだから、少し戻った店でお土産のお菓子を買って帰りましょうか」
「承知致しました」
エイミーに会えなかったことにがっかりして店を出て、お土産を買って屋敷へと戻った。
数日後、エイミーが自殺したと兄から連絡が入った。
その連絡も葬式が終わった後だった。
自殺とはどういうことかと兄を問い詰めると、店で商品を落とした従業員がエイミーだったそうだ。
しっかり顔も見たのに、私はエイミーだと気がつかなかった。
双子なのにレベッカとあまりにも違ってしまったことに絶望しての自殺だったと聞かされた。