第23話 始まりは変わらない
ガンザバーテの一層から続く地下への洞窟。冷たく重い空気の中、足を進めると見えてくるのは用途の分からない機械ばかり。
これでどう魔物を作り出すのかは使用者にしか分からないだろう。
そこからも道は続き右奥へ。
不確かな足場を踏みしめながら、現状打破への一歩は確実に歩む。
敵の数が未知数な以上、生きてここを出られるかもステラを連れて行けるかも分からない。しかし、足を止めて引き返すことなんて絶対にありえない。
「絶対に助けてやる」
前を向きながら決意を言葉にする。
変わらない景色を淡々と進み続け、ようやく人の声が聞こえてきた。
「めんどくさくなったからぁ戻ってきちゃったぁ……ダメ?」
「はぁ……お前はもう少しこの計画に対してやる気を見せたらどうなんだ? もし万が一阻止されたら、次のチャンスは一年後だぞ」
どちらの声もセンにとって聞いたことのある声だった。先に聞こえてきた女性の声は、先程襲撃してきた内の一人だ。その声に呆れ混じりに返答しているのはギルドで出会った──
「ビリル……」
やはり関与していたかという気持ちで目を細める。
ここまで一本の道を歩いていたため、不意打ちなどの奇襲はかけられない。真っ向から対峙して連れ出す方法しか今のセンには思い付かない。
「あらぁもう来たのぉ? 思ったよりも早かったねぇ」
思わず口にした名前に女性の方が口端を上げながら反応する。やっと面白くなってきたとでも言わんばかりに微笑む。
「誰かさんがここだと言わんばかりに強調してくれてたもんでな……」
女性を見てから部屋の奥へと視線を移す。瞳に映ったのは椅子に座らされている少女。命までは奪われていないようで安堵の声が漏れる。
「よかった。今連れ出してやるからな」
「この状況でか?」
センの言葉に噛み付いたのはステラではなく、ビリルだった。
「ギルドにいた時にも言ったはずだ、俺たちの邪魔をするなら死んでもらうと。敵陣の中心部分まで入ってきて逃げられると思っているのか?」
「逃げてやるよ…ステラと一緒にな」
既に怒りが昇りつめているであろうビリルに、目を逸らさずにはっきりと告げる。
ビリルの固有魔法は未だに不明であるため迂闊に近づけない。ステラの前に立ち塞がるようにしてビリルが剣を構える。
「ギルドの時みたいに小細工で小刀でも投げてくるかと思ったけど、剣を構えるとはね」
「本職は冒険者だからな。もちろん小細工が嫌いなわけじゃない、むしろ好きさ」
ビリルはこちらを獲物を狩るかのような目つきで睨みつけ、腰を低くして踏み込みの姿勢になっている。
いつでも殺りに踏み込むし、いつでも来いと言わんばかりの沈黙がしばらく流れ、その姿勢を貫くビリルに警戒が高まっていく。
「このままこうしてても進まないよな……そんじゃ、こっちから仕掛けさせてもらいますよッ」
姿勢を低くすると同時に氷の剣を頭上に五本創り出す。金属よりも冷たく鋭い剣先をビリルに向け、放つ。
胴体、両手、両足に放たれた氷剣は脅威ともならずに構えられた剣によって打ち砕かれる。
「剣を型どってる割には脆いな」
造形する速さを優先すると硬さが伴わない。反対に硬さを優先すれば造形速度は遅くなってしまう。
それでも一定以上の硬さは伴うくらいには魔法が上達していると思っていた。
「まだ準備運動の段階だからなっ」
造形の脆さを口にするビリルの背後に、天井ギリギリのサイズの氷兵を創る。創られると同時に手に持った戦鎚を大きく掬うように振り、ビリルを吹き飛ばす。
「これで倒れてくれれば楽なんだけどな」
吹き飛ばされた方向へ視線を向けながら呟く。
ここですべきは倒すことではなく、ステラを救出すること。障害となる敵を時間をかけて倒さなくても、無事連れて帰ればセン達の勝ちだ。
「ま、そううまくはいかないよな……」
吹き飛ばされた勢いで壁へと衝突し、パラパラと岩が崩れ落ちていく中から顔を出すのは、首を鳴らすビリルの姿。
「ってか見てないで手伝ったらどうだライカ」
「しょうがないなぁ」
ライカと呼ばれた女性は懐から短剣を抜き、
「じゃあここからはぁ二対一ってことになるわねぇ」
不敵な笑みを浮かべながら言葉にするのだった。
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洞窟の冷えた空気がセンの魔法によってさらに冷たくなる。
冷えている原因であるセンに影響は無いが、ビリルとライカには寒さによる影響が出始めていた。
「僕はどうすればいい……」
影に潜みながらエウルディスは傍観していた。
今か今かと機を伺っているがなかなかタイミングが掴めない。
二対一の状況ならば自分も出るべきだと頭では分かっていても、入り込める隙がない。
入り込めたとしても邪魔になってしまうことが分かりきっているのも大きい。そう思ってしまうほどにセン・シルヴァという男は強かった。
上段左上からの斬撃に宙に創った氷盾で受け、左に流す。簡単に壊されてしまうのなら、その力を受けずに流せばいい。
「はあぁぁぁっ!」
斬撃を流されながらも、すぐさま下から上へと振り上げるようにビリルが剣を振るう。
反撃を許さないように果敢に攻める。が、その攻撃はビリルの身体にめり込むセンの蹴りによって途切れてしまう。
「───ッが」
