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71.家族5

 薄緑色の石は、ひとつめは湖畔で見つけた。というか、いつの間にか魔法の本の上に乗っかっていた。もうひとつは、レオの散歩コースの丘にあるランの群生地で見つけた。

 だから、どちらかでまた見つかる可能性はある。


 でも、レオのぬいぐるみに付けた薄緑色の石も無くなってしまっていたらどうしよう。

 その場合、たとえ石を見つけたとしても、どうやってローランに渡したらいいのか分からない。

 まぁ、うだうだ考えても仕方ないか。

 まずは石を探すことが先決。


 そう今後の方針を決めて、眠りについた。


 ◇◇◇


 両親が屋敷に来てから1週間が過ぎた。

 あれから毎日、丘と湖畔に行って薄緑色の石を探しているが、今のところまだ見つけることはできない。


 父は本当に執務が溜まっていたようで、初日にいろいろ言われたきり、私のことには口出ししなくなった。日々とても忙しそうに働いている。


 一方で、母とは毎日お茶を飲みながら、様々な話をする。主に王都での出来事について母が話すのを聞いているのだが、とても興味深く、いつまでも聞いていられる。


 今日も、母と応接室で話をすることになった。

 カリーナがお茶を淹れてくれる。


「お母様、ご相談するのを忘れていたのですが、実はお母様のネックレスが気に入ったので使わせてもらっていました」


 母に会ったらすぐに言おうと思っていたのに、すっかり言い忘れていたことを思い出した。

 魔除けの石が付いたネックレスをずっと借りたままだった。

 魔除けの石なのであまり表に見せない方がいいのかと思い、いつもドレスの下に隠して着けていたので完全に忘れていたのだ。


「そうなの?どのネックレス?」


「こちらです」

 私は首からネックレスを外して母に見せた。魔除けの石が黒く光っている。

 母はネックレスを受け取ると懐かしそうに微笑みながら言った。


「ああ、このネックレスね。この黒い石は魔除けの石と言われているから、リジーにはちょうどいいかもしれないわ。この石のおかげで、変なご縁が寄ってこないのよ。しかも、魂の相手と出会えると言われているわ。実は、私もこのネックレスを身につけているときにお父様と出会ったのよ。リジーもこのネックレスで良いご縁と出会えるといいわね。私はもう使わないから、リジーにあげるわ」


 そして、また私の首にそのネックレスを着けてくれる。


「ありがとうございます。お母様はこのネックレスを着けていた時にお父様と出会ったんですね!なんて素敵なの!私もお父様のような素敵な方と出会えたらいいのに!」


 凄い!このネックレスは魔除け効果だけじゃなくて、魂の相手と出会える効果もあるなんて。

 両親は娘の私から見ても、羨ましいほど仲がいい。両親のような出会いが待っているのなら楽しみだ。これはもう、肌身離さずずっと着けていよう!


 私はネックレスを外からも見えるように着け、黒く光る石を誇らしげに眺めた。


 そのとき、玄関のほうが騒がしくなった。誰か来客があったようだ。

 誰が来たのだろう?と耳を澄ませていると、よく知った声が聞こえる。


 え?まさか?


 しばらくすると、兄が応接室にやって来た。


「兄さん、どうしたの?」


 兄がやって来るなんて聞いていない。兄は第一騎士団での仕事が忙しいはずだ。母もとても驚いている。


「まぁ、ジャック、お仕事はどうしたの?」


 兄は涼しい顔をして答えた。


「少し休暇をいただいたものですから遊びに来ました。それほど長居はできないのですが……」


 そして、母と私に挨拶を済ませると、まっすぐレオのケージへと向かう。


「レオ―、元気だったか?」

 レオをケージから出して、早速一緒に遊び始めた。

 母は、思いがけず兄がやって来たことがとてもうれしそうだ。

「ジャックも一緒にお茶をどう?」


 兄はレオを抱き上げて母のほうに向きなおった。

「いえ、私は少しレオと外で遊んできます。リジー、リジーも一緒に行くぞ」

 兄が私の腕を引っ張る。私はお茶をこぼさないようにそっとティーカップを置き、兄に抗議した。

「え?私はまだお母様とお茶を飲んでいる……」

「いいから、行くぞ!母上、それでは、失礼します」


 私は半ば強引に兄に外へ連れ出された。

 母はその様子を見て「仲いいわねー」と微笑んでいる。


 お母様、どこが仲いいんですか!?私はいつも勝手な兄に振り回されているのに。


 兄とレオは私にお構いなしで、さっさと丘へ向かって走り出した。仕方なく、兄たちの後を追う。


「リジー、早く!」


 兄さんたちの背中が遠い。「早く」と言うのなら、走る速度を緩めて欲しい。


「待って!兄さん!!」


 私は全速力で兄たちの後を追った。

 でも、結局兄たちに追いつくことはできなかった。


 こんなに全力で走ったのは何年ぶりだろうか。

 丘に着くと、倒れこんでしまった。

 話すこともできない。

 肩で息をするだけだ。


 兄とレオは私が着くまでの間少し休憩していたようだが、もう遊び始めている。

 なんて体力だ。

 兄は騎士だから日頃相当鍛えているのだろう。

 そんな人とまともに走り合えるわけがない。


 しばらくじっとしていると、徐々に呼吸が落ち着いてきた。

 そのまま体を仰向けにし、大の字になって空を眺めた。


 雲がゆったりと流れていくのを何も考えずただ眺める。

 気持ちいいなぁ。

 そして、静かに瞼を閉じた。

 草の香りが爽快な気持ちになれる。


 そうっと瞼を開けると、視界には兄とレオの顔のドアップが見えた。


「え?何?」


 びっくりして起き上がる。


「寝てたのか?」

「寝てないよ。一瞬目を瞑っただけ」

「ふぅん。いびきかいてたぞ!」

「嘘?」

「嘘だけど」


 兄が意地悪な顔をして笑っている。


「もう、何よ。からかって」


 悔しいので兄の頬を強い力でつねった。


「痛い!何するんだ?」

 兄は私が抓ったところを涙目になって手で押さえている。ざまあみろ。


「兄さんが意地悪言うからでしょ?」


「リジー、お前、手癖が悪いぞ! せっかくローラン王子殿下からの手紙を持って来てやったのに」


 ローランからの手紙?


「ん?兄さん、今なんて?」


「だから、ローラン王子殿下がお前に手紙だって。ほら」

 そう言って兄は私に一通の手紙を手渡した。


「兄さん、なんで?」


「ローラン王子殿下にこっそり頼まれたんだ。父さんや母さんにも内緒だからな」

ありがとうございました。

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