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第16話 開祭

 

「おーいエウルー!」


 辺りが暗くなった頃に合流地点へとロゼリーと共に向かうと、既にエウルとステラの二人はそこに着いていた。


 しかしこの都市に着いた時ほどの気力は二人にはないようで、あんなにはしゃいでいたステラも今は萎んでいるように思える。


「寝床探してから何か分かったこと、気づいたことについて話し合おう」


 俺の言葉でひとまず宿へ行くことにした。


 見つけた宿はガンザバーテにある住宅と同じように石造りで、寝る時には体が痛くなってしまうのではとも思ったが、いざ部屋に入ると、壁や床は木の板でコーティングされているようだった。


 寝床の確保が済んだ俺達は、横並びになっているベッドの間で、俺の正面にロゼリーとステラがベッドに座り、左手側にエウルが椅子に座って手に入れた情報について話をすることにした。


「まずは俺とロゼリーが入手した情報について話す。といっても確実なものじゃないんだけどな。」


 その言葉を発してから、今日起きたことを思い浮かべ、その事象から推測出来ることも話す。


「ガンザバーテの中央に行った時、ビリルという男の冒険者がこの都市について色々教えてくれたんだ。そして何個か質問をさせてもらって最後に魔物の増加のことを聞いたんだ」


 不確実な情報だが、今思い返してみても、質問しただけで切りかかってくるなんて、なにか関係しているとしか思えない。


「聞いた途端に表情が一気に変わって俺達に襲いかかってきたんだ。その後はギルドにいたアーリアっていう冒険者に抑えられてその場は一旦収まったんだけど、ふとした瞬間にギルドから逃げ出したんだ」


「怪しいな……」


 今の話を聞いて、エウルはそいつ黒だろというふうに反応した。

 俺も黒だとは考えていたので、意見の合致は心強い。


「私達もギルド出て追いかけてたんだけど、うまく撒かれちゃったのよね」


「まあこんな入り組んだ都市じゃ仕方ないだろ。そのビリルって奴もきっとこれから仕掛けてくるだろうし、また見つけられる」


 エウルの言う通り、俺達が魔物の増加について嗅ぎ回っていることが敵に知られてしまった今、近いうちに向こうからアクションは起こしてくるだろう。

 警戒して過ごさなくては。


「次は僕達が手に入れた情報だな。正直なところ、これを知ったらもうこの件には関わらなくていいと思った。」


「それはなんでだ?」


 机の上の蝋燭の火が揺らめき、一瞬の静寂を嗤う。


「フラーマ王国冥の明星副団長のインジェニス・フィーメルがガンザバーテに来ている」


 俺とロゼリーは驚いた表情で思わず聞き返してしまった。

 フラーマ王国...五大国の一つで最も戦力を保持していると言われている国だ。なんでそんなとこの副団長が...


「その副団長が来てるからってこの件から手を引く理由にはならなくないか?」


 いくら強い人間がいるからと言って魔物増加がなくなるなんて考えられないし、抑えられたとしてもそれは副団長がこの都市にいる時だけで一時的なものにしかなり得ない。


「最後まで話は聞けよセン。その副団長に話しかけられてな、魔物の増加について聞かれたんだ。これが理由だ」


「そんなでかい国のとこが出るくらい深刻な問題になってんのか……」


 五大国の一つが原因の解明、事件の解決へと走っているのならば、俺達のようなそこらの旅人が首を突っ込む話ではなくなってくる。


「……そうだな、この件は聖魔騎士団に任せよう。俺達は明日から始まる、祈霊祭を楽しむことにしよう」


「ほんとですか!嬉しいです!お祭り楽しみです!」


 ベッドの上で跳ねながらステラは明日から始まる祭りを楽しめることになって大喜びだ。

 変な事件に巻き込まれて怖い思いをするよりも、楽しく祭りを過ごせるほうが比べるまでもないが。


「じゃ話はまとまったみたいだし、今日はもう寝ましょうか」


 部屋にある二つのベッドは、一つをステラとロゼリーが共に使用し、もう一つはエウルが使った。俺はと言うと、部屋にはソファもあったのでそちらで寝ることにし夜を明かした。





