表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/26

21) こどもたちの気持ち

(火星授業記録その29)


 24人のみなさん、それぞれレフュージからまず月に向けてスペースプレーン型のシャトル便で向かいましたよね。それから、いったん月の居住区に下りたってしばらく月で過ごしてから火星向けの便に乗った人と、シャトル便から月の上空で火星向けの船に直接乗り移った人とがいると思います。

 たぶんみなさんのほとんどは2287年、地球と火星が最接近するタイミングに行われた「大移動」のときに火星に来たのだと思いますが、いかがでしょう。そうだという人、手をあげてください...


 はい、24人のうち22人の人がそのタイミングに来たようですね。

 シャトル便の定員は約100人から最大で約500人とまちまちで、特に「大移動」の時には、とにかく大量の人を運ぶのにひっきりなしに地球・月間を往復しました。

 一方、月から火星に向かう船は、ほとんどが正六角形の大きな「自力航行型居住モジュール」というものです。月から火星に向けて航行している間は定員約2000人の宇宙船で、火星に着いたあとはそのまま居住区の一部となりました。覚えてられるでしょうか、火星に着くといったん仮着陸をしたあと、他のモジュールとパズルのように組み込んでいきましたですね。

 この正六角形を組み合わせてできる形を「ハニカム構造」といいます。こうやって大きな居住区を安定した形で作ることになりました。


――発言してもよろしいですか?


 はい、どうぞ。Uさんは地球出身ですよね。


――ネオ・シャンハイからきました。


 言いたいこと、自由におっしゃってください。


――なんか、カテゴリのこととか、ぼくたちが地球から火星まで来たことについて、とても簡単な、ありふれたことのように言われてしまっているようで...なんというか...とても違和感があるんですけれど。


 ...よろしければ続けてください。


――父や母、兄や妹や祖父母やともだちと別れて、ひとり月に向かう船に乗ったときの不安や悲しみは、今でも忘れることができません。


 ...

 

――父、母、兄、妹、祖父母、そしてともだちもみんな、ネオ・シャンハイでケアされました...


 ...


――(涙声)ぼくはひとりぼっちです。


 ...


――...すみません。授業中だというのに泣いたりして。


 いいの...いいんですよ。私が、もっとみなさんの気持ちを汲んでお話をするべきでした。

 これから、まだまだみなさんにとってつらいお話をしなければなりません。どうか、なんでも発言してください。泣きたければ我慢しないで泣いてください。

 地球から来たみなさんのつらいこと、不安なこと、悲しいこと...。そのすべてが加わって、今日の授業がさらに意味のあるものになるのです。

 こればかりは、火星生まれの私からはお話ができることではありませんから。


――ありがとうございます。少し気持ちが落ち着きました。


---------------------------------------------


 マモルのことを考えて、いたたまれなくなった。


「マモル、どうかミユキちゃんと仲良くしてね。友達たくさんできるといいね。今度担任になるニシノ先生、いい先生のようね。いろいろ相談にのってもらいなさい。それと、月にはアーウィンのおじさまもいらっしゃるからね」


 MATESでテキストメッセージをマモルあて送った。


「あなたはけっして『ひとり』ではないのよ」


---------------------------------------------


(火星授業記録その30)


 さて、火星で人類は3ヶ所に分かれて住んでいます。


 火星の最初の有人基地はメラス・カズマに作られました。それからカセイ渓谷とエオス・カズマに有人基地が作られ、火星上の人類の拠点は3ヶ所になりました。

 その後、恒久居住区が基地を囲む形で設置され、さきほどお話しした通り第四次世界大戦までに火星の人口は100万ほどまで増加しました。そこにマオのインパクトによる移住者500万が加わり、火星上の人口は600万を超えることとなります。

 3つの基地の周囲に設置された居住区の集まりを「居住区群」と呼びます。居住区群ごとの人口はタブレット上に表示されています。


~ディスプレイ表示内容~

 火星総人口      約610万人

 うちメラス居住区群  約350万人

   カセイ居住区群  約150万人

   エオス居住区群  約110万人

    ※火星への移住途上の者も含む。


 私たち火星第1382居住区の住民は、メラス居住区群約350万人の一員ということになります。

 今回の大規模な移住にともなって、必要な社会基盤、つまり住民が生活するために必要な設備や仕組みが急いで整備されました。なかでも重視されたのが、医療機関と教育機関でした。

 医療機関としては、まず居住モジュールごとに、24時間対応のAI医療ユニットが設置され、定期的に人間のスタッフが巡回する形となっています。そして8つの居住モジュールと1つのコアで構成される居住区ごとに1ヶ所の割合で、総合ホスピタルが設置されています。

 また教育機関として、プライマリースクールとミドルスクールが居住モジュールごとに、ハイスクールが居住区ごとに2~3校設置されています。アカデミーは、以前はメラス本部とそのサテライト・スクールが30ありましたが、今回の大幅な人口増にともなって、メラス本部を第1から第3までの3つの本部に分割、そしてカセイとエオスに独立した本部が開設され、あわせて5つの本部、サテライト・スクールも合計180に増えました。

 これらの医療・教育施設の運営は、もとから火星にいたスタッフに加えて、地球から移ってきた多くのスタッフが加わって、協力してあたっています。


 ここで休憩をとります。


(休憩)


---------------------------------------------


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