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7.魔導士様

「ヘルマン殿、お時間をいただきすみません。こちらは女官見習いのハリス子爵令嬢です」

 バルドー女官長の目線に促され、慌てて挨拶する。

「女官見習いのリジー・ハリスです。よろしくお願い申し上げます」

「魔導士のアルフレッド・ヘルマンです。よろしく。さ、どうぞこちらへ」


 魔導士様に案内されてソファに腰掛けると、同じようなローブを着た男性がお茶を出してくれた。

「弟子のロジェだ。魔法の勉強をしながら、私の身の回りの世話をしてくれている」

 ロジェはろくに挨拶もせず、奥の部屋へと消えていった。

 

 ロジェの姿が見えなくなると、バルドー女官長が話し始めた。

「エミリー王女殿下が行方不明となられていたのはお聞き及びかと存じます。…先ほどリジーが廊下で黒猫を見つけ、その黒猫を撫でているとエミリー王女殿下に変わったと言うのですが、何が起こったとお考えでしょうか?」

「なるほど。エミリー王女殿下は魔女の呪いにかかっていた。それを彼女が解いた、ということか…」


 魔導士様はひとりで簡単に結論を出すと

「リジーと言ったか、ちょっとその場で立ってもらえるかな?」

と私を立つように促した。


 言われたまま立ち上がると、何も言わずに魔導士様は手のひらを私の頭の先から顔、首、肩、背中、腰、足と順にかざしていく。手のひらは体に直接触れてはいないが、かざされている場所はじわっと温もりを感じる。


 体内スキャンされているのかな、と考えて、じっとしていた。


 ひととおり手かざしが終わると、ソファに座るよう促された。

 そして、私の目をじっと見つめながら魔導士様が話し出した。


「魔力を確認した。水属性だな。リジー。このことは秘密にしておいた方がいい。決して誰にも話さないように。…そうだな。いままでと変わらず、引き続き女官教育は受けなさい。ただ、魔法についてきちんと勉強したほうがいいから、女官教育が終わったら毎日ここに来るように」


 うわ、私だけ毎日居残り授業ですか…。最悪…。


 口には出さなかったが、顔には出ていたようだ。

「そんなあからさまに、嫌そうな顔をするな。この国で魔力が使える者は大変貴重な存在なんだぞ。しっかり学ぶことで、重用されるようになるかもしれないのに」

「はぁ…そうは言われましても…」


 それまで黙って話をきいていたバルドー女官長が口を開いた。

「今日はここまでにしましょう。リジー、迎えの馬車がきていますから急いで帰りなさい。また明日ね」

「はい、バルドー女官長。今日は遅くまでありがとうございました。ヘルマン様もありがとうございました。では、失礼いたします」


 ◇◇◇


 屋敷に戻ると、両親が出迎えてくれた。

「リジー、王女殿下をお助けしたのか?よくやったな!」

「…お父様」


 話が早い!もう知ってるの?さっきのことなのに…。

 だから父も母もうれしそうなのか。


「どうやってお助けしたのだ?」

「たいして何もしていません。たまたま廊下を歩いていたら、お見かけしただけなんですが…」

「そうかそうか。お腹がすいただろう?食事にしよう」

 家族は夕食をとらず、私の帰りを待ってくれていたようだ。

 私は魔導士様の言いつけを守り、余計なことを言わないように気をつけた。


 食事が始まると、父がおもむろに口を開いた。

「リジー、今回の件で国王陛下から直々にお言葉がいただけるそうだ。明日は、朝から正装して私と登城する。本当によくやったな」

「え?明日ですか?朝から?バルドー女官長は、一言もそのようなことはおっしゃってませんでしたが」

「リジーが帰ってくる少し前に、王家の伝令が家にやってきた。正式な書状もいただいている」

「登城するのは、私たちだけなのでしょうか」

「いや、メルシエ伯爵とモレル子爵も一緒だ。3人でお助けしたのだろう?」 


 よかった。さすが王様!太っ腹!イザベルとステイシーも一緒だ。うれしい!私だけが呼ばれたのならどうしようと思ったので、これは本当にうれしい。

 実際、2人がいなければ王女殿下を見つけることはできなかった。私1人では王宮内を歩き回ることをバルドー女官長が許可しなかったはずだから。


 3人一緒に国王陛下に呼んでいただけたときいて、不安な気持ちが吹き飛び、少し楽しみな気持ちになった。


 食事を終えて自室に戻り、着替えを済ませてベッドに倒れ込んだ。天井を見つめながら、考える。


 私は転生者だから、転生特典として魔力がもらえたのかな?


 …でも、この1週間が怒涛すぎる。

 前世を思い出した日から女官教育が始まって、そして、今日は魔力ですか?

 …水の属性。前世ではからっきし泳げなかったけど、あ、入浴が好きなのは水の属性だからなのかな?


 おそらく私の脳はとっくの昔にパンクしてしまったのだろう。考えたいけど、もう、まともに考えられない。


 右手をじっと眺める。

 この手で黒猫を撫でたんだった…。

 特に光ったり、とか、もちろん水が出たりとか、そういうことはない。

 

 ああ、明日は国王陛下にお言葉をいただけるのか。本当1人じゃなくてよかった。

 …そこまで考えて、私の意識が途切れた。

ありがとうございました

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