第9話 勇気の出し方
私は自分が分からない。
自分がどこで生まれ、誰に育てられたのか。
そして、本当に人間なのか。
気付いたら1人だった時、不安でしかなかった。
怖くて怖くてたまらなかった。でも、センとロゼリーの2人に出会って、自分はできるんだって気持ちが和らいでいっていたのに……
あの大きい魔物に遭遇したとき、何も出来なかった。たまらなく怖かった。
今でもそう、この空間に入って、誰かも分からない敵が殺しにきている状況がとても怖い。
でも、どこか安心してた。きっとこの2人ならどんな敵にも勝てるって、そう思ってた。
私はなにも考えてなかったんだ。任せれば大丈夫だと思って、2人にずっと頼ってた。
そのせいで、2人は殺されそうになってる。
私のことをずっと気にかけながら戦っているから。
ならば私は何をすればいいだろうか。
そんなことわかってる。一緒に戦うんだ。
ここで動かなくちゃ、絶対後悔する。
魔法を、魔物を倒していたときのように、手のひらに集め……られない。
怖くて…体が震えて魔力が分散していく。
これじゃなんの役にも立てない。
小さな魔力の塊が敵意図せず敵に飛んでいく。
魔物に放った時ほどの威力とは天と地ほどの差を感じられるほどに微弱だ。
殺意のこもった視線が、ナイフのような切れ味を持って全身に刺さる。
今にも逃げ出したい。でも、そんなことは出来ない。いや、したくない。
ここで逃げたら今までと同じだ。
変わらなくちゃ。2人のために。
「ステラッ!」
「───っえ?」
気付けば、自分の背後から敵が出てきているところだった。死ぬ───そう思った。
しかし、敵が自分に向けて振りかざされた剣は、小さな氷の壁によって防がれた。
「こんぐらいの小ささなら魔法も出せるみたい
だな!」
「僕の邪魔をするなっ!」
そして、再び振りかざされた剣は、敵と共に吹き飛ぶ。
「私のことも忘れてもらっちゃ困るわ!」
「なぜ動けてるんだ!まだ麻痺毒は抜け切って
いないはずだ!」
「それはね、私の固有魔法︎︎ ︎︎"︎︎︎︎ ︎︎活性化 ︎︎"︎︎で麻痺の
時間を短縮したのよ。正確に言うと、麻痺を活
性化させて効果時間を早く終わらせたんだけど
ね」
「どいつもこいつも…諦めの悪い顔しやがって!
大人しく死ねよ!僕の邪魔をするなよ!」
ただ声を荒らげているだけじゃない。私にはわかる。不安なんだ。怖いんだ。
怖いから、それを壊そうとする。
怖がり方は違えど、感じていることは同じ。
きっと分かり合える、直感だけど、必ず。
「ステラどでかい一発頼めるか?」
「はいっ!」
直々に頼まれた。信頼…とまではまだいっていなくても、この期待には応えたい。
私がこれからもこの人達といられるように。
私が私でいられるように。
目を閉じて集中する。
手のひらに魔力を集めていく。さっきまでの震えは止まり、今はただ魔力に身を任せる。
ああ、なんて心地いいんだろう。
こんな閉じきった空間なのに、今は日向ぼっこでもしているかのように感じる。
魔力が今まで以上に高まっていく。
今にも溢れそう魔力は、一切の波風を立てない湖面のように静かだ。
目を開いてみると、目が奪われるほど綺麗な魔力の塊が、今にも爆発しそうに手のひらに集まっている。
今までにもこうやってできたはずだ。でも、できなかった、やらなかったのは勇気がなかったから。
今は違う。勇気を貰えた。期待を貰えた。
ならば、今こそその勇気を確かめるときだ。
敵はロゼリーと互角に渡り合っている。
剣は捨て、己の拳で戦っているのだ。吹き飛ばし、吹き飛ばされ、それでも倒れはしない。
隙を見ては、影に潜り私の首を狙って攻撃へ転じる。しかしセンがそれを許さない。
足を狙った攻撃も、胴を狙った攻撃もすべて、難しい魔力制御のなかで防いでくれている。
私は恵まれ者だなあ。
自分でも自分のことがわからないうえに、ずっと足を引っ張ってばっかりで、迷惑かけて、何にも出来ないのに手を差し伸べてくれて。
私はこの人達のように手を差し伸べられる人になりたい。もう遅いのかもしれないけど、手を差し伸べてあげたい。この気持ちに嘘は無いから。
『星に憧れ、星に願いを乞う者よ。天から降りし僥倖をしかと見届け、祈り続けよ。願星』
放った魔法は流れ星のように軌道を描き、オーロラのように世界一を煌びやかに彩らせた。
────パアァァァン
敵に直撃した直後、私たちを閉じ込めていた黒い空間は消え去り、先程までいた町の景色に戻っていた。
町の景色の中に敵が倒れ込んでいる。
さっきまで襲ってきていた敵だ。すぐに起き上がってまた殺しにかかってくるかもしれない。
でも、私は手を差し伸べると決めたから。
しっかりとした足取りで、敵に近づく。
意識はまだあるようだ。
「あなたの過去はわからないし、そこで負った
傷がどれほどあなたを苦しめているのかも分か らないけれど、私は、あなたと分かり合えると
思うの。だから…一緒に行きませんか?」
「お前、バカなのか?僕はお前を、お前達を殺
そうとしてたんだぞ。そんなやつを誘うか?」
「誘うよ。話したいって思ったから」
「そうかよ」
私は変われただろうか。いや、根本的に見れば変わりないままだろう。それでもいい。
あの人達への1歩を踏み出せたのならそれで。
少し短めになってしまいましたが読んでください!
ブックマークや評価のほうよろしくお願いします。
コメントでもいいよ。
次話出るの待っててね〜