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第15話 インジェニス・フィーメル

 

 刃を振りかざしてくるビリルに対して魔法を放つ体勢に移る。

 あんまり事は荒立てたくはないが、向こうから仕掛けられたのなら仕方あるまい。手短に済ませよう。


 ギルドには大勢の冒険者がいるため、創り出す氷柱の数は最小限に抑え、創り出した三つの氷柱をビリルへと向ける。


「だめだやめろ!」


 そう言ってアーリアはビリルへ飛びつき、地面へと落ちる。

 アーリアの勢いが強かったため、想像以上の砂埃が宙へ舞う。


「何してんだよビリル!急にどうしちまったんだ」


 抑え込まれたビリルは抵抗する気を見せる様子はなく、自分の中で考えていることに答えを出すように沈黙している。


 しばらくの沈黙の後、ビリルは我に戻ったかのように「すまん」の一言を呟いた。そして、辺りを見渡し自分の行動でどのようになったのかを把握したかと思えば気まずいと感じたのか、逃げるようにギルドを去っていった。


「ロゼリー、追うぞ」


 魔物増加についての話を出してからビリルはあの行動を取り出していた。つまり、彼は何らかの情報を持っているかもしれない。もしくは彼が主犯の可能性もある。


 俺達はビリルの後を追って、颯爽とギルドを後にした。


〜〜


「なんで僕がこいつと一緒にいなきゃならないんだ...」


 エウルははしゃいでいる少女を見ながら呟いた。旅に加わったものの、イマイチ距離を感じることが多く過ごしているエウルは、なにかと仲良くなろうと距離を詰めてくる少女を不思議に思っていた。


「おいあんま離れんなよ。迷子にでもなったら見つけられる気がしないからな」


「わかりました!あ、あっちのお店美味しい匂いがしますよ!こっちはかっこいい武器がいっぱいです!」


 知らない事ばかりのステラにとってはどれも新鮮ですぐに興味を持ってしまい、目を離せば一瞬で見失ってしまいそうと思ってしまう。


 そんな重役を背負っているため、肩の荷が重く感じると思っていたが、少女の無邪気な笑顔を見ていると、のしかかってくる重さなど気にする必要も無いくらいに感じない。


 近くにあった石畳の上に腰を下ろして、しばらくの間恒星のように眩しい少女を眺めることにした。


「どうしたんですか?疲れちゃいましたか?」


 自分が座ったのを見てか、ステラは心配そうに駆け寄ってきた。


「大丈夫だ。心配しなくていい。ただ座りたくなっただけだ」


 自分にとっての優しい顔をして返事をするが、前の世界でも不器用だった身からすれば、上手くできているとは思えない。

 ステラの心配そうな顔は変わらなかったし。


「もう他のとこは見なくていいのか?」


 セン達と別れてから、最初に見たいと言った建物に向かい、それを見た後もいくつか寄り道はしているためそろそろ合流しても良い頃だろうと考えていた。


「だいぶ日も落ちてきてますし、二人に心配されちゃうので」


 まだ遊び足りないけど仕方ない。そんな顔をしながら少女は言う。


 名前、出身地共に不明、そして記憶のない自分の立場を考えての行動だろうか。

 俺もそんなふうに行動出来ていたら違ったかもしれない。そうやって他の世界のことを考えているうちは何にも成し遂げられる気はしない。


 考える度に重くなってくる腰を上げて、合流しようと足を前に出して歩き出そうとする。


「ねぇエウル、あの人達なんだろう?」


 不意に袖を引っ張られステラが指さす先には、同じローブを纏った集団が闊歩していた。


 ガンザバーテ出身の者ではない、外部の人間だ。どこぞの国の騎士団かなにかだろう。それも相当な発展国の。


 そう思わせるのは騎士団の先頭を歩いている男から感じる強者の雰囲気。片眼鏡を左目にかけ、瑠璃色の長い髪をしながら、他の騎士団員とは一風変わったローブを身に付けている。


「これは関わらない方が良さそうだな。ステラ余計なことするんじゃないぞ」


 敵対心など全くない。しかし、何を持ってして彼らの怒りに触れるかは分からない。

 何もせず過ごすことが今は最大にできることだ。


「合流をいそぐ───


 瞬間、背筋が凍りつくほどの殺気を感じた。否、殺気ではないがこちらを見る視線があまりにも鋭いためそのように感じてしまう。


 こちらを見ているのは十中八九あの騎士団の先頭を歩いていた男だ。


 何故こちらを見ている?何故歩みを止めている?思考はぐるぐるといつも以上に円滑に動くが、体はピクリとも動かない。まるで足が泥濘にでもハマっているみたいに。


 カツコツと歩き出したかと思えば、音は段々と大きくなりこちらへ近づいてきている。


「少し話を聞きたいんだが...少しいいか?」


 重圧感のある声で長髪の男が話しかけてくる。翡翠色の目は全てを見透かしているようにこちらを覗いている。


「何が聞きたい」


 溢れ出る強者感に、思わず警戒が高まり睨みつけるように応答する。


「おや、これは失礼。少々怖がらせてしまったようだ…すまない。私の名はインジェニス・フィーメル、フラーマ王国聖魔騎士団『宵の明星』副団長だ」


 フラーマ王国...聞いたことがある。五大国の一つで最も力の強い騎士団を持つと言われている国だ。

 そんな国の副団長が何故この都市に。


「聞きたいことと言っても君はこの都市の人間ではないようだから、答えられなくても仕方あるまい」


「その聞きたいことはなんだ?」


 名乗って素性を知ったとしても警戒は解けない。というか名乗られたことでより警戒が深まったように感じる。


 インジェニスは穏やかな目つきから一変し、犯罪者でも見るかのようにエウルに問いた。


「魔物の増加について何か知っていることはあるか?」


〜〜


「くっそ見失ったか……」


 ビリルかギルドを出た後、追うようにギルドを飛び出したが、旅人と地元民じゃこの入り組んだ都市で追いつけるはずもなく上手く巻かれてしまった。


「でも逃げ出したってことは、今回の騒動に少なくとも関係はしているってことよね」


 息を切らしながら、ビリルの行方について考える。この都市から出られてしまったら追いようがないし、この都市に居たとしても探し出すのは相当骨がいることだろう。


「関わってる奴がいた。それだけで充分な情報だ。とりあえず日も暮れてきてるし、エウル達と合流してこの情報を共有するぞ」


 この都市に来て一日で関連人物を見つけられたのは相当な進捗だ。エウル達は情報は持っていないだろうが、都市について少しは知れているだろう。


 少し急ぎ足気味で合流へと急ぐのだった。

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