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72.手紙3

 私は兄から渡された1通の手紙を開いた。

 兄は、私を気遣ったのか、レオと離れた場所へ移動する。

 便箋には、流れるような美しい文字が並んでいた。前に貰った手紙を何度も読み返していたので、一目でローランの文字だと分かった。


『リジー、お元気ですか? 

 先日の魔女の呪いを消すリジーの魔法は凄かったよ。リジーと直接話をすることができなくなったので、感謝を伝えたくてこの手紙をジャックに託しました。

 実はあの時、リジーにもらった犬のぬいぐるみと薔薇園の薔薇を僕はエリック兄さんの胸の刻印の上に当てていたんだ。すると突然強い光がして、エリック兄さんの刻印は跡形もなく消えてしまったんだ!本当に驚いた。後からアルフレッドに教えてもらったんだが、ぬいぐるみに付いていた緑色の石は魔力を増幅させる石だったんだね。おかげで、エリック兄さんにかけられた呪いは解けたようだ。全てリジーのおかげだよ。本当にありがとう。

愛しいリジーへ     ローラン・ナディエディータ』


 手紙を読んだ私は、最初書かれている意味が分からなかった。

 最初から読み直す。


 ローラン?どういうこと?

 あのとき、魔法の電話の向こうで呪いを消していた相手は、ローランじゃなくてエリック様だったの?!

 なんで?


 思考が混乱する。


 手紙を胸に当て、空を見上げた。


 ゆったりと流れる雲を見ていると、気持ちが落ち着いてくる。


 もう一度、手紙を読み直した。


 手紙にはエリック様にかけられた呪いは解けたと書かれている。それは良かった。

 良かったのだが、やはり腑に落ちない。

 どうして、ローランはそんなことをしたのだろう?

 それに、どうしてあの時、ローランは私に教えてくれなかったんだろう?

 始める前に一言、エリック様が相手だと教えてくれれば、こんな気持ちにはならなかった。


 多分ローランは私を騙す意図はなかったと思うんだけど、騙された気分だ。

 なんだろう?この感情は?

 無性に腹が立つ。

 何に腹が立っているのかも分からない。


 気付けば、涙が頬を伝っている。

 どうして私は泣いているのだろう。怒っているはずなのに。


 もうぐちゃぐちゃだ。


 私は意を決して立ち上がり、空に向かってお腹の底から声を出した。

「ローランの馬鹿ーーー!」


 自分でも驚くほど大きな声が出た。


 遠くの方で遊んでいた兄とレオがびっくりして、こちらを見ている。

 その様子がおかしくて、笑ってしまった。

 もう一度叫ぼうと思ったけど、笑ってしまったらもう叫べなかった。その代わり、声に出して笑った。


 大声で叫んで笑ったら、すっきりした。

 兄とレオがこちらに向かって駆けてくるのが見える。


「ローラン、今回は許してあげるけど、次、私に内緒で勝手なことしたら許してあげないから」


 私はローランの手紙をポケットに仕舞った。


「リジー、大丈夫か?」


 私の側まで息を切らしてやって来た兄が心配そうに私の顔を見ている。私は兄に笑って見せた。


「うん、もう大丈夫。大声出したらスッキリしたから!」


「そうか?それならいいけど……」


 まだ兄は心配そうだ。


「うん、大丈夫! レオ、遊ぼ!」


 私は兄の手からボールを奪うと、それをレオに見せてから思い切り遠くへと投げた。

 レオが素早く反応してボールを追いかけたのと同時に、私もレオを追いかけた。

 そんな私とレオを見て、慌てて兄も追いかけてくる。


 それから何度かレオとキャッチボールを繰り返した。兄もその中に入ろうとするが、レオはいつもボールを私に渡してくれる。日頃のレオとの散歩で培った絆は固い。

 兄がどんなに声を掛けてもレオは兄をスルーして私にボールを渡すので、兄はすっかり拗ねてしまった。


「リジー、もう帰ろう!」


 私も兄がちょっと可哀想になった。兄は私を気遣ってくれているのに、そんな兄を除け者にするのは忍びない。レオに遊びは終わりだよと告げ、頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「うん、帰ろう!」


 来た道を兄と私とレオが並んで走る。帰りは、兄とレオが私のペースに合わせてくれた。


 走りながら兄が言う。


「リジー、手紙に何て書いてあったか知らないけど、ローラン王子殿下に返事書いてくれよ。今回、ローラン王子殿下から特別休暇もらってここに来てるんだからな」


「分かった!」


 走りながら考える。


 ローランになんて返そうかな。

 さっきはちょっと感情的になったけど、自分の魔法の効果が知りたいと思っていたから、効果があったと手紙で教えてもらえたのはうれしかった。しかも、手紙を届けるために、兄に休暇を出してくれた配慮もありがたい。おかげで思いがけず兄と遊べた。


 エリック様のことだって、なぜローランがエリック様の呪いを解こうとしたのか、少し考えれば想像がつく。

 きっとエリック様のほうが期限が迫っているからだろう。


 私は、エリック様がローランとの婚約を不成立にさせた悪者だと思ってしまったから、余計に腹が立ったのかもしれない。

 実際、今もエリック様に対して、いい感情は抱いていない。

 エリック様が余計なことをしなければ、今頃私は王宮にいたかもしれないのに。


 領地での生活が辛いわけではないし、こうやってレオと遊んでいるのも楽しいけれど、王宮の生活が恋しい。

 ローランとの婚約生活は辛いこともあったはずなのに、今思い出すのは楽しい思い出ばかりだ。

 それを全て壊したのがエリック様だと、心のどこかでずっと憎んでいた。

 ローランはエリック様のことを憎らしく思わないのだろうか。


 そこまで考えて、ふとローランに以前貰った手紙の内容を思い出した。


 ああ、前に貰った手紙にはエリック様のことをこれ以上責めるつもりはない、と書いてあったな……。

 そうだった。ローランはとても出来た人だったんだ。ロジェもそう言っていた。


 自分で自分に突っ込んで苦笑する。


 ローランに手紙で文句を言ったところで仕方ない。

 エリック様のことはまだ腹の虫がおさまらないから、そのことを返事に書くのは止めよう。


 それよりは、ローランが私に手紙を書いてくれたことに対してお礼を書こう。


 ちょうど私の考えがまとまった時に、屋敷に着いた。

 ポケットにローランからの手紙が入っていることを確認して、屋敷の扉を開けた。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ローランひどいな。つじつま合わせになるのでしょうか、主人公がいいように使われていて、なんとなく読んでてつらいです。大人不在の物語展開をされてるけど、王家のお話で大人不在なのはどうでしょうか。…
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