第7話 泥々
港沿いに歩くこと十数分。
町も抜け辺りには潮風の匂いが舞っている。
それとドロンカゲも俺達のことを待っている。
待っているのは女の子がよかったなあ……
「とりあえずここにいるやつらも倒して良さそ うね。」
「魔力使いすぎてへばんなよー」
「そんくらい大丈夫よ!」
ロゼリーの港での戦いは足場が悪かったのもあって相当な魔力を消費していたからな。
またぐったりしないようにしていただきたい。
「ステラも一緒に倒そーよー!」
「う、うん。わかった。」
ステラが戦闘慣れするためにもロゼリーは積極的に行動してくれている。実にありがたい。
やはりロゼリーとステラが話しているのを遠目から見ていると、姉妹を見ているみたいでほっこりする。
ちなみに俺はお兄ちゃんポジだ。
「セン!突っ立ってないであんたも戦いなさ
い!」
ここも数が多そうで戦うのが嫌になるな……
でも町長の為にはやらなきゃな。
ロゼリーは固有魔法と身体強化そして獣人の身体能力を活かして、ドロンカゲに突っ込んでいく。
速くて俺には追いつくことが出来ない。
というか、ドロンカゲは物理攻撃が効きづらいからあまり突っ込まれると困るんだよなぁ。
ステラはその場に留まり、両手の先から魔法を放っている。
1発辺り10体ぐらいは倒せているだろうか。
魔法初心者でこの威力をポンポンと出せるのが本当に恐ろしい。
俺はというと、ロゼリーとステラの間の中距離に位置しどちらのサポートにもいけるように陣取っている。
その位置からドロンカゲに向けて、氷の棘を地面から生やしていく。
逃げ道を塞ぎつつ、ドロンカゲも倒すなんとも効率の良い戦い方だ。
ステラの放つ魔法によってドロンカゲは木っ端微塵となり泥を辺りに散りばめる。
ロゼリーは戦い始めと比べると動きは少々鈍くなっているものの、まだまだ動けそうだ。
ロゼリーが高く飛び上がり拳をドロンカゲに振り下ろす。見事頭を直撃した。
魔物にも脳はある。頭に耐えきれない衝撃がいったため、即死だ。
最後の1匹だったようでロゼリーは「やってやったぜ」と言わんばかりにこちらを見てくる。
あとでちょっとだけ褒めてやるか…
「戦っててなにか違和感はあったか?」
「ここにいたやつらも特には感じなかったか
な〜。」
ここでもダメか…
そろそろ足がかりくらいは掴みたいところなんだけどな。
もう合計で200体近く倒しているのに全く掴めないなんて…
「次はどこ行く?もうちょっと先行く?」
「いや、こっち側には何もなさそうだから反対 側に行こう。ステラもそれでいいよな?」
「うん」
決まりだ。反対側にはなにか原因に繋がるものが見つかってくれるとありがたい。
反対側に行く道中、来た道を戻ることになるので町を通ることになった。
港で粗方ドロンカゲは片付けたが、残党がいたので狩っていった。
「まだこんなにいたのね…」
「だいたい倒してたと思っていたけど、そうで もなかったみたいだな。」
突如、ステラに袖を引っ張られる。
どうしたんだろうか。指でなにかを指しているようだ。
その先には無数のドロンカゲの死体があった。
「なんでこんなに死体が転がってるんだ?」
「他の冒険者が来たんじゃない?」
「そうだとしたらおかしい部分がある。もし冒 険者だったら、死体から素材を回収していない
と金の無駄だ。」
ドロンカゲは尻尾や手足などは薬に使えるため、換金所で取り扱っているはずだ。
俺達もできるだけ素材は回収している。
転がっている死体は銅を真っ二つに切られたものや、噛みちぎられたような跡があった。
噛み跡はともかく、切られているのは明らかに人の手によるものだろう。
だが金目当てで倒したようには思えない。
なにがあったのだろうか。
「ちょっと危ない感じがするわ。早めにここを 離れて目的地に行きましょ。」
「ああ、そうしたほうがいいだろう。」
気になることが山積みだったが、ひとまずその場から駆け足で去り、目的地に向かった。
先程の場所とは違ってこちらには、人一人半ほどの大きさの岩が砂浜の上にそこかしこに佇んでいる。
なんとも視界が悪い。上に登って見たほうがいいだろう。
「それにしてもかなりでかい岩よね。なんでこ
んなにあるのかしら。」
「自然現象なんだろうけどよくわかんないよな
ー 」
「まあこっちにはたくさんいるっぽいしそんな
こと考えてもしょうがないんだけどね。」
ロゼリーの見る先にはドロンカゲがうじゃうじゃいた。
岩が日陰をつくって住みやすいのだろう。
逆側よりも多く感じる。
「あ!そうだ倒した数で勝負しましょ!負けた
ほうは依頼終わるまで様呼びすること!」
「は、ちょ待っ」
「スタートー!!」
急に始まったな…。
横にいるステラも困惑してるよロゼリーさん。
まあ、やるからには本気でやるけど?
