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第4話 星の子

 依頼を受けた夜、夜空には自分を見ろとでも言わんばかりに星々が輝きを放っていた。

 星夜を見ていると、俺なんてちっぽけで、なにもかも考えるのをやめてしまいそうになる。


「星、綺麗だね」


 ロゼリーはどこか寂しそうに星空を見ている。

 17年も住んでた故郷から出てきたんだ。

 そうなる気持ちもわかる。


「あ!流れ星だよ!綺麗〜」


「願い事、お願いしなくていいのか?」


「自分で叶えるからいいの」


 流れ星にしては丸く整っていて、輝きが1層強いのは、地上にいる俺達には知る術もない。


 翌朝、


「依頼楽しみだね!セン!」


 ロゼリーはとても依頼が楽しみだったようで、依頼の日になるとこの調子だ。17歳ではあるが、一応俺より1歳年上だ。


 依頼の場所はブリセンドを出て、だいたい2日ほど歩いたところにある小さな町だ。


 小さいといってもギルドなどの目立った建物が無いだけで、それなりに発展している。

 漁業が盛んな町らしい。


 受付の人による話だと、ドロンカゲが大量発生している影響で魚の収穫量が激減しているとのこと。深刻な状況になっているそうだ。


 ドロンカゲは四足歩行で手足は短く、その分素早く移動する。2m未満の大きさで、川や海の浅瀬などに生息している。

 泥のように茶色く濁った色をしていて、物理攻撃が効きづらい。


 ロゼリーには厳しい相手かもな。

 俺が頑張らなくちゃ。


 集団行動をするタイプでもないので、討伐は簡単に思える。


 とりあえずポーションやらを買い揃えて、太陽が真上に登りきる前にブリセンドを出発することにした。


「早く依頼やりたいな〜」


「なんでそんなにワクワクしてるんだ?」


「だって、楽しそうじゃん」


「え?それだけ?」


「それ以外になにがあるのよ」


 ほんとにそれだけなのかよ。

 俺が思っているよりも、ロゼリーという少女は幼いのかもしれない。


 道中では相変わらず魔物が出てきていた。

 護衛していたときと比べると、そこまで多いとは感じなかったが、ドロンカゲが何回か現れたことで、町は大丈夫なのか心配になった。


 ドロンカゲは物理攻撃は効きづらいが、全く効かないわけではない。ロゼリーは最初こそ苦戦していたものの、急所となる部分を見つけてからはすんなり倒すようになった。


 戦闘センスがわりとあるようで、怒らせないようにしようと心に決めることにした。


 途中でベックアーという、3mほどの巨体で二足歩行、全身が岩肌の熊のような魔物に遭遇した。


 ドロンカゲと同様に物理攻撃が効きづらく、攻撃力がかなり高い。が、機動力がないため、一方的に攻撃して倒すのが主流となっている。


 ロゼリーは息を上げながらベックアーを殴っていた。攻撃は一度も喰らっていないようで安心した。


「もう疲れたから、あとの魔物は頼んでいいか しら?」


「いいよ。おつかれ」


 ベックアーとの戦闘でかなり消耗したらしく、

 その後にでてきた魔物たちは俺がすべて処理する形になった。


「センはそんなに魔法を使って疲れないの?」


「俺は魔力量が多い方だからね。これくらいじゃ疲れたりしないよ」


 俺はその場その場で単発で魔法を使っているから、継続的に自身を強化して戦っているロゼリーに比べて魔力の減少はかなり少なかった。


 ちなみに、身体強化はそこまで魔力を食わないから常時展開していても丸々7日ぐらいは持つだろう。


 夜になると辺りは暗くなり、月明かりだけが綺麗に見える。

 この暗さでこれ以上進むのは危険だと判断し、木の麓で1日野宿することになった。


 ここら辺は草も高いため魔物に見つかりにくく、安全に過ごせそうだ。


「センは寝ないの?」


「完全に安全ってわけでもないから、交代で見

張りをしたほうがいいと思ってね」


「そう。じゃあ1時間したら起こして」


「ああ、わかった」


 そうやってロゼリーが眠りにつこうとしたとき

 サァァァと草を掻き分ける音が聞こえてくる。


 警戒は一気にMAXへ。

 ロゼリーも体を起こして戦闘態勢になっている。

 サァァァ、サァァァと音はこちらに向かって、段々大きくなっているようだった。


 氷の剣を創りいつでもかかってこい、そういうつもりでいた。

 しかし草むらから現れたのは、


 1人の少女だった──────────。



 ────目が覚めると、眩しい光が目に入ってきて思わず目を閉じてしまう。

 ここはどこなんだろう。辺りを見渡しても、草や木が生えているだけで、建物らしきものは見えない。


 そして自分を中心にして、大きなクレーターが地面に出来上がっていることに気づく。


 不思議と自分の服装に破れたり汚れたりといった外傷はなく、クレーターも岩や土が露出してボコボコしているだけではなく、そこかしこに青や白に光っている粒のようなものが見える。


