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60.手紙

産みの苦しみを味わいましたが、なんとか60話までこれました。

ふうん。ちょっと難しいけど、今の私の能力と魔力が合わさって、魔法が発動しているということなのかな?

 

 そんなことを考えていると、レオが何度もジャンプして私に飛び掛かりながら「ワンワン」と言っている。


 そんな本はいいから、早く家に帰ろうよ!

 レオにそう言われている気がした。


「ごめんね、レオ。帰ろう!」

 レオを連れて屋敷に戻る。アントンたちが出迎えてくれた。


「ただいま~」

「リジーお嬢様、お帰りなさい。レオとの散歩はどうでしたか?」

「とても楽しかったわ。いい気分転換になった。ありがとう!」


 レオをアントンに預ける。

 レオはアントンの前では、本当にお利口だ。

 外遊びの汚れを取るために、濡らしたタオルでレオをゴシゴシ拭いているが、嫌がることなくおとなしくしている。


 綺麗になったら、ケージに入る。

 ケージの中のお水で喉を潤して、レオは何かに気づいたようだ。

 急に興奮し出した。ケージの中を忙しなく行ったりきたりして、時折ジャンプしている。

 すると、パタっと動くのを止めて、ケージの隙間から長い鼻先を外に出し、同じようにケージの隙間から可愛い前足を外に突き出した。


 ちょうどその時、メイドのアンがレオの食事を持ってきた。

 レオはケージの真ん中に移動し、アンが食事を置くのをじっと見ているが、「待て」のサインが出ているのでおとなしくしている。

 本当によく躾けられている。

 なぜか私も唾をごくりと呑み込んだ。


 アンとレオが互いの顔をじっと見ている。

「よし」

 ゴーサインが出るや否や物凄い勢いでレオが食べ始めた。ガツガツと食べている様は、見てて気持ちいい。

「レオ、早い!!」

 思わず口走ってしまう。


 用意した食事は、あっという間にきれいに完食した。

 名残惜しいのか、もう何も残ってないお皿をずっとペロペロ舐め回している。


 レオの可愛い様子に皆自然と笑顔になる。

 でも、レオの食欲を見せつけられて私もお腹が空いたようだ。

 お腹がぐーと鳴ってしまった。


 アントンがにっこり微笑んだ。

「お嬢様、遅くなって申し訳ございません。お食事にいたしましょう」


 そして、私たちも食事の時間となった。


 ◇◇◇


 食事を終え、自室へ戻ろうとした時、屋敷に誰かがやって来た。

 アントンが扉を開けると、騎士団の制服のまま息を切らした兄が立っていた。

「お兄様、どうしたの?」


 兄がこちらに来る予定は無かったはずだ。


「リジーの友達に手紙を頼まれたからな。それから、王家のこともついでに伝えにきた。気になってるだろ?」


 兄は、王族の警護を主に担当する第一騎士団に所属している。

 だから、王族の事情にも詳しいのだ。


「はい、これがその手紙」


 兄が手渡してくれた手紙を読むと、イザベル、ステイシー、シモーヌ3人連名で、私のことを心配していることと3人の近況が綴られていた。


「追い出されるように王宮を出てきたから、きちんと別れの言葉も言えなかったし、3人にも心配かけちゃったな」


 あの時は自分自身に何が起こっているのか事態が把握できないまま、流されていた。

 渦中にいたはずなのに、こんな大事だと自分が一番理解できていなかった。


 あれから、3人はそれぞれ別々の王女様の担当となったと書かれている。


「みんなもバラバラになっちゃったんだ……」


 手紙を読むと、王宮での日々が懐かしく思い出され、思わず涙が出てしまった。


「お兄様、私も3人に手紙を書くから、それを届けてくれる?」

「もちろんだよ。だけど、ここにそんなに長居はできない。明日の早朝にはここを出るから、今日中に頼む」

「分かったわ」


 ここから王宮までは遠い。馬を飛ばすのだろうが、どんなに早くても一日はかかりそうだ。


 兄がおもむろに口を開いた。


「今回のリジーの婚約に対して再審議を申し立てたのは、エリック王子殿下ではないか、と王族の中では噂になっていた。一部上級貴族の間にもそのような噂が流れたようだ。


だが、国王陛下が議会の場でそれらは噂だとはっきり否定した。今後そのような噂を流したものは王族侮辱罪で処刑するとも仰られて、それ以降はその話をする者はいなくなったし、噂は立ち消えた。


あと、その時に国王陛下はこうも仰った。ハリス家には非は無い。婚約不成立は非常に残念だ。ハリス家には補償を考えている、と」


「そうだったの」


「だからリジーは家のことは何も心配しなくていい。今回のことはリジーも残念だったと思うが、他に嫁の貰い手は出てくるだろう」


 兄はそう言うと、私の頭に手を乗せて、くしゃくしゃっと撫でた。


「お兄様、ありがとう!」

「リジー、お前も元気そうでよかった。父さんも母さんも皆リジーのことを心配していたからな」


 私は兄と別れると、自分の部屋へと戻った。

 兄は今から食事を取るようだ。ずっと馬を走らせて来たならお腹も空いていたはずなのに、食事もさせずに長い間話をしてしまって、ちょっと悪いことをしたかもしれない。

 

 でも、これでやっと、一人になれる!!


 もちろん3人への返信も書くつもりだが、もう一つ、ずっと読みたいのに読めずにいる手紙がポケットの中で眠ったままになっていた。


 早くローランの手紙を読みたい。


 はやる気持ちを抑えながら、ポケットに手を入れて、ロジェに渡されたローランの手紙を取り出す。

 

 そこには流れるような美しい筆跡で次のように書かれていた。


『リジー、元気ですか?

このたびの婚約不成立の件は僕の力不足が招いたことだ。リジーを傷つけてしまい、本当に申し訳なかった。謝って済む問題ではないかもしれないが、ハリス家が不利益を被らないようきちんと対処するので赦してほしい。


父上の命令により、兄上とのことは大事にならないよう教会にも緘口令が敷かれている。もともと誰が異議申し立てをしたのかは分からない仕組みであるし、世間が真相を知ることはないだろう。


父上からは、兄弟の誰ともリジーとの婚約は認めないと言われている。僕は兄上のしたことは許せないけれど、魔女の呪いの恐怖は理解できるので、これ以上責めるつもりはない。


でも、僕が婚約式で皆に誓ったことは決して嘘ではない。今すぐには難しいけれど、いずれ父上を説得しリジーを迎えに行きたいと考えている。


現在、アヌトン王国との戦争でハリス家の領地の近くにいる。王都へ凱旋する前に、一度リジーと会う機会をつくれるといいのだが。


愛するリジーへ ローラン・ナディエディータ』

ありがとうございました。

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