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66.再会2

 あんまりじっくり見られると、いびつな箇所が気になってしまう。

 どうせなら、もうちょっと上手に作ったものを渡したいかも。


 勢いで渡しちゃったけど、だんだん恥ずかしくなってきた。

 やっぱり返してもらおうかな……。


 ひとり葛藤していると、ローランが立ち上がった。私の手を握る。つられて私も立ち上がった。


「リジー、時間切れだ。もう行かなくちゃ。今日は本当にありがとう! お守り、大切にするね」


 私もローランの手を両手で包む。


「ローラン、ありがとう。会いに来てくれてうれしかった。元気でね」


 私が最後の言葉を言い終わるか終わらないうちに、目の前のローランは徐々に薄くなっていき、消えてしまった。

 気づいた時には両手で包んでいたはずのローランの手も無くなっている。

 

 ローラン……。


 ローランが去って寂しいはずなのに、それ以上に、私は今目の前で起こった現象のほうに呆気にとられてしまった。


 何が起こったのか分からない。


 しばらく呆然と立ち尽くした後、徐々に興奮が押し寄せた。


 凄い!あっという間に消えてしまった。


 先日、ロジェも同じような魔法を目の前で使ったが、その時はここまでの興奮は無かった。

 ロジェとは一緒に魔法を学ぶ仲間だったし、消える時も呪文のようなものを呟いて消えた。


 ローランはロジェとは違った。

 ただ別れの挨拶をしているときに、すぅっと消えて行ったのだ。


 魔力がある私にだって練習すればいつかきっと、よく似たことは出来るはずだ。

 これが私にもできれば、そのうち私だってローランに会いにいくことができるようになる。

 

 うん、私も魔法の本で練習するしかない!

 王宮にいたときに、魔導士様に教わったことは出来るようになった。

 出来ないことはないはずだ。


 そう思うと、いてもたってもいられなくなった。


 魔法の本を取りに行き、無心でページをめくる。

 ずっと相棒のところを練習していたけど、移動のほうを先にやってみたい。


 移動について書かれているページを開いた。

 魔法での移動は、ある二点間の空間を飛び越えて瞬間的に移動できると書かれている。

 ただし、移動できる距離は、魔力の強さとそれをコントロールする能力や本人の持っている基礎体力に応じて変わるようだ。


 まずは、魔法を使って、この部屋から家の外に出てみよう。

 本に書かれたとおりに魔力を感じ、呼吸を整えて念じてみた。


 ……


 なんとなく発動しそうな気配がしたが、発動しなかった。


 あれ?

 ああ、もしかして、さっき魔女の呪いを消そうと頑張ったから?


 どうやら私の中の魔力を使い果たしていたようだ。

 自分の魔力の残量が分かるといいのだけれど。


 これだと、今日は何をやってもダメだ。

 天を仰いでひとり溜息を吐いていると、アンが「食事の用意が出来ました」と私を呼びに来た。


 もう、そんな時間?

 今日は遅く起きたこともあるし、怒涛の展開だったから、時間が経つのもあっという間だ。

 

 魔力切れなので魔法の練習はまた明日にして、今は食事をとって英気を養おう。

 食後は筋トレをして、基礎体力を上げることにしようかな。

 ローランはこれから3年間功を成すために頑張ると言っていた。

 私も負けずに頑張らなくては。


「はーい、今行く!」


 今の私は魔力は切れているが、人一倍やる気に満ち溢れていた。


 ◇◇◇


 翌日から、私は魔法の練習と基礎体力強化に明け暮れた。

 朝起きて皆と朝食をとった後、レオと近くの丘までジョギングする。

 丘ではレオとボール遊びをして汗を流す。

 ボール遊びが終われば、またジョギングで家に戻る。


 それから昼食までは、部屋で魔法の練習を行う。

 体内の魔力をしっかりと感じ、それをコントロールする練習をひたすら繰り返す。

 

 昼食をとった後は、馬に跨って湖へ行った。

 今度は湖畔で、魔法の練習を行う。

 辺りが薄暗くなるまで無心で練習し、本の文字が読み辛くなる頃に家に帰った。


 家に帰れば、夕食まではストレッチと筋トレを行った。

 我が家の夕食の時間は遅いので、意外と時間がある。

 最初は筋トレだけをしていたのだが、いつからか執事のアントンに「せっかくだからダンスの練習もしませんか」と誘われ、その時間にダンスの練習もするようになった。

 今は、ストレッチの後、軽く筋トレをしてから、ダンスの練習をしている。

 アントンはダンスの指導が意外と上手なので、この調子でやっていけば上達できるような気がする。

 

 それから皆で夕食をとる。身体を目一杯動かしているので食事が進む。

 屋敷の食事はいつもとても美味しいが、身体を動かしているので、さらに美味しい。

 食後は皆と歓談しながらお茶を愉しむ。一日の疲れを癒してくれる貴重なひとときだ。

 

 ダンスの練習を始めるようになってからは、寝る前にカリーナがマッサージをしてくれるようになった。

 おかげで身体の不調を感じることもない。


 こうして毎日、充実した日々を規則正しく過ごすようになった。


 ◇◇◇


 ローランと最後に会った日から、3ヶ月が過ぎた。

 王都の噂もまったく聞こえなくなり、家の者以外とは誰にも会わず、私は魔法の練習と基礎体力強化だけを日々行い続けた。


 その結果、魔法については、家から丘までなら瞬間移動出来るようになった。

 実は練習を始めて1ヶ月くらいで自分の部屋から屋敷の外に出ることは出来るようになったのだが、そこから距離を延ばすことに苦戦した。

 だから、初めて丘まで行けた時は感動で打ち震えた。

 自分が優れた魔法使いになった気がした。

 まだ湖までは行けないが、このまま頑張って練習しているうちに行ける気がしている。


 レオとのキャッチボールも格段に上手くなった。

 レオと呼吸が合うようになった。

 今は、私が遠くに投げたボールをレオが走って取りに行き、咥えて私のところに戻って来る遊びを何度も楽しんでいる。

 兄が言っていたように、レオと一緒に狩猟に行ける日も遠くないかもしれない。


 唯一成果がはっきりと分からないのがダンスだ。

 ダンスは奥が深く、ひとつ出来るようになっても、またすぐ新しいステップを教えてもらうのでゴールが見えない。それでも出来るステップは増えてきたし、なによりアントンが生き生きしているので、「もうこれで止めましょう」と言われるまでとことん教えてもらおうと思っている。

ありがとうございました。

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