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76.来客4

「あら?お嬢ちゃん!どうせずっとこのままなんて考えちゃだめよ!」


「え?」

 ハミアさんの言葉にビックリして、思わず大きな声を出してしまった。

 ローランとの結婚の道は断たれてしまったのだから、占ってもらっても無駄じゃないのかなと思ったところだった。ビックリした。


「近い将来、ふとした出来事がきっかけで、ふたりきりになるチャンスが訪れそうよ」


「ハミアさん、お言葉ですが、そんなことはありえないです」


 私たちはそもそも場所がとても離れているので、偶然出会うとか、ふとした出来事なんてありえない。


「ありえない? そうだよ。今までならありえないようなことが訪れるから『転機』って言うんだよ。まあ、信じる信じないは好きにしな。大切なのは、そのありえないことが起った時に、そこで下手にカッコつけないことね。自然体で、お相手と向き合いなさい。チャンスって別に一度きりじゃないんだから。そんなに身構えなくて大丈夫よ」


「はぁ」


「あのねぇ、何をそんなに気にしているの?」


「いえ、転機が訪れるんでしょうか……」


「だから言ったよね。信じる信じないは好きにしなって。他に何か気になることがあれば言ってみな」


 他に気になること……。


「あ、そもそも相手の考えることがよく分からないです」


「ふうん。お嬢ちゃん、あなた気弱ね。お相手の考えることなんて気にしなくていいわよ」


「はい」


「お嬢ちゃんは、いろんな人の意見に惑わされず、自分の思ったことをお相手にするのが一番よ。いいじゃない、間違えちゃったって。どんなことだってね、やり直せないことなんてないのよ、この世の中に」


 そこまで言って、ハミアさんは水晶玉を片付けた。

 私の占いはここまでのようだ。

 私は少し残念な気がした。

 自分が望んで占ってもらったものではなかったが、ハミアさんの話はもっと聞きたい。いつまでも占ってもらいたい、と思ったのだ。


「どうだい?私の占いは?」


「ハミアさん、すごいです。私、占いってあまり信用してなかったんですけど、なんというかハミアさんの占いですごく勇気をもらいました。背中を押してもらえたというか……」


「そうかい。少しは役に立ったのなら、よかったよ」


 ハミアさんは目を細めた。

 私は自分に言い聞かせるように、ハミアさんの言葉を復唱した。


「間違えたっていいんですね。私が思ったことをやればいい。間違えたら、やり直せばいいんですもんね。チャンスは1回きりじゃないんですね」


 私は小さく握りこぶしを作った。

 俄然やる気が湧いてくる。


「そういうことだよ。あ、でもひとつ忠告しといてやるよ。お嬢ちゃんが気になっているお相手とは別の年長者から、お嬢ちゃんが慕われていると水晶に出てたねぇ。その人に心当たりはあるかい? その人にはあまりいい顔をしない方がいいよ。調子に乗るとブチュッとキスされたりするかもしれないからね。もしされたら、相手が年長者でも構わず叱り飛ばせばいいけどね」


 ハミアさんは、そう言うと大声でハハハと笑った。


 いやいや、笑い事じゃないんですけど。

 それって、エリック様のことなんじゃ?

 ローランの話だと呪いが解けちゃったというし、ますます気に入られている可能性はある。

 叱り飛ばすって言っても、相手は王族だから無理でしょ。

 まぁ、会う機会が無いから、いったん今の言葉は聞かなかったことにしよう。


「ハミアさん、私の占いもとてもよかったんですけど、もしよければハミアさんのお話も聞かせていただきたいです。各国を旅されているんですよね?」


「私の話かい? そんな人様に聞かせるような話はないよ」


 そう言って、ハミアさんは黙った。


 ハミアさんは自分の話をするのが嫌なのかな?

 占いのときはあんなに饒舌だったのに、すっかり口を閉ざしてしまったので、私は話題を変えた。


「ナディエディータ王国の王都に、ハミアさんたちが泊まる場所はあるんですか?」


「ああ、私の姉が住んでるからね」


「お姉様?」


「双子の姉がいるんだよ」


「そうなんですか。それなら泊まる場所は心配ないですね。ということは、ハミアさんはナディエディータ王国には何度も来られているんですね」


「まぁ、そうだね」


 また、ハミアさんは口を噤んでしまった。

 余程自分の話はしたくないらしい。

 それなら、無理矢理聞くのも失礼だ。


 仕方ない。

 本当はあれこれ聞きたいけど、我慢しよう。

 後でジャルジさんに聞けば教えてくれるかもしれない。


 私はジャルジさんのことを考えて、ふと思い出した。


 確か、ハミアさんは石について詳しいと、ジャルジさんが言っていた。


「あの、ハミアさん。この石を先程ジャルジさんに頂いたのですが、この石ってパワーストーンなんですよね?」


 私は丁寧に仕舞っておいた薄緑色の石を持ち出して、ハミアさんに見せた。


「お嬢ちゃん、この石を貰ったのかい?他にもいっぱい宝石や毛皮があったろうに?」


「はい。ジャルジさんの品揃えは凄かったです。でも、これが一番いいと思ったので」


「へぇ」


 ハミアさんは私の顔を覗き込んだ。

 思わず身構えてしまう。


 しばらくハミアさんに私の顔をじっと見られ、どこを見たらいいのか分からず、何度も瞬きをした。


 やがてハミアさんは満足したように私の顔から目を離すと、にやりと笑った。


「なんだ、お嬢ちゃん。妖精と知り合いかい」


「え?」


 私はハミアさんが何を言ったのか、分からなかった。


「隠さんでもいい。お嬢ちゃん、魔法が使えるんだろ?」


「……」


 何と答えたらいいのか分からない。


 ハミアさんは、私に構わず話を続けた。


「その石は、魔力を増幅する石だよ。魔法使いにとって、貴重な石さ。ただ、もうちょっと研磨したほうがいいね。そのままじゃ、あまり効果ないよ」


「えっと、もし割れちゃったら、どうなりますか? ジャルジさんがこの石は割れやすいと言ってたんですけど」


「ああ、多少割れても問題ないよ。それよりはしっかり磨くことだね。ただ、磨くのは難しいよ。技術がいるけど、この国にそれを磨ける技術のある者はいないんじゃないか?」


「そうですか……」


 前に見つけた同じ石は、カリーナがあっさりと研磨してくれた。あのとき、かなり綺麗に研磨してくれたけど、そんなに研磨が難しい石だとは知らなかった。

 私は気軽にカリーナにまた頼もうと思っていたが、カリーナはもしかしたら凄腕の研磨師なのかもしれない。

ありがとうございました。

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