第14話 祈霊祭
ドアを開けると、数多の視線がこちらへ向けられた。新規を歓迎するような視線や疎ましく思うような視線など様々だ。
といってもこのギルドに入るつもりはないので必要以上に気にすることはない。
聞き込み調査ができればそれでいいし。
「まず聞くとしたら……まあ、受付の人にだよな」
石造りのギルドの中を見回しながら受付に近付いていく。ギルドの中には石で出来た柱が、ドアを開けて受付への道の左右を飾るように配置されている。
そのせいもあってか重々しく感じてしまうのは俺だけだろうか。
しかし、一度俺達に向けた視線の主達は何事も無かったかのように、その仲間と会話をしていたりと和んでいるようにも思えてくる。
「なあアンタたち、他所から来たのか?」
もう少しで受付に着くすんでのところで声をかけられた。
ギルドに入ったら絡まれるのって絶対なのかな?怖い思いしたくないんだけど……
「そんな嫌な顔すんなよ!別に力比べしようってわけじゃねぇんだ。何用で来たのか気になっちまってさ」
俺そんな顔に出てたのか……もっと感情を隠せるようにしとかないとな。
俺達に話しかけてきたのは、短髪で褐色肌の女だ。身につけている装備を見る限りでは、いかにもインファイト型ですと言わんばかりにガントレットを装着している。
装着する必要は無いのでは?とも思ったが指摘しないことにした。
「ここに来たのはいくつか気になることがあってな」
「へぇ……気になることね。言ってみろよ。答えれることは答えるぜ」
「ああ頼む…と言いたいところだがさすがに話が俺たちにとって美味すぎる。さては答えたあとでなにか要求するつもりだな?」
冒険者は他人のために行動する奴よりも自己の利益を求めた行動をする奴が多いからな。
自分から話しかけてきたしこいつも自己の利益を優先する奴だろう。
「え?そんなつもりはないぜ。ただ、ここらじゃ見ない顔だったから色々親切してやろうと思ってよっ」
まっ眩しい〜。普通に良い奴だとは思わなんだ。善意で話しかけに来てくれていたとは。冒険者も捨てたもんじゃないな。
「じゃ遠慮なく質問させてもらおうかな」
「どんとこーい」
最初に魔物が大量発生していることについて聞いてもいいが、まずはこの都市について聞くべきだな。賑やかなのも気になるし。
「この町……ガンザバーテはどういうところなんだ?」
「う〜ん……どういう町なんだ?」
えぇ……。もしかしてこいつ何にも考えずに普段生活でもしてんのか?そうじゃないと自分から質問に答えるって言って答えられないのは納得が行きませんよ。
「はぁ……アーリア、俺が相手するから引っ込んどけ」
「ビリルぅなんで出てくんだよ〜私が相手してたのにぃー」
アーリアと呼ばれる女が応答出来ていなかったのを見かねて、黒髪で片目を隠した一人の男が話に入ってきた。
「質問していいぜとか言っといて答えられてないのはあまりに酷くてな。俺が代わりにやってやるよ」
「はぁ!?たまたま答えられなかっただけですー」
女は小学生みたいな反論をしている。こりゃビリルとやらに頼んだほうが良さそうだな。
「悪いなお二人さん。こいつの代わりに俺が答えるよ。ガンザバーテは岩崖都市って呼ばれててな、外から攻撃しづらいようにここに建てたみたいなんだ」
「みたい?ってのはどういうことだ?」
「この話はあくまで本を読んで知ったもんだから、本当かどうかは分からないんだ。別に嘘でも構わないけどな」
その本によるとガンザバーテは過去に戦争をすることがあった、ということだろうか。
都市も入り組んだ構造をしていたし、本当に戦争に備えて設計されているのかもしれない。
「じゃあ次の質問。都市全体が賑やかなのはなんでだ?なにか祝い事でもあるのか?」
