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62.製作

 私がレオのスケッチを始めたのを見て、兄が興味を示してきた。


「リジー、レオを描いてるのか?」

「そうよ」

「それなら、うつ伏せにさせようか?」


 レオは兄の膝の上で、仰向けで寝ていた。

 よく見ると、兄は両足でレオを上手に挟み、落ちないように体勢を支えているようだ。

 兄はとても愛おしそうに、レオの真っ白なお腹を指で撫でている。


「ううん、大丈夫。そのままでいて。レオがとても気持ちよさそうだし」


 仰向けに寝ているレオも十分可愛い。


 私は仰向け寝のレオをスケッチした。

 小一時間手を止めることなく、レオを見ながら描き続けた。

 いつになく真剣にスケッチする私の迫力に気圧されたのか、兄はいつの間にか話しかけてこなくなった。

 レオも一切目覚めることなく、おとなしく寝続けてくれた。

 兄とレオのおかげで、集中力を切らせることなく、とても順調にレオを描き切ることができた。


「うん、描けた!」

 私が出来栄えに満足していると、兄が覗き込んできた。


「リジー、出来たのか? ちょっと見せてみろ」

「いいよ。どう?うまく描けたでしょ?」


 私は出来たばかりのレオのスケッチ画を見せた。


「本当だ。なかなか上手く描けているな! リジーは絵が得意だったのか」


 兄は意外な私の才能に驚いているようだ。

 絵を描くのはそれほど嫌いじゃないし、刺繍だって得意だ。


 アントンたちも見に来た。皆口々に、上手に描けていると褒めてくれた。


「リジーお嬢様、とてもよくレオの特徴を捉えてますな。本当に上手です」

「皆、ありがとう!」


 お世辞でも褒めてもらえると嬉しい。

 

 次は粘土で、レオの人形をつくる。

 いったんスケッチしているから、作るのも早い。

 スケッチせずに、いきなり粘土で人形を作る人もいると思うが、私の場合はスケッチで形を掴まないと粘土で上手くできないのだ。

 二度手間のようで面倒くさいが、ここは手を抜くわけにはいかない。


 粘土でレオの人形が出来上がると、その上から紙を巻いていく。

 ぬいぐるみの元となる型紙作りだ。

 レオは茶色と白と黒が混ざっているが、型紙は白い部分と色の付いている部分で分けた。

 レオの可愛さが出せるように、ダーツと呼ばれる切り込みを多めにつくる。


 出来上がった型紙を切り取ってみた。

 それらを組み合わせて、ちゃんと立体的なレオになるか確認する。


 うん、大丈夫だ!


「リジー、上手いものだな。レオの人形をつくるのか?」

「そうなの。レオのぬいぐるみを作ろうと思って」


 気分が乗っているうちに、どんどん作ってしまいたい。

 近くにいたアントンに、屋敷の中に余って使わない布があるか訊いてみた。


「アントン、何でもいいから、白い布と茶色い布と、あと黒い布で、使わないものってない? うーん、黒は無くてもいいけど、白と茶色の布は欲しいなぁ」

「布ですか? 白い布でしたら、使わないテーブルクロスやナプキンがありますのでそれを使ってください。でも、茶色の布と黒い布で余っているものは……今は思いつかないです。申し訳ございません」


 そっか。白い布しかないのか。どうしよう。白い布を染めればいいか、と考えていると、メイドのカリーナが声を掛けてきた。


「リジーお嬢様。それでしたら、もう使わない茶色のクッションがありますので、そちらを使われたらいかがですか?」

「クッション?そんなのあったかしら?」

「お持ちしますので、お待ちください」

 

 カリーナは部屋を出て行った。納戸を見に行ったようだ。

 すぐに茶色のクッションを持って戻ってきた。

「以前奥様が買われたものですが、インテリアに合わなくて仕舞ってあったものです」


 よく見ると、茶色よりも少し薄いカフェオレ色のクッションで、同色で細かい模様が描かれている。確かに今のインテリアには合わないが、潰してしまうには勿体ない気もする。


「こんなの家にあったんだ! これ、使ってもいいの? お母様に叱られない? もうクッションとして使えなくなっちゃうけど?」


「そちらでしたら、使っていないものですから大丈夫ですよ。奥様から好きにしていいと言われているものです。お嬢様が使われるのでしたら、何の問題もございません」

 カリーナの代わりに、アントンが答えてくれた。


 よし、それなら、白いナプキンと、このクッションを使って、レオのぬいぐるみを早速作ろう!


 粘土に被せて作った型紙をもとに、ナプキンとクッションをざくざく切っていく。クッションの中に詰められている綿もぬいぐるみに使えるから、ちょうど良かった。一石二鳥だ。


 これで、レオのぬいぐるみの材料が全て揃った。

 それにしても、レオはよく寝ている。作業中一度も目覚めなかった。よほど兄の膝の上が気持ちいいのだろう。


 でも、ここからは針を使うので、レオの近くでは作業できない。いつレオが起きるか分からない。

 私は皆にお礼を伝え、揃った材料を手に部屋に戻った。


 やる気と集中力があるうちに、最後までやり切りたい。

 お気に入りの裁縫道具を棚から取り出して、切った布を縫い合わせていく。

 地道な作業だが、丁寧にやらないと後で中綿が出てしまう。

 ひと針ひと針、気を抜かずに縫っていく。


 一番肝心な顔の部分を完成させた時に、アンが食事の時間だと私を呼びにきた。

 

 食事を皆でとって英気を養った後は、ラストスパート。

 胴体の部分にとりかかる。

 私はそれから時間を忘れて、ぬいぐるみ作りに没頭した。


 レオのぬいぐるみが完成し、中に詰めた綿が飛び出ないかチェックし終えた頃には、窓の外が白み始めていた。

 久しぶりの徹夜だが、たまにはこんな日があっても問題ない。明日特にやることはない。


 完成したレオのぬいぐるみは、無防備にお腹を出して眠っている様子を再現した唯一無二のものだ。

 意外と上手にできた!


 満足げにぬいぐるみを眺めていると、玄関のほうがバタバタすることに気づいた。

 こんな早朝に何事?

 そう思って見に行くと、兄が王宮へと出発するところだった。アントンたちも見送りに並んでいる。


「リジー、起こしちゃったか? じゃ、俺は戻るから。元気でな!」

「お兄様、来てくれてありがとう! 元気でね」


 馬に乗った兄の姿を見えなくなるまで見送った後、私は完成したばかりのレオのぬいぐるみを抱きしめて、ようやく遅い眠りについた。

ありがとうございました。

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