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96.解呪6

 でも、さっきまでの涙とは全然違う。もう悲しくて泣いているのではない。


 ローラン、嬉しい!!

 

 そう叫びたいが言葉にならない。

 とめどなく涙が流れ出て、私の手を握るローランの手の甲にも滴り落ちるが、ローランは気にする様子も見せず、空いているもう一方の手で私の肩を優しくそっと抱いた。


 その時、シルフ様の冷めた声が聞こえた。

「ねぇ、ローラン。あなたの心変わりが、にわかには信じ難いんだけど……」


 ローランは私の肩を抱いたまま、シルフ様の方に向くと強い口調で言った。


「僕は心変わりをしたわけではありません。リジーのことは出会った頃からずっと好きなんです。ただ、さっきは、そのことが自分自身でよく分からなかっただけです。呪いを解いてくれるからリジーが好きだったのか、ときかれて、そうなのかもしれないと思ってしまいました。でも、今ははっきりと確信をもって言うことができます。呪いなんて関係ありません。リジーのことが好きです」


 ローランの力強い言葉に、さすがのシルフ様も返す言葉が見つからないようだった。サラ様が言った。


「ローラン、その言葉を信じていいのね? まぁ、確かに、さっきもリジーのことが嫌だとかそういうことは言ってなかったものね」

 

 ローランが「はい」と頷くと、シルフ様が私に言った。


「リジー、良かったね。あなたの大好きなローランに振られてなかったみたい」

 

 私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、シルフ様に向かって大きく頷く。


 私の顔を見て、シルフ様は声を上げて笑った。


「リジー、あなた、ひどい顔よ」


 ウンディーネ様は、さっと私にタオルを手渡してくれた。


「そうね、リジーはまず顔を洗った方がいいわ。あそこに洗面所があるから」


「ありがとうございます」


 鼻声でお礼を伝え、できる限りローランに顔を見られないようにしながら、ウンディーネ様の指差す方へ向かう。


 視界が涙でぼやけていて、薄暗い店内は歩きづらい。三半規管まで涙でおかしくなっているのか、いろんなところにぶつかりながら、なんとか歩く。


 後方から聞こえるシルフ様の笑い声も少し気になる。今は嬉しい気持ちが勝っているから、まだいいけど。

 とにかく早く洗面所に行きたいのに、なかなか辿り着かない。


 そんなことを考えていると、いつの間にか私の足元にレオがいた。レオはフラフラ歩く私を心配してくれたようだ。


 レオと並んで歩くうちに、シルフ様の笑い声はまったく気にならなくなった。


 それからすぐ洗面所についた。


 冷たい水で、バシャバシャと何度も顔を洗い、涙の跡を全部消す。

 そして、うがいを何度もして、鼻をかむ。


 最後に、ウンディーネ様から借りたフカフカのタオルでゴシゴシと顔を拭いた。


「あー、スッキリしたー!」


 レオに向かって微笑むと、レオも「ワン」と答えてくれた。


 もうこれで、さっきまでの泣き虫な私はいない。


 もう一度、ローランとちゃんと話したいから、泣いてばかりはいられない。


 両手で顔をパンと叩いて気合いを入れてから、レオと一緒に皆のところへ小走りで戻る。


「あぁ、もう大丈夫みたいね。まだ、目は少し腫れているけど、それでもさっきより随分マシになったよ」


 最初に目が合ったサラ様が、私の顔を見て言った。


 ローランが席から立ち上がる。


 私がローランの隣りまで行くと、ぎゅっとローランが抱きしめてくれた。


「リジー、ごめんね。心配かけて。大好きだよ」


 シルフ様が隣りで「ヒューヒュー」と茶化してくるが、気にしない。


「ローラン、ありがとう。私もローランが大好き」


 私もローランの背中に手を回す。

 でも、まずい。

 ローランの温もりに包まれると、また涙がこみ上げてきた。


 さっき、これ以上泣かないと決めたばかりだ。


 私はそっとローランから離れる。そして、ローランの頬を撫でながら言った。


「ローラン。いまから少し、今後の話をしてもいい? 次にいつ会えるか分からないから」


「もちろんだよ」


 そして、私たちは再びカウンターに並んで座る。

 ウンディーネ様が、温かいお茶のおかわりを淹れてくれた。


 私はお茶に口をつけてから、ローランの顔をまっすぐ見て言った。


「ローラン。私は家族の勧めでここに来たけど、両親からは半年以内に王都に戻すと言われているの。私が王都に戻るということは、それはつまり、私が他の方と婚約させられることになると思う」


 ローランは黙ったまま、頷いた。私は続けた。


「ローランのことは大好きだけど、これからどうしたらいいのか分からない。もちろん、ローランと一緒に暮らしたいし、結婚したいとずっと思っているから、この婚約指輪もいまだ外せずにいるんだけど」


 ダメだ。少しでも感情的になると、また泣きそうになる。

 私は涙のスイッチを押さないように、そこまで言うと口を閉じた。


 それまでじっと黙っていたローランは、私の頭を優しく撫でた後、口を開いた。


「そうだよね。分かってる。これから半年以内に、僕たちがもう一度婚約できるように作戦を立てないといけないね。僕たちが離れていても、いつでも連絡をとれる手段があればいいんだけどな」


 ローランの言葉に、サラ様が口を挟んだ。


「ローラン、もう一度リジーと婚約するなんて簡単に言うけど、はっきり言って難しいわよ」


 ローランは何度も頷きながら、力強く言った。


「分かっています。でも不可能ではないはずです。……リジーが僕にかけられた呪いを解いてくれました。今度は僕が、僕たちの二度目の婚約をできるようにします」


 ローラン!!ありがとう!

 今の言葉、録音したい。


 私がひとり感激に浸っていると、シルフ様が言った。


「ローランって、思ったより、いい男なのね。仕方ないな。これを2人にあげるわ」


 シルフ様の手には、はまぐりの貝殻のようなものが2枚握られていた。

 それを1枚ずつ、私とローランに手渡しながら言う。


「それを耳に当てて話すと、どんなに離れていても相手と会話できるわ。でも、相手がそれを持ってないと意味がないから」


 ローランはシルフ様の言葉に席を立った。


「ちょっと試してみてもいいですか?」


 そう言うと、ローランは貝殻を手に店の外へ出る。私は貝殻を右耳にしっかりと当てて待った。


 しばらくすると、耳元でローランの声がはっきりと聞こえた。


「リジー、聞こえる?」

ありがとうございました。

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