第28話 孤独な分かれ道
騎士団員と会話した以降、誰にも声をかけられることなくアジトに到着した。
静けさも相まって誰も寄せつけようとしない空気を感じられる。
「ここにステラがいるのね」
来るのが初めてのロゼリーはその雰囲気に気後れしている。
怪我のせいか少し顔色も悪くなってきている。
「気をつけろよ…どんな罠があるかわからないからな」
いつもより重くなっている足を動かし、アジトへと足を踏み入れた。
昨日と変わらず、剝き出しの岩肌は冷たい。
窮屈、息苦しさ、肌寒さが俺たち三人の全身を覆う。
抜け出したくなる気持ちを飲み込んで、ステラ救出へ。
「ねえ二人とも…奥見て」
ロゼリーに言われて前を見ても、暗い洞窟が見えるだけだ。
視力の良さの違いで見えないのだろう。
「俺たちにはまだ何にも見えないよ。何が見えたんだ?」
「罠かどうかはわからないけど…分かれ道があるわ」
昨日にはなかったものだ。流石にひとつくらいは仕掛けてるよな。
「道は何個だ?」
「三つよ」
ちょうど俺たちの数と同じだ。明らかに誘われている。
進むにつれ緊張感が増し、額からは嫌な汗が滲んできた。
「どうする?別々に進むか?」
徐々に近づき見えてきた分かれ道をどうするか悩む。
全員で行けば時間はかかるが勝率は上がるだろう。逆に一人一人別の道を行けば、時間短縮にはなるが危険が上がる。
「俺は同じ道に行ったほうがいいと思ってる」
「ダメよ」
横から食い気味で否定の言葉がかかる。
「それじゃあ万が一の可能性が高まるだけ。少しでも早く助けに行けた方がいいわ」
「その怪我で一人で戦いに行くのを俺が止めないって思ってるのか?それは危険すぎだ」
ロゼリーを失いたくないがために素直に通すことが出来ない。
それが向こうも同じなのは分かってる。ステラを失いたくないのは俺だってそうだ。でも、どうしても二人を失ったときのことを考えてしまう。俺はきっと耐えられない。
「二人とも落ち着け。どっちの気持ちも分かる…けど今はステラを優先すべきだ」
未だ冷静さを失っていないエウルが真剣な眼差しで訴えかけてくる。
「僕たちの元々の目的はステラを助けることだぞ。セン…ロゼリーは強い、だから大丈夫だ」
「エウルの言う通り私は強いわ。こんな怪我があってもへっちゃらよ」
笑顔で言葉をかけてくれているが、俺には苦い痛みの中で作ったハリボテにしか見えなかった。
「なら約束してくれ…危なくなったら迷わず逃げるって」
釘を刺す発言なのは重々承知だが、初めての仲間だ、こんなにも早く失いたくないんだ。
「心配性ね。私が戦いにくい状態なのは私が一番わかってる…だから約束するわ。四人でまた旅ができるように」
ロゼリーが小指と俺の小指が握り合い、約束を交わす。
すぐに敵を倒して駆けつけよう。俺が頑張ればいい話だ。
エウルと目配せをして頷き合う。
エウルに大きな怪我があるわけではないが、疲労が十分に取れていないはずだ。最大限に気をつけてもらおう。
「じゃあ二人とも気をつけて。危険な目に遭ったらすぐに魔力で合図しろよ」
「わかってる…そっちも気をつけろよ」
あまり気にしていなかったが、エウルに気をつけろよと言われ少し驚きがある。
思わず顔を見てしまうが、「なんだよ」とあしらわれてしまった。仲間意識を持ってもらえてるのは気持ちがいい。
「また後でね」
ロゼリーの言葉を最後に、それぞれが分かれ道へと進んで行った。
左からエウル、俺、ロゼリーの順だ。どこに誰が何が待ち構えているかはわからない。
ただ、苦しい戦いになるのは予想できていた。
一人になってからも二人を心配する気持ちが後を絶たない。
暗く、硬い岩肌が余計に不安な気持ちを助長させている。
「俺は俺の出来ることをやらないとな」
深く深呼吸をして覚悟を決める。心配のしすぎで俺が足を引っ張ったら本末転倒だ。
しっかりしなくちゃな。
こうなった以上、慎重もクソもありゃしない。ここからはスピード重視。暗い洞窟では足元が危ないが、そんなこと言ってられない。
風になる気持ちで身体強化を限界までし、走り出す。
焦りからなのかは定かではないが、昨日よりも道のりが長く感じられる。
いや、長くなっているのだろう。分かれ道を作れたんだ…ありえない話ではない。
走り始めてから体感40秒ほどが経過した。
目の前には開けた空間…広間が見え始めていた。
「やっと着いたか…」
乱れた息を整え、一歩踏み出す。
鋭い空気の中全身が強張っているが、気にしていられない。
ステラを助けた後は、すぐにロゼリーへ加勢しなければならないのだから。
広間、ましてやここへ来るまでの道中にも昨日見た機械は一つも見当たらない。
戦闘による損壊を恐れたのか、はたまたすでに用済みとなったのか。
どちらにせよここは潰しておかなければならない。誰かが同じ目に遭わないように。
広間には十分に光が行き届いておらず、全体的に暗い。
正直、地形の把握が満足にできていない現状ではここで戦いになるのは避けておきたい。
しかし――
「やっぱりいるよな」
広間の中央には剣を地面に突き立て、鎮座している人物が一人。
暗いせいでその顔を見ることは出来ない。だが、誰なのかはすぐに分かった。
「待っていたぞセン…」
俺の姿を確認するや否や立ち上がり、手にした剣をこちらに向けてきた。
見つめる目は冷たく、そこらに転がっているゴミを見ているようだ。
「お前はここで死ね」
「悪いけど目的を果たすまでには死ねねえなあ!」




