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7) 戦争について

(火星授業記録その12)


 それでは次に、国際連邦に大きく関係する「戦争」について考えてみましょう。

 Gさん、戦争ってどんなことでしょうか?


――えーと...その、国と国が戦うことですか?


 そうですね。基本的にはそういうことですね。

 みなさんのタブレットに「戦争」の定義が表示されています。


 ~ディスプレイ表示内容~

  戦争の定義

   狭義:国家同士が紛争解決の手段として武力を使って戦うこと

   広義:紛争状態にある民族、国家、政治的団体などの間で、主に武力を行使して

行われる闘争


「紛争」というのは争いごとのことです。「闘争」とは戦いのことです。


 狭義と広義で戦争の定義のどこがちがっていますか? Hさん。


――そうですね。狭義では戦争を行うのは国家だけですが、広義では国家だけではないように書かれています。


 その通りです。典型的な戦争は国家と国家の間で行われますが、必ずしも国家間で行われるものではない戦争も存在します。

 たとえば、国を持たない民族が、自分たちの国を立ち上げ、それを認めさせるために行われる戦争があります。そのような戦争を「独立戦争」といいます。

 ひとつの国の中で宗教や民族が異なる人たちが、お互いに争う形で行われる戦争もあります。そのようなものはしばしば「内戦」や「内乱」という呼び方をされます。


 他に狭義と広義でちがいはありませんか? Iさん。


――...あの、広義のほうでは、武力ということばの前に「主に」と書かれているのが気になるのですけれど。


 いいところに気がつきました。「主に」と書かれている意味は、戦争は武力のみでもって戦われるものではない、つまり武器をもって戦うのだけが戦争ではない、ということです。経済の力、技術の力、情報の力、思想や宗教の力、など、その国と国民が持つありとあらゆる力が、戦争を行うために必要とされるのです。

「総力戦」とよばれる戦争の、そのような側面が如実になったのは20世紀になってからです。人類が二度の世界大戦を経験した世紀です。


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「ずいぶん熱心ですね、ヒカリ」とアカネが声をかける。

「そう。息子が受けた授業の記録なの。たぶん」

「息子さん、マモルさんでしたっけ。火星ではお元気にされていますか?」

「ありがとう、元気にやってるみたい」


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(火星授業記録その13)


――質問です。


 はい、Jさん、どうぞ。


――テロリズムは戦争ですか?


 テロリズムについては、あとで戦争の歴史のところでふれるつもりでしたが...せっかくなのでここで説明しましょう。

「テロリズムは戦争か」という質問は、とてもむつかしい質問です。

 そもそも「テロリズム」の定義がむつかしいのです。あえて簡潔に説明した定義を紹介しますと、


 ~ディスプレイ表示内容~

  何らかの政治的、宗教的または思想的な目的を達成するために、特に民間人に対して、

暴力や脅迫を用いること


ということになります。

 たとえば多くの人が集まる場所に爆弾をしかけて、爆破させるのが「爆弾テロ」といわれるものです。また、重要なコンピューターシステムにネット上で攻撃をしかけてシステムを動かなくさせてしまうのが「サイバーテロ」といわれています。

 テロリズム自体は通常、国家ではない組織や個人が行うもので、戦争とは区別して考えるべきだと思います。

 ただし、テロリズムが戦争のきっかけとなることもありますし、戦争を進める中でテロリズムが作戦の一環として行われることもあります。

 ですからテロリズムには戦争と深く関係している面がある、ということになるでしょう。

 こんな説明でよろしいでしょうか、Jさん。


――はい、よくわかりました。ありがとうございます。


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 ひょっとするといまの質問、マモルの質問だったんじゃないかしら。いや、なんとなくそう思っただけ。


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(火星授業記録その14)


 戦争の原因は大きく分けて2つあると考えます。


 ひとつは経済的な利益の対立によるもの、です。

「経済的な利益の対立」ってどういうことだと思いますか。Kさん。


――ええと...なにかお金に関することでしょうか?


 そうですね。本質的にはそういうことです。


 たとえば、多くの場合戦争は、領土をめぐって戦われます。領土を増やすことでどういう利益が得られるでしょうか?


――その土地に、金とかダイヤモンドとかが埋まっていたら、その土地を手に入れることでそれらも自分のものになります。


 そうですね。鉱物資源がその土地にあれば、それらを獲得することができます。

 みなさんが食べる物は、すべて居住区の工場で生産されますが、もともとは、地球の土地に植えて育った野菜や、その土地に放し飼いしたりその土地でとれた餌で育てた動物などが食べ物になっていました。領海やその周囲でとれた魚なども重要な食べ物でした。

 このように、領土が増えると食料も多く手に入れることができるようになります。

 そして、増えた領土のうえに住んでいる住民も、逃げ出さない限りは自分たちのものになります。その住民、国民ということになるのですが、彼らの様々な経済活動、例えば日用品や家具を作ったりすれば、そういったものも領土の獲得とともに手に入れたことになります。

 これらの手に入れることになるものすべてについて、お金を尺度にして測ったものが「経済的な利益」です。


 実際には自由主義の経済で財産の私有、つまり自分の力で手に入れた財産は自分のものであることが認められている体制の場合、国民の経済活動で得られる食料、日用品・家具といったものが必ずしもそのまま直接国家のものとなるわけではありません。

 しかしそういった経済活動の結果国民が手にいれたお金などの財産について、国家は一定のルールで税金という形でその一部を集めることができます。国民からの税金は国家にとって重要で直接的な「経済的利益」となります。

 また国民の財産も含めた財産の合計が、その国家の全体としての経済的な力をあらわすことになります。

 こうして、領土に関する全体としての「経済的な利益」をめぐって国家と国家の間に対立がおこったことが、歴史上多くの戦争の原因となってきました。


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 わたしも「食べ物はすべて工場で生産されるもの」と思っているひとり。

生命いのちみなもとたる大地」って言葉を聞いたことがあるけれど、まさにそういうことなのね。

 おっと脱線気味、ちゃんと授業についてかなくっちゃ。


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