「祝い事というより、今は祈霊祭っていうのが明日から三日間あるからだな。毎年開かれてる祭りだけど、亡くなった人の魂がこの地に降りてくるって信じられていて、その人達を迎える意味があるみたいだ」
俺の周りだと亡くなっているのは母と妹ぐらいだろうか。もしかしたら会えたり……なんてな。
「で、その祈霊祭とやらではなにかする感じ?」
母達のことを思い出すと悲しい気持ちになってくるため、すかさず質問を挟む。感傷的になってる姿なんて誰でも見せたいものじゃないからな。
「毎年やってるのは、屋台だったり花火だったり、あとは最後に行灯を空に上げてるな」
内容としてはそれなりにあるようだ。三日間もあるのならそれぐらいあっても当然っちゃ当然だけど。
「質問はこれで全部か?まだ聞きたいことがあるようだったら答えるけど」
「ああ、最後に一つだけいいか?ここら周辺で起きてる魔物の大量発生についてなにか知ってることはないか?」
これがメインの質問だ。ガンザバーテへ向かう途中から明らかに魔物の数は多くなっていった。しかし、ガンザバーテの手前近くに迫るとその数は極端に減った。これが意味しているのは、おそらく、この都市に原因かあるということ。
答え方によっちゃ都市の人が黒の可能性も無くはないがかなり低いだろうな。
このギルドの人達もきっと魔物の増加に手を焼いている人でいっぱいだろう。
ビリルは質問を聞いて少し黙ってから口を開こうとした。そのとき────
「なんだそれ?そんなの聞いたことないぞ」
俺らの対応を先んじて出たアーリアがその一言を放った。
「「は?」」
思わず俺もロゼリーも驚愕してしまう。
「いやいやいや、聞いたことないわけないだろ!この都市の近くで起こってることだぞ?ましてやギルドにいて知らないことはないだろ」
ありえない。ありえてほしくない。今までにないくらい事実を追求するように脳が飢えている。
どういうことだ、こんなに近くで起こっていることを知らないことがあるのだろうか。いや、魔法ならばありえてしまう。何者かが情報を遮断しているのかもしれない。この人達を疑うのはその後だ。
「ほんとに知らないって。聞いたこともないし、ギルドの依頼にもそんなのあった覚えはないぞ」
だが、情報を求める俺達に告げられるのは無知の言葉のみ。いきなりの手詰まりに投げ出してしまいたい気持ちになる。
いや、俺達のほうに情報は無いだけでエウル達がなにか情報を入手しているかもしれない。それを願おう。
「そっか……悪かったな少し熱くなっちまって」
「気にしてねーよ。こっちも悪かったな期待に応えられなくてよ」
アーリアはどこか申し訳なさげな顔をして言う。本当になにも知らないのだろう。嘘をつけるようなタイプには思えないしな。
聞きたかったことは聞いたのでとりあえずエウル達と合流すべくギルドを後にしようとした。
「ビリル?具合でも悪いのか?さっきからだんまりしちまってよ」
黒髪で片目を隠した男は、俺が最後の質問をしてから黙ったままだ。
アーリアが口を開いていたから喋らなかったのだと思っていたが違うのだろうか。
「……大丈夫だ、悪いないらない心配かけさせて。お前らそれを聞いてどうするつもりだ?」
俯いた顔を上げて、先程までの穏やかな雰囲気とは一変し、鋭い目つきで俺たちへと質問が投げられる。
「なにって……原因潰すに決まってんだ───
俺が言葉を言い切る前に、ビリルは俺に向かって小型のナイフを二本投擲してきた。
もちろん俺が反応出来るはずもなく、ロゼリーがナイフに反応し、一歩踏み出してナイフを左右に弾き飛ばす。
流石ですロゼリーさん……
アーリアも他のギルドの人間もいきなりのことに理解が追いついていないようで、しばらく硬直している。
弾き飛ばされたナイフが床に刺さると同時に、ビリルは俺たちに向かって走り出し、中型の刀を取り出して振りかざしてくる。
「失せろおおお!!」