「おはよ〜……」


 目を覚ますといつも通り最後に起きたのは俺のようで、既に皆は出かける準備が出来ているようだった。


「みんな早いな、そんな楽しみにしてたのか」


「あんたが遅いだけよ。私達はいつも通りの時間に起きてるだけ」


 ロゼリーから棘のある言葉を飛ばされながら、体を起こして出られる準備をし始める。

 荷物まとめて持つもの持って出るだけなんだけどね。


「あれ?ステラとエウルは?」


「もう出たわ。ステラが朝から大はしゃぎでエウルのこと叩き起して連れ出して行ったわ」


 ガンザバーテに来てからエウルがずっと振り回されてるような気がするが……まあいっか。


「ロゼリーは一緒に行かなかったんだな」


「敵襲の可能性がある中で一人で行動するってのもどうかと思ったのよ。センのことはあまり心配してないけれど、万が一があるから」


 ロゼリーの言う通り敵襲が絶対にない訳では無い。複数人相手にするとなれば不利になるのは当然。一人で行動するよりはよっぽどいいだろう。


「優しいんだなロゼリーは」


「私が育ってきた環境を考えれば、その優しさってのは当然みたいなものよ」


 そう言うロゼリーの顔はどこか寂しさを感じるように思えた。


 そうこうしているうちに準備を終え、宿を出て祭りに出向くことにした。


「すっごいな」


 宿を出るとガンザバーテという都市一帯が色を帯びたように、活気に満ち溢れていた。


 昨日とは比べものにならないぐらい道には人が行き交い、どこを歩いても人が居ないところは見つからない。

 出店も出ていて、子どもは走ってはしゃいでいる。


「これが祈霊祭……思っていたより大々的な祭りのようね」


 ロゼリーも賑やかなのは好きなようで、自然と頬が緩んでいる。


「なんか食べるか」


 朝起きてから何も口にしていなかったため、お腹はペコペコだ。

 出店は沢山あるし、食べ歩きするのも今日くらいはいいだろう。


 石造りの地面を歩きながら、出店で買ったハムレットを食べる。

 パンとパンで肉と野菜を挟んだものだ。


「こっちでもこういう食べ物があるのね」


「何か言ったか?」


「美味しいって言ったのよ」


 ボソッと呟いていたのでよく聞き取れなかったが、そんな短い言葉じゃなかった気がする。まあいっか。


 他にもいろんな出店を巡りながら祭りを楽しむ。石造りの都市は全体的に灰色だが、今だけはオレンジや黄色など明るく思えるようだ。


 やっと宿のあった八層部分を一回りし、一段下へと降りたとき、聞いたことのある声が聞こえてきた。


「そこをさ一本オマケしてくれよ〜未来への投資だと思ってさ」


 肉が四つほど串に刺さった食べ物を提供している出店の前で、誰かが可愛らしく店主のおじさんにねだっている。


「あ!おふたりさーん!昨日ぶりだなー!」


 こちらに手を振っている。やめてくれそんなみっともなくねだるような奴の知り合いだなんて思われたくない。


「よく見たらアーリアじゃない。こんな所で何してるのよみっともない」


 出会って早々に言うね〜ロゼリーさん。

 言われたアーリアも少し恥ずかしそうに頭を撫でている。


「いやね、この店の料理が美味しいから一本オマケしてもらおうとしてただけなんだよ〜」


「それがみっともないんだよっ」


 まるで普通ですよね?とでも言うように自分の状況を説明してきたせいでツッコまざるをえない。


「ってかビリルのやつはどうなったんだ?あのあと捕まえられたのか?」


「いいや?上手く撒かれたよ」


「そっか……あいつギルドにも顔出さなかったんだよな。数日顔出さないことはよくあるんだけど、悪いことしたらいつも謝りに戻ってくんだよ。だから戻ってこないの少し心配なんだよな」


 初対面であんなことされたから勘違いしていたが、根は優しいやつのようだ。そりゃギルドメンバーから心配もされるな。


「今日からは祭りなんだし、ビリルもきっと顔出してくるわよ。だから楽しみましょ」


「それもそうだな。よぉーし今日は食べるぞー!」


 アーリアが意気込んだと同時にゴォォーーンと鐘の音が鳴った。


「なんかあったのか?」


「いやいや、これが祈霊祭のはじまりの合図さ」


「そうだったのか……今から始まるのか祈霊祭が」


 ガンザバーテに鳴り響く鐘の音は、祭りの開祭を告げる賑やかな象徴のようだが、その音の低さが少し不気味さを感じさせた。

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