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65.再会

「ローラン!」


 大きい声を出してしまった私に向かって、ローランは私の顔をじっと見つめながら人差し指を1本立て唇に当てた。

 それを見て、焦って口元に手を当てる。


 私の声が大きかったんだ……。皆に見つからないように静かにして、という合図だ。


 思わず固まってしまった私にローランはにっこりと微笑み、私を力強く抱き締める。

「リジー、会いたかった」

 その言葉とローランの温もりに自然と涙が溢れてきた。言葉を発しようとするが、涙で言葉にならない。


「リジー泣いているの?」

 ローランに顔を見られそうになり、思わず俯いた。せっかく会ったのに泣き顔は見せたくない。

 涙を拭って、呼吸を整えた。


 ふー。


 気持ちを切り替えたら、顔を上げてローランを見つめる。ローランの頬を両手で優しく挟んだ。

「ローラン、戦争行ってたんでしょ?大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だよ。……リジー、こんなことになってごめんね。辛い思いをさせてしまったね。本当にごめん」


 俯いたローランに、今度は私から抱きついた。

「ううん、平気。……まさか、急にローランに会えなくなるなんて思わなくて、本当に辛かったけど、今会いに来てくれたから」


 ローランは私の背中に手を回しながら、少し気まずそうに言った。

「本当は、このままリジーを連れて帰りたいけど、今の僕には出来ないんだ。ごめん」


「大丈夫。分かってるから。手紙も読んだし。会いに来てくれただけで十分だよ。……今も、あんまり時間がないんでしょ?」


「そうなんだ。もう少ししたら、戻らないといけない。少しの間抜けてきただけだから。今日この後、王都へ凱旋するんだ」


 ローランが王都へ戻ってしまったら、次にいつ会えるか分からない。

 もしかしたら、これが最後の出会いとなるかもしれない。

 そんなローランにしてあげたいことといえば、私にはこれしかない。


「そっか。ねぇ、もし時間が大丈夫なら、少しでも呪いの刻印が薄くなるように念じてみるけど、どうかな?」


 今のところ魔法の練習が上手くいってないので効果があるかは分からないが、やらないまま別れてしまうと後悔しそうだ。


 ローランは私の言葉に驚いた顔をみせたが、すぐに受け入れた。

「いいの? リジーがいいなら、お願いしたい」


「いいよ。それじゃ、ベッドの上に寝てくれる?」


 ローランは私のベッドの上に仰向けに寝転がった。そして、上着のボタンを外し胸元をはだけさせた。

 久しぶりに見た魔女の呪いの刻印は、随分色が薄く見えた。


 今日は王家の薔薇の花びらは無いので、私の手だけだ。少しでも効果があればいいのだが。


 私はベッドに腰かけ、ローランの胸の真ん中に手を当てる。

「魔女の呪いなんて消えて無くなれ」と必死で念じた。

 手のひらがじんわりと熱い。

 魔力を感じながら、ただひたすら念じ続ける。


 10分くらい経っただろうか。

 軽くめまいがしてきた。


 ここまでかな。


 そうっと手を離す。


 私が手を当てていたところだけ、赤くなっている。

 でも、魔女の呪いの刻印は、手を当てる前と比べて変わったようには見えなかった。


 それでも、ローランは満足そうにしている。

「リジー、ありがとう。随分身体が軽くなった気がする」

 ローランはにっこり微笑みながらベッドから起き上がると、上着を元に戻した。


「そう?それならよかった」

 ローランが喜んでくれたなら、とりあえずよかったかな。


 私はローランをソファに座るように促した。

 ローランのために、領地特産茶葉を使ってお茶を淹れる。王都のお茶も美味しいが、ここのお茶は芳醇な香りと少ない渋みでとても飲みやすく、私は気に入っている。

 何度だって飲めるし、リラックス効果も高い。


 ローランは一口お茶を啜ると言った。

「このお茶は初めて飲むけど、とても飲みやすいね。ホッとするよ」

 私の好きなお茶をローランも気に入ったようで、うれしい。

 思わず笑顔になった。


 ローランはティーカップを置くと、私の頭に手をのせて優しく頭を撫でる。

「よかった、リジーが笑ってくれた。やっぱりリジーは笑顔が一番いいね」


 そう言われて初めて、ローランと会ってからまだ笑ってなかったことに気づいた。


「あれ?私、笑ってなかったんだ?」

「笑ってなかったよ」

 そう言い合いながら、お互い顔を見合わせてクスクス笑った。


「ローランだって、笑顔が一番いい!」

 ローランは笑ってなくても素敵だが、笑っているとその美形がさらに際立ってきらきら輝いて見える。


 私はローランの頬にそっと手を当てる。

 ローランはその手を取り、左手薬指に輝くエメラルドを撫でた。急に真剣な顔つきになる。

 その顔を見て私もソファに座り直した。


「リジー、僕はリジー以外の誰とも婚約をする気はないよ。僕が成人を迎える時までに必ず父を説得して、リジーを迎えにくるから。でも、そのためには僕は功を成さなければならないんだ。頑張るから見てて!」

「うん」

「この指輪は外しちゃダメだよ。これが唯一僕たちを繋ぐ物だから」

「分かった。絶対外さない」


 ローランは私の言葉にほっとしたようだ。美しい顔にまた笑顔が戻った。

 私がローランの笑顔に見惚れていると、突然ローランが後ろに引っ張られるような動きをした。


「リジー、本当はもっとゆっくり話したいんだけど、もう戻らないといけない時間みたいだ。アルフレッドに呼ばれた。また手紙を書くよ。今日は本当にありがとう」


 さっきの動きは、魔導士様がローランを呼んだ動きだったのか。


「あ、ローラン、ちょっと待って」


 私は完成したばかりのレオのぬいぐるみを取って、ローランに手渡す。


「ローラン、これ、私がつくったお守り。この黒い石が魔除けの石なんだよ。あまり上手にできなかったけど、これを私だと思って持って行ってくれるとうれしいんだけど……」


 ローランはレオのぬいぐるみを渡されて少し驚いていたが、すんなりと受け取ってくれた。


「ありがとう。リジーが作ったの?とても上手にできているよ。リジーは器用なんだなぁ。これは、犬のお守り?」


「うん、そうなの。最近ここで飼い始めた子犬を真似て作ったんだけど……」


「へぇ、可愛いんだろうね」


 ローランは、レオのぬいぐるみをまじまじと見ている。

ありがとうございました。

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