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93.解呪3

 その時、ピューッと風が吹いた。


 応接室の中なのに、なぜこんな強い風が吹くんだろう?と不思議に思っているうちに、目の前が真っ白になる。


 視界が開けたときには、私とローランは、ウンディーネ様の薬屋のカウンターで並んで座っていた。


「あれ?いつの間に?どうして?」

 私がきょろきょろしながら困惑していると、同じくカウンターに座っていたシルフ様が微笑んだ。


「リジーがなかなか来ないから、呼びに行ったのよ」


「え?呼びに?」


 シルフ様に呼ばれた覚えはない。どっちかというと、勝手に連れ去られた感覚だ。

 でも、妖精にそんなことを言うのもどうかと思ったので、言いかけて止めた。


 改めて周りを見ると、いつものように、ウンディーネ様がカウンターの中で微笑んでいる。

 でも、いつもとは違って、今日はウンディーネ様の隣りにサラ様も並んで立っていた。

 そして、カウンター席には、私とシルフ様がローランを真ん中に挟んで座っている。真ん中に挟まれたローランは居心地が悪そうだった。それはそうだ。何が起こったのか分からないし、周りにいるのが誰かも分からないのだから。


 私は、慌ててローランに、妖精の皆さんを紹介する。

「えっと、ローラン。紹介するね。こちらがウンディーネ様とサラ様。そして、こちらがシルフ様」


「はじめまして。私は、ナディエディータ王国 第七王子のローランです」


 ローランは、妖精たちの名前を聞いて、皆が何者なのか分かったようだった。堂々とした見惚れるような優雅な動作で、皆と挨拶を交わす。


「さ、堅苦しい挨拶はそこまでにしましょう。王子様。……ねぇ、あなたは、魔女の呪いが解けたのでしょう? これでもう、リジーのことは用済みね?」


 シルフ様がいきなり意地悪そうな顔をして言った。ローランを試しているような目つきだ。


「リジーのことを用済みだなんて、そんな風に思ったことはありません」


 ローランは、語気を強めて怒ったように答える。

 シルフ様は構わず、重ねた。


「でも、魔女の呪いは解けたのでしょう?」


「はい、解けました」

 ローランは素直に頷く。

 それを見て、勝ち誇ったようにシルフ様が言い放った。


「それなら、もうあなたにリジーは必要ないじゃない? あなたとリジーは婚約不成立となっているのだし、今後、一切関わることはないわよね」


「……」

 ローランは口を一文字に結んで黙り込んでしまう。私は思わず、ローランの顔をじっと見てしまった。

 そして、はたと気づいた。

 

 もしかして、私が隣りにいると、ローランが正直に答えられないのかも?!


「あ、あの、私、先に帰ります。後でローランを迎えに来ますので……」


 私がそう言って席を立つと、ローランが私の手を握って制した。


「ちょっと待って。リジー。ここに居て!」


「え?でも……。私がいると、ローランは正直に話ができないんじゃ……」


「ううん、大丈夫。今はいきなりの質問だったから、答えに詰まっただけだよ。リジーにも僕の話を聞いてもらいたいから、ここに一緒に居て」


 ローランは優しく私を諭して、再び私を席に座らせた。私は黙って、ローランに従う。

 ローランは私の手を握ったまま、シルフ様の方に向いて言った。


「自分にかけられた呪いを解くために、ずっとリジーを利用してきたと言われても否定できません。リジーが僕の呪いを解いてくれると信じて、ずっとリジーに縋ってきました。そして、リジーは本当に、僕の呪いを解いてくれた。リジーには心から感謝しています」


「やっぱり、そうなのね。リジーとは呪いを解くために一緒にいた。もう解けたから、一緒にいる必要はないということよね」

 シルフ様は、腕組みをしながら、うんうんと頷いた。


 ローランは天を仰いで、何かを考えているようだ。言うことを整理しているのかもしれない。少したってから、またシルフ様の方に向いて、口を開いた。


「リジーと婚約した頃の僕は、自分の呪いを解くことができる人だという理由だけで、リジーの傍にいました。それは仰るとおりです。……でも、一緒に暮らすうちに、笑顔で何事にも全力で頑張るリジーが愛おしくなり、リジーを手放したくないと思う気持ちが強くなりました。今、離れて暮らしているのは寂しいです。つい、リジーと一緒に暮らしていた時のことを思い出してしまいます」


「離れて寂しいのじゃなくて、呪いを解いてもらえなくなるから離れるのが嫌だっただけじゃない?」


「確かに、呪いを解いてほしいからリジーのことを考えていたのか、リジーが好きだから考えていたのか、自分でもよく分かっていなかったかもしれません」


「今、呪いが解けた後、リジーのことをどう思うの?」


 シルフ様の質問に、私は我慢ができなくなって、口を挟んだ。


「えっと、シルフ様。お言葉ですけど、結婚って好きだからするものじゃないんですよ。ローランの場合は王子様なので、政略結婚しかありえないのです。国王陛下に言われた方と結婚することになるので、そんなことを質問しても仕方がないと思います」


 すると、意外なことに、ローランが私に言った。


「リジー。僕は成人する18歳の誕生日に呪いで死ぬ予定だから、父上からは、万が一生き残ったら、自分の好きなように暮らしていいと言われているんだ。だから僕は政略結婚はしないよ」


「ん?そうなの?王子様なのに、いいの?」


「うん、大丈夫だ。父上も僕が魔女の呪いを受けることになり、僕に負い目を感じている」


 私は少し混乱していた。よく分からなくなっていた。


「あれ?それなら、私との婚約はどうして?」


 ローランは、混乱している私に優しく語った。


「だから、リジーとの婚約は僕が望んで、父上にお願いして叶えてもらったものだ。あの時は、確かリジーへの褒美ということだったっけ。政略結婚でも何でもないよ。僕の我儘で婚約したんだ」


 再び、シルフ様がローランに尋ねた。


「それで、魔女の呪いから解放されたあなたは、今後、リジーとどう接するの?私たちは、あなたの気持ちが知りたいのよ。あなたは政略結婚をする必要もないし、今後ひとりで自由に生きていくこともできる。でも、リジーは、近い将来、誰かと結婚しないといけないの。ただ、今のままだと、あなたのことをズルズルと引きずったままになるわ。だから、はっきりしてほしいのよ。リジーのことを何とも思わないのなら、思わせぶりな態度は止めてほしいの」

ありがとうございました。

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