第6話 ドロンカゲ討伐
「ささ、上がってください」
そう言われて俺達は町長の家に入る。
町長だから大きい家か町を見渡せるような位置に家があると思ってたいたのだが、そんなことはなく町に溶け込んで暮らしているらしい。
「ドロンカゲ討伐依頼を受けてくださったんで すよね?」
「そうです。そのことで色々聞いておきたいこ とがあったので、お会いできて嬉しいです」
「そうかそうか、好きなだけ聞きなされ」
町長は自分の髭を撫でながら言う。
聞きたいことは主に3つだ。
まずは……
「なぜドロンカゲが増えているのかについて心当たりなどありませんか?」
「ないなぁ。最初は少し多いなぐらいだったん ですが、気づいた時にはもう手遅れで…」
「それはいつ頃からですか?」
「だいたい1ヶ月前ぐらいからだな……。海に出 てたやつらから船を停めるところにドロンカゲ
がいて停められないって報告を受けたのが始ま
りだったはずです……」
「現在のドロンカゲの数はどれくらいか分かり
ますか?」
「約300体です」
1ヶ月にしてはあまりにも多すぎる。
魔物には繁殖機能があり人間よりも期間はかからないし、1度に複数体産むのは普通のことであるがそうポンポン増えるとは考えにくい。
しかも、ドロンカゲ自体知能はかなり低い。
だから、時期を合わせて同時に出産。なんてことは起こるとも思えない。
「被害ってどれくらい出てますか?それによっ ては増援を呼んだ方がいいでしょう」
「被害は漁ができないくらいです。人への被害 は今のところ聞き及んでおりません」
「では、今回は俺達だけで依頼をさせていただ きます」
「よろしくお願いします」
正直不可解だ。
同時期の繁殖?人間への被害0?どちらも魔物であるドロンカゲがすることとは思えない。
討伐しているうちに原因を突き止められれば僥倖なんだけどな。
「あ、そうだ町長さん、今町を出歩いている人 がほとんどいないのって理由あるの?」
「ロゼリーお前ちょっとは敬語使え」
「大丈夫だよそんなの。町に人が出歩いてない のはこちらの問題だから、気にせず依頼をやっ
てください」
「ふーん」
ロゼリーは人がいない原因を知れなかったことでとてもがっかりして肩を落としていた。
町の問題ってなんなんだろうか。遠出の漁に出ている人がたくさんいるとかかな?
いやでも、訪ねた家のなかにはかなり人がいた気がしたんだけどな。
詮索はやめとくか。
「今日はもう遅いですし、私の家で休んでいってください」
「お言葉に甘えさせてもらうわ」
「遠慮ねーなおい…」
町長は俺用とロゼリー&ステラ用の部屋を2部屋用意してくれた。
「好きに使ってくれて構わないが、物だけは壊 さないでくれ」
「誰かと一緒に暮らしていたんですか?」
「昔にな……」
なにかまずいことを聞いた気がする。
町長は思い出に浸るように部屋を眺めている。
「妻と息子と暮らしていたんだ。息子といって も拾い子だったがな」
「でも、幸せでしたでしょう」
「ああ、幸せだった……。だが、ある日妻が冒険
者に殺された。魔物に殺されていたなんて言っ ていたが、俺と息子だけは信じなかった。なぜなら冒険者共は笑っていたからだ。それ以来息子は変わってしまってな、今ではどこにいるのかもわからん」
最愛の人を同時に2人も失うことはどれほどつらいだろうか。想像もつかない。
冒険者は善と悪が半々いると言われている。
他人のために何でもする輩と自分のためなら他人などどうでもいいと思っている輩だ。
後者に出逢ってしまったのだろう。
あまりにもかわいそうだ。
「しんみりさせて悪かったな。ゆっくり休んで くれ」
自室に戻っていく町長の背中を見ていると心が痛む。
絶対に依頼を遂行しようと決意した。
────翌日
「泊めていただきありがとうございました」
「いいんだそんなことは。依頼のほうよろしく 頼むよ」
「任せてください。では」
討伐に行こうとしたときステラが町長の前で立ち止まっていた。どうしたんだろうか。
「あなたに星々の加護があらんことを」
どこかいつものステラと雰囲気が違う気がする。
「ステラ?どうした?」
「えっ、私ですか?なにか…してましたか…?」
からかっているのだろうか。いや、ステラに限ってそんなことはしないだろう。
なら今の一瞬で忘れたのか?無意識下での行動なのか?まだまだ謎が多いな……
「いや、なんでもない。行こうか」
町長の家を後にして、依頼へ向かう。
「町長さんに悲しいこと思い出させちゃった
ね」
「そうだな。依頼しっかりやらなくちゃな」
ロゼリーも昨日の話が心残りになって依頼に対して真剣に向き合っているようだ。
「ステラ、さっき自分がなんかしてたなとか思 わなかったか?」
「とくに…なにも…ないですよ……?」
本人はほんとに分かっていないようだ。
星々の加護?ますますステラの正体が分からなくなってくるな……
