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99.誕生日2

 私は、今度は自分の意思で、ウンディーネ様の目を見て言った。

「お母様!」


「リジー!」

 ウンディーネ様はいつの間にかカウンターを抜けて、私を抱き締めていた。ウンディーネ様の温もりを感じると懐かしい気持ちになった。


「お母様!」

 私はウンディーネ様に向かって何度もそう呼んだ。


「リジー、16歳のお誕生日おめでとう!大きくなったね」

 しばらく私のことを抱き締めていたウンディーネ様は、そっと私から離れると、私の頭を撫でながら目を細めた。周囲を見ると、私とウンディーネ様を囲んで、サラ様とシルフ様が私たちのことを温かく見守ってくれていた。


「リジーがウンディーネのことをお母様なんて呼んだの、初めてじゃない?」

 

 私は、サラ様に改めてきかれて、少し照れ臭い。「はい」と小さな声で頷くしかできない。

 もじもじしているところに、突然耳元でローランの声が聞こえた。


「リジー、聞こえる?ローランだけど……」


「うん、聞こえるよ」

 私はそう言いながら、妖精たちに囲まれた輪を抜け、壁際に移動する。

 妖精たちも、私の様子から、ローランの通信が入ったことを察したようだ。私を一人にしてくれた。


「リジー、なかなか連絡ができなくてごめん。実は、僕がルーフスに着いたとき、既に戦争が始まっていたんだ。ちょうどアヌトン王国が奇襲攻撃を仕掛けてきたすぐ後だった。まさか、向こうがこんなに早く仕掛けてくるとは思わなかったよ。もともと偵察で来たつもりだったから、着いて本当に驚いた!」


「そうだったの……」


「うん。でもそんなことは言ってられないから、必死でこちらの体制を立て直したんだ。奇襲攻撃を受けた後で皆とても混乱していて、最初の1ヶ月くらいは劣勢だった。でもね、リジーに貰った石の効果もあって、魔法の攻撃がどんどん決まるようになったんだよ。おかげで、僕たちは勝利することができた。ありがとう」


「勝ったのね?よかった!ローランは、怪我していない?」


「うん、大丈夫。怪我なんてしていないし、とても元気だ。明日には、王都に向けて出発するよ。これで、リジーより先に僕が王都に戻ることができる。王都に着いたら、今回の戦争で勝利したことを報告して、リジーとのことを認めてもらうよう父上に働きかけるつもりだ。魔女の呪いを解いてもらったことも報告しないといけないし」


「ありがとう。王都に気をつけて帰ってね。国王陛下への報告も頑張ってほしいけど、無理はしないでね」


「うん。ありがとう。また状況を報告するよ。……ところで、リジーのほうはどう?何か変わったことはあった?」


 私?……私はあれからずっと同じような日々を過ごしている。

 変わったことといえば、先ほど妖精たちに誕生日をお祝いしてもらったことぐらいだ。


「ううん。特に変わったことはないよ。ただ、今日が私の誕生日だったから、ウンディーネ様の手作りケーキをいただいて、皆にお祝いしてもらったの。うれしかった!」


 私がそう言うと、耳元のローランの声が一段と大きくなった。

「リジー!今日誕生日だったんだ!誕生日おめでとう!!」


 ローランが私のことをお祝いしてくれているのが、声だけで十分伝わってくる。


「ローラン、ありがとう! 誕生日の日に、こうやってローランから連絡もらえて、お祝いを言ってもらえるなんて、私は幸せだわ」 


 本心からそう言った。本当に今日はいい日だ。

 そして、ふと思った。私はローランの誕生日を知らない。


「ねぇ、ローランの誕生日はいつなの?」


「僕?……僕の誕生日は2ヶ月前だよ。リジーより一足先に16歳になったんだ」


 ローランはルーフスで戦争をしているときに、誕生日を迎えたんだ……。


 自分はこうやって皆にお祝いしてもらっているのに、一国の王子様であるローランが誕生日を戦場で過ごしたという事実に、なんともいえない気持ちになった。


「ローランの誕生日を知らなくてごめんね。ローランも、16歳おめでとう!お祝いが遅くなってごめんなさい。……でも、戦場で誕生日を迎えたなんて、かわいそう……。本当だったら、ローランの誕生日の行事が王宮で開かれるんじゃないの?」


「ありがとう。気にしなくていいよ。僕は、リジーが呪いを解いてくれたから、今年は何とも思わなかったけど、昨年までずっと自分の誕生日が来るのが怖かったんだ。毎年誕生日がくるたびに、命のカウントダウンをされている気分だったから。だから、ずっと誕生日が苦手だったんだよ」


 ローランの話に思わず絶句してしまう。

 そうだった。ローランは18歳の誕生日に死ぬという呪いを幼い頃に魔女にかけられていたのだ……。それを忘れていたわけではないけれど、不用意な発言だったな、と反省した。


 ただ、相手の姿が見えない状態でお互い話しているので、このままずっと私が黙っているわけにもいかない。

 なんとか「……そうだったの……」と口にした。


 私の言葉を確認して、ローランは明るい声で続ける。


「リジーのおかげで、これからは誕生日が待ち遠しくなるかもしれないな。ルーフスで誕生日を迎えた時、第四騎士団の皆が僕を祝ってくれたんだよ。そのときの戦況はまだ劣勢だったんだけど、僕の誕生日は皆と一致団結できたと感じられた出来事だったんだ。そこから僕たちの反撃が始まったと思う。だから、魔女の呪いが解けて迎えた僕の初めての誕生日は、とてもいい一日だったんだよ」


 私はローランの言葉を聞いて、少しほっとした。そして、とびきりの明るい声で言った。


「来年は、私もローランの誕生日を当日にお祝いするわ!」


「うん、楽しみにしているよ!……それじゃ、リジー。もっと話していたいけど、もう行かなくちゃ。また連絡するね。今日は誕生日おめでとう! じゃあね」


 ローランのその言葉で、通信はプツンと切れた。


「ローラン、ありがとう!」


 私が最後に呟いた言葉は、相手に届いたかどうかは分からない。


 通信が切れた後、私はとてもドキドキしていた。

 実はローランと話している途中もドキドキしていたが、通信が終わった後の方がドキドキが激しい。

 久しぶりにローランと話せて本当にうれしかったのだ。

 ローランの優しい声がまだ耳に残っている。


「……ローラン……」


 誰にも聞かれないよう小さくローランの名前を呼び、ローランと話した余韻に浸った。


 ◇◇◇

ありがとうございました。

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