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51.婚約者との語らい

「リジー、ただいま」

 ローランが部屋に戻ってきた。


「ローラン、おかえりなさい」

「ああ、リジーが部屋にちゃんといた。よかった!」

 ローランは、出迎えた私をぎゅっと抱き締める。


 その様子を見て、イザベルたちが「私たちは失礼するので、何かあれば呼んでください」と言い残し、部屋を出て行った。


 ローランはまだ私のことを抱き締めたままだ。


 でも、扉の前で立ったまま抱き合っているのはどうかと思ったので、ローランを促して、2人並んでソファに座る。


「ローラン、どうしたの? 部屋にいてって言われたら、ちゃんといるよ。当たり前じゃない?」

「また、リジーが誰かに攫われたりしないかと心配になるんだ……」

「うん?でも、この指輪があれば、いつでもローランのところに飛んで行けるんだし、問題ないよね?」


 私は、左手薬指に輝く婚約指輪を見つめた。


「そうなんだけど、この前みたいにバリアを張られたら、どうしようもない!」

「大丈夫よ!私はいつでも、ローランに会いたいと願うから。この前みたいに、どんなバリアも通れるよ」


 イザベルたちのおかげで、私はすっかりローランへの信頼を取り戻していた。

 ローランに愛されている自信はないが、少なくとも婚約者として裏切られることはないはずだ。

 そもそも王族や貴族の結婚には、恋愛感情は関係ない。

 私に前世の記憶が残っているせいで、つい好きな相手の延長が結婚だと思ってしまうだけだ。

 でも、結局、前世はそれで失敗している。

 好きな相手だと思った人との結婚生活に、いい思い出がない。

 だったら、そんな感情はすべて忘れるのが一番だ。


 前世で夫に不信感しかなかった反動なのかもしれないが、今、ローランを心から信頼したいと思っている。

 なぜそんな気持ちになっているのか、今はまだきちんと言葉にできないが、たとえローランが私のことを裏切っても構わないから、何があってもローランのことを信じよう、とさえ思っていた。


 気づくと、ローランが私の手を取り、じっと顔を覗き込んでいる。

 どうしたの?と思いながら、ローランの目を見る。


「リジー、ごめんね。さっきは嫌な思いをさせちゃったね」

「あ、ううん。大丈夫だよ。実際、本当のことだし」

「本当のことって、何が?」

「ん?アレクシア様と比べたら、私は何もかも劣っているということ。面と向かって言われなくても、ちゃんと自分で分かってる。だけど、今は負けているかもしれないけど、これから追い付けるように頑張るね!」


 うん、今のところ総合で負けているのは確かだ。

 ただ、父の爵位は負けているが、いま私はローランの婚約者だから、身分的には私のほうが上になった。

 そして、これから頑張れば、容姿は難しいかもしれないが、知識は追い付けるはず。

 私がローランに相応しい相手になれるよう、努力すればなんとかなることだ。


「リジー……」

 気づくと、ローランの顔が近い。近すぎる。

 私の名前を呼んだ後は何も話さず、ただ息がかかりそうな距離からじっと私の顔を見つめている。


「ローラン?」

 恥ずかしいので、何か話さないと……と思い、さっきイザベルたちと話したことを思い出した。


「ねぇ、ローランはアレクシア様ともう一度ゆっくり話し合ったほうがいいんじゃない? アレクシア様とは幼馴染だと言ってたし、アレクシア様はローランのことが大好きでしょ。大好きな人が、留学している間に婚約していただなんて、相当なショックだということは分かるし……」


「嫌だ!どうして、リジーはそういうことを言うの? 今日の話以上に話すことなんてないよ」


 ローランが拗ねてしまったので機嫌を直して欲しくて、ローランに抱きついた。

「よかった!それならいいの。私も本当はもう二度と会って欲しくない」


 ローランも私の背中に腕を回し、私の頭を何度も撫でる。

「リジー、さっきも言ったけど、僕の婚約者はリジーただ1人だ。誰にも僕たちの婚約を邪魔させない」  


 その話で、ふいに思い出した。

 確かローランは、エリック様のところへ行っていたはずだ。

 私はローランの胸元に埋めていた顔を上げて、ローランの目を見た。


「そういえば、エリック様のところへ行ってたんだよね? 何の話をしてたの?」

「ああ、アレクシアに僕たちの婚約が無効になる、と伝えた意味を聞きに行った。エリック兄さんは、教会に婚約成立の再審議を申し立てたと言っていた……」

「え?」


 確か薔薇園でそのようなことを言ってたけど、本当に実行したんだ……


「僕は何があったって、誰にどんなことを言われたって、リジーと結婚する! リジーは僕に一生ついてきてくれるよね?」

「うん、そのつもりだよ。ローランとしか結婚する気はないし、ローランがたとえ王族でなくなっても、一生ついていくよ」


「よかった!」

 ローランがきつく私を抱き締める。

「ローラン、痛い痛い!」

 鍛えた腕で締め上げられ、痛くて堪らないので、ローランの背中をバシバシ叩いた。

 慌てて、ローランが腕の力を緩める。

 私は自由になった両手をローランの首に回した。

「もう、ローラン、痛すぎるよ! 加減してね」

「ごめんね」

 ローランは私のおでこに、自分のおでこをくっつけてきた。

 そんなことされたら、もうそれだけで許してしまう。

「いいよ」

 

 ああ、恥ずかしい。

 

 おでこをくっつけ合ったまま、私がひとり恥ずかしさに悶えていると、ローランがとんでもないことを言った。


「ねぇ、リジーの王妃教育のスケジュールをまだ見せてもらってない」

 

 は?

 ローラン、それはこの甘い体勢で言う言葉?


 ローランの言葉で、恥ずかしい気持ちはピューッとどこかに飛んでいった。


「えっと、持ってくるから待ってて」

 

 なんで急にこのタイミングで、ローランが妃教育のことを思い出したのかは分からないが、確かに部屋に戻ったらスケジュールを見せる、という約束はしていた。


 でも、素敵な夢の世界から一気に現実に引き戻された気分だ。

 いつまでも腑抜けていてはいけない、ということか。


 私は机からスケジュール表を取ってきて、ローランに渡す。

 ローランはそれを真剣に見て、ペンでいくつか丸印を付けた。


「リジー、この丸印を付けた授業は、明日から僕も同席するから」

ありがとうございました。

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