街灯の幽玄
仕事帰りの私は乗用車のライトが流れる大通りへ、歩道橋から飛び下りようとする女の子を引き止めた。
話しにくい悩みや助けて欲しい事、命を投げだすほど困っているなら相談してみたらと命を守る相談ダイヤルの名刺を渡す。
夜に沈むが歩道橋の上、街灯に照らされる下に立つ制服の少女。
その顔に濃い影がかかっている。
すると彼女は名刺を暗い瞳で見つめて言った。
『電話したくらいでどこまで助けてくれるワケ? 悩みを解決して生きる希望をくれるの? ちょっと期待させるだけでしょ? もしかしたら生きていけるかもって。苦しみが延びるだけじゃん? 正直、あたしは信じてない』
足元をトラックが潜り抜ける音が夜に轟々と響く。
『その場しのぎの解決で、どうせ死ぬ時期を少しだけ遅らせるだけでしょ? 一時的にしか効かないエナジードリンクと同じ』
恨む様な口調でそう言った女の子とはその日以来会ってはいないが、ずっと『死の先延ばし』という言葉が心に引っかかったまま、実際に目の当たりにした言葉に否定出来なかった私はまだ仕事を続けている。
例え彼女の言うとおり少しだけ命と苦しみを先延ばしにするだけでも、そのちょっと伸びた時間で少しでも良い思い出を多く作って欲しかった。
だから私はまだ仕事を辞める気は無い。
『話して相談して楽になるとかないって、解決できないけど一緒に悩んで考えることは出来るって何? このまま見逃してくれた方が楽になるし、限界の時に殺してくれる覚悟もないなら止めて欲しくない。死を先延ばしにされる苦しみって辛いんだよ』
それでも今日もまたモニターに着信が知らされ、SNSに書き込まれたメッセージに目を通す。
『死ぬのを止めるなら、殺してくれる覚悟もして欲しいな。無闇に助けて命を救うなら』
例え先延ばしが真実だとしても、生きる意味を見つけられる可能性が零でない限り、苦しみの先延ばしでも足掻かせたいという考えは変わらない。
了