61.手紙2
ローラン、ありがとう!
ローランの手紙を何度も何度も読み返す。
手紙って、貰えるとこんなに嬉しくなるんだ。
ローランの手紙を胸にベッドの上に寝転がる。コロコロ転がって、もう一度手紙を見る。
口角がずっと上がりっぱなしだ。
ローランの名前を大声で叫びたい気分だった。
ぐっと我慢して、もう一度手紙を読み、声を押し殺してローランの名前を呼んだ。
手紙の内容は、もう手紙を見なくても一言一句間違えずに言えそうだ。
普段は記憶力に難があるはずなのに、本当に好きなものはこんなにあっさり覚えられるということに気づいて、驚いた!
そして、もう一度手紙を読む。
うん、やっぱりしっかりと覚えている!
私ってこんなにもローランのことが大好きなんだな、と改めて実感した。
コンコン。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
慌ててベッドから飛び起きて、ポケットにローランの手紙をしまう。
「リジー、入るぞ。ジャックだ」
食事を終えた兄が、私の部屋に来たようだ。
「どうぞ」
扉を開けると、レオを抱きかかえた兄が立っていた。
「リジー、レオって可愛いなー」
兄もいつの間にかレオの虜になっている。
「うん、レオのおかげで、王宮のことを考えずに済んで助かってる。もしレオがいなければ、今頃メソメソ泣いていたかもしれない。今はレオと一緒にここにずっといたいと思えるもの!」
「だよなー。こんな可愛い子犬がいるって分かっていたら、もっと休暇を長く申請してきたのに……」
兄はそう言いながら、レオを自由にさせた。レオは嬉しそうに尻尾を振り、私たちの周りを駆け回る。
なぜか兄は手にボールを持っていた。それを何も言わずにぽーんと部屋の奥の方に投げた。
レオは全身で喜びを表現しながら、走ってボールを追いかけ、得意げに口に咥えて帰ってくる。
「レオは、鍛えたらいい猟犬になるなー。一緒に狩猟に行くのが楽しみだ! リジー、それまでしっかりレオを鍛えておいてくれよ」
兄はまたボールを投げた。レオはすぐにボールを追いかける。
ん?兄さんは、私の部屋に何しに来たの?
レオと遊ぶのなら、他の場所で遊んでよ。
レオがそんなに走り回ったら、部屋がダメになっちゃうじゃない?
そう言おうとして、兄の企みに、はたと気づいた。
「ねぇ兄さん、今すぐ返事を書くからちょっと待ってて!」
私はレオがボールを咥えて戻ってきたのと同時に、机に向かった。
引き出しから便箋を取り出し、イザベル、ステイシー、シモーヌへの思いをペンにのせる。
何を書こうなどと考えなくてもよかった。
ペンを握っただけなのに、思いがどんどん溢れてきた。
3人のおかげで王宮の生活がとても楽しかったこと。
私の世話をしてもらったことへの感謝の念。
婚約不成立はとても残念だと思っていること。
でもそれ以上に王宮を離れて3人と会えなくなったことが寂しいこと。
最後に、領地での新しい生活と私の新しい相棒のレオにつて。
それらを綴った便箋を封筒に入れ、兄に託す。
「兄さん、書けたわ。これを渡してほしいの!」
「ようやく書いたか。わかった。任せとけ!」
そして、兄はレオを連れて部屋を出て行った。
やっぱり私の返信が遅いことへの督促だったようだ。
期限は今日中だと言っていたのは兄さんのほうだったと思うけど。
まだ時間があるからと思って、後回しにしているのがばれたらしい。
確かに私は追い込まれないとできない性質だから、兄がレオとペアを組んで、私を追い込みに来たのは正解だ。
さすが兄さん、私のことをよく分かってる!
レオが私の部屋を縦横無尽に走り回ったのも効果的だった。部屋が荒らされてしまう前に、早く返事を書いてしまおう、と思わせてくれた。
可愛いレオを叱る気にはなれない。早く私が返事を書けばいいだけだ。
返事を渡せば、お役御免とばかり、レオもおとなしく兄に抱かれて出て行った。
そんな兄とレオの様子を思い出すと、自然と笑顔になってしまう。
嵐のような兄とレオコンビが去って、私はまた一人の時間を取り戻した。
扉の外の様子を伺い、誰もいないことを確認して、改めてローランの手紙を取り出す。
そしてじっくりと読み返した。
最後の一文には、もしかしたらローランと会えるかもしれないことが示唆されている。
その時に何か私に出来ることはあるのだろうか。
ローランが今一番望んでいることは何だろう。
ローランが望んでいることは、魔女の呪いを解くことだ。
今、魔女の呪いの解き方として分かっていることは、時間をかけて何度も刻印の上に手をかざすこと。
それも、王家の薔薇園の薔薇と一緒に手を当てれば効果が高いということ。
今はその方法しか分からない。
確実なその方法で呪いを解くにはローランと何度も会う必要があるが、会えるチャンスはあっても一度きり。もしかしたら、会えないかもしれない。
そこまで考えて、行き詰まった。
部屋中をぐるりと見回す。
ベッドサイドテーブルに置いていた魔法の本が目に入った。ロジェに渡されたばかりの本だ。
何かヒントが載っているかもしれない。
そう思って、魔法の本をパラパラとめくる。
分厚い本なので、どうやってヒントを探せばいいのか分からないが、分からないままにページをめくった。
ただ闇雲にページをめくっていると、ふと「相棒」という文字が見えて、思わず手を止めた。
レオのことが頭をよぎったのだ。
魔法で相棒って何だろう? 気になる!
相棒の章には、自分の分身となる相棒を用いた魔法の手法が詳しく解説されていた。
へぇ、魔法ってこんなことも出来るんだ。
読み進むうちに、ひとつの考えが私の頭に浮かんだ。
ん?これなら出来るかもしれない!
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
今から犬のぬいぐるみを作る。
モデルはもちろん、可愛いレオだ。
まずは型紙をつくらなければ。
レオをしっかりと観察して、絵を描くところから始めないといけない。
紙とペンを用意して、レオのいる応接室へと向かった。
レオは、ソファに座る兄の膝の上で仰向けになり、無防備に眠っていた。
ありがとうございました。