第26話 覚悟
ドアから顔を出したのは右腕を負傷しているロゼリーであった。
「無事でよかった」
フラつきながらベッドへ腰を下ろしたロゼリーが安堵の声をかける。
右腕の怪我も気になるが、全体的にも消耗は激しいようで、纏っている魔力も小さくなっている。
「ロゼリーも無事……ではないか。その右腕の怪我大丈夫なのか?」
「応急処置はしてもらったけど、しばらくの間治りそうにないわね」
負傷し包帯が巻かれた右腕を見ながら残念という風にロゼリーは肩を落とす。
ロゼリーがここまで怪我をするということは相当な実力者であった可能性が高い。
もし自分であれば命があったかどうか。考えるだけでも恐ろしい。
「してもらった? 誰かに診てもらったのか?」
ロゼリーの言葉に浮かんだ疑問を問う。
「そうよ、ボロボロになって倒れ込んでたところを優しいおばあさんが手当てしてくれてね。治りはしてないけど、基本的なことはしてくれたの」
「ずいぶん勇敢で親切なご老人がいたもんだな」
都市中で戦闘をしていたロゼリーの善悪が分かっていなかったはずであろうに、手当てをしてくれるとは相当である。
おかげさまでロゼリーはこうして動けているわけだが。
「手当してくれた人の事はまた今度聞くとして……お互い何があったか話す前に、エウルが戻ってくるのを待つか」
「エウルも無事なのね。一緒じゃなかったから不安だったけど、モヤが晴れたわ」
左腕で胸を撫で下ろし、一旦の安堵感に包まれる。
別行動をしだしてからはお互いにどうなったかは分かっていなかったため、相当心配していたらしい。
「ここからそう遠くないところにいるだろうからすぐ戻ってくるだろうな」
エウルには事前に合図を送れるように氷の蕾を付けておいた。蕾が開けばロゼリーを見つけた合図。蕾が割れれば敵襲の合図だ。
遠隔での操作になるため多少集中は必要だが、この都市内であれば問題なく使えるだろう。
「エウルだけってことはステラはまだ救い出せてないのね」
「ああ。相手の足元にも及ばないくらい俺の実力が足りなかったんだごめん…」
ロゼリーに悲しい顔をさせてしまった。
旅に犠牲は付き物とはよく言うが、それを見過ごせるほど俺たちは大人じゃない。
絶対にステラを助けよう。なんとしてでも。
〜〜
エウルが戻ってきた後、それぞれの状況を詳しく共有した。
「そんなことがあったのね…私たちに勝てるの…そんな相手」
「はっきり言って勝つのは無理だ」
そう、俺たちでは足元にも及ばない。こんなこと思いたくもないし、言いたくもないんだ。
「っじゃあ、ステラを見捨てるの? 私はそんなの反対よ!」
ベッドから勢いよく立ち上がり、俺とエウルを見下ろす。
少し息が荒げているのが気持ちの昂りなのか、消耗による疲れなのかは分からない。
しかし、これまでの短い間でロゼリーのステラに対する気持ちが大きいものになっていることは確かだった。
「見捨てるなんてそんなことできるかよ。今からすんのは逃げる準備じゃなくて、戦う準備だよ」
「そうだぞ。最後まで話を聞け」
俺たちもそんなつもりはなく、力強い言葉でロゼリーを安心させる。
エウルに目配せをして作戦会議を始めてもらう。
「敵のアジトは地下にあった。しかも一本道。先手を取りたくても絶対に取れない」
「違うとこから道を繋げられないの?」
当然出る疑問だ。先手を取りたいのなら別ルートを作ってしまえばいい。
でも、そうしたくてもできない理由があるんだよね。
「できないことはないけど、魔力消費を抑えておきたい。それに道掘ってる途中で確実にバレる」
「素直に入り口から入ったほうが、相手の攻撃も直線で分かりやすいしな」
