第5話 依頼へ
思わぬ出来事に足止めを食らったが、今度こそは依頼を達成すべく、ブリセンドを出発した。
ステラが少しでも恐怖を克服してくれたらと思い、道中では魔物と戦おうと考えていたが、全く遭遇しなかった。
途中で何度か魔物を見かけたが、こちらに気づいた途端、焦ったように背中を向けて逃げ出した。
おそらく、ステラが発している膨大な魔力による影響だろう。
ギルドでもほとんどのやつらがこちらと目を合わせようとはしていなかったし。
恐怖を少しでも克服してもらうためには、まずは膨大な魔力を抑えなければなので、
魔力制御について教えることにした。
魔力制御はほとんどの人がやっている事だ。
生まれたばかりからできる訳ではなく、4~6歳ぐらいに自然と感覚を掴んで、自然としている人が多い。
親が教えているところだってあるだろう。
「ステラ、魔力制御ってわかるか?」
「わからない……」
「じゃあ一緒にやってみようか」
魔力制御は自然に身について、無意識下で行っていることだから、教えるのは難しく感じる。
「魔力は感じとれるか?」
「それは…なんとなく……わかる」
「魔力っていうのは全身をくまなく巡っている
んだ。そして体にある魔力栓ってところから漏
れ出す。だから、その魔力栓を靴に足を入れる
感覚で魔力を込めて塞ぐんだ」
「やってみる……」
ステラは「ふんっ」とか「へんっ」だとか可愛い声を上げながら挑戦し始めた。
小一時間ほどアドバイスを与えながらやってみたが、少しも進展が見られない。むしろ魔力の放出量が増えていってるような気がする。
これ以上はなんか危険だと自分の第六感が囁いてたので、一旦ステラを止めた。
「ごめん……なさい…うまく、できなくて…」
「最初から出来るやつなんていないよ。ゆっく り焦らずにやっていこうか」
とは言ったものの、ゆっくりしてる時間はあまりない。依頼の期限はないが、遅くなればなるほど、ドロンカゲは今以上に増えていくだろう。そしてステラが魔力制御を習得出来ないと討伐するのは困難極まりないことになる。
大きすぎる魔力に魔物がビビって逃げてしまうからだ。
通常は2日かかる道のりを、俺達は1週間かけて町までたどり着いた。
その間に、ステラが魔力制御を習得することはなく進捗すらなかった。魔物とも戦うことが出来ずに町に着いてしまったので、不安が俺とロゼリーを縛り付ける。
この前までは依頼を楽しみにしていたロゼリーも、若干の不安は感じているようで、眉を時々ひそめていた。
「依頼、大丈夫かしら…」
「なんとかなるさ。俺達ならな」
「なにそれ笑。恥ずかしい」
乙女みたいな仕草をしながら、ロゼリーは俺の脇腹を殴ってきた。いてぇ……
「とりあえず、町長さんに会いに行こうか。依
頼はそれからだ」
俺達はまず、話を聞くために町長に会いに行くことにした。
町長なんて偉い人に果たして簡単に会えるのだろうか。
ましてや、膨大な魔力を放っている人間がいるからには、簡単に会えるはずもないだろう。
人間は個人差はあれど、誰しもが魔力を持ち、魔法を使って生活をしている。
魔法に触れる機会は十分にあるため、魔力を感じ取ることだって誰でも出来る。
ステラのような膨大な魔力を感じれば誰でも、怯えて逃げ出してしまうだろう。
その考えが的中しているのかは分からないが、
町中には誰一人として出歩いている人はいなかった。
これは非常によくない状況だ。なにせ、依頼を受けてドロンカゲの討伐に行きたいというのに、情報が何も無いというのは広い砂漠の中から、小さなカニを見つけるくらい難しい。
この町周辺を探し回って、討伐に動くのも一つの手だが、ただ数を減らすだけだと、時間が経てば魔物はまた増える。
根本から解決していかなければ、依頼達成とは言えない。
いつから増えているのか、それによってどんな被害が及んでいるのか、主に見かける場所などの情報はどうしても欲しい。
しかし、ステラを1人どこかに置き去りというのも問題だろう。
