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第27話 モヤモヤするんですけど

 

 最後の作戦会議をした夜、俺たちは奇襲に備えて順番に睡眠をとることにした。


 敵戦力にもダメージは与えているから、向こうから攻めてくる可能性は少ないだろう。

 念には念を、だ。備えておいて損はない。


 交代で見張りをしながら無事朝を迎えることが出来た。

 市民にも見える形で戦闘をしてしまったためか、祈霊祭は前日ほど賑わってはいない。


 というか外に出てる市民の数が昨日に比べて少なすぎる。

 警戒心が強いのか、なにか呼びかけがあったのか。後者であれば俺たちが聞き逃したとは考えにくい。可能性が高いのは前者か。


「んん……おはよう。もう朝になったのね」


 ベッドで寝ていたロゼリーが目を覚ます。満足に寝られなかったのか、やや疲れが顔に出ているように思う。


「センあなた寝足りないでしょ。見張り交代するわ」


「ありがとう。でも俺はこのまま起きてるからロゼリーはまだ寝てていいぞ」


 体が固まった状態では全力が出しにくいからな。もう寝るわけにはいかない。


「そう、なら私も起きとくわ。朝になってるし」


 眠たい目を擦りながらロゼリーが立ち上がる。

 ほどけ始めた包帯の隙間から見える傷は、赤黒く痛々しい。


 昨日決めた話ではロゼリーも一緒に来ることになっているが、無理はさせたくない。安静にしていてほしい。

 これらが自分のエゴであることくらい分かっているが、これ以上仲間が危険な目に遭うのは嫌だ。


「そんな心配しなくても大丈夫よ。ステラを取り戻した後に、どこか大国に行って治してもらえばいいわ」


 そんなわかりやすく顔に出ていただろうか。

 今日が正念場だと言うのに、気を遣わせてばかりでは駄目だ。


 ロゼリーは微笑んで言ってくれてはいるが、自分の状態を一番理解してるのはロゼリー自身だ。

 俺が足枷にならないようしっかりしなければ。


「エウルも起こすか」


 座って壁に寄りかかりながら寝ているエウルの肩を揺さり起こす。


「なんだ……交代か」


「いや、もう朝になった。もう目覚ましといたほうがいいかと思ってな」


 眠っていた体勢が悪かったのか、体をほぐすように伸びをしている。


「いつ行く?」


 明確な段取りは決めたが、時刻を決めていなかったことにエウルの質問によって気づかされる。

 今すぐではこちらの準備不足もいいとこだ。なるべく体が疲れていない、かつ明るい時間のほうがいいだろう。


「正午にしよう。明るいうちの方が外に出た時に逃げやすい」


「わかった。それまでに万全な状態を作っとけばいいんだな」


 理解が早くて助かる。


 洗面所へ行っていたロゼリーにも時間を伝え、あとは待つだけ。

 少なかった都市の人々もちらほらと見えるようになってきている。


「でも昨日までに比べると少ないな…」


 ロゼリーが起きた頃よりは増えたが、それでも祭りの賑やかさを感じられるまでには程遠い。


 人が少ないと行動が目立つため非常に動きにくい。正午までに増えているといいが。


 〜〜


「じゃあいくか」


 時刻は正午。それぞれがコンディションを整え、いざ作戦へ。


 宿の入口の扉を開けると肌寒い風が吹き込んでくる。

 依然として人は少なく、賑わいは見られない。雰囲気は最悪だ。


「また刺客がくるかもだから気をつけて行きましょ」


 未だ仕掛けてくる気配のない相手に警戒はマックス。ロゼリーからはヒリヒリとした空気感が感じられる。


 アジトの場所は既に分かっているので、一直線にそこを目指して走り出す。

 人が少ないため走りやすいが、その分視線が多い。もし相手に監視されてるとしたら行動はバレバレだ。


「ロゼリー少しスピード下げろ。気持ちが早りすぎてるぞ」


 段々と速くなるロゼリーに対して注意する。


「ごめん……いろいろ考えてたら焦っちゃって」


「気持ちはすげえ分かるけど、ロゼリーは怪我してるんだ……抑えてくれ」


