第8話 依頼の先に
「ステラ大丈夫?」
ロゼリーが話しかけるも、ステラは怯えたままだ。
あの大きさの魔物に迫られれば当然か。
魔物に対する恐怖心がほとんどリセットされてしまった。
これからまた旅をする上でこれはかなり痛手になるな。
「ステラもう大丈夫だ。魔物は倒したし、もう
あいつは出てこないよ。」
言葉をかけてもステラは怯えている。
想像以上に深刻なようだ。
どうすればいいのかわからない。
「セン、ここからどうしよう」
「ひとまず町に戻って、町長さんに依頼達成の ことを伝えにいこう。ステラのことはそのあと
だな」
「まだ、原因はわかってないわよ?」
「依頼内容はあくまで、ドロンカゲの討伐だか
らな。ステラのこともあるし、ここらで終わら
せたほうがいいだろう」
今回の依頼で最もドロンカゲを討伐していたのはステラだ。そのステラがこの状況じゃあ続行は難しいだろう。
町にいたドロンカゲに加えて、町の左右に生息していた個体も倒したんだ。申し分ないだろう。
「一旦町に戻りましょうか。ステラ、行くわ
よ。」
ロゼリーはステラの手を引いて連れていってくれた。さすがはお姉ちゃんもどきだ。
俺達は町へ戻り、町長の所へ向かった。
「町長さん、ドロンカゲは倒したのでしばらく は大丈夫だと思います」
「そうか、ありがとう若き冒険者達よ」
「しかし、原因は突き止めることが出来なかっ
たので、時間が経てばまた増えてくると思いま
す」
「気にしないでくれ。依頼は討伐、原因まで探 す必要はないんだよ」
「ありがとうございます……では、依頼達成ということで、ここらで僕達は 戻ろうと思います」
「気をつけてな。」
町長には申し訳ない気持ちがあるが、依頼は達成したんだ。ギルドに戻って報告に行くか。
町長の家をあとにして、ブリセンドの方角へと町中を歩く。
「戻ったらまた依頼を受けるの?」
「いや、この依頼とドロンカゲの素材があれば
しばらくは大丈夫そうだから、次のところに向 かおうと思ってるよ」
今回の依頼でドロンカゲの素材を大量に入手することが出来たからな。これを売れば次の所までは持つだろう。
「ステラはそれでもいいか?」
「うん……」
よかった。少し声を出せるくらいには回復したようだ。また、恐怖心を薄められるようにしなくちゃな。
────カラン コロン
突如そんな音がした。中身のなくなった缶が転がるような音が。
辺りには誰もいない。それはこの町に来てからずっとだ。なら、何かが倒れた音か?
いや、風は強いと言えるほど吹いていない。
じゃあ一体なんの音だろうか?
「セン、あれ見て。なにか転がってるよ」
ロゼリーが指さす先には黒く正方形の何かが転がっている。
生き物…ではないな。建物の部品?それも違うように感じる。
「確認してみるか」
「気をつけてね」
警戒しながらゆっくり近づいてみる。
1歩1歩慎重にだ。いつでも対応出来るように、魔法を放つ準備は出来ている。
もう手が届くくらいには近づいた。
が、なにも起こらない。
「大丈夫そうだ。こっちに来ていいぞ」
2人を呼ぶ。俺がこんなに近づいても何も起こらなかったため、ロゼリーやステラが来ても大丈夫だろう。
「これ、なんなの?」
「さあ?どっかのパーツとか?」
「どこに使うのよ」
「それを俺に言われてもわかんないよ」
試しに持ち上げてみる。
特に何も起こらない。
次に魔力を込めてみる。
何も起こらない。
「魔力を込めてもなにも反応がなかった」
「じゃあただの物ってことね」
「そうだな。警戒しすぎたみたいだ」
魔導具の類だったら魔力を込めればなにかしら反応があるはずだ。それがなにもないということは、魔導具ではなくただの物だろう。
「オープン」
その声とともに手に持っていた物体は、暗闇を広げ始め、俺達を飲み込んだ後、収束した。
その場所には誰もいなかったかのように。
気付けば俺達は黒い空間にいた。
黒いといっても、暗いわけではなく、お互いに姿は確認できる。
広さはだいたい縦横高さそれぞれ10メートルといったところだろうか。
ところどころに1メートルぐらいの正方形が浮いている。不思議だ。
そしてなにより、この空間にいるのは4人だ。
1人知らない奴がいる。おそらくこの空間を出したやつだろう。
「お前、何者だ?」
「名乗るつもりはない。貴様らは冒険者だろ
う?生憎僕は冒険者が嫌いでな、この町に来た
やつをこうして成敗しているんだ」
「成敗?襲ってるようにしか思えないけどな」
「冒険者は奪うか奪われるかの世界だろ?少し
小突いただけで襲われたなんて言わないで貰い たいね」
「目的はなんだ」
「冒険者共に地獄をみせることさ」
なんで俺達が地獄を見せられなくちゃいけないんだよ。なにもしてないのに。
ここから出る方法が分からない以上、こいつとの戦闘は避けられなかっただろう。
敵はフードを深く被っていて顔はよく見えない。見た感じ軽装に見えるが油断はできない。
気付けば敵の姿は消えていた。
「ロゼリーどこいったかわかるか?」
「わからないわ。下に潜ったように見えたけれ
ど」
この空間には潜れるような深さがあるのだろうか。地中に潜る魔法なのか。まだ判断できないな。
「セン!後ろ!」
気付くのが遅かった。いつの間にか背後をとられ、胴体に蹴りをくらった。
かなり強い。骨が1本逝った気がする。
俺が蹴り飛ばされてる間に、敵はまた姿を消している。姿が見えないのは厄介だ。
まだ敵の魔法がわからないから攻略法も見つけられない。
出てくる場所を予想するんだ。狙うのは俺か?それともロゼリー?ステラ?
