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95.解呪5

 私はレオを抱きかかえて、立ち上がった。

 レオは、頬の涙の跡をペロペロと舐めた。私を励ましてくれているようだった。


「レオ、どこへ行こうか?まだ家に帰りたくないね。……ウンディーネ様に会いたいな」


 私がレオにそう話し掛けた時、突然強い光が私とレオを包んだ。


「え?何?」


 思わず目を瞑ったが、それでも光の残像で眩しい。目の奥がチカチカする。


 突然のことに驚いたが、レオの温もりが私を落ち着かせた。

 まだ光の残像は瞼の奥に残っているが、ゆっくり目を開くと、心配そうに私の顔を見ているレオの顔が目の前にある。


「レオー!ビックリしたねー」


 私はレオに頬ずりした。徐々に目のチカチカもおさまった。


「あれ?」


 周囲をよく見ると、私とレオはウンディーネ様の薬屋の中にいる。少し前まで、ローランと一緒にいた場所だ。


「リジー、おかえり。すぐ戻ってきたんだね」


 シルフ様に言われて驚いた。


「え?私、どうして?」


「今回は、呼びに行ってないからね。リジーが自分で来たんだから」


 シルフ様は、笑いながら言った。


「自分で来た?私が?」


「何をとぼけてるの?自分で魔法を発動して、ここに来たんじゃない」


 シルフ様の言葉に、思わずウンディーネ様とサラ様の顔を見ると、2人とも微笑んでいる。


 そうだったんだ。私、自分の魔法でここに来たんだ。

 随分スムーズに魔法が発動できるようになったんだな。


 他人事のようにそう思っていると、サラ様が優しく声をかけてくれた。


「リジー、その犬、かわいいね」


「あ、私が飼っている犬なんです。レオといいます」


 レオは人懐っこい犬なので、手を差し出したサラ様に「くぅーん」と甘えた。その横から、シルフ様が私の顔をぐいっと覗き込んできて、思わずのけ反る。


「リジー、どうしたの?顔がひどく腫れているよ。その犬に何かされたの?」


 シルフ様は相変わらず、意地悪な言い方をする。私はムッとしながら返した。


「レオには何もされてません。ただ、さっきのことが辛くて……」


 そこまで言うと、目にみるみる涙が溜まった。今にも零れんばかりだ。すかさずウンディーネ様が私に温かいお茶を出して言った。


「リジー、言いたくなかったら言わなくていいのよ」


 その言葉をきっかけに、自分の気持ちを聞いてもらいたかったことを思い出した。一口お茶を啜った後、一気に喋る。


「ウンディーネ様。聞いてください。……私、ローランのこと、めちゃくちゃ大好きだったんです。婚約不成立となってからも、ずっと諦めきれなくて。……でも、やっと、さっき分かりました。ローランとは終わっていた、ということが。……それが、こんなに寂しくて辛いということは知らなかったです」


 私がウンディーネ様の顔を見ると、レオの頭を撫でていたサラ様が先に口を開いた。


「リジー。さっきはごめんね。私たちがローランにいろいろ聞いちゃって。リジーがローランに直接好きだという想いを伝えられなかったでしょ」


「いえ。むしろ、聞いてもらえてよかったです。おかげで、ローランの気持ちもはっきりしましたし……」


「ううん、どうせなら、リジーがちゃんと告白して、ちゃんと振られたほうがいいじゃない? ちょっとシルフが言い過ぎたわね。ごめんね」


 サラ様がシルフ様の頭をポンと叩く。シルフ様は母親に叱られた子供のように身を竦めた。


 その時、レオを抱いている私の左手が強烈な光を放った。目の前を眩しい光に包まれる。先ほどここへ来た時と同じだ。薄暗かった薬屋の店内が私の左手を光源にして神々しく光り輝いた。


 それから徐々に強い光が収まり、元の薄暗い店内へと戻っていく。

 私もだんだんと目が慣れ、周りの様子がぼんやりと見えてきた。そして、気づいたときには、目の前にローランが立っていた。


「ん?ローラン?」


 私は驚いて、素っ頓狂な声を出してしまう。

 ローランは冷静に言った。


「リジーと話がしたくて、リジーを追いかけてきた」


「私を追いかけて?」


「そうだよ。ほら、リジーがまだ、その婚約指輪をつけてくれていたから、追いかけることが出来たんだ。ありがとう」

 

 ローランが私の左手薬指に光るエメラルドを撫でる。私はレオを下ろして、左手薬指につけたままだった婚約指輪を見つめた。


 ウンディーネ様が優しい声で言った。


「ローラン、お帰り。さぁ、リジーもローランもそんなところで立ってないで、座って」


 よく見ると、カウンターにはいつの間にか席が4つ用意されていた。

 私とローランはサラ様とシルフ様の間に挟まれて座る。カウンターの中は、ウンディーネ様だけだ。


 ウンディーネ様はローランにもお茶を出しながら言った。


「ローラン。リジーと話したいなら、二人きりになる?」


「いえ、大丈夫です。皆さんにも聞いていただきたいので、このままでいてください。さっきは、自分で自分がよく分からなかったので、曖昧なことしか言えなかったんですが、先ほどの話をずっと思い返しているうちに、自分の考えもようやくクリアになりました」


 ローランはそこまで言うと、目の前のお茶に口をつけた。


 レオは店内を興味津々な様子で歩き回っている。

 私がレオの様子に気を取られていると、ローランが隣りから私の手を握って来た。思わずローランの顔をじっと見る。ローランも私を見つめながら言った。


「リジー、さっきは曖昧なことしか言えずにごめん。僕は分かってなかったんだ。呪いを解きたいからリジーと一緒にいたいのか、リジーが好きだからリジーと一緒にいたいのか……。僕は呪いが解けたばかりで、その嬉しさが勝っていた。長年の苦しみから、これでようやく解放されるという喜びだけで満たされていたんだ。だから、リジーのことを聞かれても分からなかった。考えも及ばなかったんだ」


 ローランの真剣な様子に、私は神妙に頷く。ローランは続けた。


「でも、ようやく分かったよ。僕は、リジーが大好きだ。呪いが解けたから、もうリジーと会えないなんて嫌だ。リジーとずっと一緒にいたいと思う。僕にはリジーが必要だし、僕が結婚したいのはリジーしかいない」


 ローランの言葉に、じわリと涙が溢れてきた。

 今日は次々に涙が出てくる日だ。私の涙腺はとっくに壊れていたらしい。腫れぼったい目の端から、新しい涙がぽろぽろと零れ落ちた。

ありがとうございました。

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