変に相手に先制攻撃されるよりかはマシだろう。
探せば他の道もあるかもしれないが、今は時間がない。一人だけ異常な奴がいたからな。
「相手の勢力はさっき共有した通りだ。まだいるかもしれないが考え出したらきりがないからな」
「結局あいつはどうするんだエウル?」
聖魔騎士団の副団長にぶつけるとか言ってたけどどうするつもりなんだろうか。
全部ぶっちゃけて話したらこっちが捕まりそうなんだけど。
「言ってた通り聖魔騎士団の副団長にぶつける。アジトの中まで行ったら魔力を放出してこっちまで来てもらうだけだ」
「めっちゃシンプル…不安しかないわよ」
「告げ口でもすれば僕たちが疑われるのは目に見えてるからな。でも、来るまで僕たちが耐えられるかは別問題だ」
そう、これは一か八かの賭けだ。
初手から奴が俺たちを迎え撃てば、勝ち目はない。かといって無駄な問答で時間を浪費するわけにもいかない。
「でも、一つ引っかかったことがあるんだ」
「引っかかったこと?」
エウルが人差し指を立て、そこに視線が集まる。
「ああ。僕たち二人が奴と遭遇した時、力の差は歴然だった。それを奴が理解しなかったはずがない」
「つまり何が言いたいのよ」
結論から聞きたそうなロゼリーがエウルを急かす。
「つまり、奴はビリルたちとは別勢力、仲間じゃないんじゃないか」
「それは希望的観測すぎるんじゃないかしら」
ありえないと言わんばかりにロゼリーの声が部屋に響き渡る。
「あくまで引っかかったことだ。予想と変わらない」
「大事な時に変な考え増やさないでよ。戦いづらくなるわ」
ふんっといった感じにロゼリーが顔をそらす。
というか…
「ロゼリーお前戦うつもりなのか? その傷じゃ死ににいくようなもんだろ」
「そうだけど…。このまま何もしないで待ってるより、助けに行って死んだほうが後悔しないのよ」
そういうロゼリーの目は次こそはという覚悟に染まっていた。
そういえばロゼリーの固有魔法の「活性化」って麻痺毒の進行を速めてたよな。
なら怪我の治りを早くすることもできるんじゃないだろうか。
「なあ『活性化』使えば怪我治せるんじゃないのか?」
浮かんだ疑問を聞いてみる。
治せるのであれば戦力は増えて、勝率が上がる。
「治せるときもあるわ」
「治せるときも?」
返ってきたのは曖昧な回答だ。
ロゼリーの「活性化」は運任せの魔法だとは到底思えないが。
「正確に言えば、どんな怪我をしてるのかが分かれば治すことができるの。でも、今回の怪我は骨も筋肉もぐちゃぐちゃだから、治せないのよ」
「じゃあ治癒魔法使える人に会わないと完璧に治すのは難しいんじゃないか?」
「そうね……それまではこのまま生活するしかないと思うわ」
元々治せるのであれば、俺たちと合流する前に治していたはずであった。
ただ苦い現状を再確認させたような質問をしたことに申し訳のない気持ちが募る。
「わるいロゼリー」
「気にしないわそんなの。今は回復に努めて、一秒でも早くステラのとこにいきましょう」
「ああそうだな」
俺が励まされた感じがしてなんとも惨めな気持ちになる。
俺はダメだな。いつも誰かに励ましてもらってばっかりで。
そんな人たちを俺は大切にしなくては。
「じゃあ作戦の最終確認するぞ」
エウルがパンッと手を叩き作戦の振り返りを行う。
「突入は正面から。敵と遭遇し次第、威圧、副団長へのメッセージを込めて魔力を高める。もし、なんらかの方法で分断されても焦らず目の前の敵に集中すること」
「わかったわ」
ロゼリーが返事すると同時にエウルディスが立ち上がり、
「最後にステラを助けて作戦終了だ」
改めて目標を告げるのだった。