俺はないな。今ので痛手を負ったこともある。
ステラは恐怖で固まっている。そのため後回しにする可能性が高い。ならば狙われるのは……
「ロゼリー!気をつけろ!奴はお前を狙って
る!」
「言われなくてもわかってる!!」
予想通り敵はロゼリーの背後の壁から出てきた。狙える。
俺は氷の槍を創り、敵へと放つ。
ロゼリーもまた敵に反応し、回し蹴りを繰り出す。
しかし敵はまた姿を消し、ロゼリーの後方に現れ、ロゼリーを蹴り飛ばす。その一瞬に敵はロゼリーに手を触れていたように見えた。
そして、壁から出てきて再び姿を消した時、敵は黒いモヤのようになり下へと落ちたように見えた。
このことから敵の魔法は潜るようなものであることがわかった。
「ロゼリー大丈夫か?」
「ええ、獣人は頑丈だから」
獣人って頑丈なのか。知識が1つ増えた。
「なにか攻略法ある?」
「ないな。あいつ戦闘慣れしてるし」
「どうするのよ!」
「そーだな……。ひとつ考えたのはステラを使う っていう手だ」
「今のステラになにか出来るとは思えないけ
ど?」
「俺もだよ。でもなにか出来そうなのもステラ
だ。予想外の攻撃をするんだったらステラが動
くのが1番効果的だと思う」
「作戦会議はもういいか?待つのは苦手なん
だ」
「悪いな待たせちまって。行くぞロゼリー!」
「うん」
まずは相手の潜る行動を制限するために、空間全体に氷の層を創る。これで潜れなくなるなら上出来、相手の攻撃パターンが潜ることだけならだいぶ楽になるんだけどな。
「…………潜れない」
運がいい。こうなったらロゼリーの独壇場だ。
固有魔法+身体強化+獣人の身体能力を駆使して空間内を素早く動き回っている。
敵にロゼリーの攻撃が容赦なく当たっていく。
少し可哀想なくらいだ。
「ああもう!ちょこまか鬱陶しいんだよ!」
ロゼリーの腹へと強烈な蹴りが入る。
あの速度のロゼリーに対して攻撃をあてるとは敵ながら大したもんだ。
「お前ら、僕の人生の邪魔すんなよ!なんで僕
がこんなことして生きてんのかわかってんのか
よ?この世界でくらい幸せに過ごしたかったの
に……」
「急になんだよ。お前が襲ってきたからこうな
ってるんだろうが、被害者面してんじゃねえぞ」
「被害者面?実際被害者なんだよ!お前ら冒険
者には分かんねえだろうがなあ、散々酷い目に
遭わされてんだよ。もういいや、殺さずに金目
のもの奪おうかと思ってたけど、お前ら殺す
わ。」
「やってみ────」
なんだ?体が動かない。しかも、空間に張っていた氷の層がすべて砕けた。
俺は魔力の供給を怠ったつもりはないぞ。
くそっ、小型のナイフを持った敵がゆっくりと近づいてくる。
「センに近づくなっ、あれっ?動かない。なん
で?大した攻撃はくらってないはず」
「やっとか。君毒が回るの遅いよ。あぁでも安
心してくれ、その毒は麻痺毒だから死にはしな いよ。」
「いつの間に……」
「さっき手で触れさせてもらった時に毒を入れ
たんだ。入れてからあんなに動けるなんて、獣
人は少し毒が回るのが遅いようだね。肝に銘じ
ておくよ。そして氷使い、下半身を見てみろ」
下半身…?……ッ石化してる!?
なんの魔法だ?発動が見えなかった。
「君がそうなっているのは僕と目を合わせたか
らだよ」
「目だと…?」
「ああそうだ、僕には呪いがあってね、目が合
った人を石化させてしまうんだ。おかげで、小
さい頃からまともな暮らしは出来なかったよ」
「メデューサみたいだな」
「そうだね、でも片目にしかこの呪いはないん
だ。それは良かったよ。しかも石化させた相手
は魔力の制御が極めて難しくなるおまけ付きと きた。今の僕にはピッタリだ。少々お喋りが過
ぎたかな、そろそろ死んでもらおうか」
一直線に俺へと向かってくる。迎え撃たなければ殺される。氷の壁を……創れない…。
出来たのは膝丈ほどのスッカスカな氷の壁。
壁と呼ぶ程でも無いだろう。ただ凍っただけ。
「しねぇぇえ!」
────パシャん…
動きが止まった。いや、水のようなものが敵にかかって足が止まっている。予想外のことに対応出来てないのだ。
おそらく今攻撃を試みたのは、紛れもなくステラだ。
「よくやったステラもういっか───」
ステラのほうを見てハッとした。震えていたのだ。ステラは俺を死なせないために勇気を出して魔法を放ったのだ。
この隙を逃す訳にはいかない。すぐに追撃を…
そうやって敵がいた場所に目を戻した頃には、そこに敵の姿はなかった。
「ステラッ!!」
人間の敵が出て来ましたね〜
ステラちゃんには頑張ってもらわなければ……
読んでくださったのならブックマークと評価のほうよろしくおねがいしまする。次話をお楽しみに…