ステラは人間や魔物に対して恐怖心があるようだし、膨大な魔力を出していることで近づこうとする人間もきっといない。
それならまず最優先にすべきことは、ステラが魔力制御を出来るようになることだろう。
「ひとまず、町を出て野宿することにしよう。
しばらくは相手にしてくれる人が出てくるとは
思えないからね」
「う〜ん……なんか変よ、この町。相手にしてく
れないのはステラのせいじゃない気がする」
「そうだとしても、原因がわからないよ。無理 に押し掛けても迷惑としか思われないと思う
よ」
「それはそうだけどさあ……」
ロゼリーはなにか変な気配を町から感じているようで、町を出るまでキョロキョロと周りを警戒していた。
俺にはさっぱりわからん。獣人の野生の勘というやつだろうか。
「これからどうするつもりなの?セン」
「当分はステラの魔力制御が優先だな。それと
平行して、俺達なりにドロンカゲ討伐に向けて
動こう。ステラがある程度魔力制御をできるよ うになったら町に出向く。こんな感じかな」
「何回か町に出向いてもいい?な〜んか変な感
じがしてならないのよね」
「ご自由にどーぞどーぞ」
今後の方針を決め、星空の降る夜を明かす。
翌日からまたステラに魔力制御の教えをすることになった。
自分で少しは練習していたようで、以前と比べると明らかに魔力放出を抑えられているようだった。
それでも1.2割ってところだろう。
この少女の底が全くわからない。ステラを見ていると、まるで先の見えないトンネルを覗いているような感覚になる。
ステラが魔力制御をしている間、ロゼリーは町のほうに行って、感じた違和感とやらを確かめているようだった。
数日後、ステラはコツを掴んだのか100あった魔力を10ぐらいにするまでには魔力制御が上達した。
さすがに早すぎる。一般人だったらもう1ヶ月は掛かっていただろう。魔力操作にセンスがあるのかもしれない。まだ出会って1ヶ月にも満たないというのに。
ロゼリーは全く手がかりを見つけることが出来ず、何回も町に行ったようだが数人しか町人を見なかったという。
ドロンカゲの影響なのだろうか。
とりあえず当初の予定通り、ステラが魔力制御を出来るようになったので、町に入って町長と話すことにした。
「私が来た時には片手で数えられるくらいしか
見かけなかったから、家を虱潰しに探す方がい
いと思うわ」
「そんだけしか見つからなかったなら仕方ない
か…。順番に一戸一戸周ろうか」
「魔力で探せ…ないの…?」
「人がいるかどうかは分かるけど、初対面の人
の魔力は誰が誰だか分かんないんだよ」
「へぇ…」
魔力があるのはわかってもそれが誰のものかを当てるのはとても難しい。
ロゼリーの魔力がどれかを当てろと言われても俺には自信がない。
それほどに魔力で誰かを判別するのは難しいのだ。
一つ一つ丁寧に家を尋ねてみるがどこも反応がない。反応があったところもあったが、鋭い口調で「来ないでくれ。」と言われた。
ロゼリーがそれを聞いて「なんなのよ!」って騒いでたのは見なかったことにしよう…
「今日はこの家で最後にしよう。みんな疲れた だろうし」
「ほんとは町長も居留守つかってたんじゃな い?」
「その可能性もあるけど、考えないで希望を持
った方が楽だよ」
コン、コン、コンと3回扉をノックする。
返事がない。ここもダメか……。そう思い立ち去ろうとした時、「はーい」という老人の声が聞こえてきた。
間もなくしてドアが開いた。
ドアを開けたのは、人あたりの良さそうな、髭を生やして猫背なおじいさんだった。
「冒険者の方ですかな?依頼で来たのでしたら どうぞお上がりください」
「ありがとうございます。助かります」
そうして町長に会うことが出来て、俺達はドロンカゲについて尋ねることにした。
読んでくださった方ありがとうございます。
ブックマークや評価の方していただけると作者としてはありがたいです。
ドロンカゲに何が起こっているんでしょうか。
次話をお楽しみに〜