負けず嫌いなもんで。
ロゼリーは既にドロンカゲに向かって走り出し、1体目に飛びかかろうというところだ。
そのドロンカゲを狙って氷の塊を構築していく。徹底的に奪い取ってやるぜ。
ドォォォォン
、、、え。
ステラの放った魔法が俺達の狙っていたドロンカゲを巻き込んで爆散する。
「勝負なら…ちゃんとやらなきゃ…ですよね。」
「お、おう。わかってるじゃないの」
思わぬダークホースに先を越されてしまった。
ステラは参加してないと思ってたんだけどな。
こういうのやるタイプなのか。
ロゼリーも驚いていたようで、間抜け面でこちらを見ていた。なんともおもしろい。
「うかうかしてられないな。」
辺り一面を凍らせる。これが1番手っ取り早い。
凍らせた地面の上にいるドロンカゲ共を氷柱で串刺しにする。
だいぶ倒せてるはずだ。
ステラは相も変わらずドデカ魔法をぶっぱなし続けてる。どんだけ魔力あんだよ…
ロゼリーも倒してはいるようだが、俺やステラと比べると集団戦向きの魔法ではないため、思うように稼げていないようだ。
やっぱりこういうのは言い出しっぺが負けやすいというジンクスがあるように感じる。
「ふぅ… これでひと通りは倒し終わったかな」
「たくさん…いた」
ステラの言う通りここは明らかに他と比べてドロンカゲが多かった。
大量発生の原因がある可能性も十分にあるだろう。
「もしかして私が1番倒してない…?」
「そうだな。ステラ1番の俺が2番、そして君が 最下位さ。」
「最悪………」
肩を落としてがっかりしている。そんなに様呼び嫌なの?ちょっと傷つくんだけど。
「一旦ここら辺を調べてみようか。なにかある かもしれない」
これで見つからなかったら、もうどうしたらいいか分からない。
原因が分からなければ、またドロンカゲは増えていくだろう。
町の人達のためにも見つけなければ。
「セン〜!なにかあったー?」
「なにもないぞー。あと様呼び忘れてるぞー」
「はいはいセン様セン様。これでいいでしょ」
雑だな…。自分から仕掛けた勝負で、負けたというのに。
「ステラ様はー?どう?」
ステラのことはちゃんと呼ぶのかよ!
俺なんかロゼリーにしたかな…
「…………」
ステラから返事がない。
というか先程から姿が見えていない。
ここら辺は大きい岩があるから見えないのもおかしい話ではないが。
しかし、声は聞こえてるはずだ。
ロゼリーの声はうるさいぐらいだから。
「ステラ?どこだー?返事しろー?」
「ステラ様ー?」
一向に返事をする気配がない。
俺の心に心配が湧いてくる。ふざけるような子ではないことがわかっているからだ。
「センっ!!!」
突如、大きな声でロゼリーが俺の事を呼んだ。
その声色には焦りが含まれていたように思う。
ロゼリーは︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎︎︎ ︎︎活性化 ︎︎"︎︎と身体強化をフルに発動して走り出していく。
走り出した先には、ステラがいた。それと、
3mはあるようなドロンカゲ?がいた。
デカイのはなんだ?ドロンカゲ?亜種か?
