47.食堂
魔導士様専用のお庭には、特別な薬草が育っているということか。
それは是非見てみたい!!
「魔導士様、今度そのお庭を見に行きたいです」
私が魔導士様にお願いすると、なぜか弟子のロジェが嫌そうな顔をしている。
それでも、魔導士様は「分かった。今度見せてあげよう」と快諾してくれた。
やった!
いつ見せてもらおうか、自分の予定を思い出していると、今の体勢が辛いことに気づいた。
とはいっても、ただソファに座って、ローランにもたれているだけなんだけど。
我慢できなくて、立ち上がる。
私が急に立ち上がったので、ローランは「リジー、どうしたの?」と驚いている。
「あ、ごめん。身体を伸ばしたくなって……」
そう言って、大きく伸びをした。
隣りでローランが「全くリジーは自由なんだから……」と苦笑している。
私は魔導士様の体力回復茶のおかげで、すっかり元気になっていた。
すると、腰や背中に痛みが出てきたのだ。
きっと、ソファに長く寝ていたからだろう。
ああ、身体を思い切り伸ばすと、縮まっていた身体がほぐれて、気持ちいい!
立ち上がって大きく伸びをして、周りを見渡し、そして、ふと気づいた。
あれ?そういえば……エリック様がいない?
「ねぇ、ローラン。エリック様は?」
「ん?……ああ、何か用事があるらしくて、随分前に出て行ったよ。確か、リジーが気を失ってからすぐに出て行った。リジーのことはとても心配そうだったけどね。……リジーが目を覚ましたらお礼を言うように頼まれていたな。ありがとう、だって」
「そっか」
エリック様はすぐ部屋を出て行ってくれたんだ。よかった。
ここに居て、ローランと一緒に私の寝顔を温かく見守っていた、なんて聞いたら、恥ずかしすぎて次顔を合わせられないところだった。
ほっとした途端、私のお腹がぐーっと鳴った。
「ローラン、私たちももう行こう。私、お腹がすいちゃった……」
私がお腹を両手で押さえると、ローランはまた私の頭を何度も撫でながら言った。
「そうだね。お腹がすいてリジーが不機嫌になっても困るから、早く食堂へ行こう」
そして、私たちは魔導士様にお礼を言って、来た時と同じようにしっかりと手を繋ぎながら食堂へと向かった。
◇◇◇
「ねぇ、リジー。明日からの妃教育のことなんだけど……」
食堂の端のお気に入りの席につき、スープをすすりながらローランが言った。
妃教育、それは今の私の一番の心配事だ。
思いがけず立て続けに休んでしまった……。
もともと時間が足りないと聞かされていたのに、どうやって遅れを取り戻そう。
こうなったら、夜寝る時間を少し減らすか、いつもより朝早く起きて頑張るしかない……。
妃教育を頑張ると決めたんだから、なんとしてもやり遂げたい!
妃教育への決意を新たにしていたら、ローランの言葉を聞き逃してしまった。
「ローラン、ごめん。今言ったことをもう一度言って。今、なんて言ったの?」
スープをすすりながら、ローランに尋ねる。
すると、ローランは私のことを窘めた。
「もう、リジー。人が話しているときに考え事をしたらダメだよ。しっかり聞いて」
それから、さっきの言葉を少し大きめの声で復唱する。
「明日の妃教育から、僕も同席する、って言ったよ」
「は?」
スープが口の端から少し飛び出てしまった。
慌ててナプキンで拭き取る。
気を取り直して、ローランに尋ねた。
「ローランが妃教育に同席? ……どうして?」
「だって、リジーのことが心配だから。リジーと別行動するなんて考えられない。ずっと一緒にいるよ。だから、僕も妃教育を全部一緒に受ける」
そんな無茶苦茶な……。
「ローランは妃教育なんて受けなくていいでしょ? それに、ローランだって毎日やることがあるじゃない? そっちはどうするの?」
そういえば、普段ローランが何をして過ごしているのかは、よく知らなかった。
この際だし、教えてもらおう。
「僕の用事は別に大したことないんだ! どうにでもなる。それより今はリジーと一緒にいることが、なにより大事だから」
「うーん。ローランって、普段は何をしているの?」
「あれ?リジーに言ってなかった?」
「うん、聞いてない」
私は、チキンを口に運びながら言った。
今日のローストチキンは甘辛のタレが食欲をそそり、皮はパリパリ、中はジューシーに仕上がって、いつまでだって食べられそうだ。
うん、やっぱり王宮の食堂の料理は美味しい!
活力が漲ってくる。
私がチキンを堪能していると、ローランが黙っていることに気づいた。
あれ?ローラン、普段、何をしているか言いたくないのかな?
前に、秘密はない、とか言ってたけど。
私はチキンを食べる手を止め、目の前のローランを見ると、なぜかローランはチキンに手を付けず、私のことを見ていた。
ん?ローランは、このチキン、好きじゃないの?
こんなに美味しいのに……。
そう思っていると、ローランはおもむろにチキンを切り出した。そして一口大に切ったチキンを口に運び、咀嚼して呑み込んだ後、水を一口含んでから言った。
「僕は、帝王学を学ぶか、格闘の練習か、魔法の練習をして過ごしていることが多いかな。あとは、国の行事がよくあるから、そういったのに出席したり……」
おー、さすが王子様、忙しい!
私はチキンをパクパクと口に運びながら考えた。
ローランには毎日やる事がいっぱいあるのに、私の妃教育に同席なんてしてしまったら、それらが全て滞ってしまう。
でも、ローランの性格からは、一度言い出したら聞かない気がする。
兄弟がいっぱいいるから、僕一人くらいなんとでもなる、とか言うのが、目に見えている。
うーん……。
私は最後の一切れとなったチキンをしっかり堪能してから言った。
「それなら、こうしない? ローランは私の妃教育に全部同席するんじゃなくて、一部だけ同席してほしい。語学や歴史の授業は、もうローランは受ける必要ないと思うから、そういうのは私一人で受けるよ。でも、ダンスの授業はパートナーがいたほうがいいし、それはローランの都合がよければ一緒に受けて欲しい。それでどうかな?」
ローランはチキンを咀嚼しながら考えている。
ありがとうございました。