8.謁見
翌朝、父と私は正装に着替え、馬車で王宮へ向かった。
王宮に着くと、1人の騎士が私たちのもとにやって来た。
「私は第一騎士団副団長のパトリック・リシャールと申します。ハリス子爵と御令嬢ですね。私が此度の案内役です。陛下は謁見の間にてお待ちです。こちらへどうぞ」
第一騎士団といえば、王族の警護を担当している騎士団で、私の兄ジャックも所属している。
貴族のみで構成されており、7つある騎士団の中でもエリート中のエリートしか入団できない。
つまり、私の兄も父自慢の優秀な騎士なのだが、目の前のこのお方は副団長なので、この国で2番目に優れた騎士というわけだ。
そんな素晴らしい方が案内役だなんて。
普通は直接お話しする機会もない騎士様が目の前にいて、私たちに話しかけているという事実に、私は少し、いや、かなり舞い上がってしまった。
見上げるほどの長身に大柄な体格で、騎士の格好も似合っているし、日焼けした顔も、鍛えられた身体も、すべてがカッコいい!
興奮が悟られないように父の陰に隠れ、かっこいい騎士様の姿を堪能しながら、王宮を進む。
騎士様は私の残念な視線には全く気づかず、爽やかに話しかけてくれた。
「陛下から貴女の話を伺いました。王女殿下の行方を発見されたのは貴女だったとか。恥ずかしながら我々では見つけることができませんでしたので、第一騎士団を代表して私からもお礼を言わせてください。王女殿下を見つけていただき、ありがとうございます」
騎士様がそう言いながらこちらを振り向いたので、ぼうっと見惚れていた私と目が合ってしまった。咄嗟に目を下に逸らす。
「そんな…。王女殿下を見つけられたのは、本当にたまたまです…」
それ以上言葉が続けられない。
私が黙ってしまったことで、騎士様も黙ってしまった。
◇◇◇
謁見の間の扉の前で、イザベル父娘とステイシー父娘が既に控えているのが見えた。私たちも会釈をして静かに合流する。
騎士様は私たち全員の準備が整ったことを確認し、扉の前の2人の衛兵に合図をした。
衛兵たちはゆっくりと両開きの扉を開ける。
意を決して、部屋の奥まで真っ直ぐに続くレッドカーペットの上を進む。できるだけ優雅に見えるよう、姿勢や歩き方に気をつける。
緊張し過ぎて、自分の心臓の音しか聞こえない。
レッドカーペットの端までが遠い。
早足になりそうなのを必死で抑える。
ようやく辿り着き立ち止まると、震えながら王族への敬意を表す最上位の礼を取った。
しばらくすると「顔を上げよ」と声がきこえ、ゆっくりと顔を上げる。
「…!!」
目の前の光景に驚いて思わず声が出そうになったが、慌てて心を静める。
国王陛下に呼ばれたときいていたので、この場にいらっしゃるのは国王陛下だけだと勝手に勘違いしていたが、目の前には国王陛下だけでなく、4人の王妃様も8人の王子様も7人の王女様も皆ずらりと勢揃いされていた。
王族の皆様は全員美しかった。
前世も含め、美しい人を今までたくさん見てきたはずだが、まったくレベルが違う。
本当にキラキラと光り輝いている!
王族の皆様のあまりのまぶしさに圧倒され、もはやまともに見ることができない。
国王陛下が部屋中に響き渡る重低音ボイスで「大切な娘のエミリーを見つけてくれたことに礼を述べる」といった有難いお言葉をくださっていたが、残念なことに私の耳には届かなかった。
◇◇◇
儀式が終わり謁見の間を出ると、バルドー女官長が立っていた。
女官長は、まず同行していた私たち3人の父親に挨拶と祝辞を述べた後、私たちに向かって珍しく笑顔を見せた。
「皆さん、よかったですね。今日の女官教育は中止します。特別に休日としますので、ゆっくり休んでください」
それだけを告げると、足早にその場を去っていく。私たちはバルドー女官長の姿が見えなくなるまでその場で見送り、3人で手を取り合って喜んだ。
そして、この後、ステイシーの屋敷で過ごすことに決め、解散した。
◇◇◇
ドレスを着替え、ステイシーの屋敷に着くと、ステイシーの部屋に案内された。ピンク色で統一された部屋はとても可愛く、ステイシーに似合っている。
部屋の真ん中に置かれたソファには、先に到着したイザベルが座っていた。
ステイシーが話し始める。
「王子様たち、本当に皆素敵だったわね〜」
ステイシーの目がハートになっている。
ステイシーに負けじと私も続く。
「騎士様も素敵だったわ〜」
私の目もハートのはずだ。
「あら、リジーは騎士様のほうがよかったの?」
意外そうに言われて、正直に告げる。
「実は、王子様たちのお顔は、眩し過ぎて見れなかったの。王宮に飾られている肖像画はもちろん拝見したことがあるけど、目の前の素敵なお顔が見られなかったから…」
「まぁ、それは勿体無いことをしたわね」
イザベルとステイシーが、残念そうに私の顔を見る。
「2人は、ちゃんと王子様たちのお顔を見れたの?」
「当たり前。脳にしっかり焼き付けたわ。あんな美形、もう二度と直接お会いできないかもしれないし」
2人とも得意そうだ。
そうか。あんなに光り輝いてたのに、2人はちゃんと見れたのか。
悔しいけど、でも、また同じ状況になったとしても、きっとまともに見れないだろうと思うので仕方ない。
2人は何番目の王子様が素敵か話し始めたが、王族全員の顔をまともに見ることができなかった私には、全く付いていけなかった。
ありがとうございました。