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74.来客2

「それでも構わないです」


 この薄緑色の石を私はずっと探していたのだ。それくらいどうってことはない。

 せっかく見つけたこの機会にどうしても欲しい。


「あの、ジャルジさん、この石はよく採れるんですか?」


 私が尋ねると、ジャルジさんは少し考えてから言った。


「我が国では時々見つかりますが、先ほどもお伝えしたように研磨が難しいので、宝石として売り物にできるものは滅多にございません。この石も我が国で研磨してきましたが、これでは宝石として売ることが出来ないのでどうしようかと思案に暮れていました。旅の途中で良い研磨師と出会えることを願ってはいましたが……」


「そうだったんですね」


「リジーお嬢様がその石を気に入って引き取ってくださるというのなら、大変ありがたいことです」


「本当ですか? それなら、有難く頂戴しますね」


 私がその石を受け取ろうとすると、父と兄が騒ぎ出した。

「リジー、それよりこっちのアクセサリーのほうがいいんじゃないか?」

「うん、こちらの方が似合うぞ!」


 私は父と兄の様子に苦笑しつつ、2人の言葉を遮った。


「アクセサリーも素敵なんですけど、どれでも好きな物をいただけるのであれば、この石が欲しいのです」


 私が強く主張したので父と兄は諦めたようだ。

 父は「お前の好きにすればいい」と言ってくれた。

 兄も私にだけ聞こえる声で「そんな石なら、その辺で採れそうだけどな」とブツブツ言っていたが、表立って反対はしなかった。


 私は薄緑色の石をジャルジさんから受け取ると、再度お礼を言って席を立った。せっかくもらったものを失くしたり壊したりしたら大変なので、すぐに自分の部屋に仕舞いたかったのだ。


 私は貰ったばかりの石を慎重に部屋の棚へ置いた後、またすぐに応接室へ戻って驚いた。なんとこの短時間に、ジャルジさんは全ての商品を片付け終わっていた。

 あんなに広げていたはずなのに、その撤収の手際の鮮やかさに驚いた。


「すごいですね。あんなにあった商品を一瞬で片付けるなんて」

 私が感嘆の声をあげると、ジャルジさんは優しく微笑んだ。


「盗賊が来てもすぐに逃げられるように、片付けだけは早くなりました」

「盗賊ってそんなに多いのですか?」


「どの国に行っても我々はいつも狙われています。先ほどお見せした宝石や毛皮は非常に高価で貴重なものですから。誰もが欲しがる物だと思いますよ。その点、お嬢様はそれらには目もくれなかったので驚きました。お嬢様に差し上げたあの石も、磨けば宝石として高価で売れるのですが、今の状態だと二束三文にしか値がつかないものです。どうしてあの石が良かったのですか?」


 どうして、と聞かれても魔法を増幅させる力があるから、とは答えられない。

 仕方ないので誤魔化した。


「どうしてと聞かれても困るのですが、とても気になったのです……。えっと、あの石の効能とかあるのでしょうか。もしご存知でしたら、教えていただきたいのですが」


「そうですね。確か……身に着けていると自己実現ができると言われていたはずです。私もスフェーンについてはそれほど詳しいわけではありませんので、これ以上は分からないのですが」


 自己実現ができる。こんな自分になりたい、とかそういうことだろうか。

 魔法を増幅させる力があって、さらに自己実現もできるなんて、いい石を貰った。


 私がニンマリしていると、ジャルジさんが付け加えた。


「ああ、でも、私の母なら石のことも詳しいと思いますよ」


「ジャルジさんのお母様ですか?」


「そうです。この旅も同行しています。もうすぐ他の仲間と一緒にこちらに来るはずです」


「お母様もご一緒に旅をされているなんて、危なくないのですか?」


「母とはずっと旅をともにしていますから、もう慣れたものですよ」


 ちょうどその時、ジャルジさんの仲間が3人、我が家にやって来た。

 1人は派手な身なりのおばあさんで、あとの2人は屈強そうな若い男性だった。

 父の説明によると、ジャルジさんご一行は全部で8人だそうだが、この4人が我が家に泊まり、残りの4人は村長の家に泊まるということだった。


 この派手なおばあさんが、ジャルジさんのお母様かしら?


 青色の濃いアイシャドーと真っ赤なチークに真っ赤な口紅。フリルがふんだんに使われた濃い紫色の服もとても派手だ。年齢不詳だが、顔に刻まれた深い皺からはかなり高齢に見える。


 私がその女性をじっと見ていることに気づいた父が教えてくれた。


「この女性はジャルジさんのお母様のハミアさんだ。もう50年以上遍歴商人をされているそうだ」


 それを聞いて、兄が言った。


「王都までの道中の護送ですが、女性のハミアさんを主に護衛するのが私の役割ということですか?」


「まぁ、そうなるな。ジャルジさんご一行で唯一人の女性だからな」


 父が頷くと、ハミアさんが言った。


「いえいえ、ご心配には及びません。私は今まで何度も盗賊と対峙してきましたので、盗賊の対応は慣れたものですよ。死にはしません。心配なのはむしろ、こいつらのほうですわ」


 ハミアさんは、2人の屈強な男性を指さした。


 え?この屈強そうな男性2人が心配なの?


 私が目を丸くしていると、兄も同じ意見だったようだ。


「このお2人は、私の護衛はいらないと思いますが」


 細身のジャルジさん親子とは対照的に、プロレスラーのような体格をしている筋骨隆々な2人の男性のほうが心配とは、どういうことだろう。


 意味が分からずぽかんとしている私と兄をハミアさんは笑い飛ばした。


「ふはははは。まぁ、旅に出れば分かるさ」

 

 それから真顔に戻ったハミアさんが、私に声を掛けた。


「お嬢ちゃん、私は占いも(かじ)っているんだけどね。お嬢ちゃんのことをちょっと占っても構わないかい?」


「占いですか? 構わないですが……」


 あまりにも唐突な申し出に、面食らってしまった。


 でも、よく見ると、ハミアさんの風貌は占い師っぽい。それに、先ほどジャルジさんから、お母様は石に詳しいと聞いたばかりだ。もしかしたら、凄腕の占い師かもしれない。

 当たるも八卦当たらぬも八卦。

 どうせ今の私は碌な運命ではないのだし、占ってもらうのも一興かもしれないな。

 今以上に落ちることはないだろうし。


 そう思ったので、ハミアさんを自分の部屋に案内した。占ってもらうのはいいが、家族に聞かれるのは何となく嫌だったのだ。

ありがとうございました。

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