パラサイト
結局、アヤから強要された優斗は、翌日、半信半疑のまま競馬場に出かけると、ぶつぶつ言いながら菊花賞で6-4を1万円買い、あっという間に120万円を手にした。
「す、すごいですね、驚きました」優斗が目を見開くと
「こんなことで驚かないでよ、すぐに出かけるわよ」アヤが彼を急かした。
「ど、どこに行くんですか?」
「だいたい、着ている服がダサいわよ、スーツだってよれよれだしね、とりあえず身だしなみを何とかしないと……」
夕暮れの街に出かけた彼の横にはアヤがいたが、誰も彼女を目にすることはできない。
「あっ、あの女がいいわ」突然、ブランド物で身をまとった若い女性を見つけるとアヤは彼女に乗り移ってしまった。
突然アヤが消えてしまい、はっとした彼のもとにその女性が近づいてきた。
「さっ、行くわよ」
「えっ、だ、誰なんですか?」彼が驚くと
「私よ、アヤよ」その美女が答えた。
「ええっ、と、取りついたんですか」
「人聞きが悪いわね、支配しただけよ」
「ど、どういうことですか?」
「どうも、実態がないとやりにくくてね」彼女が眉をひそめると
「そ、その人が気の毒ですよ」優斗はその理不尽さに慌てたが
「大丈夫よ、この女はね、何人もの男に貢がせて、お金はたくさん持っているのよ、だからこの女のお金で色々買わせていただくのよ」アヤも相手は選んでいるようだった。
「そ、そんな無茶な……」優斗は恐ろしくなったが
「大丈夫よ」アヤは全く気にしない。
その後、目についた3件の店で、彼女は衣類やら、靴、ネクタイまで、合計で100万円近く爆買いし、その乗り移った女性のカードで支払いを済ませてしまった。
店を出ると
「これって、犯罪にならないんですか?」優斗が不安をぶつけたが
「何言ってのよ、本人が買って、本人が支払っているのに、全然、大丈夫よ」アヤは気にも留めない。
優斗には、罪悪感みたいなものがあったが、それでもこんな美しい女性と並んで歩けることがとてもうれしかった。アヤが支配している女性だということがわかっていても、こんな経験のない彼にとってはとても幸せなひと時であった。
「何か食べたいわね、お腹がすいちゃったわよ」アヤがきょろきょろと何かを捜しながら急に立ち止まると
「えっ、幽霊でもお腹が減るんですか?」優斗は不思議だったが
「あんた、殴るわよっ、何か幽霊よっ、私はね、自殺してしまったからこんなことになったけど、今ではね、滝の精霊って呼ばれているのよ」彼女が流ちょうに語りかけてくる。
「だ、誰が呼んでいるんですか?」
「うるさいわね、焼き肉が食べたいのよ」
「えっ……」
何かごまかされた感はあったが、彼もお腹はすいていたので、彼女に導かれるまま高級焼き肉店に入り、かつて食したことのないAランクの肉を味わい、至福の時を過ごした。
ここでも乗り移ったその女性のカードを使って支払いを済ませたが、どうしてアヤに暗証番号がわかるのか、彼は不思議だった。カードの裏書によると、署名欄には竹谷麻耶と書かれていた。
焼き肉店を出ると
「ねえ、この女、抱いてみる?」突然アヤが意味深に微笑んだ。
「だ、抱くって…… それはさすがに駄目でしょ。本人の了解もなしに…… 」
「私もね、30年ぶりだから燃えてんのよ」思いもよらないアヤの言葉に
「そ、そんなこと言っても、他人の身体じゃないですか」優斗は懸命に思いとどまろうとするが
「もう、面倒な男ね、いいじゃないの、本人がいいって言っているんだから……」アヤが眉をひそめた。
「あ、あなた、滝の精霊なんでしょ、そんなことしていいんですか」欲望はあるが、勇気のない彼は懸命に不安を打ち消そうとしていたが
「いいのよ、滝の精霊だなんて、所詮、私が言っているだけなんだから…… 神様に言わせれば、私はただの【滝の番人】よ、いくつかの滝をぐるぐる回って、見守っているだけなのよ。このくらいの役得がないとやってらんないわよ」アヤが少し苛つき始めた。
「そ、そんなこと言われても…… 」それでも優斗は懸命に堪えようとしたが
「あっ、初めてだから心配してんのね」彼女がからかうように突っ込んで来る。
「そ、そんなことは…… 」しかし、未経験の彼が不安に思っていたのも事実である。
「大丈夫よ、私がリードしてあげるから…… 」
彼はついに欲望に負けてしまい、アヤが取りついたその女性、竹谷麻耶とベッドインしてしまった。
彼が賢者タイムに入ると久しぶりの快感に納得したアヤが
「あなた、なかなかやるわね、大したものよ」体を横に向けて微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
彼は、( 幽霊でも感じるのか? )と不思議に思ったがそのことは口にしなかった。
「明日は、また別の美女を抱かせてあげるよ」
「も、もう結構です。もう欲望には負けませんから…… 」
「そうなの? 楽しみね」
夜10時にホテルを出た二人は、帰途に就いたが、アヤは、しばらくすると彼から離れ、竹谷麻耶から離脱した。
「明日はあの【くそ女】を始末するわよ」
突然、実体のないアヤに話しかけられ優斗は驚いたが、【くそ女】と聞いて、脳裏に浮かんだのはやはり高岡佐美だった。