 速さも力も俺たちの中で一番強いのはロゼリーだ。だが今は怪我をしている。

 できるだけ魔力消費を少なくしたい今は、抑えてもらうしかないだろう。


「それにしても人が少なすぎないか? 騒動になったとはいえ警備の姿さえ見えないぞ」


「そうだな…相手が裏で何かしてるのかもな」


 していても俺たちが気づけることではないだろう。今更気づいたところで対処に時間は割けないし。


「それはちょーっと違うかな」


 ふと、聞き覚えのない声が聞こえる。

 警戒心が上がり、走らせていた足を止める。

 周りの建物を見ても、石造りの壁が並ぶだけで人影を見つけられない。


 どこからだ。見られていたことに全く気づけなかった。


「あんた誰?隠れてないで出てきなさい!」


 最初に声を発したのはロゼリーだった。

 敵意剥き出しの口調で見えざる相手へと話しかける。


「そんなおっかない声出さないでくれよー。別に俺はお前たちの敵ってわけじゃない。むしろ味方さ」


 胡散臭い喋り方のせいで余計に怪しい。

 だが、もし敵であるならばわざわざ話しかけずに奇襲を仕掛けるはず。


「なら姿見せたらどうだ。俺たちに用があるんだろ」


「用っていうほどの事じゃないんだけどねー」


 そう言って建物同士の間から姿を現したのは、紋様が刺繍された灰のローブを纏った男性。髪は短く、太陽のような色をしている。


「…っそのローブは聖魔騎士団…!」


 この都市に来てから一度遭遇しているエウルが男の格好に反応する。


「ピンポーン!まあ命令されて君たちのとこに来たわけじゃないから安心してよ」


 その笑顔はまさしく詐欺師のそれだ。ほんとにこんなやつが聖魔騎士団なのか疑問に思えてくる。


「安心できるかよ…ってか早く用件言ってくれ。こっちは急いでるんだ」


「そう睨むなってー…ただ、君たちが今の状況を理解してなかったから、それを伝えに来ただけさ」


「今の状況?」


 やはりなという風に頷き、人差し指をピンと立てる。

 そこで見えた指や腕はガッシリとしていて詐欺師ではなく騎士団の人間なんだと実感させられる。


 おそらく勝負を挑んでも勝てない。旅人と軍人では筋肉も魔法さえも鍛え方が違う。


「そう…君たちは異様な人の少なさに疑問を持っていただろう?その説明と注意喚起さ」


 説明はありがたいが、注意喚起をされるほど危険な状況下なのだろうか。

 そんな状況なら騎士団がどうにかして安全に動けるようにしてほしいが。


「君たちの考えでは、魔物を作っている黒幕がこの静寂を生み出したとしているようだけど…それは半分合ってて半分間違いだ」


「じゃあ誰がそうさせたんだ?」


 考えを否定され、すぐに回答を求めるのは些か抵抗があるが仕方ない。時間がないのだ。


「んー詳細を教えに来たつもりだけど…君たち魔物の件についていろいろと情報持ってそうだし、交換といこうか」


「はあ!?そっちから来たのになんでこっちが情報あげなきゃいけないのよ!」


 急な提案に驚きを隠せない。

 エウルから聞いていた話では、聖魔騎士団も魔物の件でガンザバーテに来たようだし情報を求めるのは当然とも言えるが。


「ロゼリーいいんだ…欲しい情報は分かる範囲で答えよう。でも、情報を先に出すのはそっちからだ」


 出された情報次第では、釣り合わない可能性が十分に考えられる。

 しかし、情報を提示して協力関係を結ぶことが出来れば、ステラをもっと安全に助けられるかもしれない。


「もちろんいいともー。じゃあ一つ目の情報を教えてあげよう…今人が少ないのは私たちが外に出ないよう促したから」


「なぜそうした?」


「君たちも知っている通り、今この都市の外では魔物が非常にたくさーん存在している。その種類は多種多様…中には小さいながらもドラゴンの姿が確認された」


 ドラゴン…ギルドの人も言っていたがここで出てくるとは。

 俺たちでは対処できないから騎士団がなんとかしてほしいところだ。