「どうやってドロンカゲ討伐していくか考えて
るのセン?」
「そうだな……原因がわからない以上、片っ端からできるだけ倒すのがいいだろ」
倒しているうちに原因がわかる可能性があるし、ステラの戦闘への恐怖を少しでも減らせたらいいからな。
「まずは、この町の港のほうに向かおう」
最初の報告があったところに行けばなにか分かるかもしれないからな。
そう簡単にわかるとは思ってないけど。
港に向かっているときも町には人が出歩いていない。町長が言っていた「こちらの問題」というのが少し気になるが、今は依頼に集中すべきだろう。
「ここが港ね。とくに何かあるようには見えな いけど」
「見えてたらとっくに町の人が片付けてる よ。」
ロゼリーの言う通り、パッと見は普通の港だ。いや、パッと見なくても普通だな。
ちらほらドロンカゲが見えるくらいで「おかしい」と思えるようなものはなにもない。
「ステラ、今見えてるドロンカゲを倒してみ
て」
「私には無理です…」
「無理じゃないさ。ステラならできる。絶対
に」
というか、できてもらわなきゃ困る。
300体ものドロンカゲを俺とロゼリーだけで片付けるには少し無理がある。
一体でも倒すことが出来ればいいんだけどな…
「戦うのが怖い…だから…私には無理です…」
「そんなこと言ってたらいつまで経っても自分
が誰なのかを知ることなんてできないよ」
「でも…」
ステラはなぜこんなにも魔物に対して恐怖心が高いのだろうか。過去になにかあったように感じてしまう。
「まずは落ち着いて、ここから魔法を放てば魔 物がここまでくることはないよ。来たとしても
俺とロゼリーがいるから」
「そうよ。やってみたらいいわ。守ってあげる から」
「うん…わかった、やってみる」
ステラは両手を前に出して魔法を放つ準備をしている。
今までステラと過ごしてきたが、固有魔法を使ったところを見たことがない。
どんな魔法なのか楽しみだ。
ステラの魔力が次第に高まっていく。
凄まじいほどだ。それと同時に前に突き出した両手に水のように綺麗で見惚れてしまうような色の魔力が集まっていく。
なんだこの魔法は?水?いや、それにしては透き通っていない。全体的に青がかっている感じだ。
神秘的でまるで星のような。
「はぁッッ」
ステラの手から魔法が放たれる────。
放たれた魔法は綺麗な放物線を描きながらドロンカゲへと迷いなく進む。
────ドォォォォン
魔法の着弾地点には大きく海水の柱が立ち上り港を濡らした。
ドロンカゲは跡形もなく消し去っていた。
「すごいじゃないステラ!威力が桁違いだ わ!」
ステラの魔法を見て興奮ロゼリーは非常に興奮しているようだ。
逆にステラは自分が魔法を使用したことに驚いていたようだった。
「やればできるじゃないか。この調子であとも 頼むよ」
「わかった…」
一度ドロンカゲを倒したことで、魔法の使用感と魔物への恐怖心に慣れが生じてくれることを願おう。
ドォォォォン ドォォォォンと魔法が海に着弾する音が響く。
「よし、これで港周辺にいたドロンカゲは粗方 片付いたかな」
「一旦休憩しましょ、さすがに疲れたわ」
ロゼリーは遠距離からの攻撃手段を持っていないので、海から出ている岩の上に行ってはドロンカゲを倒すということをしていた。
不安定な足場だったこともあり、ロゼリーだけ顔に見えるほどに疲れている。
ステラはあの威力の魔法をバンバン使っていたのにも関わらずピンピンしている。
魔力量オバケめ。
「魔物を倒してみてどうだった?」
「最初は…怖かったけど、少し大丈夫だなって思 えるようになった」
「そっか、それはよかった」
少しは慣れてくれたみたいだ。よかった。
まあ百体近く倒したからな、慣れてくれなきゃ困る。
「ステラの魔法ってどういうものなの?」
「あーそれ俺も気になってた」
「たぶん…星に関すること…だと思う」
星か。そんな魔法を持っていると知れればステラを狙う連中が増えるかもしれないな。
魔力量からしてこの子はきっと特別な︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎︎︎人間 "︎︎なんだろう。
「どっちにしろ綺麗でいいじゃない。ステラに 似合ってるわ」
「ありがとう…」
娘の掛け合いを見ている気分になるな…
年齢的には姉妹でもなんらおかしくはないから余計にそう見えてしまう。
「休憩が終わったら港沿いを歩きながらドロン カゲ討伐と原因の突き止めにあたろうか」
港沿いに歩いてなにか原因を探す手がかりがあればいいけどな…
休憩も終わり、港沿いを歩き出した。
読んでいただいた方ありがとうございます〜。
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ドロンカゲの繁殖は何が原因なんでしょうか?
次話をお楽しみに!