いや別の生き物にしか感じない。
なにか違和感のようなものを感じる。
その魔物は、2足で立ち、ドロンカゲのように泥を身に纏い、泥の下からでもわかるほどに筋肉質であった。
魔物が拳を握り大きくステラに振りかぶる。
これはまずい────
「絶対零度」
俺を中心に世界を凍らせていく。
倒した数を競っていた時とは違い、これは生物をも凍てつかせる。
「ナイスっ!セン!」
全速力のロゼリーが座り込んで動けなくなっていたステラを抱えて逃げ出す。
そのとき、パリィィンと、氷が割れる音がした。
魔物が氷を割り、動き出していたのだ。
大きく振りかぶっていた拳が、ロゼリー達を目掛けて振りかざされていく。が、間一髪それを避ける。
ステラの背後にあった岩が粉々に砕け散っていく。
それをすべて凍らせ氷塵と成す。
あの拳を喰らえば致命傷になりかねない。
距離をとりつつ、魔法で攻めるのが正解だろう。
「ロゼリー!距離をとれ!近距離は危険だ!」
「わかってるわよ!でもこいつ図体に比べて動
きが速いのよ!」
この魔物はロゼリーの今の限界速度と近いくらいのスピードを持っている。
それに加えて、ロゼリーはステラを抱えているのも合わさって、同程度の速さになっている。
撒くのは難しいだろう。
ならば、俺に引きつけることが第一目標となるだろう。
「一旦俺があいつを引きつける!その間に体勢
を立て直してくれ!」
「頼んだわ!」
氷塊を数個生み出し、魔物目掛けて放つ。
的がでかいため当てれはするが、どうも気を引けない。かゆいとも思わないのだろうか。
「それなら───」
魔物と同じ、いや少し大きいサイズの氷のゴーレムを、ロゼリー達と魔物との間に生成する。
これで抑えられれば、上出来だ。
というかこれで抑えられなければ、俺に手はない。
現在の最高硬度で創ったゴーレムを壊されたら心が折れてしまうかもしれない。
魔物は動きを止めることなく進み続けている。しかし、ターゲットはロゼリー達から外れ、ゴーレムに向いているようだ。
頼むぞ壊されるなよ……
魔物がゴーレムに向かって、左ストレートを放つ。ゴーレムにガードをとらせる。が、腕が破壊された。
しかし腕だけだ。衝撃は腕だけで流せている。
壊した部分から即座に再構築すれば、暫くは持ちこたえることが出来そうだ。
「ステラ、大丈夫?怪我はない?」
ロゼリーがそう聞くも、ステラはかなり怯えた様子で頷くだけだ。
怪我はしてないようで良かった。魔物への恐怖心がまた出てきてしまったのは難点だが。
「私もあの魔物倒してくるから、ここで待って
てね」
ステラを安全な場所に置き、戦線に復帰。
なんとも心強い。
もし、魔物がドロンカゲと同じ特性を持っているなら、ロゼリーの攻撃は意味を成さないかもしれない。
それでも、味方が1人増えるというのは心強いものだ。
「なにか考えはある?」
「そんなのない!とりあえず、ロゼリーは奴の
気を引いてくれ!その間に俺が全力の一撃を創
り出す!」
今の状態のロゼリーなら、魔物相手にスピードで遅れをとることはないだろう。
だからといって攻撃があたらないわけではないが。
ゴーレムの再構築を止め、一撃を創り出すのに集中する。
ロゼリーは全速力で魔物へ突っ込み、蹴りを入れた。ダメージはおそらく入っていないだろう。しかし、衝撃で少し動かしている。
さすがだ。
ゴーレムが崩れ、標的がロゼリーへと移る。
やはりスピードはロゼリーのほうが速いようで、魔物は遅れを取っている。
攻撃をするも、機敏に動くロゼリーにはかすりもしない。
その間にも2発、3発と攻撃を当てられている。
このままいけば、倒せる。
いや、そういう慢心はよそう。なにがあるかわからないからな。
とりあえず俺は、自分のことに集中しなければ。
イメージは大剣。それを氷で造形する。
魔物を倒すには、硬度、鋭さ、どちらも持ち合わせるものを造らなければならない。
魔法はイメージが大事だ。魔物の体を貫通させるような。
集中を高めろ。ロゼリーが魔物を引き付けている間に。
2mほどの氷の大剣を造形していく。
硬さが足りない。もっと密度を上げなければ。
凝縮しろ。もっと、もっとだ。
気付けば辺りは、俺の魔力で徐々に凍り始めている。
魔物が動く度に、その身に纏う泥が飛び散っていく。ロゼリーは泥まみれになりかけている。
「ロゼリー!出来たぞ!」
その声を聞いたロゼリーは、こちらに向かって動き出した。
「任せたわよ!」
「任された」
これほどの密度の造形は初めてだ。維持が難しい。すぐに壊れてしまいそうだ。
それでも任されたんだ。絶対にやってやる。
「ハアアアアア!」
ロゼリーが俺の横を通り過ぎたタイミングで、魔物に向かって氷の大剣を放つ。
大剣は魔物の胴体を捉え一直線に飛んでいく。
「刺されぇぇー!」
グサッ
そんな音と共に魔物に大剣が突き刺さった。
良かった。
しかし魔物はそれでもなお動き出す。
「これで止まるなんて思ってねーよ。表面から が駄目なら、内から凍っとけ!絶対零度!」
魔物を凍らせていく感覚が伝わってくる。
手足の先まで満遍なく凍らせる。
そして、そのまま氷塵と成す。
「やった!やったね!セン!」
「ああ、ロゼリーのおかげだよ。ありがと
な。」
誰も大きな怪我を負わなくて良かった。
みんな生きている。
それにしても何だったんだあの魔物は。
ドロンカゲではない。戦ったからわかる。
ではなんだろうか。見当もつかない。
今は考えるのをやめよう。
俺達は勝ったんだ。それを喜ぼう。
読んで頂いた方ありがとうございます。
ブックマークと評価のほうお願いします。
次話をお待ちくだされ。