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70.家族4

70話まで来ました。ブックマークをしていただいたり、評価をしていただけることは本当に励みになっています。ありがとうございます。書くペースが少し落ちてきたんですが、ここからなんとか盛り返していきたいです。

 その日の夜、視察を終えたばかりの両親と夕食をとる。


「リジー、次は一緒に視察に行こうか。他人との交流を断っていたと聞いているが、そろそろ慣らしたほうがいいだろう。とはいえ、しばらくは私の執務が溜まっているから、次に視察に行くときにまた声をかける」


 そう父から声を掛けられた。

 実際、こちらに来てからは執事のアントンの配慮もあって、屋敷の者以外とは交流することがなかった。

 領民は皆農民でいい人が多いが、旅人から王都での私の噂を伝え聞いて知っている。娯楽の少ない田舎の村では、格好のネタとなり話に尾ひれもついているはずだ。

 誰も私に何も言わないが、さすがに私も想像がつく。

 領主の娘が王子様の一人と婚約したはいいが、皆の反対に遭って不成立となり、田舎に戻ってきているらしい、ときっと居酒屋あたりで酒を飲みながら話題にされていることだろう。


 自分自身では今回の婚約不成立に対してそれほど悲壮感は無いのだが、世間はきっとそうは思わない。

 悲劇のヒロインのように振舞えば、領民たちは喜んでくれるだろうか。

 今の冷静な私なら、世間の思うようなキャラを演じることは出来そうな気がする。


 そこまで考えて、馬鹿な事を考えている自分がおかしくなった。

 どんな風に悲劇のヒロインぶって登場しようか、とか思考が斜め上にいきだしていた。

 きっとこんなに自分を俯瞰して考えられるのは、前世で元アラフォーだったからに違いない。 


 結局、夕食の最中、ずっとこんなことばかり考えていたので、皆の会話は碌に聞いていなかった。上の空で相槌を打っていただけだ。

 いつの間にか夕食の時間が終わっていた。


 皆に挨拶をして、自分の部屋に戻る。

 9時から、ローランと魔法の電話で会話をする約束をしていた。

 今日はローランが王家の薔薇園の薔薇を用意しているはずだ。


 私がレオの置物越しに念じて、その魔力が王宮のローランのところまで届くのか。

 普通に考えればあり得ないが、魔法で何でもできる世界だからあり得ないということはないはず。


 深呼吸を何度もして、自分の呼吸を整える。


「リジー、ローランだけど、聞こえる?」

 9時きっかりに、レオの置物からローランの声がした。


「うん、聞こえる。薔薇の用意は出来たの?」


「用意は出来ているよ。念じてくれる?」


「分かった。じゃ、今から始めるね」


 この魔法の電話は通話時間がとても短いことを知ったばかりだ。ローランも心得ているようだ。お互いに前置きの会話は最小限にして、すぐに始める。


 私は、レオの置物の薄緑色の石の上に手を当てて、自分の中の魔力を感じた。

「魔女の呪いなんて消えて無くなれ」


 ただ無心に念じる。

 距離があるので、いつも以上に頑張って念じた。

 魔力が自分の手のひらに集まるように、感覚を研ぎ澄まして集中する。


 身体中が熱くなってきた。

 全身から汗が噴き出る。


 息も苦しくなってきた。


「魔女の呪いなんて消えて無くなれ」

 汗が止まらないが、気にせずに念じ続ける。


 手のひらがぶるぶる震え出した。


「お願い! 魔女の呪いよ、消えて無くなれ」


 レオの置物に当てたままの手がつりそうだ。

 最後の力を振り絞る。


 するとーー。


 ミシミシという音がしたかと思うと、パリンとガラスが割れるような音が響いた。


「え?」


 レオの置物から音がしたような気がする。

 静かな部屋に大きな音が響いたので、驚いて手を離してしまった。


 レオの置物が割れているわけではなかった。元のままだ。ひび割れもない。


「あ!」


 レオの置物のお臍に付いていた薄緑色の石が無くなっていることに気づいた。

 そこにずっと手を当てていたから、手には石の感触が残っている。


 でも、手のひらを見ても石は無い。

 石が当たっていた部分が赤くなっているだけだ。

 確かに石が手のひらに当たっていたという証だけが残っている。


 大きな音に驚いて手を離した拍子に、石がどこかその辺に落ちたのだろうか。

 でも、落ちたような音はしなかった。

 ぱっと見た限りは、石が落ちたような形跡もない。


 念のため部屋中を隈なく探してみた。


「無い!無い! 石が無い!」


 隅々まで探したが、薄緑色の石は見当たらない。


 この石が無いとローランの声が聞こえないのでは……!?

 急に不安になって、ローランを呼んでみた。


「ローラン! ローラン! 私の声、聞こえる? ローラン!」


「……」


 どこからも何も聞こえない。

 レオの置物をじっと見ているが、うんともすんとも何も言わない。

 やっぱりあの石が無かったら、ローランと話すことが出来ないんだ。


 目を閉じて、大きくすーっと息を吐く。

 一瞬ひどく落ち込んだが、すぐに諦めて立ち直った。


 ローランと話せないと分かったら、ジタバタしても仕方ない。

 冷静になって考えてみることにしたのだ。


 さっきのあの音は何だったんだろう?

 ガラスの割れるようなパリンという音。

 あれは、薄緑色の石が壊れる音だったんだろうか?

 でも、あのちっぽけな石が壊れるときに、あんな大きな音が鳴るのだろうか? 

 結構大きな音が鳴ったので、びっくりして手を離してしまったのだ。


 冷静に考えれば考えるほど、何が起こったのか分からない。


 分かっていることは、薄緑色の石が忽然と無くなったということ。

 そして、恐らくそのせいで、ローランと会話ができないということ。

 このままでは、明日も明後日もローランとの会話は出来ないだろう。


「あぁあ、私の魔法は、どうだったんだろう? 少しでも魔女の呪いの刻印が消えたりしたのかな? 少しでも消えてたらうれしいんだけどな……」


 ローランと話せないということは、さっきの魔法の感想や効果が分からない。


 今日は結構頑張ったんだけどな。


 魔法の本を読みながら日々試すうちに、魔法のコントロールが上達している自負があった。

 全身でしっかりと魔法を発動できたように思えたので、せめてローランに感想だけは聞きたいけど、王宮に手紙を書いたら検閲で引っかかる気がする。

 どうやって感想を聞けばいいんだろう。

 せっかく魔法で通話できるようになったと思ったのに、こんなすぐに壊れてしまうなんて……。


 あの薄緑色の石をもう一度探すしかないか。

ありがとうございました。

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