第3話 ブリセンドへ
小さい頃から時々不思議な夢を見る。真っ白で何も無い空間であるはずなのに緊張感と絢爛さがひしひしと伝わってくる。
目の前には豪華な椅子に座っている老人。隣には決まって、黒いモヤがかかった人間がいる。その人との間には越えられない境界線のようなもので隔てられているように感じる。
いつも老人は言う。
「…任せたぞ」と。
美しくも感じ、おぞましくも感じるその夢は、いつもそれだけで終わってしまう。
関係があるかは分からないがこの夢を見る時はシンも同じ夢を見ている。双子だからだろうか。
今日もまたその夢を見た。
小さい頃から見ている夢だし、シンとの繋がりを感じれて安心できる。
目を覚ますと、ロゼリーが「おはよう」と声をかけてくる。彼女は意外にも、早起きらしい。
「ごはんできてるから食べちゃってね」
「ありがとう」
旅に出てからこんな朝を送っている。
ロゼリーに起こされて、朝食を食べる。
ルーティンが出来てしまっている。
食べ終わったあとはブリセンドを目指して森の中を歩いていく。
涼しい風が木々を吹き抜け、葉は揺れながら心地良い合唱をしている。
モンスターが出なさすぎて平和ボケしてしまいそうである。
村を出てから最初は、森の深い部分というのもあってガブルフがわんさか出てきて大変だった。
数日食糧には困らなかったけど。
そのせいもあってか余計ほのぼのしてしまう。
森の浅いところまで来て、段々と木の密度が減っていく。
道幅も心なしか広くなっている気がする。
「ねぇセン、ブリセンドについたらどうするの?」
「まずは、資金の確保のためにガブルフの素材 を売ってから、ギルドに入って仕事かな〜」
「え!ギルドに入るの!結構憧れだったんだよ ね〜」
ログルドがロゼリーも一緒に連れて行ってと頼んできたのはギルドに入るためだったのか?
すっげぇ喜んでるけど。
会話をして感情をだしながら歩くくらいには、ロゼリーとも仲良くなることができた。
俺が思っているよりもしっかりしていて、とても頼りになる。
一緒に来てもらえてよかった。
ついに森を抜けると草原が広がっていた。
一気に風が吹きつけてきて気持ちよかった。
「きもち───
「しっ」
声に出そうとしたらロゼリーに止められた。
「近くに魔物がいるわ。それも複数体」
彼女は鼻が利く。獣人はみんなそうなのだろうか。
「たすけてくれぇ〜!」
遠くから声が聞こえてきた。
どうやら魔物に襲われている人がいるっぽい。
「行くよセン」
「おう」
って言ったのにロゼリーはすごい勢いで魔物に突っ込んでいく。
俺も身体強化をしているはずなのに何だこの差は。ひどい。
俺が着く頃には魔物は蹴散らされ、ロゼリーが最後の1匹を倒すところだった。
「なんか前より速くなってないか?」
「あなたが教えてくれた身体強化と、そのおか
げで体が耐えれる力の限界が増えたの。この威 力を維持するのにはまだ慣れてないけどね。」
彼女は恐ろしいほどのポテンシャルを秘めている。今のままでも弱い魔物ぐらいだったら一撃で屠れるだろう。
「助けて頂きありがとうございます〜」
「いえいえ、当然のことですから」
感謝を述べてきたのは、整えられた髭に少し肉のついた体の商人だった。
運んでいる荷物の匂いで魔物が寄ってきてしまったという。
「では、お気をつけて」
「ま、待ってください。この道にいるというこ とはあなた方もブリセンドに向かっているので しょう?ならば、そこまで私を護衛してはもら えませんか?お金も支払わせていただきます」
「どうする?セン」
お金がもらえるなら正直ありがたい話だ。
でも個人的に商人があんまり好きじゃない。
口が達者でいつでも手のひらの上で転がされているような気持ちになる。
まあ、お金のためだ。仕方ない。
「もちろん、お受けしましょう」
それからというもの、かなり多くの魔物が襲ってきた。
傷も何度か負ったが、商人が出し惜しみせず
治癒ポーションを差し出してくれた。
この人は良い人なのかもな。
その夜、商人は自分の夢を語ってくれた。
「私は商人としてだいたい7年ほど働いていま
す。いつかその経験を活かして商人ギルドを作 れたらいいなと思っているんです。まだ遠いで すけどね…」
商人ギルドは大きい都市にこそあるが、それほど数があるわけではない。それに人を集めるのも維持するのも大変だろう。
だが、その夢が実現したら小さな村や町は非常に助かるだろう。
ぜひ、頑張って欲しいものだ。
翌日からも魔物は何度も襲ってきた。
しかし、ブリセンドに近づいているのか、昨日と比べて確実に魔物の数は減っているようだった。
それから2日ほど歩くとブリセンドが見えてきた。
すれ違う馬車の数が増えていく。
遠くからのブリセンドは華やかで高く聳える塔が特徴的だった。
ある程度大きい町のようで、門には通行証を確認する衛兵がいた。
俺ら通行証なんて持ってないやばい。と、焦っていると商人が上手く説明してくれたようで中に入ることができた。
