64.練習2
「黒い石2つは、目にしてみようかな?ちょうど2つあるし」
レオのぬいぐるみの目に合わせてみると、少し石が大きい気もするがこれはこれで可愛い。
「うん、いける!」
もうひとつの薄緑色の石はどうしよう。
いろいろ合わせてみたが、なかなかいい場所がない。
首元に首輪の鈴っぽく置いてみようか。うーん。猫みたいかな?
鼻に置くのは、なんか違う。
チャーミングな耳につけても、いまいちしっくりこない。
ん……。家でゆっくり考えようかな。
私は石3つをお土産に持って、家に帰ることにした。
◇◇◇
家に帰ると、レオが出迎えてくれた。
「レオー、ただいま!玄関に迎えに来てくれたの?ありがとう!」
レオの可愛い顔を見ると、魔法がうまくいかなくて、モヤモヤしていた気持ちが一瞬で吹き飛んだ。
レオに導かれて応接室に入る。
アンがお茶を出してくれた。
レオと美味しいお茶、私を癒す最強のコンビだ。
「あら?」
お茶で喉を潤しながら、ぼんやりと部屋の棚を眺めていると、見慣れない置物に気づいた。
「え?これって……」
近寄ってびっくりした。
私の驚いた顔を見て、カリーナが恥ずかしそうに白状する。
「あ、それは、昨日リジーお嬢様がもう要らないと仰っていたのですが、あまりにも上手にできていましたので、勝手ながら私が色を塗って飾りました」
「まぁ、そうだったの!」
レオのぬいぐるみを作るために型紙が必要だったので、粘土で型紙用の土台をつくったのだが、それにカリーナが色を塗ってくれたようだ。
確か昨日、この粘土は処分しておいて、とカリーナに頼んでいた。
でも、こうして棚に飾ってあるのを見ると、カリーナが可愛く顔を描いてくれたおかげで、粘土のレオもとても素敵だ。
「カリーナ、ありがとう!処分してなんて言ったけど、こうやって色を塗って顔を描いてもらうととても素敵ね。私の部屋に飾らせてもらってもいい?」
ここにはあまり荷物を持ってきていないこともあり、私は自分の部屋が殺風景だと感じていた。
これから色々作って、部屋をレオだらけにしても楽しいかもしれない。
「あ、そうだ! 湖で見つけたんだけど、この石は何か知ってる?」
私はポケットから、湖畔で拾ってきた3つの石を取り出した。魔法の本の上にいつの間にか乗っていた石だ。
カリーナとアンが覗き込む。
「この透明な緑色の石は宝石のようですが、これは初めて見ます。黒い石は知っています。有名な石ですから」
カリーナが言った。アンも頷いているので同じ意見のようだ。
「知っているの? この黒い石は何?」
「それは、魔除けの石だと思いますよ。この屋敷にもあります」
カリーナはそう言うと、棚の奥の宝石箱からゴールドのチェーンに黒い石がついたネックレスを取り出した。
「本当だ。同じ石だわ」
ネックレスと拾ってきた石を比べてみた。真っ黒な輝きが同じだ。
「この石は魔除けでもありますけど、恋人同士で持つと不仲になるという噂もありますよ」
アンが眉をひそめながら教えてくれた。
「確かにその噂はありますね」
カリーナもアンに同意する。
ふぅむ。
魔除けと言われたから魔女を遠ざけるという意味でちょうどいい石なのかと思ったけど、ローランが遠ざかってしまったら困るな……。
それとも、もう遠ざかっているから関係ないのかな?
私が難しい顔をしていると、カリーナがフォローしてくれた。
「リジーお嬢様、でも、苦手な人を遠ざけたり、不必要な縁を切りたいときに使う石だと言われていますから、この魔除けの石は持っていた方がいい石なんです。ネガティブな気を吸い取ってくれるんですよ。この石の中の真っ黒な暗闇に、他人や自分の嫉妬や妬みなどを閉じ込めてくれるんです」
「他人だけでなく自分のも?」
「そうです。外からの邪気を祓うだけでなく、自分の内側に悪い感情が渦巻いている時にそれを静めてくれる効果もあります。なので、持っていると心が解き放たれると言われていますよ」
「すごい!私も持ったほうがいい石だわ。物事を悪く受取りがちだし、つい目の前の不運に目が向いてしまうところがあるから、この石の力を借りたいかも」
私のネガティブな感情をこの黒い石にすべて吸い取ってもらいたい。
「このネックレスって、私が使ってもいいのかしら?」
カリーナに聞いてみると「もちろんです。奥様のものですから」と言って、すぐに私の首につけてくれた。
単純かもしれないが、すっきり気分が晴れた気がする。
「しばらくこのネックレスをつけて、自分のネガティブな気持ちを石に吸い取ってもらうことにするわ」
そう言って、特に理由はないが、くるりとその場で回ってみた。レオも私に合わせてジャンプしてくれるのが可愛い。
「石のことを教えてくれてありがとう。とてもよく分かったわ。少し部屋に戻るわね」
私は皆にお礼を言って、自分の部屋へ戻った。
早くこれらの石をレオのぬいぐるみに付けたくなったのだ。
魔除け効果のある石が付けば、レオのぬいぐるみはお守りとして使うこともできる。
部屋に入るとすぐ、強力な樹脂の糊を使って黒い石をレオのぬいぐるみの両目にくっつけた。
糊が乾くまで時間がかかるので、しばらく両手で押さえる。
その間に、もう一つの薄緑色の石の使い道を考えた。
この石だけ詳細が不明だが、透明で宝石のようにきれいな石だ。
どこに付けようかな。
私が作ったレオのぬいぐるみは、レオが仰向けに寝ているところを再現しているので、ぬいぐるみの大半が白いお腹の部分になっている。
目のところに石を2つつけたので、ぬいぐるみ全体のバランスからいくと、この広い白いお腹のところに石を置くのが一番よさそうだ。
うん、おへその辺りに石を置いてみようかな。
そろそろ黒い石がくっついたはず。両手を静かに離して石がくっついていることを確認する。
そして、今度は白いお腹の真ん中あたりに薄緑の石を糊で付けた。
こちらもしばらく手で押さえる。
今度はひとつだけなので、右手でぬいぐるみを押さえながら、左手で薄緑の石を押さえた。
しばらく押さえながら、ぼうっと左手を見ていると、突然薬指のエメラルドが激しい光を放った。
眩しすぎて思わず目を閉じる。
この強い光は前にも経験したことがある。
まさか……。
恐る恐る目を開けると、目の前には、ずっと会いたくて堪らなかった愛しいローランが立っていた。
ありがとうございました。