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84.工房6

 サラさんは、私に構わず、じっと目を見つめたまま話を続けた。


「あの家は人に見つからないよう、カモフラージュされているんだけどね。……あぁ、リジーは魔力がかなり強いわね。人間でそこまで魔力があるのはこの国の王族くらいじゃない?」


 サラさんは一体何者?何を言ってるんだろう。

 私は何と返していいのか分からない。


 黙ったままの私に、サラさんは畳み掛けた。


「ノームの屋敷の上に王宮を築くなんて、この国の王族は本当何を考えてるのか分からないわよね」


 ついに私は我慢できず、思ったまま言葉を発した。


「サラさんは一体何者なんですか?」


 思わず言葉尻が強くなってしまう。


「うふふ、私はただのガラス職人よ」


「いや、絶対違いますよね? 魔女ですか?」


「魔女? それは、タミアのこと? 私は魔女と呼ばれたことはないわ。……さ、ガラスを作るところを見るのでしょう?」


 そう言うと、サラさんは立ち上がった。

 私も立ってサラさんの後に続かないといけないが、いろいろ気になって足が動かない。


 タミアって誰?

 魔女と呼ばれたことはないって、どういうこと?


「リジー、早く来ないの? 始めるわよ」


 サラさんが工房の奥から私を呼んだ。


「はい、今行きます」


 仕方ない。終わってから聞くしかない。


 私が見に行くと、既にサラさんは溶解炉の前で作業をしていた。


 先ほどサラさんが「火と対話しながらガラスを作っている」と言っていたが、その話は本当だと思う。


 息を吹き込んで膨らませたガラスを溶解炉に入れて熱を加え、また取り出してガラスを膨らませ、道具を使って形を整え、また溶解炉に入れて熱を加える、という作業を何度も何度も繰り返す。

 火と対話しているからこそ、それら一連の作業が流れるように進んでいるように見えた。


 サラさんが凄いのは、完全手作業で型なども使っていないのに、私が買っているグラスは毎回同じサイズ、同じクオリティーのものだということだ。

 同じものを揃えたいという私の希望を見事に叶えてくれている。


 でも機械を使っていないのに、どうやったら同じものが作れるのかと思っていたのだが、結局それも火と対話しているからこそ成せる技なのだろう。

 こうやって実際の作業を目にすると、納得してしまう。


「サラさんは、火の魔術師ですね」


 私が感心して口走ると、サラさんはにっこりと微笑んでくれた。


「さぁ、できたわよ。どうかしら?」


「素晴らしいです。これ、明日また買いに来てもいいのですか?」


「いいわよ。リジーは何個欲しいんだっけ?」


 家族は5人だが、使用人もいるし、来客があったときにも使いたい。


「できれば……10個です」


「まぁ、そんなに? それなら、まだまだここに来なきゃいけないわね」


 サラさんはコロコロと笑った。


「そうですね。しばらく毎日来ます。いいですか? ……そういえば、私の母もサラさんがガラスをつくるところを一緒に見学したいと言っていたのですが、連れてきてもいいですか?」


「もちろん大歓迎よ。リジーが毎日来てくれるなんてうれしいし、リジーのお母様と会えるのも楽しみだわ」


「サラさん、ありがとうございます」


 そうお礼を言った後、ここからサラさんにどう話をしたらいいのか分からなくなった。


 気になっているのは、さっきサラさんが口走ったこと。

 でも、どこからどう聞けばいいのだろう。


 私が考えあぐねていると、サラさんは私の心を見透かしたように話しかけた。


「私のことが聞きたいのでしょ? 私はあなたの友達のウンディーネと同じ妖精よ。リジーは、ウンディーネから、かなり強い魔力が与えられているみたいね」


「え? 妖精?」


 サラさんは溶解炉の中で、メラメラと燃え盛る火を見つめながら言った。


「そう。火の妖精。聞いた事ない?」


「あります! 火の妖精 サラマンダー様! ……え? サラさんって、サラマンダー様?!」


 言いながら、自分で混乱してしまう。

 ん? どういうことだ?


 サラさんは、私の様子がおかしいのか、コロコロと笑う。


「リジー、どうしたの? 正解よ。私はサラマンダー」


「えええええええ!!!」


 思わず大声で叫んでしまった。


「ちょっとリジー、そんな大声出さないでよ。工房が壊れたらどうするの?」


 サラさんは困ったような事を言っているが、顔は全然困っていなかった。コロコロと笑っている。


 いや、サラさんは笑っていられるかもしれないけど、私は腰が抜けそうなほど驚いた。


 まさか、サラさんが妖精だなんて。


 妖精は世界に4人しかいないと聞いているのに、そのうち3人もこの国にいていいの?

 他の国は困らない?


 何が何だか分からない。


 そりゃ、兄の恋も厳しいな。相手が妖精なんて。


 私の思考はぐちゃぐちゃだ。

 考えがあっちにいったり、こっちにいったりする。


 サラさんはずっと笑っている。


 私も考え過ぎて、なんだか可笑しくなってきた。サラさんにつられて、笑ってしまう。

 一度笑いだすと、もう止まらない。


 あはははははは!


 サラさんと2人でお腹が捩れるほど笑った。


 何が可笑しくて、何で笑ってるのか、理由なんてない。

 ただ、笑いが止まらない。


 サラさんも笑い過ぎて、目の端にうっすらと涙が溜まっている。


「もう、リジー。……笑い過ぎ。やめてよ」


 サラさんはヒーヒー言いながら、言った。


「サラ……さんが……最初に……笑ったん……ですよ」


 私も笑いながら返す。


 2人とも徐々に笑いが収まってきた。

 笑いが収まると同時に、腹筋が痛くなって、お腹を手で押さえた。


「はー。笑い過ぎて、お腹が痛いです」


 ぺたんとその場に座り込む。


「リジー、そこに座ると汚れるから、立って」


 サラさんに言われて慌てて立ち上がったが、スカートが真っ黒に汚れてしまった。


「ほら、言ったじゃない」


 サラさんはそう言いながら、ウインクをする。

 あっという間に、スカートが元通りになった。


「あれ? スカートが綺麗になった!」


 私はスカートを確認したが、さっき座って汚したところがまったく汚れていない。


「魔法で綺麗にしたのよ」


 サラさんが微笑んだ。


「うわー、魔法って、凄いですね」

 私が驚いてそう言うと、サラさんは私の言葉に驚いた。


「何言ってるの?リジー。あなたも魔法を使ってるじゃない?こんなの、朝飯前でしょ?」


ありがとうございました。

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