通行証はギルドで発行できるとのこと。
行く予定があったしちょうどいい、発行しておこう。
「護衛をしてくれてありがとうございました。
またお会い出来ることを期待しています。では
また」
「はい、また今度」
商人と別れてからは暗くなってきていたので、宿を取ることにした。
次の日、俺達は予定通りガブルフの素材を売ってからギルドに向かうことにした。
ガブルフの素材は思っているよりもお金にならなくて残念だった。心なしかロゼリーも少しションボリしていたように思える。
「ギルドに行くか」と言うとロゼリーは元気になって、早く行こうと無邪気に笑う。
機嫌直りが早くて助かる。
期待の足取りと緊張の足取りが横並びで町を歩く。どうしても怖い人達がいたらどうしようと考えてしまう。
「大丈夫、大丈夫」とロゼリーは言うが、絡まれても助けないよ、ほんとに。
気付けばギルドの目の前に来ていた。
外からでも中が賑わっているのは、漏れて聞こえる声でわかった。
ギイィィとドアを開ける。
中にいた数人はこちらを見ていたがほとんどは気にしていないようだった。
「ギルドに登録をしたいんですけど」
「人数はおふたりですか?」
「そうです」
「では、この書類に必要事項を書いてください」
受付の人が丁寧な対応をしてくれる。
書類には、名前や年齢、今まで倒した魔物、希望するパーティー名を記載する欄が設けられていた。
この書類で最初のランクが決まるのだろう。
「パーティー名は後から決める方が多いので、 今急ぎで記入しなくても大丈夫ですよ」
特に考えてなかったしそれは助かる。
パーティー名以外を記入し終え、受付に渡す。
「ランクの判定には時間がかかりますので、中 のほうでお待ちください」
そう言われ、空いている席に腰をかける。
すると1人の冒険者が話しかけてきた。
「お前ら、年齢は?」
「16と17ですが」
「ガキは冒険者になろうとすんじゃねえ。冒険者を甘く見てると死ぬぞ」
「甘くなんて見てませんし、覚悟だってありま
す。そこら辺の冒険者よりもね」
「なかなか言うじゃねぇか。俺が試してやろ
う。腕出せや」
ロゼリーは輝いた目でギルド内を見回している。
人が絡まれてるって言うのに!
腕相撲の勝負を仕掛けられたがあまり自信はない。身体強化は冒険者にとっては当たり前だし、とれくらい強化できるかには個人差がある。
この人は結構ムキムキだし勝てる気がしない。
ぞろぞろと俺達とムキムキの周りに人だかりが出来ていく。目立ちたくなかったんだけどな。
「おい、準備はできたか?」
そう言われ、腕相撲の体勢になる。
誰かが掛け声をかけようとした時────
「その勝負、代わりに私がやってもいい?」
ロゼリーがそう言ってきた。
周りの巨躯な男達はマジかこの女と言わんばかりに大笑いする。
そんなに笑わないほうがいいと思う。
まあ、代わるけどさ。
「おいおい本気で言ってんのかこの女」
「ええ、本気よ。いいから早くやりましょ」
「泣いても知らねえからな」
周りにいる男の1人が掛け声をかける。
「レディー……ファイッ!」
勝負は一瞬だった。机は粉々になり、床にはヒビが入っている。
ここにいる全ての人が呆気にとられて、ただただ立ち尽くしている。
結果はロゼリーの圧勝。
固有魔法+身体強化+獣人という要素が揃えば勝てる者など少数になってくるだろう。
俺も勝てないし。
絡んできた男は驚いた様子を隠せずに未だ座り込んでいる。
どうしてくれんだよこの状況。
すると、受付の人が俺達のことを呼んでいたのが見えた。
よかった。この地獄みたいな空気から抜け出せる。そう思い、駆け足で受付に向かった。
「セン・シルヴァさん。ロゼリーさん。あなた達をEランク冒険者として登録します」
どんなランクでも仕事が受けられるならなんでもよかったからリアクションに困るな……
「Eランクから魔物の討伐依頼を受けることが出
来ますが、こちらで危険だと判断した場合はそ
の依頼の取り消しを図らせていただきます」
「分かりました。ありがとうございます」
魔物討伐ができるのはありがたい。
そっちのほうが簡単に感じられるし。
早速依頼を受けよう。
依頼の飾ってある掲示板の前に移動する。
結構数あるな…
「ねえセン!これなんかどう? ”大量発生しているドロンカゲの討伐”っていう依頼!」
「いいかもね。それにしようか」
依頼書を受付に持っていく。これは難しそうでもないし俺達なら受けられるはずだ。
「ドロンカゲの討伐依頼ですね。かしこまりま した。気を付けて行ってください」
無事、ギルド登録と依頼を受けることに成功した。
「とりあえず今日は休んで、明日から依頼の達成に向けて動くことにしよう」
「そうね。それがいいわ」
意見も揃って俺達は、依頼に向けて宿で休むことにした。
とりあえず書けるまで書いてみようと思います!
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