「そしてなにより、周りに存在していた魔物たちが一斉にガンザバーテに向かって動き出したんだよねー」


「それはまたどうして…」


「原因はわかんなーい…けど敵方に動きがあったのは確かさ。ほんとはここのギルドの人たちに警備してて欲しんだけどー…人手不足でね、外で一緒に戦ってもらってるのさ」


 なるほど…だから人が少なかったのか。

 魔物がこちらに向かって来ているのはきっと邪魔をされたくないからだ。


「…一旦こんなもんかなー。まだ情報はあるけど次は君たちの番だよ」


 目つきが変わり、獲物を逃がさんとする捕食者のような気概を感じる。

 少したじろぎながらも、こちらの情報を開示するに値する情報をくれたので応じることにした。


「俺たちが分かってるのは敵何人かの固有魔法とアジトの位置だ」


「固有魔法についての情報だけでいいよー」


 何を言い出すかと思えば、固有魔法だけ?

 たしかに、戦闘において相手の手の内を知っておくことは有利に立ち回れることに繋がる。


 こいつが何を考えているのか全く分からない。黒幕を捕まえたいなら、アジトの位置のほうが優先度は高いはずだ。


 まあいい。早く問答を終わらせよう。


「分かってるのは二人。一人は『記憶障害(メモリーショック)』何らかの記憶にモヤをかける魔法だ」


「ふむふむ…だからギルドの人たちは魔物の増加を知らなかったんですねー。もう一人は?」


「もう一人は『閃光(フラッシュ)』自身を中心に光を発する魔法だ。この光に殺傷能力はない」


 知っている相手の情報はこれで全部だ。ロゼリーが対峙したやつは結論が出ていないため今回はパスだ。


 情報を提示したことにより、騎士団の男性の目つきは柔らかくなり、再び詐欺師のような笑みに戻った。


「情報提供ありがとうございますー。では最後に私からの情報を伝えてお開きと致しましょう」


 長引かせたくはなかったため次で終わるのはありがたい。


「私は昨日から今にかけてあなた達をずっと見させてもらいました…なのでアジトの位置も知っていれば、あなた達の大まかな事情も理解してるつもりさ」


「…ッずっと見ていて手助けをしようとは思わなかったのか?」


 観察されていたことは驚きだが、それと同時に手を貸さなかったことに対して怒りが湧いてくる。

 手に力が入り、胸がいっぱいになる。


「思ってたよー…でも、君たちが敵か味方か分からなかった。だから見極めさせてもらってたのさ」


「たとえそうだとしても…何もせず見てるだけってのは騎士団の人間としてどうなんだよ」


「君は勘違いをしている。騎士団は誰でも助けるわけじゃない」


 は?こいつ何言ってんだ。国に仕える騎士団ってのはどこも人を助けるために作られたわけじゃないのか?


 予想外の発言に開いた口が塞がらない。

 しかし、俺の様子を気にすることなく言葉は続けられた。


「騎士団が助けるのは力無き民さ。自分で解決できる力を持っている人を助ける必要ないでしょう?君たちは強いよ…だからこそこのまま任せることにしたのさ。私たち騎士団は手が離せなくなったからね」


 そのまま俺たちの方へと近づいてきたと思えば、肩に手を乗せられた。


 任せたという意味なのだろうか。

 いやいやいや、何丸投げしてんだよ。俺たちはステラを助けたいだけで黒幕は最悪倒さなくてもいいと思ってたくらいなんですけど。


 はぁ?という顔で詐欺師を見たつもりだったが、慣れているのか笑みで返されそのまま去っていってしまった。


 モヤモヤを残された状態で逃げられると気分が悪い。

 それはロゼリーも同じなようで、顔が怖い。


「なんかあいつムカつくわ」


「僕も同感だな」


 エウルもムカついていたみたい。そりゃ一方的に終わらされたし当然か。


「あいつはいつか殴るとして…俺たちは俺たちのやるべき事に集中しよう」


「ええ…そうね。ステラのとこに行きましょう」


 晴れない気分のまま、作戦を再開した。


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