吹き飛ばされつつも剣を地面に突き立てて、壁との衝突を防ぐ。
追撃をしようとセンは踏み込もうとするがそれは後ろからの短剣による攻撃によって不発に終わる。
「わたしのこと忘れないでよねぇ」
首を狙った横薙ぎに身を屈め、氷のガントレットを履いた右腕で腹部目掛けてストレートを繰り出す。
ひらりとセンの左手側に回転しながら避け、右手から左手へと短剣を持ち替え逆手で左肩に突き刺す。
「くっ……」
刺される寸前に氷盾を間に挟んだおかげで深くは刺さらなかったが、血が服に滲み、ジワジワと左肩に痛みが募っていく。
ライカは飛び退いて距離を取り、懐から短剣をもう一つ取り出す。
それに乗じて吹き飛ばされていたビリルが後ろから斬りつけることを試みるが地面から生えてきた氷壁によって拒まれる。
「二対一じゃステラを連れ出す余裕がねえな」
肩の痛みに顔を顰めながら、刺さっている短剣を抜き傷口を氷で塞ぐ。
ビリルとの間を隔てる氷壁を崩され、状況は正面をライカに背後をビリルに挟まれるような立ち位置に。
ステラは未だ目を覚まさずビリルの後ろでぐったりとしている。
「目覚ましてくれれば、少しは楽になるんだけどな」
「少々荒い真似をしたんでな、じきに目は覚めるだろう。だが、それがこの状況を打破するとは思えないがな」
センの言葉に反応したビリルがそう口にする。
センも影に潜むエウルディスもそれがなにを意味した言葉なのか分からずに首を傾げる。
「お前……ステラになんかしたのか?」
「俺の口から言うことは何も無い。そこの少女の目が覚めたら聞いてみるといい」
その挑発めいた発言にエウルディスは飛び出しそうになるが、それは一瞬で冷え込んだ空気に止められた。否、止めざるを得なかった。
「もし、手出してるってんなら俺は容赦しないぞ」
魔力と共に憤怒の念を露わにするセンによってその場の空気が飲み込まれたからだった。
両手に冷気を漂わせながら、振り返りビリルと向き合う。
睨みつけられるビリルは一瞬気後れながらも剣を握り、目の前の敵を打ち砕かんと踏み込む。先程とは比べ物にならないほどの速度でセンとの距離を縮めていく。
「力隠してたのかよっ」
想像以上の速度を出すビリルに回避を強いられてしまう。右に体を避けるも反応が遅れたため、大きな隙を晒してしまう。
「もらった!」
その隙をビリルが見逃すはずもなく、隙だらけのセンの左脇腹目掛けて斬撃を────
「……あ……れ」
ビリルは握っていた剣を落として地面に座り込む。急な出来事に頭が追いつかず、その場に立ち尽くしてしまう。
そして、その沈黙を打ち破ったのは一人の声だった。
「セン!ステラは確保した、ここから逃げるぞ!」
ステラを抱え目標であったステラ奪還を伝えるのは灰色の髪色をした男だった。
「エウル!いつからいたんだ?」
「それはステラを連れ出した後だ。今はここから逃げることが最優先!」
湧いてきた疑問を口にするセンに現状で優先すべきを声を張って伝える。
わざわざ声を張る必要はなかったが、その方が必死さが伝わると思っての行動だ。
「お…まえ……何を……した?」
「麻痺してもらっただけだ、じきに解ける」
ビリルは麻痺毒の影響でうまく呂律が回らないようで言葉はタジタジだ。
この部屋までは一本道だったこともあり、来た道を戻るためにステラを抱えたエウルディスとセンは走り出す。
「逃がさないわぁ」
そうはさせまいとライカは入口の前に立ち固有魔法を発動する。
「っまずい、エウル!目閉じろ」
ライカの固有魔法 《閃光》を警戒しエウルに伝えるも、時すでに遅し。
眩い光が洞窟内を満遍なく照らしていく。一度喰らえば対処法など目を瞑るだけで事足りるが初見ではどうにもならない。
「目がぁ……」
一度喰らったセンはともかく、初見であるエウルディスはそれに該当しない。
眩しい光を直視してしまい視界が奪われ、抱えていたステラが地面に転がる。
かろうじてエウルディスのおかげで今警戒すべきはライカ一人だけ。ライカを倒せば逃げに余裕が出てくる。
センと身長が同じくらいの氷兵を四体創り、手数での短期決戦を狙う。
「手荒になるけど恨まないでくれよ。時間かけてられないんだ」
「そんなに簡単に抜けられると思わないでぇ」
創り出した氷兵は剣を持つ兵と弓兵が二ずつ。剣兵を援護する形で矢が放たれる。それを体を右に少しずらして避け、右手に持つ短剣で砕かれる。
矢に続く剣兵も速さについていけずに砕かれる。ライカの勢いを止めることすら出来ず、弓兵も倒されてしまう。
「──────ぁ」
瞬間、センは圧倒されていた。しかしそれは目の前のライカではない。ライカも圧倒されているのだ。強大な魔力に。
そしてそれはセンにとっては感じたことのある魔力だった。
「ステラ……目覚めたのか?」
視界を奪われたエウルディスから転げた少女は地面に座り込み目を開け、口をわなわなと震えさせている。
「いきなりでびっくりさせたな、俺が時間稼いどくからエウル連れて先出ててくれ」
目が覚めて状況が読み込めていないだろうが、すぐに行動に移してくれるだろうと思い、目の前の敵に集中しようとする。
魔力制御をしていないことには驚いたが今はそれを指摘している暇もない。
少女の返事も待たずに創り出した剣を構えて道を作ろうとする。
「あ…あなたたちは……だれ……ですか…?」
そう少女が口にするまでは。