 通りすがりに見たら思わず神秘的なその姿に見入ってしまうかもしれない。しかし、そんなことなど一切思うことが出来ない。


 なぜならクレーターの中心にいる人物は、ここがどこなのかも、何があったのかも、そして、自分が誰なのかも分からないのだから。


 中心にいたのは少女だった。幼すぎず大人すぎず。髪は淡い色のベージュで透き通った質感のあるロングストレート。

 瞳はすべてを見透かすことの出来るような綺麗な金色。


 しかし今の瞳には、戸惑いや不安などが混ざりこんで濁っているようにも見える。


 少女はたどたどしい足取りで地面を歩く。

 その弱々しい見た目とは裏腹に彼女から溢れ出る膨大な魔力は周囲の魔物を怯えさせ、誰も寄せ付けない結果を導いた。


「誰かいませんか……」


 声を出しても誰も来ない。魔物すらも。

 星が輝きを失っていくような、そんな不安が少女を絡んでいく。


 辺りが暗くなり月明かりが出てくると、彼女から夜空に映る星々のような美しくて、神秘的な魅力を感じることが出来る。


 しかしその魅力は、夜で凶暴化した魔物達を引き寄せることになる。


 少女は暗くなってもなお、歩みを止めない。

 誰かに助けを求めているように。


 暗闇を進み続ける。ただ1つの光を求めて。


 光が目の前に現れる。が、それは少女が求めているような光ではなかった。


 食べることに飢えたガブルフの紅くけたたましい目であった。


 少女はしばらく立ち止まったあと、我に戻ったのか急いで背を向けて走り出した。

 走る足は既に傷だらけで見ているだけで痛みを感じる。


 ガブルフは見つけた獲物が逃げているというのにかなり余裕そうだ。

 まるでいつでも仕留められると言わんほどに。


 少女の足は走る度に傷だらけになっていく。

 なにせ、なにも履いていないのだから。

 息を荒らげながら高い草の中を駆け抜けていく。


 そして草むらを抜けた先で2人の少年少女と出会うこととなった。──────────。


 ────草むらから膨大な魔力とともに現れたのは、少女だった。


 後ろからガブルフが何匹か出てきたので素早く処理に動く。夜で凶暴化していたが、俺らは視界に入っていなかったのか、簡単に倒すことが出来た。


 少女は震えていた。足は傷だらけで裸足だった。魔物を倒したあとも、周囲を不振な動きで見回している。


 彼女から溢れ出る膨大な魔力に、嫌でも息を呑んでしまう。

 この魔力は、なにか惹き込まれるような感覚に陥らせてくる。


 ロゼリーも警戒を解くつもりはないようで、じっと少女を見つめている。


「大丈夫か?」


 声をかけて手を差し伸べてみるが、その動作にすら怯えている。どうしたもんかな……


「立てる?名前は?」


 ロゼリーも声をかけてみてはいるが、怯えて震えている。ロゼリーも困っているようだ。


 しかし、このまま見捨てる訳にもいかないだろう。少女は傷だらけであったし、俺達以外の誰かと出会ったとしても、何か変わるとは思えない。


 どうするかをロゼリーと話していると、少女は口を開いて言葉を発した。


「……らない。わからない。何にも分からない」


 少女は記憶を失っているようだった。


 少女に治癒ポーションを使い、依頼は一旦置いといて、ブリせンドに戻るのが良いだろうと意見が一致した。


 気づいた頃には、少女は眠っていた。

 相当疲れていたのだろう。


 夜の間は予定通り、俺とロゼリーが交代で見張りをして過ごした。


 朝になっても少女はまだぐっすりと眠っている。まるで星の欠片とでも思えるくらいの美しさと、儚さを持ち合わせているように。


 ブリセンドへ戻る道のりは、なるべく魔物との戦闘を避けながら進んだ。

 それでも出会ってしまうことはあるので、その度に少女は恐怖していた。

 

 1日かかった道のりは、魔物を避けるだけでかなり短縮され、夕暮れにはブリセンドに戻ることが出来た。


「ひとまず今日は宿で寝て、明日からいろいろ手がかりになるものとかを探そう」


「そうね……。ねえ、あなたは私と一緒に寝ましょうか。1人は寂しいもの」


 ロゼリーが少女にそう言うと、小さく頷いた。


 翌日、街の人々やギルドに聞き込みをしたが、この少女について情報を持っているものはいなかった。


 ギルドで保護するという話も出たが、少女が首を横に振っていたので、断った。

 当分は俺達で面倒を見ることに決めた。


「名前ほんとにわからないのか?」


「わからない…ごめんなさい……」


「謝んなくていいよ。仕方がないことなんだか

ら」


 名前がないというのはとても不便だ。

 毎回「ねえ」などで呼ぶのはあまりにもかわいそうな気がする。


「名前、俺達がつけようか?」


「えっ、」


 少女は驚いた顔をしてしばらく沈黙したあと、「おねがいします……」と小さな声で頼んだ。


「名前なら私に任せて!」


「なんかそうやって自信ある人ほどろくなもの

つけないだろ」


「はあ!?あんたよりはセンスあるわよ!」


「じゃあ思いついたの言ってみ?」


「そうね……。ステラなんてどうかしら」


 こういうタイプでネーミングセンス意外とあるのかよ。


「いいね」


「でしょ〜。ねえあなたは今日からステラって

呼んでもいい?」


「ステラ……うん、それが…いい…」


 少女も納得のいく名前だったようだ。


 ステラ。星の擬人化のような少女は今日、ステラになった。


「とりあえず知りたいことはたくさんあるけ ど、依頼のほうもやらなくちゃだから、依頼の

町に行ってみてそこでも聞き込みをしよう」


「そうね。知っている人がいるといいわね」


 そんな会話をして、再び依頼へ足を向けるのであった。

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