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77.来客5

「ハミアさんも魔法が使えるのですか?」


 私が訊くと、ハミアさんは一拍間を置いて、答えた。

「……まぁ、お嬢ちゃんに隠したって仕方ないね。私も使えるさ」


 やっぱり魔法使いだったんだ……。

 そりゃそうか、私が妖精と会った、なんて見抜けるくらいだから。


「えっと、ハミアさんはどの妖精の御加護を受けられたのですか?」

「ふん、別にどれでも無いよ」

 ハミアさんはそう言い捨てた。


 あれ?なんか思ってた反応と違う? 妖精の御加護がないと、魔法って使えないんじゃなかったっけ?


 本当はもっと妖精の話がしたいけど、ハミアさんの態度が急に冷たくなったので諦めて話を変えた。


「ハミアさん、私、ここにきて毎日魔法の練習をしているんですけど、ひとりで自主練しているので、これでいいのかどうか分からないんです。私、もっと魔法がうまくなりたいんですよ」


「ふうん。それじゃ、お嬢ちゃん、私に魔法を見せてみな」


「え?私の魔法を見てもらえるんですか?」


「うん、だから見てやると言っている。やってみな」


 ハミアさんが少し乗り気になっている。

 今のうちに、見てもらわなくては。


 私は自分の魔力を感じながら、部屋の電気を魔法で消した。

 そして、再び、魔法で部屋の電気を点ける。


「いかがでしょうか?私の魔法……」


 恐る恐るハミアさんにきいてみた。


「ふうん。基本的なことはできるようだね。何かやってみたい魔法があるのかい?」


 とりあえず私の魔法は合格点なんだろうか。

 やってみたい魔法……。今はずっと瞬間移動を練習している。

 でも、ロジェもローランも簡単にやってのけた魔法だ。

 そんなことも出来ないのかと思われるかもしれない、と思うと恥ずかしくなり躊躇したが、結局思い切って正直に話をした。


「そうなんです。瞬間移動で遠くに行けるようになりたいんですけど、まだそこまで遠くには行けなくて……」


 ハミアさんはニヤリと笑った。


「コツコツ練習あるのみだよ。お嬢ちゃんだって、練習しているうちに少しずつ遠くへ移動できるようになったんだろう?」


「まぁ、そうです……」


 ハミアさんの答えは思っていたのと違った。

 まさかの練習あるのみ……。

 魔法なんだから、パパっとできるようになるのではないのだろうか……。


 今までは一人で自主練だったから、どうしたらいいのか分からないので繰り返し練習していたが、同じ魔法使いに教えてもらえば、魔法のように簡単にできるようになるのかと勝手に思っていた。


 ハミアさんは、突然大声でハハハと笑う。


「魔法だから、魔法の様に簡単にできるようになるって? 面白いこと考えるね、お嬢ちゃん」


 え?私、何も言ってないのに……。

 考えていることがバレているの?


 自分の考えていることがハミアさんに筒抜けだと知って、居た堪れない気持ちになった。


「なぁに、恥ずかしがる必要はないよ。私がお嬢ちゃんに魔法が上手くなるヒントを教えてあげよう。練習するしかないのは本当だけど、ヒントはあるんだよ」


「はい」


「魔法にも種類がいっぱいあるから、まずは、この魔法をやりたい、というのをいくつか決めるんだよ。今みたいにね。瞬間移動をあそこまで行けたら最高だな、とかね。考えるのは自由だから」


「はい」


「やりたいな、じゃなくて、やると決めておくんだよ。そうしたら、1年後にどうなっていなくちゃいけないか。1週間後はどうだ、明日はというふうに、ひとりだって、今できることを考えられるだろ? 魔法は人に教えてもらってやるもんじゃないんだよ。自分でやるんだ。この家の誰も、お嬢ちゃんが魔法を使えるなんて知らないだろう?他人に話すことじゃないんだから。妖精だって魔法のことは教えてくれやしない。自分でやるしかないんだよ。でも意味のない練習はしないことだね」


 魔法は自分でやるしかない。

 もしそうだとすると、王宮で魔導士様に日々魔法について教えてもらえたのは特殊な環境だったのかもしれない。

 あれは、すごくラッキーだったのかも。

 魔導士様のおかげで基本的なことができるようになった。

 それは全て、バルドー女官長が魔導士様のところへ私を連れて行ってくれたおかげだ。


「えっと、ハミアさんもそうやって上手くなったんですか?」


 私がそう尋ねると、ハミアさんは遠い目をしてポツポツと語り始めた。


「そうさねぇ。お嬢ちゃんみたいに若い頃は一生懸命練習したさ。魔法は、姉のほうが断然上手かったからね。双子で同じように育っているはずなのに、姉ばっかりどんどん出来るようになっていった。それは悔しかったね。まぁ、今も結局、姉の方が上手だけどね」


 へぇ。ハミアさんは双子で魔法が使えるのか。

 お姉様のほうが魔法が上手なんて、双子だったらそれは悔しいだろうな。

 だから、ハミアさんは魔法を一生懸命練習したのか。

 それでいうと、私もロジェのほうが魔法が使えるのは悔しい気がしている。

 別に双子ではないけど……。


 私も頑張ろう。ロジェには負けたくない。

 やっぱりまずは、湖まで瞬間移動できるようになりたい。いや、なる。

 ここにはあと半年しかいられないんだから、半年以内に出来るようになる。


 ハミアさんのおかげで、魔法に明確な目標ができた。


「ああ、決めたようだね。頑張りな」


 ハミアさんが目を細めて、私の肩に手を置いた。


「はい、ありがとうございます。私、頑張ります」

 私は思わず、ハミアさんに抱きついてしまった。


 この短時間の間に、ハミアさんのことが大好きになっていた。

 私のことを全て分かったうえで、親身になっていろいろとアドバイスをしてくれる。ハミアさんの言葉をもっともっと聞きたい。

 ハミアさんが自分のことを話したくないなら、ハミアさんの個人的な話はどうだっていい。


 明後日には王都に向かって旅立ってしまうなんて、寂しすぎる。

 できれば今後も定期的に会って、いろいろとお話したいし、アドバイスもしてもらいたい。

 私の成長だって見てほしい。


「ハミアさん、またいつか会えるでしょうか?今決めた魔法の目標が出来るようになったときに、お礼を言いたいです」


 ハミアさんは優しく微笑んだ。


「私たちは遍歴商人だからね。町から町へ移動するのが仕事だよ。次会えるかどうかは約束できないね。旅を続ける中で、また会えるかもしれないし、もう会えないかもしれない。そういうもんさ」

ありがとうございました。

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